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『過去を弔う』
野月 桔梗la0096


 穏やかな昼下がりの街で、ある小さな花屋に入っていく一人の目立つ姿があった。
 目立つというのも、野月 桔梗(la0096@WT11)の腹は通常の妊婦よりも一際大きな腹をしているからだ。だが桔梗自身は慣れたものといった様子ではある。
 小さな花屋ではあるが、沢山の種類の花が売り物として並べられてあった。桔梗は色彩鮮やかな花たちに目をとられる様子もなく、どこの花屋にでも用意されているであろう、墓前に備えるための花を幾つか手にした。
 会計を済ませると、桔梗は花屋を出て小高い丘へと続く一本の道を歩きはじめる。
 車がたまに、桔梗がきた方向へと通り過ぎるばかりで人通りはほとんどない。道の周囲の景色も、いつの間にか木々が生い茂る様へと変わっていく。
 そうして桔梗がたどり着いた先は、緑の木々が土地を円周状に囲んだ墓地だった。
 ひっそりとした人気のない墓地には、幾人もの墓標がそれぞれの名を墓石に刻まれ井然と立ち並んでいる。区画を砂利道によって仕切られた墓地の中を、桔梗は慣れた様子で道を進んでいく。
 やがて見えてきたの少し奥まった区画に分けられているうら寂しげな場所だった。
 ちょうど、墓地の外側にあたるこの場所で、7つの墓石が枝葉の隙間からこぼれ落ちた陽光に照らされている。風が吹けば墓石に落ちた光が万華鏡のように細かい影と入り混じっては形を変えた。
 随分と重たく感じる自らの身体を、少し休ませるように桔梗は近くの木に背をもたれさせ、じっと墓石一つ一つをなぞるように視線を向ける。
 7つの墓石は、本来ならば故人を示す名前が掘ってあるはずの位置に、それぞれ1から7までのシングルナンバーだけが彫られていた。
 少しばかり苦しく思っていた息が整った頃、桔梗は懐にいつも忍ばせているドッグタグを取り出す。手にしたドックタグには8という数字が刻まれていた。
 桔梗はずっと頭の中で色褪せることのない、古い記憶を持っている。このドックタグを目にすればその記憶はより鮮明さを増し、常にそれが今起こっていることであるかのように感じられていた。
 けれど、もう、今ではまるで遠い昔のように感じるのだ。

 かつてそこには「8」と呼ばれていた自分がいた。
 はるか昔だ。拾われる前、兵士として戦っていた時のこと。最後の作戦を終えるまで桔梗が8として存在していた、ひとつのチームがあった。チームの彼らとは、苦楽を共にし、同じ釜の飯を食い、泥水を啜るような辛ささえも支え合って乗り越えてきたのだ。
 真実、桔梗にとってはじめての家族というのは自分を含めて8人になるあのチームだったとさえ言える。1から8。それが、自分たちを示す識別番号であり、同様に自分達の名前でもあった。
 ただ、戦うことだけが日常であったけれど荒んで氷のように冷たくなった心に、温いお湯をかけて溶かしてくれるような。桔梗にはとても大切な7人の存在。何十年来もの仲のように息もぴったりと合っていた。
 けれど、何が命運を分かつことになったのか、8の文字を背負う自分だけが一人生き残ってしまったのだ。
 その日の作戦もいつもと同じように始まって、気づけば一人、二人、いや、残されたのは桔梗ただ一人だけ。
 戦争が終わって、桔梗は戦災孤児として拾われ、この名前を貰った。数字ではない、人としての意味を持った名前を。けれど、作戦に散っていった彼ら7人は数字を与えられ、数字として過ごし、意味のある名前を与えられることもなく死んでいったのだ。あの時代の中で精一杯共に生きた7人の仲間を、可哀そうだと憐れむつもりはない。でも、あの時生き残っていられれば桔梗と同じように名前を得ることもできたのかもしれぬと思うと、あまりにも酷い。遣る瀬なさが募っては膨れていく。

 大きな腹のせいで、しばらく立っているだけというのも辛く感じた。木にもたれていた身をおこし、ふぅと息を吐きながら、桔梗は買ってきたばかりの花を墓前に一本ずつ供えて膝をつく。大きく膨らんでいる腹部が張ってきたように感じた。
 妊娠したと判明したばかりの頃は戸惑いと不安ばかりだった。これから自分を待っている幸せが、自分にはまるで見合っていないような気がして、つまるところ、ずっと心の底にいたのは「8」として一人生き残ってしまった自分だったのだ。数字を名前として持つ仲間が手にできなかった幸せを一人で得てしまった罪悪感。
 しかし、腹に宿った子供の数を知ってから桔梗の考えは段々と変化していった。
 7つ子だったのだ。失われた1から7の仲間が、そこに還ってきたような、奇妙な縁を感じたのは間違いない。
 ドッグタグを握りしめた拳を口元へと持ってくると、キスを落とすように唇に当てたまま桔梗は暫く目を伏せる。

 次に桔梗が目をあけたとき、その表情の奥にいつも存在していた寂しさは薄れたように見えた。
「今度こそ誓う──。私は、皆を絶対に守ります」
 自信と力に溢れた言葉が桔梗の口から発される。まるで桔梗の言葉に呼応するかのように風が吹いて、7つの墓石の上に眠っていた落ち葉が吹き上げられて舞う。
 大きく膨れた7つの子を宿す腹を大事そうに抱えながら、桔梗は立ち上がった。墓石を背に桔梗は墓地の出口へと歩いていく。墓石の上に残された「8」のドッグタグが、夕陽を反射してキラリと光った。

(かつて8と呼ばれていた自分は、せめてみんなと共に)

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
この度は御発注頂きまことにありがとうございました。
お楽しみ頂ければ幸いです!
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山上三月 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年10月07日

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