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『東京怪談・改 〜裸足の王女の冒険FINAL〜』
イアル・ミラール7523

序◆女神と邪竜のゲーム

 イアル・ミラール(7523)が、いつものように弁財天宮内の清掃を行っていたときのこと。
 お忍びで外出していた弁天が、大荷物を抱えて戻ってきた。
「イアルや。ちと、ゲーム攻略なるものをしてみぬか?」
 云うなり、何やら古めかしいデザインの中古ゲーム機をいそいそと1階カウンターに設置し、買ってきたばかりのはずなのに色褪せたゲームソフトの封を切った。
 パッケージには、尖塔のある古城と交差した双剣、今にも炎を吐かんとする赤い邪竜が描かれている。
「ゲーム……ですか? 難しそうですね」
 そんな文化に馴染みのないイアルは困惑するが、何事も経験ぞ、と、弁天に説得される。
「なに、ほんのお遊びじゃ。かなり昔のものじゃが、『呪われたRPG』としてカルトな人気があるらしくての。手に入れるのに苦労したぞ」
「これは、どうすればよいのですか?」
「コントローラーをこう持って、プレイヤー名を入力し、まずは職業を選ぶのじゃ」
 弁天は手取り足取り操作方法を教え、ふたり揃ってログインした。

 舞台は中世、剣と魔法とドラゴンの古典的ファンタジー世界である。
 モンスターを倒しながらいくつかのダンジョンを通過。ラストダンジョンの廃城には、炎の力を持つ赤い邪竜が棲みついており、それを倒せばゲームクリア。
 ごくシンプルな構成……の、はずなのだが。
 このゲームは、プレイヤーたちからこう呼ばれていた。
 決してクリアできないゲーム、だと。

 ゲーム内職業として、イアルは『剣士』を、弁天は『吟遊詩人』を選んだ。
「ちょっと、楽しいですね」
「それは重畳」
 女性剣士の衣装は、華やかかつ露出度多めのデザインで、イアルによく似合っていた。
 吟遊詩人のほうは、スキルも衣装もいつもの弁天とあまり代わり映えしない。素で行けそうだ。

 草原を進むなり、突如、最弱のモンスターが現れた。
 イアルが剣を一閃、難なく倒してレベルアップ。
 治療に使えるアイテムもドロップし、幸先の良いスタートだ。

「先ほど、呪われたRPGと仰っていましたが」
「うむ、実はこのゲーム内には、モリガンという知り合いの女神が閉じ込められておっての」
「モリガンさま……。弁天さまのお友達なのですね。それはお助けしませんと」
「を? をう、いや、友達というほどでは。わらわよりは少々劣るが、まあまあ美しい女神じゃ」
 こほん、と、弁天は咳払いをする。
「しかし現在に至るまで、どんなチートなプレイヤーでもモリガンを助け出せず、グッドエンドを迎えられたものはいない。つまりはバグ満載のゲームなのじゃ――むん? どうした、イアル!」

 弁天の解説が終わる前に、盛大なバグが発生した。
 イアルの持つ鏡幻龍の魔力と、呪いが競合したようで……
 
 草原の空間が、陽炎のように大きく揺らぐ。
 そして、
 イアルだけがいきなり、ラスボスの邪竜の元へ飛ばされた。

 ――挙げ句、
 モリガンが封印されていたレリーフに入れ違いに閉じ込められ、
 解放されたモリガンの肉体には、あろうことか邪竜が融合してしまったのだった。
 
 残された弁天だけが、その場に立ち尽くす。


破◆最初からクライマックス

「やれやれ、邪竜の棲まう廃城はまだまだ遠い。レベル2になったばかりの吟遊詩人には荷が重いのう、とも云うておられぬな」
 遠眼鏡の泉に廃城への道のりを映し出し、弁天はため息をつく。
「さぁて、どうしてくれよう。……おおっと、云ってるそばからせわしないのう」

 ひゅん!
 鋭い角を持つ羊型モンスターが草原を駆け、横合いから攻撃してきた。
「羊たちは謳う、うたかたの夢を(シープス・デイドリームビリーバー)」
 弁天は吟遊詩人ならではの『芸(歌)』スキルを放つ。
 羊型モンスターは、くたりと眠った。
 
 そろり、そろりと。
 草原を覆うように一面に咲いた毒の花が、刺のある触手を伸ばしてくる。
「ええい、鬱陶しい。薔薇園に輝け、月光の噴水!(ザ・ローズガーデンズファウンテン・ライトアップ!)」
 聖水と光の魔法を詠唱され、毒花のモンスターは次々に枯れていった。
 まるで除草剤を撒かれたごとくに。

       + +

 草原を後にし、深い森を抜け、沼地を乗り越え、枯れ木と岩の連なる荒野をひたすらに進む。
 やがて――、
 吟遊詩人の前に、満月に照らされた廃城が現れた。

 峡谷の上に架けられた吊り橋を渡り、軋む大扉をぐいと開く。
 吹き抜けの城内をぐるりと取り巻くのは、朽ちかけた螺旋階段。
 一歩一歩、登っていく。
 邪魔をせんと襲ってくる魔物を、氷のつぶてで追い払いながら。
 
 そして、辿り着いた最上階には。
 豪奢な黄金のレリーフに封印されたイアルと、邪竜と化したモリガンがいたのだった。

       + +

 凄まじい獣の匂いが、最上階に満ちている。
 邪竜は赤い翼をはためかせ、グルルルと低い唸り声を上げた。


急◆終わりのない冒険譚

「これはまた、何とも云えぬ悪臭よの。邪竜は入浴をせぬのかえ?」
 弁天はいささか愉快そうにモリガンを見た。
 野良犬さながらに四つん這いで移動するモリガンには、美貌を誇った女神の面影はない。
「わらわほどではないにせよ、それなりに美しかったモリガンが汚れ放題とは、何とも憐れよのぉ」
 モリガンは牙を剥く。
 弁天を引き裂かんと、鉤爪で宙を切る。
「おおっと」
 ひらりと避けた弁天は、ぱちん、と、指を弾いた。
 水の音が、大きく響く。
 廃城のはるか下、渓谷を流れる川が、水竜と化して頭をもたげたのだ。

 巨大な水の竜に、邪竜は炎を吐こうとした。
 だが、
 その胴を、水竜の尾が激しく打ち据える。

       + +

 激闘の末、弁天はモリガンを制した。
 それはすなわち、ラスボスたる邪竜を倒したこととなり――

「おお、これでゲームクリアじゃ! 誉めよ讃えよモリガン! わらわこそ、おぬしを救った勇者じゃぞ〜!」
 云いながら弁天は、水竜に命じ、モリガンの身体を綺麗に洗い清めた。
 銀の髪が眩しく輝き、白い肌が真珠いろになまめく。

 本来の美しさを取り戻したモリガンは、しかし不満そうだ。
「何だか、納得できないわね。ねぇイアル?」
「ご無事で何よりです、モリガンさま」
 レリーフから解放されたイアルは、にっこりとモリガンに微笑んだ。

       + +

 その後。
 井の頭公園内、イアルの居住区の温泉施設に、三人はいた。
 モリガンが疲れを癒したいと、強く望んだためだ。
 濡れた髪を掻き上げて、カクテルを手に、モリガンは云う。
「さあイアル、今度は貴女の物語を聞かせて頂戴。この『東京』を彩る、怪談と云う名のめくるめく冒険譚を」

 そして、
 裸足の王女は、語り出す。
 自らが歩んできた軌跡を。



          ――Fin.
          What you just said really comforted me, thank you.

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
◇◆◇◆ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧)◇◆◇◆
【7523/イアル・ミラール/女/20/裸足の王女】


◇◆◇◆ ライター通信 ◇◆◇◆
裸足の王女シリーズ井の頭編、とうとうファイナルを迎えました。
最終回のゲストは女神モリガンさまでしたね。
イアルさまにおかれましては、たいへんたいへんお疲れ様でした。大変楽しく書かせていただきました。

このたびは大切なPCさまの物語をお任せいただき、ありがとうございました!
いつかまた、どこかでお会いできますことを祈りつつ。
東京怪談ノベル(シングル) -
神無月まりばな クリエイターズルームへ
東京怪談
2020年10月19日

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