▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『終わりへの旅路』
ネムリアス=レスティングスla1966

 一隻のキャリアーがとある場所に向かって飛んでいた。
 地図にも載っていない、その意味では存在しない孤島に向かって。
 独りそのキャリアーに乗っているのは、ネムリアス=レスティングス(la1966)だ。
 宿敵がネムリアスの携帯端末に送って来た座標――、それが今向かっている場所である。
「もうすぐだな……」
 ネムリアスは我知らずつぶやいた。
 もうすぐ目的地に着くというだけの意味か、それとももうすぐ宿敵との決着がつくという予感か。自分でもはっきりと分かっていない。

 それでも、きっと、もうすぐ終わる。


 座標に接近すると、ネムリアスの仮面の機能で補った目にも海のただ中にポツンと浮かぶ小さな島が見えてくる。
 それと同時に、キャリアーは強力なエネルギーを島から検知した。
「!!」
 ネムリアスは目を見張った。
 島は全体が要塞のように改造されており、その防衛機構が起動したらしい。
 木々の間から島の自然とは相容れない砲台がいくつもせり上がって、大口径の砲身達がこちらを向き始める。
「マズイ!」
 ネムリアスはすぐにブリッジから走り出た。
 砲撃が一斉にキャリアーを襲い、艦に容赦なくダメージを与える。爆発音が数か所から聞こえ、衝撃で大きく揺れた。警報が艦内に鳴り響く。
 集中攻撃され、キャリアーはなす術もなく海へと墜落して行った。
 しかしネムリアスは間一髪キャリアーから脱出、生身のまま空中へ飛び出していた。
「生憎だったな……!」
 両腕の義手の試作ブースターを作動させ、体勢を立て直す。
 向こうもそれに気付いたのか、今度はネムリアスに向かって砲撃を開始した。
「ここで撃ち落とされるわけにはいかない!」
 ブースターを上手く操り飛行しながら攻撃をかいくぐり、ネムリアスは島へと突入した。

 着陸したネムリアスはエネルギーを感知した島の中央を目指して進む。
 やはりと言うべきか、島にはあちこちに雑魚の敵共が潜んでいて、ネムリアスの行く手を阻んだ。
「すんなりとは行かせてくれないか」
 ネムリアスは両手に銃を構え、手当たり次第に撃ちまくって奴らを蹴散らし、道を切り開いた。
 しばらくすると、敵の出現が途切れる。
「……もう品切れか?」
 それでも周囲を警戒しつつ移動して行く途中、死骸らしきものが落ちているのを見つけた。自分が倒した敵ではない。
「これは……」
 思わず足を止めてよく見るネムリアス。
 この死骸には見覚えがある。以前に戦った、敵だった奴だ。
 先に視線を移すと、そちらにも死骸がある。
「……」
 慎重に歩を進める。
 ネムリアスを導くように点々と死骸が――こちらの世界でも戦った、以前の強敵達の残骸が、亡骸となって転がっていた。
 そして、骸を辿って開けた場所に出ると、そこには――

 再び製造された彼らを破壊した『奴』が、その残骸に腰掛けてネムリアスを待っていたのだった。

 全身紫の、分厚い鎧に身を包んだような姿のロボット。その両肩にはミサイルと大砲が装備されている。
 元の世界で何度も死闘を演じ、こちらの世界でも立ちふさがった因縁。世界が変わっても切れることのなかった因縁。
 もう何度目の対峙だろう。しかし意外なほどネムリアスの胸中は冷静で、落ち着いていた。必ず倒してやるという強い思いはあれど、暴走しそうなほどの憤怒に駆られたりはしていない。

 今度こそ確実に殺す。

 向こうも同じに違いない。だからこそこうやってネムリアスをここへ呼び寄せた。
 束の間、ネムリアスと紫のロボットは見合い。
「執念が足り過ぎじゃないか――?」
 ネムリアスが仮面の奥から悪態を吐く。
 すると奴の方も片手を掌を上に向けて軽く伸ばし、四本の指を揃えて付け根から曲げ『かかってこい』というジェスチャーをして挑発する。
 奴に表情があったなら、ニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべていただろう。

 次の瞬間、ネムリアスの全身から蒼い焔が噴き出し、お互いの武器の銃口から火花が散った。

 付かず離れずの距離を取りながら撃ち合う。
「くッ!」
 ネムリアスは自分を追って来るミサイルを木々を利用して誤爆させ、自分は木々の間から奴を狙い撃つ。だが奴も装甲が厚くダメージが通りにくい。
(奴の武装は大砲と追尾ミサイル。距離を取られたら不利。ならば)
 奴が連射してくる大砲をかわしながらネムリアスは考える。
 今度は追尾ミサイルが撃たれた。
「調子に乗ってんじゃねぇ!」
 片手の銃でミサイルを撃ち落としざま駆け出し、一気に奴との距離を詰めた。
 接近戦へと持ち込むのだ。
 ネムリアスは止めようとする奴の腕を蹴り払い、二丁の銃を至近距離で撃つ。
「これでどうだ!」
 銃弾は見事奴の両肩の重火器を破壊した。
 一瞬奴は動きを止めたものの、怯まず拳を突き出してくる。
「上等じゃねえか!」
 金属の塊の拳が仮面の頬をかすめ、ネムリアスはお返しとばかりに踏み込み銃床で奴の顎を突き上げ、流れるような動きで肘を胸元に食らわせる。
 普通なら相手がよろめくような攻撃だが奴の装甲は硬く、奴はすぐに次の行動に移り、そのひざ蹴りがネムリアスの腹に決まった。
「くっ、そ……!!」
 紫のロボットは身を折ったネムリアスの頭を目掛けて、組んだ腕を振り下ろす。
 が、ネムリアスはブースターを使い機動力を上げそれを避けた。

 殴り合いが何度か続くも、ブースターを利用して動き回りながら攻撃するネムリアスがだんだん奴を追い込んでいた。
 地道に攻撃を続け奴の装甲が緩んで来ているのを、ネムリアスは目の端で捉えていたのだ。
 奴が腕を大振りして殴りかかって来た。ネムリアスの目がギラリと光る。
 力任せのパンチを半身でかわし、素早く奴の懐に入り込んだ。
「食らえ!」
 奴のみぞおち部分、装甲の隙間に固めた手刀を深く突き入れ、動力源を貫く。
 完璧な手ごたえがあった。

 ――が。

 奴の腕がネムリアスの首に伸び、掴まれてしまった。
「何ッ!?」
 引き抜こうとした手刀の腕も掴まれる。
「くッ!」
 力を込めてもびくともせず、逃げられない。
 ネムリアスが奴の顔を見上げると。
 表情など何もないロボットの顔なのに、なぜか勝ち誇ったような笑みに見えた。
 そこでネムリアスは奴の思惑を悟る。
「貴様ッ! まさか!」
 もう遅い、と奴の声が聞こえた気がした。

 今度は道連れだと言わんばかりに、ネムリアスを捕らえたまま紫のロボットは自爆した!
 ネムリアスの視界が白い閃光に包まれた――。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
今回もご注文ありがとうございます!

いよいよクライマックスという感じの戦闘シーンですね!
戦いの中にもネムリアスさんの覚悟みたいなものが伝わったらいいなあと思いつつ書かせていただきました。
ご満足いただけましたら嬉しく思います。

どこかご希望とは違う箇所や「ちょっとイメージと違う」という描写などがありましたら、些細なことでも構いませんのでご遠慮なくリテイクをお申し付けください。

最後までご注文していただけたら幸いです。
シングルノベル この商品を注文する
久遠由純 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年10月19日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.