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『紅蓮の猟犬・ゆうしゃの宴、前編たる緑』
cloverla0874

●これまでのあらすじ
 地球上に謎の島が現れた!
 『クリスマスイブを延々と繰り返す異空間』を生み出したとあるナイトメアは、リアルが充実している様子が弱点だ!
 さあ、島内各所で思う存分リアルを充実し、ナイトメアを爆発させよう!!




「という訳で、責任取ってクロくんのクリスマスリア充付き合ってもらいまっす!」
「どういうわけじゃ」
 clover(la0874)は純情可憐な美少女姿で、『元・エルゴマンサー』ライカ(lz0090)へあらすじを語って聞かせた。
 聞いたこともない場所を指定した呼び出し。なんとか到着したかと思えば開口一番にこれ。
 ライカは必然的にツッコミを入れる。
 ――学園モノだよ! 待ち合わせって言ったら放課後の校門だよね!!
 そんな流れで、2人は巨大な城を背景にした石造の門の前に立っていた。
「クリスマス……知識としてはあるが。おぬしらの価値観では『年に一度』だから特別なのでは?」
 年に一度。
 そのワードに、cloverの目がふっと暗くなった。
「クリスマス? 何もなかったよ? 重体でしたし?」
 2059年のクリスマス。ゆきのさき。
 狼が吐き出す氷雪、間髪入れずにエルゴマンサー・ライカが放った紅蓮の炎に、cloverは身を焼かれた。
「重体でしたし」
 ですから、当時を思い出して四葉ボディで登場してみました。
 花のように真白の髪。普段より低い身長、柔らかなボディライン。
 印象的な金色の瞳は変わらないように思えても、どことなく大きめ。まつげが長い。
 ニットのケープを四葉のリボンで留めている、なるほどの美少女姿だ。
「代替ボディがあるなら、それはそれで楽しめ……」
 言い募るライカに対し、cloverの瞳から完全にハイライトが消えた。
「すまんかった」
「責任、取ってくれるよね?」
 一転して可愛らしく問いかけるcloverから視線をそらし、ライカはぎこちなく頷く。
「さあさ。リア充のフリを演じて貰うよー!」


 ここは、永遠のクリスマスイブ。
 さて、そんな2人でリア充を始めてみましょうか。




 そもそも、リア充ってなんだろう。
 あてどなく歩き始め、cloverは唸るように言葉を発した。
「やっぱりラブなイベントだよね」
「ラブ とは」
 ライカの声があまりに素だったので、cloverは足を止める。隣にいたはずのライカは、数歩後ろで立ち止まって真顔でこちらを見ていた。
「恋愛感情、恋愛関係、そういった『モノ』という知識はあるが」
「愛を知らず生きてきたんだね、ライカ……。大丈夫、クロくんがいるから」
 cloverは駆け寄り、ぎゅっとライカを抱きしめ……慌てて体を離す。
「今のが、親愛の抱擁だな?」
「うん、……うん?」
「悪くない。これが安堵というものか。体温が近いと、そう感じる構造なのだな」
「俺のときめき返して?」
 冷静に分析されると、恥ずかしくなってくるんですが。しかも、なんか大胆なこと言ってないですか。
(思ったより、がっしりしてた)
 「寒くなってきたかなー?」なんて、さすってごまかしながらcloverは腕に残る感触を確かめていた。
 おしゃべりはそれなりにしてきたつもりだけど、しっかりと触れるのは初めてかもしれない。
 目の前に居るのは、『ライカ』という血肉の通った存在だと改めて認識した。
 コートの上からでも無駄な肉がない分、やたら具体的に体つきが伝わってきて。呼吸とか。心音とか。
 いや、やわらかおっぱいのおねーさんだったら自分が動揺するのもわかるけど、これはどういうことなの。いや、そういうことじゃない動揺してる落ち着いて落ち着いて。
「しっ、親愛でもやるけどっ。これは上級のラブかな? あんまりあっちこっちではやらないの。今のは特別だからっ」
「わかった。最初に最大火力を見せておけば良い牽制になる、正しい手法じゃな」
 ライカって何でも知っているような気がしていたけど、案外とそうでもなかった。
 そしてcloverは閃いた。
(今って、無茶振りのチャンスじゃないっ!?)
「リア充といえば……、夜のデートで、ワイングラス片手で君の瞳に乾杯って、綺麗な海で、海月見ながら愛を朝まで語り合う……」
 とりあえず、脳内にあるフワフワしたイメージを羅列してみる。
「つまり、夜の海でワイングラスに海月を捕まえればいいっ! ……うん、絶対違うの俺でもわかる」
「違うのか」
「一周して、面白キャラになってるよライカ」
 今の反応、海月見に行こうって言ったら、付いて来てくれる勢いだった。
「よく考えてみたら……リア充じゃないんだから、本物のリア充が何するのかなんてわかんないよね」
 クロくんもお手上げだよ。どうしよう。
 思春期男子が興味を持つような書物はたしなんでいるものの、それは二次元であって実行したいかと言えば別である。
「ねー、自分が非リア充だって認めるの偉くない?」
 自虐で、目から血が出そうです。cloverは遂にしゃがみ込む。
「リア充と非リアの違い……価値の差もわしにはわからんから、勉強になるが」
 ライカは一緒にしゃがみつつ。思い返すに、cloverは男性型でも女性型でも、いつだって明るく楽しそうだった。
 そんな存在が、ここまで追いつめられるとは。
 『劣等感』とも違う気がする。ライカには、そこまでの機微はわからないけども。
 恋愛関係を『リア充』と称し、それを満喫することが目的なら、綺麗な海で海月を観るのも悪くないとライカは考えていた。
 しかし、cloverは否定する。
 今のライカは、ひとでもナイトメアでもない生命体として存在している。
 それでも『人間の感情』を深いところまで理解する・自身が抱くには至っていない……ように思う。
 『恋愛』『親愛』、いずれも利用するための知識でしかない。
(利用するとしたら)
 だから、ライカなりにシミュレーションしてみる。
「……そうだな。ロマンチックな夜だし、せっかく可愛いんだから。『俺』じゃなくって『私』って聞いてみたいな」
「らいかさん?」
「笑ってよ、クロ。僕は、いつもの明るい君が好きだよ。もちろん、落ち込むことがあるならいくらでも聞くけど」
 どこから出したのか、ふわりと肌触りの良いマフラーでcloverを包んで、ライカは穏やかに笑んだ。
「という感じでどうじゃろう。振り切って、演じるのも楽しいやもしれんぞ」
「ときめきを返してください」
 もしかして、いつもそうやってたぶらかしているの。
 cloverは真っ赤になったあと真っ青になり、わかりやすくドン引きする。
「でも……」
 マフラーを顔の半分までぐるぐる巻きにして、
「今の、嫌いじゃない。そういうの、しよ。……えっと、私も、楽しみたいから。ライカと一緒に」
「それじゃあ」
 ライカは立ち上がり、王子様の如き笑顔で手を差し伸べた。

「海に行って、綺麗な海月を探そうか」
「その案、通すの!!?」




 特別なクリスマスイブは、始まったばかり。





━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼、ありがとうございました!
『if・クリスマスリベンジ』前編をお届けいたします。
らぶ……こめ……こめ比率が高い感無きにしも非ずでございますががが お楽しみいただけましたら幸いです。
引き続き後編もよろしくお願いいたします。
ライカにつきましては
・ナイトメアとしての力を一切失い、ひとでもナイトメアでもない生命体
・SALFはそのことを把握していない
・衣食住、収入や食生活などは一切不明
という設定でお送りしております。
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佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年10月06日

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