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『白いうさぎのぬいぐるみ』
マーガレットla2896


 マーガレット(la2896)はゲームセンターに来ていた。店の前の立て看板に、目玉商品として大きなうさぎのぬいぐるみが宣伝されており、もらえるなら欲しいな、と思ったのがその理由である。比較的のんびり遊べるようなゲームが多いのと、混み合う時間帯から外れていたため、店内はそこまで騒がしくもなかった。プリントシールの機械には、少女が二人、連れ立って入って行った。お金を入れてね! という大音量の合成音声が響き渡る。

 お目当てのぬいぐるみは、クレーンゲームと呼ばれるもので、開閉するアームをどうにかして動かし、景品を掴んで取り出し口に落とす、というものらしい。
 理屈はわかったが、問題は機械の動かし方だ。ボタンがいくつかあるので、それで操作するのだろうけど……。
「あれ? マーガレットじゃない? 意外だなぁ、こんなところで会うなんて」
 聞いたことのある声が彼女の名前を呼んだ。振り返ると、地蔵坂 千紘(lz0095)が私服で立っている。Tシャツにジャケット、チノパンという出でだちだ。一瞬誰だかわからなかった。SALFで見かけるときは、あのセーラー襟の弓道着を着ているのでわかりやすいのだが。
「千紘さん……? ですか?」
「そうだよ」
 私服で認識されないことは慣れているのだろう。千紘は吹き出しながら頷いた。
「クレーンゲーム得意なの?」
 首を傾げて尋ねる。マーガレットはふるふると首を横に振り、
「いえ、違うんです。初めてで……えっと、あの子が欲しいなって」
 大きなうさぎのぬいぐるみを指す。
「ほわー、可愛い」
「そうなんです。でも、この機械の動かし方がわからなくて……」
「あ、そうなの? 操作は簡単だよ。見てて」
 千紘はそう言うと、おもむろにポケットから硬貨を取り出して投入した。ボタンや、アームについたライトが光り、音楽が鳴り出す。
「えーっとね、このボタンを押すと、押した方向にあのアームが動くから。お目当ての景品の上まで持っていって決定すれば下に降りて……」
 そう説明しながら、ボタンをぽちぽち操作する。押したボタンに連動して、アームがのろのろと動く。やがて、ぴたりと止まると、緩慢な動きで下に降り、先端のクレーンが左右に開いた。しかし、うさぎの耳を挟むも、重いのか呆気なくクレーンから落ちてしまった。
「まあ、こんな感じ。操作は簡単だけど、取る方はそうもいかなくてね。落ちるのは半分くらい仕様だから。何回かチャレンジしたらいけるかもくらい」
「そうなんですね」
 マーガレットは興味深げにアームを見ていた。
「一生懸命動いてて可愛いですね」
「やってみる?」
「やってみます」


 両替機で小銭を作ったマーガレットは、細い指で硬貨をつまみ上げると、投入口に差し込んだ。固い物が落ちきる音がすると、先ほどと同じように動き出す。
「ええっと……あ、時間制限があるんですね」
 カウントダウンされる数字を見て、ボタンでどうにかこうにかぬいぐるみの上まで操作する。アームが降りて、うさぎの耳を捉え、少し持ち上がった。しかし、やはり重たいのか、うさぎはくてっと斜めになってしまう。
「すごく、座りにくそうですね……」
 申し訳なさそうにしているマーガレット。
「でも、コツはわかりました。もうちょっと頑張ってみます」
「見切りつけるのも手だからね。お金大事」
「はい」
 しかし、その後何度も繰り返して、奇跡が起こった。うつぶせに倒れた人形の胴を、アームがガッチリと掴んだのだ。
「マジかよ」
 千紘も、まさかクレーンゲームは初めてと言うマーガレットにそんなミラクルが起きるとは思わず茫然としている。彼女は少し恥ずかしそうに、
「アームの先が動く角度とかを考えたら、この位置が良いのかなと思いまして……ビギナーズラックでしょうか?」
「良いのかなと思いましたら実力でございます」
 取り出し口から転がってきたうさぎのぬいぐるみを、マーガレットは生き物を扱うようにそっと抱き上げた。


「ところで、千紘さんはゲームセンターに何を?」
 それからしばらく、数個の景品を取って、クレーンゲームを打ち止めにしたマーガレットが尋ねると、千紘は目を瞬かせて、
「僕? ゾンビゲームやりにきた」
「ゾンビゲーム……それは、ゾンビさんになるゲームですか?」
「いや、ゾンビの頭を撃ち抜くゲーム」
「怖いんですね」
「そうだね。ホラーだから。マーガレットはホラー駄目?」
「ホラーというか、スプラッタというか、血が苦手で……」
「ああ、わかるわかる」
 千紘はうんうんと頷いた。人の形をしているものから出血しているというのは、本来異常事態である。
「じゃあ、音ゲーとかやってみる? 音楽に合わせてボタン押すやつなんだけど」
「それは、ちょっと興味があるかもしれません」
 千紘が連れて行ったのは、画面の奥から手前に図形が飛んで来て、手前のラインに当たるときにタイミングでボタンを押す、というタイプのゲームであった。彼によれば、「ルールはゲームによる」そうである。
 マーガレットはゆったりとした室内楽のイメージを持っていたのだが、実際に千紘が選んだ楽曲はJ-POPやロックで、激しいドラムやベースの音にびくっと肩を竦めてしまった。イージーモードだったので、図形が飛んでくる速度はゆっくり目だった。
 ひとしきり音楽ゲームを楽しむと、次はもぐら叩きに移動した。毎度おなじみ、出てきたもぐらをハンマーで叩く。
「ちょっと可哀想ですね……」
 生き物を傷つけることに抵抗のあるマーガレット。
「もぐらだと思うから可哀想なわけであって、もぐらじゃないと思えば可哀想じゃないよ」
「でももぐらさん叩きなんですよね?」
「まあね」
 無理を言っている自覚は千紘にもあった。そもそもマーガレットは暴力沙汰が苦手らしく、試しに一回やってみたところ、もぐらとタイミングが合わずに何も出ていない穴をぴこぴこ叩いている。その隣で千紘は出てきたもぐらをぼこぼこにしているので、性格が出る結果となった。


 最後にエアホッケーを遊んだ。マーガレットはさっきクレーンゲームで取ったぬいぐるみを自分の前に置き、その手と一緒にマレットを握り込む。うさぎさんと一緒、と言うわけだ。
 相手が友人なら容赦なくパックを飛ばしてくる千紘だが、流石に初心者のマーガレットが相手となると手加減しないわけにはいかない。それでも、勝ちを譲る気はなく防戦一方だ。お互いがミスで一点ずつ取られたところで、お開きにする。
「楽しめた?」
「はい」
 マーガレットはうさぎを抱いて頷いた。
「それは良かった。じゃ、僕はここで」
「ありがとうございました」
「こちらこそ」
「またSALFで」
 マーガレットはぬいぐるみの手を持って振った。彼女は千紘を見送ると、景品の入った紙袋を持ち直して帰路についたのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
私もゲーセンはあんまり行ったことがない上にクレーンゲームとかド下手も良いところなんですが、奇跡が起こっても良いよね、と言うことで。うさちゃんとゲームしてるマーガレットさんは可愛いと思います。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年10月20日

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