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『悪戯リクエスト』
桃李la3954


 SALF主催のハロウィンパーティが開催されることになった。桃李(la3954)はその要項を見て参加を決める。
 参加条件は「仮装すること」。ハロウィンの定番を考えれば至極当然で、わかりやすいものだった。桃李はすぐに仮装の準備を始める。選んだのはバンパイア。いつもの洋装にマントと牙をつければできあがりだ。意味はないかもしれないが、顔の上半分を覆う仮面も用意しておくとしよう。それらの仮装道具を揃えて、桃李は当日を待った。


 当日、会場には様々な仮装のライセンサーや一般人が集まっていた。凝った仮装から、それこそシーツ一枚被って「お化け」と主張するもの。放浪者の中には、人類の間で「伝承」とされるような種族もいる。そんな放浪者たちは、地球の人類たちに、その耳が、牙が、翼が、角が本物であることを驚かれてやや閉口しているようでもあった。
 桃李も尋ねられたが、
「いや、なに。俺はただの地球の一般人さ」
 特殊な瞳の放浪者の父を持ち、自身も金を散りばめたような瑠璃色の瞳をしている桃李だが、彼のアイデンティティはもっぱら「一般人」である。なおかつ、この仮装のるつぼでは、牙を取り外して見せるだけで個性は失われるようでもあった

 ハロウィンの晩はすっかり空気が冷えているが、パーティの和気藹々とした雰囲気がそれを温めるようだった。蝋燭を演出するような、オレンジ色の光もその暖かい印象に一役買っている。

 背が高く、不思議な雰囲気を持つ桃李は衆目を引いたので、色んな参加者からトリック・オア・トリートを仕掛けられた。彼はいずれも、手持ちの菓子を渡してそれをあしらう。大人はすぐに受け取ったが、子供の中には、悪戯したかった、とむくれる者もある。
「ごめんごめん」
 長身のバンパイアはくすくすと笑いながら、小さなおばけが持っている籐の籠に飴玉を入れてやるのだった。


「トリック・オア・トリート?」
 桃李もまた、参加者たちに菓子をねだった。顔の上半分を隠した、長身痩躯の彼は、ハロウィンの夜という不思議を呼ぶ空気の中では幻想的に見えたことだろう。誰もが一瞬の夢を疑ったが、彼が首を傾げて、
「どうしたの?」
 と尋ねると、はっとしたように自分の籠から菓子を取り出した。菓子を持っておらず──あるいは、持っていたとしてそれを伏せ──悪戯を受けて立つ、という者もあった。
「そうかい、じゃあ、何して欲しい?」
 桃李がそう言って、うっすらと微笑むと、相手は一様にぽかんとしてその顔をまじまじと見つめた。
「何をして欲しいのかな? ああ、ここは少し賑やかだね、向こうで……」
 と、彼が人混みから離れたところを指すと、相手は我に返ってリクエストを告げるのであった。このリクエストを問うこと自体が既に悪戯でもある。

 桃李の籠はもらった菓子で満ちつつあった。持参した菓子は、呼び止められる度に渡しているので、籠が溢れることはない。

「あら、桃李さんじゃないですか?」
 グスターヴァス(lz0124)の声を聞いて、桃李が振り返ると……。
「おや……グスターヴァスくん、いつの間にエジプトで死んだんだい?」
 包帯でぐるぐる巻きになった男がそこに立っていた。目鼻口だけを空けて巻かれており、その隙間から光のない目が覗いている。「墓場から蘇りました」と言われても信じる人がいそうだ。
 その隣には大きなかぼちゃのかぶりものをした弓道着の人物が立っている。地蔵坂 千紘(lz0095)だろうか。
「千紘くん?」
「そうだよ。お菓子くれなきゃ悪戯するぞ!」
 そう言ってずいと籠を差し出してくる。桃李は自分の籠を後ろ手に隠し、
「お菓子切らしちゃったから、悪戯をどうぞ?」
「じゃあ遠慮無く」
 千紘はそう言うと、筆ペンを出して本当に遠慮無く桃李のほっぺたにばってんを書いた。
「羽根つきのペナルティじゃないか」
「これくらいしか無害な悪戯が思いつかなくて」
 千紘は舌を出した。服に付いたり肌でも落ちにくかったりするので割と有害ではある。桃李は微笑みながらグスターヴァスを見て、
「グスターヴァスくんも、何か悪戯どうぞ」
「桃李さんに何の悪戯したら良いんでしょうかね」
「何でもどうぞ」
「じゃあ……」
 グスターヴァスは、自分の腕に巻いている薄汚れた包帯をほどいた。
「仮装用に加工しただけで、本当に汚れている訳ではないですからね」
 それを桃李の首にゆるく巻く。
「手負いの吸血鬼にしちゃった」
「ほっぺたに十字架付けて」
「なるほどね」
 桃李は自分の姿を想像してくすくすと笑う。
「鏡で自分の姿を見てみたいけど、吸血鬼は鏡に映らないんだったかな?」
「そうですよ。なので、どんなお姿か知らずに夜をどうぞ」
「はいはい」
 桃李は笑う。見られるのは元より慣れている。長身痩躯で、顔立ちも整っており瞳も風変わり、洋装に派手な女性ものの着物と言う出でだちでは、見るなと言う方が無理でもあった。
「じゃあ、俺からも……トリック・オア・トリート?」
「どうぞ」
 桃李が小首を傾げてお決まりの文句を告げると、千紘は個包装のバウムクーヘンを取り出した。カボチャのイラストがあしらわれた、ハロウィン限定パッケージらしい。
「ありがとう。グスターヴァスくんは?」
 包帯の向こうで、まつげに縁取られた青い目がきょろりと動いた(いつものことだが、どう動いたところでその瞳に光は入らない)。
「……それこそ、お菓子使い切っちゃいました」
「あーあ」
 千紘はにやにやして助け船を出すつもりはないようだ。
「じゃあ、桃李、ぐっさんをよろしく。僕はまたお菓子集めて強くなって来るね」
 そう言う催しではない。
「行ってらっしゃい」
 桃李はにっこりして手を振った。
「あ、あの、千紘さん……」
 頭でっかちのかぼちゃお化けはすたこらと去って行く。
「さて、グスターヴァスくん」
 バンパイアは相手の肩をぽんと叩いた。
「どんな悪戯をして欲しいか、言って御覧?」
「桃李さんのしたいことを……」
「俺はグスターヴァスくんがして欲しいことをしてあげたいかなぁ」
 少しずつ距離を取ろうとするグスターヴァスと、それを追う桃李。徐々に二人は壁際へ。

 ミイラ男を追い詰めている吸血鬼、という図になっており、周囲は、きっと血がないから怒られてるんだろうな……というのを想像してくすくす笑って様子を見守っていた。

 結局、グスターヴァスが望んだ悪戯とは何だったのか?

 それは桃李だけが知っていることである。

 長い夜の一角。そこだけは、棺に納められたかのように誰も知らない。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
桃李さん、大きな布を羽織っている、という点では、会場の中でもすぐに見つけられそうな気がしています。オール洋装というのも、それはまた違った趣がありそうな。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年10月20日

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