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『「教会」 3』
白鳥・瑞科8402

 身の程知らずにも「教会」を騙る組織。
 その被支配地域――だった場所の住人への、「教会」に対する感情のフォローも完璧に済ませ。
 白鳥瑞科(8402)は組織の首領の元へと向かう。

 首領と思しきその男は、姿を現した瑞科の姿を見ても余裕の態度でソファに座ったままで居た。目を眇め、やっと来たかとでも言いたげな態度。
 そして、ゆらりと立ち上がったかと思うと――その姿はふっと消えている。
 否、消えた次の瞬間にその男が居たのは、瑞科のすぐ間近。コマ落としの如き動きで、目を瞠る無防備な瑞科の顔に向かって躊躇い無く貫手を撃ち出して来る。その手は義手。それも、恐らくは電磁ショックか何かと思しき攻撃手段を具えている武装――目前間近で、ばちりと不穏なスパークが弾けている。
 かと思ったら。
 男が貫手を撃ち出したそこには、瑞科の頭など既に無く。
 それどころか――すぐ間近に居た筈の瑞科自身の姿すら、最早全く別の所にあった。
 それが何処かと言えば、男のすぐ背後。
 手持無沙汰そうに杖を弄びつつ胸を強調する様に腕を組み、不思議そうに小首を傾げながら。
「ナマケモノ……って御存知かしら?」
 動くのがとっても遅い動物なのですが。
「今の動きを拝見していましたら、つい頭に過ぎってしまいましたわ」
「っ」
「いえ、貴方如きと比較してはナマケモノさんに失礼ですわね。ナマケモノは生存戦略としてエネルギーの消費を抑える為に鈍い動きを取る様進化しているのですもの。恐らくは速さ自慢でいらっしゃる貴方の様な滑稽さは全くありませんわ」
 そう瑞科が言い終えるか終えないかと言う段階で、首領の男はまたコマ落としの如き動きを見せる。いつの間にか背後に居た瑞科を再び狙い――いや、もうそこには瑞科は居ない。男は反射的に瑞科の姿を探す。また脈絡の無い位置にその匂い立つ様な女らしい姿を見付ける。躍動の直後と思しき、豊かな部分の撓みが確かにある――あるが。息すら全く乱していない。男は再びその姿に――喉首を狙って、撃ち掛かる。
 が。
 そう伸ばした義手の腕に凄まじい衝撃が走る。男は瞬間的に何が起きたかわからない。一拍置いて、強かに腕が打ち払われたのかと認識。するが――本当は、もう一段、先を行っていた。
 腕を打ち払われたのはその通り。但し、打ち払われたその腕は、最早繋がっていなかった。衝撃で吹き飛ばされ千切れ飛んでいる。
 義手部分を具えたその腕は、今は壁に突き刺さっていた。
「随分と華奢な腕ですわね。これでは、わたくしを満足させるには足りませんわよ?」
 力強く杖を振るった直後。そうとしか見えない姿のフォロースルーから、瑞科はゆるゆると姿勢を戻す。
「今ので千切れ飛んでしまうなんて、その義手、上手く装着されていなかったのかしら? いえ、生身部分から千切れていましたわね。ふふ、か弱い御方」
 では、他の部分はどうか試してみましょうか。
 言いながら、瑞科は再び杖を振るって男に打ち掛かる――残っていた腕を、脚を。男の方は瑞科のその動きに一切反応出来ていない。男の動きはコマ落としの如きだった筈。だが瑞科の動きは更にその上を行っていた。
「にしても、この程度で我らが「教会」を騙るなんて……弱過ぎませんこと?」
 わたくし達「教会」の兄弟姉妹は、人類に仇為す魑魅魍魎や組織を悉く殲滅しなければなりませんのに。
 嘆息しつつ、止めを刺す。……いや、止めを刺すと言うより。
 杖での殴打で最後に千切り飛ばした部位が、命に直結する部位だっただけでもある。

 そこまでをしてから、瑞科は悠然と表に出る。
 御無事でと感極まった労いを掛けてくる。手引きをしてくれた元被支配地域の住人。そちらにはゆったりとした笑みを向けつつ、瑞科は最後、重力弾を用いてたった今まで自分と首領の男が居た部屋自体を悉く押し潰した。
 人類に、害為す敵に天罰を。
 囁く様に告げた時点で、元被支配地域の住人は瑞科に向かってその威に打たれた様に跪く。祈っている。瑞科としては内心で肩を竦めたい所だが、これでまぁ、本物の「教会」の権威は取り戻せただろう。
 そう判断が出来るなら、これで楽しい楽しい任務は完遂である。

 ああ、次はどんな敵を屠る事が出来るだろうか。
 すぐにそちらへと思考が進む。いつか、もっと、手応えのある強い敵を。まだ見ぬ任務に心躍らせる。
 そうしながらも、今の勝利の余韻に浸る。

 敵の力に物足りずとも、任務達成の高揚感は同じ。今宵の敵とて本来は弱い訳では無い――あれだけの速さを見せる以上、有態に言って非常に強かった筈である。
 が、瑞科の基準ではどうしたって“弱い”になってしまう。
 白鳥瑞科はそれ程に“強い”。
 そんな瑞科が任務を失敗したり、敗北するなんて絶対に有り得ない。
 これだけ圧倒的に強ければ、その美しく艶やかな体にほんの僅か触れる事すら、どんな敵にも出来る訳が無い。

 神の僕に死角は無い。
 華麗で美しく、圧倒的な実力を持つ彼女には。
 不安要素など微塵も無い。

 どんな敵だろうと軽々と手玉に取れる。神の御心のままに――いや、神の敵対者への加虐心の赴くままに。数多の方法で敵を蹂躙し、勝利を重ねて来た。
 それはこれからも変わらぬ事で、苦戦や敗北など、予期した事は全く無い。
 白鳥瑞科の愛する日常は、崩れる事など決して無い。



 ……その筈、なのだが。



 そうとも限らない――かもしれない不穏さ危うさも、どうしても付いて回りはする。
 幾ら完璧であっても――いや。
 完璧、などと言う物は、本来存在し得ない物である。

 今どれ程強くあろうとも、いつか、それ以上の強さを持つ者が現れないとも限らない。
 今どれ程美しくあろうが、その美しさが決して損なわれないなどと誰が決めたのだろうか。

 その実力と美しさを根拠に、神の名に託けた驕慢は尋常では無い。
 優れているからこそ、見えなくなっている物は確実にある。
 不安要素は、無い訳じゃない。
 死角は、ある。
 尋常で無く優れているからこそ、そんな不安要素も、ある程度までは無自覚のまま捩じ伏せられる。
 本当に“無い”のではなく、ただ“無かった事”に出来るだけ。
 そしていつでも“わたくしは完璧である”と謳える。

 けれど。

“捩じ伏せられない位の何か”が起こる可能性は、常にある。
 ずっと勝利を重ねて来た者が、次は何かの拍子に負けてしまう――なんて、何処にでもある話。
 自分なら、自分こそ。自信と傲慢は紙一重。それら慢心から来る油断は、どうしたって、絶対に、何処かにある。
 優れているからこそ認識出来ない、落とし穴。
 優れているからこそ、それが落とし穴だと言う自覚も、どうしても持てない。

 いつかプライドと自信をズタズタに引き裂かれ、完膚無きまでに無様な敗北を喫してしまう可能性。
 常日頃の遣り様とは全く逆に、瑞科こそがサディスティックにボコボコに蹂躙されてしまう可能性。

 近い未来に、そんな事が起きないとも限らない。

 見目麗しい女性である分、口に出すのも憚られる様な残酷な目に遭う可能性。
 死ぬより酷い末路を追う事になってしまうかもしれない可能性。

 考えたくも無い事ではあるし、事実本人は考えた事も無い。
 思い付きすらしないし、有り得ないと目を瞑る。

 けれど。

 それで済まない可能性は――幾らでも。
 もしくはそれをこそ望まれている可能性すら――あるのかもしれない。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 白鳥瑞科様にはいつも御世話になっております。
 今回は発注有難う御座いました。
 そして最後まで大変お待たせ致しました。

 ラスト部分の描写ですが、“全体”が三話目だけと三話分通してのどちらを指しているのか判断しかねたので、前者の割合と見做して書かせて頂きました。

 如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 改めまして、PL様には他のPC様共々これまで沢山御世話になりました。有難う御座いました。
 これで東京怪談では最後となりますが、もしまた何処か別の場所でまたの機会が頂ける時がありましたら、その時はと書いておく事にしてここは失礼致します。では、また。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年10月19日

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