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『何処かのスナップショット的な既視感』
不知火 楓la2790)&不知火 仙火la2785

 対峙するのは色鮮やかな赤双つ――まるで表裏一体の光と影、の様にも思える姿。燃え立つ不知火の如き瞳の色とその年頃は重なるが、それ以外はそうでもない。まだ年若く、麗しくもある二人の男性――いや。

 男性だと言い切れるのは、“光”の側――飾り気の無い刀を構えるでも無くその片手に提げた、華美な鳳凰を背負う鳳仙火、の方だけだろう。繊細に煌く白銀の髪に、タッセルめいた黒の房が伸びている赤い耳飾り。背負う鳳凰の――鮮やかな赤地のコートの下は黒色。鳳仙火の紋があしらわれた黒の着物に、同色のタートルネックや白のワイシャツと言った洋装を中に合わせて軽衫袴風のボトムスを穿いている。足元を固めるのは編み上げのブーツで――ただ和洋折衷と言うより、総じて何処か傾いた風体。
 繊細そうな外見の割に、内面はそうでもないのだろう。ただ佇んでいるだけで、その骨の太さが仄見える。更には鳳仙火の様に今にも弾けそうな愛嬌のあるやんちゃさも仄見える――とも言いたい所だが、それはあくまで“普段”の話。なんか、今は……どうだろう。……見る人に任せておく。

 どうにも男性だと言い切れないのは“影”の側――まるで深山幽谷に彩づく楓の様な。中性的な顔立ちに、望月を臨む紅葉を纏う方。まず目を惹くのは鮮やかな赤地に、見事な丸い月と繊細な楓模様があしらわれた狩衣。衿を留めないややラフな着こなしの下には、襟元のボタンを幾つか外したこれまたラフな着こなしの白いワイシャツ。その奥、胸元に少しだけ覗く黒の色。素肌も垣間見えている――その割に。仄暗い青緑の襟巻を確りと巻いてもいて、首筋は丸々見えない。隠されたその部位は、ちょうど男女差が顕著になる部位でもある。背に掛からない程度の柔らかそうな黒髪が、毛先に掛けて緩く波打ち、その襟巻の上に掛かりもする。
 狩衣の下、脚を包むのは細身の黒いボトムスで、その下にもほっそりとした足首から踵までだけを保護するよう黒と赤が覆い重ねられているのが見える――逆を言うなら足の甲だけ素肌が覗いている。履いているのはごくシンプルな沓――と言うよりぺたんこなパンプスだろうか。目聡い者ならこの辺りを見て女性だと判じるかもしれない。そんな気はする。
 総じて柔和さと凛々しさが合わせ見える和洋折衷の佇まいで――纏うのが狩衣である事もありぱっと見では男性にしか見えない。が、そこはかと無く“まろみ”も仄見える為、男性と言い切るにはどうしても違和感がある。
 事実、“影”の側は――容姿やその立ち居振る舞いからそう見られない事も多いが、女性である。柄を握り持つその薙刀の扱いを見れば、ある程度見極めも付くかもしれない。
 狩衣同様、繊細な楓模様が赤い柄にあしらわれた薙刀は美麗である。刀身は月光を思わせる滑らかな白。石突には紙垂の様な飾りが揺れる――何処か祓具を思わせる“それ”は、彼女が元居た世界では陰陽師であったからこそか。武装は振るうが、本来は父同様に陰陽の術を以って邪を祓うのが旨――そうとでも主張しているかの様な。

 とは言え彼ら二人の場合、その辺りは然程重要事では無く。互いが今“共に在り、生きている”事こそが重要、親の代からの宿縁で――いや、決してそれだけが理由でも無いのだが、ともあれこの世界に辿り着いた結果の今。

 本日予定していたライセンサーとしての任務が急遽キャンセルとなり、早く帰れる事になったその帰途で。
 目前には――何故かそうするのが当然であるかの如くこちらに向かって、EXISでもある愛用の薙刀、彼女自身の母の名を持つ「凛月」を八相に構えている幼馴染みが居る。
 で、こちらもこちらで、抜けと言われて抜いたはいいが。





 ……何だろう。何処かであった様な状況になっているのは気のせいだろうか。





 そこはかと無く頭痛と目眩と気後れを覚える気がしつつ、不知火仙火(la2785)はそれでも抜いた刀の柄を確りと握ったままでいる。黒一色で巻かれた柄に、同じ色の鍔。そこから伸びる冷ややかに冴えた真白の薄刃。EXISでもある守護刀「寥」――常に何かを救う為の刃で在り続ける、その誓いの象徴たる愛刀でもあるのだが。
 そもそもそれを何故今この場面で抜いているのか。





 ……と言うか、何故こうなった。







 元を質せば――いや、今回に限っては質すべき元があまりはっきり思い至らないのは気のせいでは無いと思う。本日は「守護刀」が二人、不知火仙火と不知火楓(la2790)がライセンサーとしての任務に出向きはしたのだが、予定通りのその任務はナイトメアが出没したことで急遽キャンセルになり、仕方ないのでそのナイトメアを倒すだけ倒して帰って来、今に至ると言う事の成り行き。
 ナイトメアが出没した事で急遽キャンセル、と言う時点でSALFのライセンサーとしては多少本末転倒気味な気もするが、元々予定されていた本日の任務内容は、有態に言えば小隊「守護刀」への雑誌の取材である。タイミングの問題で、仙火と楓だけで出向く事になっていた。
 の、だが――待ち合わせたその現場で、偶然ナイトメアが出没して騒ぎが起きると言う一幕があった。
 戦闘任務では無くとも取材ではあった為、仙火も楓もいつも通りの任務着に最低限の武装は完備。そして出没したナイトメアも難無く倒しはしたのだが――自然の成り行きとして場の後始末の方で大騒ぎになり、取材どころでは無くなったので取り敢えず今日は帰って後日に、とそういう事の運びになったのである。
 そして帰途に就いている最中。そういや前にもこんな事あった気がするな、と仙火がぼやいたのが――切っ掛けと言えば切っ掛けだったかもしれない。
 前にあったこんな事。つまり任務に出たはいいが急遽キャンセルになってすぐ帰る羽目になった、この状況。それは元々の依頼内容もキャンセルに至る内訳についても全く異なるが――“予定していた任務が急に無くなって帰宅せざるを得なくなる”と言う状況自体は全く同じである。出向いたのが二人、と言うのも同じ。……但し、その時仙火と居たのは楓では無かった訳なのだが。
 で。そういえばそんな話をしてたっけね。と打てば響く様に楓。彼女の方でもその時の話は聞いていたらしく、仙火が何に思い当たったのかもすぐ悟った、らしい。苺の淡雪かん、だっけと悪戯っぽく笑い、仙火の方でも、あー、あれな、と少々ばつが悪そうに苦笑する。
 そのまま、話は軽く流されそうに思えた――が。
 仙火はふと、隣を歩いていた楓の足が止まっているのに少し行き過ぎてから気付く。振り返る――思案する様に顎に人差し指の関節を当てて小首を傾げている楓の姿。どうかしたのか、と声を掛ける。いや……と軽く否定しつつも楓は再び歩き出そうとしない。
 それどころか。
 何故かEXISでもある愛用の薙刀「凛月」の鞘を払っている。

「どうした、楓?」
「折角の機会だ。僕達も、やってはみないかい?」
「……は?」
「抜いてよ」

 そう促しつつ、楓は長柄をくるりと八相に構え。今かよ! って言うか何で!? と言い募る仙火の声には応えない。代わりに本気であると態度で示す。その身に帯びるは臨戦の剣気。そう見えている訳でも無いのにまるで鳳凰の、いや、鳳凰を従えているかの様な“それ”――受けた仙火は思わず息を飲む。促されるまま殆ど自動的に鯉口を切り、こちらも守護刀「寥」の刀身を抜き放つ。
 サムライとしてこんな物を見せ付けられたら黙っていられない。……だが相手は楓で、鍛錬以外で手合わせる理由が思い付かない。こんな場所で、こんな形で、衝動のままに? 有り得ない――でも。……どうしても理性の方で違和感を感じてしまい、刀を抜きはしたが構える所にまで気持ちが持って行けない。

 ……とまぁ、仙火の側がそんな半端なままで居る所で、冒頭の流れになる訳だ。



 彼女相手ではああなった。じゃあ、僕相手では仙火はどうするだろう。ふと、そう思ってしまったのがこの行動の理由。宿縁の彼女と僕とでは立場が違うし、いきなり手合わせを吹っ掛ける様な事は僕はまずしない。ふふ。何だかびっくりしているのかな。でも、たまにはいいじゃないか。
 こんな風に甘えてみたって。

 だん、と力強く足を踏み込む。体軸を意識して柄を旋回、八相の構えから急襲する一撃。仙火が構えるのは待たない。遠心力で付いた勢いのままに、珍しく結構素直に撃ち込んでみる。但しその速さについては、あまり素直に行く気は無い。イマジナリードライブも併用する。スキルと言うより、単純な威力増幅も。間近に迫ればサムライなんだしその剣圧で気付くかな。反応するかな。月の光が閃けば。すぐ間近で、目を見開いて、真っ赤な瞳が真ん丸で、僕の刃はその上に――……

「なんてね」
「っておま」

 皮一枚の手前、触れる直前ぎりぎりで刃をぴたり。止めた代わりに小さくぽつり。とっておきの冗談を言うみたいに囁きつつ、薙刀をゆるゆると引っ込める。くるりと旋回させて柄を握り直し、構えも剣気も解いた。仙火を見る。薙刀が引っ込められたのを認めて、盛大に安堵の息を吐いていた。何だか、滅茶苦茶焦ってたみたいで、咄嗟に動けなくもなっていたっぽい。で、判り易く胸を撫で下ろしていて――その貌を見ていたら、思わず。
 っははははは! と堪え切れなくなって、爆発するみたいに大笑いをしてしまった。その貌を見て、それこそ鳩が豆鉄砲を食らった様な貌になっている仙火。

「お、おい!?」
「……ははは。何て貌してるの。僕がこんな事したら変?」

 似合わないのはわかっているよ。
 正面に立って、本気で、なんて。
 僕と仙火じゃ、刃に問うのは、何となくそぐわない。……それは、絶対にしないと言う訳ではないけれど。
 でも少なくとも、今みたいな遣り方は――まず出来ない。
 仙火がちゃんと受けてくれない。
 幾ら羨ましく思ったとしても、僕達は、“そう”じゃない。
 ……寧ろ仙火は、僕の刃をその身に受けるのは贖罪とでも頭に過ぎった可能性は否定しない。
 僕に対しての負い目。もう乗り越えているとは自覚していても、そう努めようとしていても。前を向くと決めていたとしても。ずっと持っていた気持ちがまだ何処かに残っているのは、仕方の無い事だろうから。
 だから、構える事すら躊躇った。
 わかるよ。
 僕もだし。
 ……だから頑張って、“ここ”にあやかるならひょっとするとやれるかな、って。ちょっと思い切ってみたんだけど、駄目かぁ。
 一応、抜いてはくれたんだけどな。……ちょっと位は、その気にもなってくれたって事だよね。うん。頑張ってみた甲斐、あったかな。

「……楓?」
「ん?」
「何かあったのか?」

 ううん。

「何も無いよ?」
「……本当だな?」
「んー、強いて言うなら、誰かさんがちょっと羨ましくなっただけ、かな?」

 ……誰の事だか、わかるよね?

「? あいつがか? 何でまた」

 うん。
 ……やっぱり仙火はわかってくれる。

「今そう思ったのは仙火のせいだよ?」
「いや、それは流石に言い掛かりじゃねぇか!? おい!?」
「空いちゃった時間分手持ち無沙汰だね。どうしよう?」
「って聞いてねぇし。……まさか今のはそれでかよ」
「どうだろうね? 一応、時間の潰し方としてさっきの話が参考になったのは確かだよ?」
「だったら参考にする所はもう少し選んでくれよ……」
「え、でも苺の淡雪かんは食べそびれたんだよね。あと痴話喧嘩って子供達に囃されたって……」
「っ、どっちも参考にされたくねぇ……!」
「ははは。じゃあ、まだ昼間だけど、帰ったら、ちょっと飲ろうか?」

 これ。と指で杯を作って、気持ち程度だけそこに顔を寄せる様にしつつ、自分に向かって手首を返す。
 つまり、“そういう意味”のジェスチャー。

「お、いいなそれ」
「見付からない様にこっそり、ね」
 誰かに見付かったら、何か言われちゃいそうだから。
「いいじゃねぇか。誰憚る事無く空いた時間だ」
「じゃあ、決まりだね」
「楓」
「ん?」
「次にやるなら、無様は見せねえ」
「――」
「それでいいか」
「……うん」

 今度は僕の方が、ちょっとびっくりした。

 ああ、多分、君の方も。
 僕が何を考えてあんな事をしたのか、心の何処かでわかってくれていたのかもしれないね。

 本当の所はわからないけど。
 でも。
 君がそう言ってくれるだけで、僕は、とっても、嬉しかったよ。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 不知火楓様には初めまして、仙火様には二度目まして。
 今回はシングルノベルの発注有難う御座いました。おまかせノベル、お気に召して頂いていた様で何よりです……が。
 楓様には初めましてから、そして仙火様には前回にも増して大変お待たせしてしまい、申し訳無く。

 お任せとされた内容ですが、気が付いたらこんな感じになっておりました。外見重視めで、タイトル通りの様な感じになっております。そして仙火様もですが楓様のキャラ要素に致命的な読み違え等無ければ良いのですが……如何だったでしょうか。

 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。
 では、もう一件の同時お預かりのノベルの方で。

 深海残月 拝
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2020年10月23日

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