▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『ドラマ「コールド・ロータス」シーズン4 第1話「北米寝台列車襲撃事件」』
柞原 典la3876


 先日、柞原 典(la3876)を攫ったものの、ヴァージル(lz0103)たちライセンサーの介入もあって撃破された筈のエルゴマンサーの遺体は、現場から発見されなかった。
「フラグか」
 その報告を見て、ヴァージルは呟いた。
「嫌な予感するわぁ」
 と、頬杖を突きながらアンニュイな顔をしている典である。それからはたと顔を上げ、
「あ、そうや。兄さん、新婚旅行いこ」
 泊まりがけのカップル任務だろうと察したヴァージルは思わず笑い、
「離婚しただろ」
「ほんだら、また結婚して?」
「仕方ねぇな」
「いっつも俺からばっかりプロポーズしてるやん。兄さんからも一回くらいして」
「俺の所にそう言う話が来ないんだよ。じゃあ」
 ヴァージルは典の手を取った。その甲に唇を近づけ、触れねど、音だけ軽く立て、
「残りの人生、一緒に過ごしてくれるか?」


 典が言うには、こうだ。北米を横断する豪華寝台列車によるハネムーンツアーに襲撃予告がされた。しかし、諸般の事情で中止ができないため、極秘でSALFに護衛の依頼が来た、という事らしい。
 スタッフ内通者も危惧し参加客にライセンサー三組が潜入することで話がついている。内二組が男女ペア、男性ペアは典たちだけである。
「三泊四日で降車観光有りや」
「良いな」
「俺、仕事ばっかりでアメリカとか観光しとらんかったからそっちも楽しも。兄さん案内して」
「アメリカに州がいくつあると思ってんだよ。五十あるんだぞ。行ったことのねぇ州くらいあらぁ」
 指輪もあらかじめ渡され、二人は現地集合の時点で見せかけのパートナーを演じ始めていた。他のライセンサーが、やっぱりそうなんだぁ……と言っていたが、典はにこりと笑うばかり、ヴァージルに至っては意味が分かっていないようにきょとんとしていたのであった。


 このご時世、同性のカップル自体は珍しくなくても、やはり桁違いの美貌の典と、顔面偏差値そのものは高いヴァージルの組み合わせは目を惹いた。
「ケチャップついてる」
「取って」
「もう」
 笑いながらナプキンで典の口元を拭うヴァージル。典は観光が組み込まれている予定表を眺めながら。
「前も言うたけど、アメリカ観光って初めてなんよなぁ」
 仕事ばっかりだ。それを聞いたヴァージル、両腕を軽く広げ、
「ようこそアメリカへ」
 地元を誇る住民の顔をして見せた。

 仕事の時はそれこそ「どこに何があるか」「利用できるものはあるか」と言う観点で物を見るので、個人としてアメリカの町並みや建物を見るとなかなか面白く感じる。
「兄さんあれ何?」
「俺もわからん」
「なんでや」
 一度経験があるせいか「配偶者」としての振る舞いが若干板に付いている二人である。典が少しばかり信頼を自覚したのも影響しているのだろうか。

 三泊四日の最終日、それは訪れた。鋭い羽音と雄叫び。車両の窓は全て閉められ、ライセンサーたちは武器を持って車両を飛び出した。


 アーマーバードとコウモリ、そしてハゲワシに似たナイトメアたちが襲撃した。ライセンサーたちはそれぞれ、連結部分などに立って応戦する。屋根に乗らないのは理由があった。
 あと少しでトンネルをくぐるからだ。事故に繋がりかねない。
「いや、それじゃあ被害が拡大する。俺が出る。お前たちは引き続き下から頼む」
 ヴァージルはそう言って車両の屋根に上がった。狙いやすい位置に出た人類に、鳥たちは集まってくる。向かってくるのをライフルで撃ち抜いた。高速装填でリロードして、再び狙いを付ける。その時、IMDが強化されるのを感じた。自分はそんなスキルを持って来ていない。
「兄さん固いから散華は要らんな。因果付けたるから気張りや」
「典!?」
 典が屈託なく笑いながら、傍らで束ね連なる因果を施していることに気付いて、ヴァージルは目を剥いた。
「何しに来たんだ危ないぞ」
「病める時も健やかなる時もやろ。因果も一蓮托生や。まあ、兄さんならトンネルぶつかっても大丈夫やろ」
 典の方は銀色のレトロな拳銃を持っている。新婚旅行設定で、少しだけ凝ったスーツにそれはよく似合っている。
「流石に死ぬ」
 ヴァージルは苦笑しながらも、ツーマンセルで典にもスナイピングを付与した。
「お前も撃てよ」
「報酬の他にタダ飯分も仕事したるか」
 典は肩を竦める。

 他のライセンサーの助力もあって、鳥は急速に数を減らした。因果が効いている内に対空射撃を連発し、それが尽きてからはスナイピングの恩恵で確実にダメージを与えていく。ダメージは典がツインヒールで回復した。
「兄さんあのでかいハゲワシ、せーので」
「良いぞ。せーの!」
 同時に撃ち放たれた弾丸のどちらを避けるかで相手は逡巡したらしい。それが仇になって撃ち落とされる。
 不意に、敵がスピードを落とした。おや、と思っていると、下のライセンサーから慌てた様子で通信が入った。
 トンネルに差しかかる。急いで戻れ、と。
 典は振り返った。なるほど、確かにあと十数秒でトンネルだ。このままだと良くて落下、悪くて重体、最悪なら死ぬ。
 そう思ったその時、突然強い力で倒された。まだトンネルではないのに、と思っていると、視界にはヴァージルの金髪が映った。典に覆い被さっている。その後トンネルに入った。ごうごうと耳を聾するような音が轟く。その中でかすかに、追ってくる鳥たちの叫び声が混ざっているのがわかる。めかしているのは典だけではなくヴァージルも同じで、香水の匂いが鼻を掠めた。
 トンネルを抜けると、ヴァージルが起き上がって典に手を差し出した。それを掴んで起き上がる。
「怪我は?」
「大丈夫」
 残り少ない追っ手に、二人は銃撃を再開した。


 撃退は無事に終了した。二人が列車に戻ってから、緊張を強いられた戦闘の反動でぐったりしている内に、列車は終点に到着する。そこで護衛終了と相成って、一行は列車を降りた。
「酒飲まれへんかったのが残念やわ」
 観光は楽しんだ典の心残りはそれだけだった。流石に戦闘が発生する可能性のある任務で飲酒はできない。
「報告済んだら帰りに飲んでいくか?」
「ええね」
 典は頷いてから、思い出した様にヴァージルを睨み、
「こないだみたいに距離感間違わんといてな。また俺風邪ひいてまうから」
「わ、わかってるよ……」
 肩を抱こうとしていたヴァージルは慌てて腕を下ろした。後ろで手を組んで。胸を張って空を向く。その様子が面白くて、典はくすくすと笑いながら頭を撫でた。
「お利口さん」
 腕を引き、
「ほんだら帰ろっか?」

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
列車戦闘の醍醐味と言えば間一髪でのトンネル回避だよなと思って書かせていただいております。
遂にシーズン4……この先の展開は一体(ごくり)。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
シングルノベル この商品を注文する
三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年10月20日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.