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『紅蓮の猟犬・ゆうしゃの宴、後編たる赤』
cloverla0874

●これまでのあらすじ
 謎の島で、クリスマスリア充するよ!
 夜の海でワイングラスに海月を捕まえ…… やるの、それ。




「買い物をしよう」
「海月じゃないの?」
「夜の海は寒いからね。簡単なキャンプ道具や防寒着を用意したい」
「ライカ、本気だね」
 ぐいぐい進むライカ(lz0090)に手を引かれ、clover(la0874)は困ったように笑う。
 彼なりにデートなるものを考えているのはわかるので、何ともくすぐったい。
 魔法学園が在る謎の島。
 果たして、そんな都合よく現代のものを揃えられるのか……

 揃ってしまった。

 暖かなブランケット。
 肩を寄せ合えば何とか2人が収まる簡易テント。
 キャンプ用の調理器具セット。
 温めるだけのインスタントフード。
 ワイングラスを2つ。
「これだけで……すごくデートって感じがする」
「じゃあ解散するかい、クロ?」
「やだっ。わかってて言ってるでしょ! ライカ、いじわる……」
 四葉型ボディの影響か、『演技』に引きずられているのかはわからないけれど、cloverも自然と女の子としての振舞いになっていた。
「私も楽しい、し。楽しみだもん。海」
「僕もだ」
 ライカは右肩に荷物を引っかけ、左手でcloverが抱きかかえているぬいぐるみ・ぐれんのわんこの頭をもふもふした。




「海だ……」
 寄せる波、返す波。白い砂浜。
 cloverは、眼前に広がる景観をとりこぼしてなるものかと、金色の瞳を目いっぱい見開いた。
「どこの世界であっても、海は美しいな」
 柔らかな紅蓮の髪を潮風に流しながら、傍らのライカも口の端に笑みを刻む。
 さすがに海水は冷たいだろう。足元は濡らさないよう気を付けて、波打ち際で遊ぶ。
「ライカー! 見てー! 星の砂!!」
 白砂の合間に、宝物のような形を見つけてcloverがはしゃいだ。
「海月は流れ着いてこないか」
 謎の島の、不思議な海。なんでもいそうな気はする。
「光る海月だったら、夜になれば見つかるかもしれないよ」
「日中は、そこにいるのに気づくことができない、か。『海月』とは言ったものだね」
「でも、私は気づいたよ」
「うん?」
「ライカのこと。姿を消しても……この世界の何処かに居るって、会えるって信じて、見つけたよ」
 黒いコートをぎゅうっと握って、cloverは彼の紫色の瞳をまっすぐに見つめた。
「……うん」
 cloverの小さな手を、ライカの少しだけ大きな掌が包み込む。暖かい。
 こつん、と額と額を合わせる。
 cloverの無垢な白い髪と、ライカの燃える赤髪が交わる。
「約束。ちゃんと聞こえてたから」
 ――もっと色々話してみたかったなー……
 ――次会えたら、今度こそ……
「はわわわわわわ」
 体温を通した至近距離は、非常に心臓に悪い。
 後ろへのけぞるcloverだが、ライカが離れることを許さない。
「いじっっ……わる!!」
「わざとやってるからね」
「〜〜〜〜〜っっっ」
「いつでも誰にでも、じゃない。そこは安心して?」
 完全におんなたらしのせりふだ。
「そろそろ、ご飯にしよっか。日も暮れるだろうし、歩き疲れたし」
 慌てふためくcloverの反応を十二分に堪能したところで、ライカは荷を置いてある方向を指した。




 小さなバーナーで、お湯を沸かす。ショートパスタを茹でる。その蒸気でレトルトシチューを温める。
 ホワイトソースの代わりにたっぷりシチューを纏ったショートパスタは、体の芯から温まるささやかなクリスマスディナー。
 完成する頃には陽が落ち始め、星が瞬く夜空とオレンジ色の水平線が遠方に共存していた。
 テントの入り口に2人並んで座り、1枚のブランケットを一緒に羽織り、波の音を聞きながら『いただきます』。
「……おいしい」
 ステンレスの器で両手を温めながら、食後のカフェオレ用に湯を沸かす炎を見つめてcloverが幸せを噛みしめる。
「大丈夫? そっち、寒くない?」
「うん、平気だよ」
 ライカの気遣いが嬉しくて、ふふりと笑って身を寄せてみる。
 安心したらしく、ライカも食事の続きを――
「熱」
「え」
「いや」
 さりげなくフォークを唇から離した横顔を、cloverはガン見する。
「火傷した? ライカ、もしかして火傷した? まさか猫舌?」
「なんでそんな嬉しそう……?」
「私しか知らないライカの秘密だったら、嬉しいなーって」
「まぁ、……熱すぎるのは、得意ではない、かな」
「だったら、私が冷ましてあげる!」
 ここぞとばかりに、cloverはライカの手からフォークを取り上げてフゥフゥと冷ましてやる。
「はい、召し上がれ♪」
「仕方ないなぁ……」
 弱ったライカは、cloverの右手首を軽くつかんで、そのまま頂く。
「!!!?!!?!?!?!」
「うん、食べやすい……、……クロ?」
「はい。いえ、あの、自分でやってなんですけど、……爆発しそう」
「へー……」
 真っ赤になって顔を逸らす少女を見て、ライカの目は再び意地悪く輝く。
「じゃあ、今度は僕の番かな。はい、クロ。あーん」
 小さなあごをクイッと持ち上げられ、――これはどういう状況でしょうか。
 顔が熱くて、胸が熱くて、パスタの温度がわかりません。




 食後のカフェオレ。デザートのチョコレート。
 名前もわからないたくさんの星。
 どこにあるかわからない、いろんな星の物語。
 たくさんたくさん、おしゃべりをした。
 取るに足らないことかもしれない。
 クリスマスとは関係ないかもしれない。
 でも、『今』話したいと思った。聞きたいと思った。
 その横顔を見て。ときどき、気づいたようにこちらを振り向く紫の瞳を見て。
「……ライカ?」
「ちょっと待ってて」
 目と目が合って、ややあって。
 ライカは、テントから荷物を取り出す。
 ワイングラスを2つ。
 そこへ、甘いサイダーを注ぐ。
 炭酸できらきらしたグラス越しに、
「見つけた。金色の海月」
「こっちは、紫の海月なんですけど」
 っていうか、それ、今?
 うん。今。
 未成年の2人は、ワインの代わりにサイダーで乾杯。
 しゅわしゅわとした刺激が、喉の奥で弾ける。
「ふふ……ふふふ……幸せだなぁ……」
 体を折って、cloverがコロコロと笑う。
「あのね、ライカ。私ね」
 約束。次会えたら、今度こそ――花冠を。
「これを、渡したかったの」
 ケープの内側に忍ばせていた、シロツメクサの花冠。
 不思議な力で枯れることのない、約束の花。
 魔法が解ける前に、これだけは。

「メリークリスマス」

 紅蓮の髪に、白い冠をのせる。思った通り、よく似合う。
「私だと思って、大事にしてくれると――その、嬉しいな……」
「……ふむ」
 クリスマスイブは終わっていないが、ライカは素の口調に戻って。
「では……そうさな。わしから贈れるものは少ないが」
 右手を、ぐれんのわんこの頭に添える。ぬいぐるみの瞳が、一瞬だけ強く輝いた。
「残ってるかどうかもわからぬ、力の少しを入れてみた。わしの姿が見えない時も、きっと番犬にはなるじゃろう」
 言い終えるや否や、バチンと静電気が生じ、ぬいぐるみがライカの手を弾く。
「……誰に似たのか、気の強い……」
「おとーさんそっくりだと思うよ?」
「むっ?」
 ぬいぐるみをぎゅーっと抱きしめて、何より愛しそうに抱きしめて、cloverは笑った。




 クリスマスイブの夜が明けるまで、語れる愛は、あとどれくらい?




【紅蓮の猟犬・ゆうしゃの宴 了】

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼、ありがとうございました!
『if・クリスマスリベンジ』後編をお届けいたします。
約束も絡めて、ありったけの糖度で。お楽しみいただけましたら幸いです。
ライカにつきましては
・ナイトメアとしての力を一切失い、ひとでもナイトメアでもない生命体
・SALFはそのことを把握していない
・衣食住、収入や食生活などは一切不明
という設定でお送りしております。
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佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年10月07日

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