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『Periwinkle』
ロベリア・李ka4206)&白藤ka3768)&ミアka7035


 昔々と続く始まりがあれば、何時かはめでたしめでたしと終わりを告げる時が来る。

 歩みに違いはあれど、太陽の光が刻々と表情を変えるように、それは確実に色味を帯びていく。
 ならば、その人の世界を構築する色彩とは、一体どのような色なのだろう。



 それは――



**



 ドア窓から見えるCLOSEDの看板を確認すると、愛着が湧いてきて早数年の整備屋の入口ドアに表から鍵を閉めた。整備屋の女店主、ロベリア・李(ka4206)は、下ろし立てのサマーブーツの踵を鳴らしながら、通りを歩いていく。



 カツン。



 試し履きに履いた程度のサマーブーツが、妙に足に馴染む。

「(……解せないわね)」

 どうにもそれが悔しくて、足許に注いでいた意識を、ふ、と、行く先へ移した。

「(あの子や彼らの“物語”に片が付いて、もう六年か。ほんと、時が経つのはあっという間ね……)」

 懐い起こす度にそう呟いてしまうのは、更に年を取った証拠だろうか。

「(まあ、否定はしないわよ。今更若さなんて求めたって、ねぇ?)」

 どれ程嘆こうと青春が返ってくるわけでもない。
 そもそも、“人生の春”に後悔なんてしていないし、“壮年の夏”真っ盛りの自分には、夢や希望、恋愛――活力満ちるそれらとは縁遠い。……はずだ。

「(そうよ。そんなこと昔過ぎて、記憶も巻き戻らないわ。無駄よ、無駄。時間の無駄)」

 繰り返しそう心の中で念仏のように呟いていても、不思議と足は目的地の商店街へと差し掛かるもので。休日にしては程良い人の波を足早に泳いでいると、目で探すよりも早く「――よう」と、明瞭な低音がロベリアに呼び掛けた。

「早かったな」

 そう口角を上げるのは、街で診療所を営む元軍医――シュヴァルツ(kz0266)だ。

「早いってあんた、まだ待ち合わせ時間の十五分前よ?」
「男が女待たせらんねぇだろ」
「デートじゃあるまいし」
「何だよ、“この前”とは違うってか?」
「Σんぐっ……!?」

 唐突の無自覚マウントに、噎せ込むロベリア。
 喉に手を当てたまま顔を伏せるロベリアに、シュヴァルツは首を傾げながら、ふ、と、何気なく視線を落とし――留めた。

「お前、そのブーツ――」
「はいはい、さっさと買い物済ませるわよ!!」

 言いかけた彼の言葉は、解放されたロベリアの喉に呑まれ、取り消されてしまった。



 バツが悪い?
 いやいや、今更、時間の無駄ですから。




 昼は目が覚めるほどカラフルでダイナミックに、夜は立体感のある光と影で夢路へと誘う。
 天鵞絨の帳がひとふり下がれば、

 嗚呼――めくるめく、我らが『天鵞絨サーカス団』





「ふやぁ、ふやぁ」

 お守りにハスキー犬の東雲を傍らにつけていたのだが、その高くて可愛らしい泣き声で呼ばれたら、心配がなくとも、又、親でなくとも駆けつけてしまう。
 例に漏れず、金魚の尾びれのように衣装の袖を揺蕩わせながら小走りでやって来た女性が、揺り籠の縁に指を掛け中を覗いた。

「おー……おっきしたの……? おなかすいた……? おっぱ飲む……? んむ……おかーさーん……赤ちゃんおなかすいたみたい……おっぱ出してー……」

 言い方よ。

「あら、もうそんな時間かぁ。悪いんやけど、うちの王子様にミルク飲ませてもろてもええ? 暫く会うてへんかったお得意様にご挨拶しときたいんや」
「いいよー……じゃあこれ、着替えてくるー……」
「おおきに。あ、ミルクは黒亜が作ってくれるさかい」
「……は?」
「よろしゅう頼むわ、お・じ・さん♪」

 掌を蝶の羽ばたきのように揺らしながら、乳児の母親である白藤(ka3768)は、舞台裏を後にした。

 黒亜(kz0238)は憮然と、しかし熟れた感じで哺乳瓶に粉ミルクを入れ、妹の紅亜(kz0239)はというと、脱皮するかのようにラフな格好へと着替えた胸に、小さな王子様を抱きかかえあやしていた。自身が末っ子の為、黒亜のように赤子の世話をした経験がない紅亜は、物珍しく、又、初めての甥っ子が可愛くて仕方が無いのだろう。だが、“子供”の世話というなら、黒亜以上の大先輩が彼――

「紅亜、変わるか?」

 黒亜達の兄、白亜(kz0237)だ。
 得意客への挨拶を済ませたのだろう、彼の後ろからは白藤が足早に戻ってくる。

「やー……私があげるのー……」

 自分の腕の中でんくんくとミルクを飲む赤ん坊に、うっとりとした目線を据えながら、紅亜はくるりと白亜に背を向けた。

「(随分と母性的な背中になったものだ)」

 白亜は呼気でそう微笑むと、「俺も手伝おう」――今日の公演を終えた皆を労う為、飲み物の用意をしていた妻の白藤に声をかける。

「あら、おおきに。白亜もお疲れさん。思わず見惚れてまうぐらい今日も男前やったで?」
「おや、それは残念だ」
「へ?」
「惚れられるより惚れ直してもらうには、俺もまだまだ磨きが足りないな?」
「ふおっ……!?」

 白藤に向かって首を傾げる白亜が、一瞬白い歯を零した。完全に彼女の反応を楽しんでいる。
 ……オモシロクナイ。
 白藤は紅亜と同じようにぷいっと彼に背を向けると、

「……惚れるんも惚れ直されんのも、別にうちやのうてええんちゃう?」

 形の良い唇を尖らせた。

 拗ねつつ言ってはみたものの、実際そうなのだ。
 結婚をし、一児の父になっても白亜個人の人気は衰えず、寧ろ――

「(色気増し増しに加えファン増し増しやもんなぁ……まあ、それが興収に繋がるんは有り難いことやけど)」

 相乗効果と考えれば何と言うことは無い――と、半ば無理矢理頭を働かせてみる。が、そう簡単に抑え込めないのが嫉妬だ。

「(恥ず……)」

 羞恥から血が頬に上ってくるのを感じながら、白藤がコップに飲み物を注ぎ終えた時、

「君だけだ」

 まるで、愛の告白のような響きが彼女の心を抱擁した。

「誰でもない、俺には君だけだぞ」

 そう肩越しに囁かれ、気づくとコップの乗ったトレーは横から掠われていた。
 耳まで真っ赤にした白藤は振り返れるはずもなく、「くそぅ……」と決まりの悪さを引いていると、

「しーちゃんはいつにニャったら勝てるんニャス?」
「Σ――グ」

 サッッッ!!!

「ミ、ミぃアァァ〜」

 恨めしげな上目遣いが横を向く。そこには、相棒兼妹のミア(ka7035)が、瞳をきょとんとさせながらミルクをくぴくぴと飲んでいた。
 天真爛漫で純粋無垢。とにかく元気なこの彼女。年相応の容姿にはなったものの、何も“変わらない”皆の安心安全マスコットだ。そのマスコットが痛いところを突いてくる。

「(白亜といいミアといい、このやり取り何年続けとるんや……うち!!)」

 訪れないブレイクスルーに心が身悶えそうになるも、ふと――

「あら、ミアまだ衣装のままやったん? クリーニングに出しとくさかい、はよ着替えてきぃや」
「あーい」
「んっ!? ミア、ステイ! 紅亜の衣装もやけど、次回はもうちょい装飾付けてもえぇかもなぁ」

 白藤はミアの衣装である夏の草花を描いた古典柄の和装ワンピースに視線を据え、袂や裾に軽く触れながら、むむむ、と唸った。

「動く度に光を集めて煌めく感じとかどないやろか?」
「いいニャスな!」
「せやろ? ほんま、女の子は着飾り甲斐があるなぁ……若くてかわえぇから羨ましいわ」
「しーちゃんも可愛いニャスよ? ダディといる時は特に」

 不味い、蒸し返される。

「はいはーーーいミアはお着替えタイムやでーーー」

 白藤はミアの両肩を掴んで回れ右をさせると、奥の控え室にぐいっと背中を押し入れた。
 額に浮いた冷や汗を「ふぅ」と手の甲で拭う。そんな彼女の背後から、

「ほんと成長しないわね、あんたは」

 人生の半分を分かち合ってきたと言っても過言ではないロベリアが、山盛りの芳ばしいパンをトレーに乗せてきた。次いで、白亜と談笑していたシュヴァルツが皆の好物を盛り付けたホワイトクラウンのケーキスタンドを両手に持ってくる。
 久方振りに皆の都合がつくということで、夏公演の最終日の今日、何時ものメンバーが何時もの場所に集まっていた。――いや、一人を除いてだが。

「あら、ねぇさんがソレ言うん?」

 白藤は声のトーンと目つきを露骨に変え、ちらりとシュヴァルツを見やった後、その視線をロベリアに移す。

「……何よ」
「いやぁ? 先日は二人で“お楽しみ”やったらしいなぁ?」
「は? 馬鹿ね、備品の買い出しにちょっと付き合ってもらっただけよ。別にあんたが期待するようなことなんて何一つなかったわよ?」
「そう思いたいだけやったりして?」
「あんたね……何が言いたいのよ」
「ねぇさん。敵前逃亡なんざ……らしくないんちゃう?」
「あのね、私は整備士なの! 本来戦うのは仕事じゃないの! それより、その、どうなのよ。子供はよく寝てる?」
「寝とるで」
「そ、そう。あ、私、紅亜に聞きたいことあったのよ。ちょっと料理のことで――」
「紅亜の料理の腕なら、漸くレシピ通りのことするようになったわ」
「……」

 白藤がにっこりと微笑みながら、ロベリアの退路を一つずつ塞いでいく。更に、「ロベリアちゃんが」と、控え室のカーテンからミアがにょきっと頭を出し、

「“今更”とかって考えてるニャら、それはいつでも逃げられる“言い訳”なんじゃニャいニャス?」

 追い討ちをかける。

 ぐうの音も出ない。
 そう、思い当たる節は幾つもあるのだ。只、奥手な上に苦手な恋愛経験は遡るほど昔過ぎて、それ以前に“分からない”というのが本音。

「(勿論、シュヴァルツのことは良い友人だと思ってるわ。一緒に居るのも、話をしたり聞くのも好きよ。自然と何かしてあげたいって思えるもの。けど――)」

 恋愛感情かと聞かれたら……はて。しかしそれが、長年一歩を踏み出せない言い訳なのだとしたら。

「戦場から離れてもうち等の気質が変わるわけあらへんやろ、なぁ?」

 白藤はロベリアの肩を、ぽん、と、弾き、見透かしているかのようにウインクをすると、我が子を抱く白亜の元へ歩いて行った。
 漸く人並みの幸せを手に入れた妹が、愛する人と唯一を築き、あどけなく笑っている。それは、彼女が暗闇から一歩を踏み出せたという証。



『──悩むことすら楽しめ。巡り会っちまったら、付き合っていくしかねぇのよ』



 何時だったか、彼が言った言葉。

「(……そうね。分からないなら、楽しんでしまおうかしら。義妹ももう大丈夫なんだから、自分の為にもっともっと好きなように生きてみましょう)」

 内心から溢れる口許の綻びが、妙に此処良くて。

「(こんな行き遅れを相手にして楽しければだけどね?)」

 途端、ロベリアは背中に軽い衝撃を感じて、前のめりによろけた。
 何故か、彼のいる方向を目がけて。



 ――カツン。



 先日彼にプレゼントしてもらったブーツが、まるで門出のように音を鳴らしたのであった。




 夜の森に、無数の星が降り注ぐ。
 夏の名残を引いた風が、周囲の木の葉をそよそよ揺らしていた。その奏を耳にしながら、歩き慣れた道らしくない道を進んでいくのは、ミアだ。

「(そろそろ本格的に二人の養女になる準備しとかないとかニャ?)」

 これまでのしてやったりが遂に身を結ぶかもしれない。それは、冗談でもなく、成り行きに任せたわけでもなかった。

「(ミアの大好きな人達には、幸せになって欲しい)」

 そう願うと、ある人のことを思い出す。

「今頃、どこで何してるんだろうニャぁ……」

 森の終着点――開けた空間に、月明かりが降り注ぐ。

「誰のことだい?」
「琉架ちゃんのことに決まってるニャス。ご実家に訊いてみたらそんなヤツはいないって言い返されちゃったニャスし……」
「まあ、絶縁されているからねぇ」
「そうなんニャス? ……って――ふニャ!?」

 月華と共に降っていたのは、あの“気紛れ”声。

「琉架ちゃん!」

 みあはうすを仰いだと同時、屋根から飛び降りてきたのは、桜久世 琉架(kz0265)だ。暫くぶりに会う彼は殆ど変わらない端正ぶりで、強いて言えば増した“身軽さ”と、首元にさらりと巻いた花緑青のストールが印象的であった。

「いつこっちに戻って来たんニャス?」
「二時間程前かな」
「天幕にお顔出してくれたら皆に会えたのに」
「興味ないよ」
「またそんなこと言って……ミア、数年前の収穫祭の時だって、琉架ちゃんのこと待ってたんニャスよ?」

 そう悄気るミアに、琉架は平然たる態度で「ごめんね」と、“嘘”をつく。真実を知らないミアは頬を膨らませるも、つまらないことでいじけていたら勿体ないと思ったのか、

「泊まるとこ探してるニャらミアのおうちを使うといいニャス! 旅のお話、いっぱい聞かせてくれニャスよ!」

 ニッと八重歯を覗かせ、琉架の手を取った。そして、玄関へ引こうとしたその時、

「俺もそう思っていたのだがね」

 そう前置きをして、

「ミアちゃんの“黒猫”に寝首をかかれるのも面倒だから、又の機会にさせてもらおうかな」

 する、とミアの手から指先を離した。

「えっ、蒐はそんなことしないニャスよ?」
「だろうね。君が躾ている方は」

 唐突な上、噛み合わない意思にミアが言葉を出せないでいると、

「ミアちゃん。君もちゃんと幸せになるんだよ」

 ――何時だってこちらの気持ちは置いてけぼりだ。
 琉架はミアの頭を一撫ですると、恬淡としたその様のまま踵を返し、月明かりの届かない先へ消えていった。



 後に残されたのは、夜の静寂。
 そして、気抜けを宿したままのミアだ。

 どのくらい間を置いただろう、夜陰に紛れて、

「自分で余り物包んでたくせに忘れないでくれる?」

 風呂敷を片手に、姿を現したのは黒亜であった。
 返答なく俯くミアに、黒亜は小言ひとつ言わず彼女の傍らへ歩み寄る。そう――数年前の収穫祭の時と“逆”の立場になったバツの悪さからか、黒亜にしては珍しく言葉を探していると、

「琉架ちゃん、ミアのこと嫌いだったのかニャぁ……」

 何てことをミアが呟くものだから、一瞬で黒亜の表情が真顔になった。言葉選びなんて馬鹿馬鹿しい――。

「嫌いだったらわざわざこんな所に来ると思う?」
「……」
「……気に入ってるから、ミアにだけ顔見せに来たんでしょ」
「……」
「……」
「……クロちゃんは今でもミアが好きニャス?」
「“今”でもって何。ていうか何で話がそっち行くの。わけわかんないんだけど」
「……」
「……。……オレの性格知ってるよね?」
「うん」
「だったら、忘れ物程度で来ると思う? このオレが」
「来ニャい」
「……」
「ミアはずっとクロちゃんのことが好きニャス。これからも」
「……知ってる。ほら、家入るよ。これ、一緒に食べよう」

 黒亜の掬い取るような指先が、ミアの掌を握る。それは、思いがけない程――いや、変わりない確とさで、優しい感覚だった。



**



 それは、あなたにしか見えない、あなただけの色。
 色づけた幸せはこの先もきっと、色褪せることなく築いていくことだろう。



 あなただけの、この世界を。




━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ライターの愁水です。
F&三姉妹様の最後の納品ということで…たっぷりお時間を頂戴し、大切に執筆させて頂きました。

字数の足りなさ故、肉付け出来なかったシーンは多々ありますが、少しでもこのノベルが、又、今までの物語が三姉妹様の“楽しい想い出”となっていましたら、この上ない喜びです。
一癖も二癖もあるNPC達と最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございました。

これからも続く皆様の未来が、どうか、どうか、幸せな色で溢れていますよう。
今まで大変お世話になりました。何処かの世界で又お会い出来ることを祈り、あとがきとさせて頂きます。
イベントノベル(パーティ) -
愁水 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2020年10月16日

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