▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『Remember 16 years』
三糸 仁久la0261


 昼下がり。
 フィッシャー社が所有するアサルトコア整備工場へ、金茶の髪を白いリボンで一房むすんだ女子高生が姿を見せた。
「こんにちは! お疲れ様です、お芋をどうぞ」
 礼儀正しくお辞儀をする彼女は、ライセンサーの三糸 仁久(la0261)。
 差し入れとして持ってきたのは箱詰めのジャガイモ。整備士の一人が笑顔で受け取り、彼女を作業場の奥へ通した。


 仁久の愛機は、父が生前乗っていた初期ロットのFF-01。戦死した父と、仁久を繋ぐ絆のアサルトコアだ。
 性能に不満はなかったが、ある日、フィッシャー社が最新アサルトコアをロールアウトしたというニュースが流れてきた。
 ――『FF-01』の正統進化アサルトコア、誕生
 FF-01の進化。その言葉が仁久の心を微かに揺らす。
 翌日、営業時間開始を待ってフィッシャー社へ問い合わせた。
「FF-01をベースとして、機構と装甲を換装してコンパチブル仕様とすることは可能でしょうか」
 無茶な要望だったかもしれない。
 しかし数日置いて、フィッシャー社の技師がいる整備工場であれば、と返答が届いた。
 そして今日に至る。




「いよいよ試乗できるんですね……」
 仁久は、面影を残しながらも文字通り一回り成長した姿を見上げる。
 問題がなければ、仕上げの塗装に入る予定だ。
「仁久殿! よかった、間に合った!!」
 そこへ、息せき切って銀髪の少女が駆け込んできた。友人であるムーン・フィッシャー(lz0066)だ。
 彼女もまた、学校帰りの制服姿。
「アサルトコアは今日が試乗日だと聞いていたから、間に合わせたかったんだ。物は、試験用のグラウンドへ運んである」
「ありがとう、ムーンさん……!」
「社の倉庫の奥で見つけた時は、目を疑った。仁久殿の話を聞いていたから、もしやと思ったんだ」

 フィッシャー社の社長令嬢であるムーンだが、各種スペックは残念め。
 いつかは父の片腕に、そして社を継いで更なる発展を――という夢を現実にするべく、何がしかヒントを求めて歩き回っている時だった。
 『試作型ビームスナイパーライフル』
 それは巨大で、非常に古びており、更には仁久の父の名が刻んであった。
 ムーンが仁久へ確認をとるとレストアの打診を受け、その場で技師へ依頼した。
『お父さんの機体なんですよね。僕にとっても、そうなんです』
 ムーンからのSOSに応じて駆けつけてくれた、お台場での戦いは、仁久にとって初めての本格的な戦場だったという。
 とてもそうとは思えない活躍と、FF-01誕生にまつわる互いの父の背景はムーンにとって非常に印象深くて。
「機体は演習用に使い続けられていたし、試作兵装も日の目を見る時を待っていたのであろうな」
 一点物の武器だが、試作運用時のデータは後の兵装に役立てられたことだろう。
「連絡をもらって、僕も驚きました」
「フィッシャー社は歴史を重んじ進化を止めぬことが信条だからな!! 試作品も、貴重な記録だ」
 嘘か真かわからない、それらしいことを言ってムーンは深く頷いて見せた。
「そして、こちらがバージョンアップした機体か。FF-03の、Gクェーサーだったな」
 FF-03は機動攻撃型と支援防御型の2種が設計されており、前者が『Gクェーサー』。エルゴマンサー戦を想定した。とまで言われる決闘用攻撃機。
「かっこよくなちゃって、なんだか別物のようにも見えます」
「だが、魂<コア>は変わっておらぬのだろう? 今も、仁久殿を見守ってくれている。我にはわかる」
「そうだと嬉しいな……」
 仁久は、白い肌をほんのり赤く染めて、はにかんだ。

 お父さん。
 成長した姿は、どう見えますか?

 少女たちはしばし、言葉なく機体を見上げた。



 機体がグラウンドへ移動される。
「仁久殿。試作ライフルは、使用可能レベルまで修復したのだが……」
 その後ろを歩きながら、ムーンはデータ表を仁久へ手渡した。
 機体サイズに釣り合わない大きさは取り回しが悪く、機体の機動力にも影響を与える。
 16年前という技術不足による膨大なIMDコスト。性能の低さ。
 幾分かは改善できたが、もしかしたら機体のバージョンアップで差し引きゼロになるか、それでも多少のマイナスか……という仕上がりだ。
 当時の試作データ。
 レストア後のデータ。
 それぞれを、仁久は愛おしそうに見比べる。
「試作品止まりだったから弱いんですね。でも、良いんです。それでも」
 父が遺したものへ再会できたことが、何より嬉しい。
 それは仁久はもちろん、機体も同じはず。

 グラウンドへ続く、巨大なシャッターが上がる。
 薄闇から、光の平原へ。
 その先には新しくも懐かしい兵装『試作型ビームスナイパーライフルF-00+3』も待っている。
 簡単な模擬戦相手として、ムーンの機体も待っていた。
「それでは、行こうか。仁久殿!」
「はい!」


(視界の高さは変わらない……稼働も良い感じだな)
 腕を上げ、歩行し、動きに問題がないことを確認してから仁久は兵装を手にした。
「うわわ!?」
 ずしりとした重みは、これまでのものと格段に違う。
「たしかに、これで実戦は大変……なの、かな」
 肩へ掛け、エネルギーを巡らせる。銃口が光を纏う。スイと、負荷が軽くなる。
(あれ?)
『こちらは準備OKだ、試射してみてくれ!』
「うん……、行きます!!」
 違和感を抱くも、ムーンからの通信で霧散してしまう。
 彼女の構える盾に向かって、思い切り砲撃を――




 整備工場で、仁久の機体の塗装が行われている。
 もう一つの作業場では、ムーンの機体が修理されていた。

「父の存在は、偉大だな」
 体育座りで、ムーンが整備士たちの仕事ぶりを眺めている。
「蒸かし上がりました! 熱々のうちにどうぞ!」
 仁久は工場の給湯室を借りて、差し入れしたジャガイモを蒸かしてきた。
 バターを添えてムーンに差し出す。
「起動する瞬間に、ふわってして……。まさか、こんなことになるなんて」
「唯一無二の機体と兵装、そしてご息女ゆえの奇跡だと思う。仁久殿の手当てで、我も掠り傷だ」
 仁久の放った一撃で、ムーンの機体は防御もむなしく機動停止に陥った。
 ムーンもそれなりのダメージを負ったが、仁久の応急手当は迅速で大事には至っていない。
 ほっとして、仁久も隣に座る。
「16年……ずっと戦ってきて、ずっと待っていてくれたのでしょうか」
 仁久の父の手で動いた時期があり。
 倉庫の奥で埃をかぶる時期があり。
 それでも廃棄されることはなく、仁久との再会を待っていてくれた。
 あるいは、父が、娘を守るために魂の場所を移していたとさえ感じられてしまう。
 それくらいの、奇跡。
「ムーンさんのお父さんが、頑張ってくれているからですよ」
 肩を寄せて、仁久が微笑む。
 共同の任務や祭りイベントなど実際の交流は片手ほどの2人だが、互いの『父の姿』という共通点からか心の温度は近いように思う。
 感謝。憧れ。敬愛。
 2人で居ると、優しい気持ちを共有できるのだ。
「……なれるかな、父のように」
「僕は戦う方向性が違うけど……『食』を通じて、人々を守れるようになりたいな……」
 女子高生ながらジャガイモ農園を営む仁久の夢のスケールは大きい。


 ほくほくのジャガイモを味わいながら、制服姿の少女たちはアサルトコアが歩んできた16年間に思いを馳せた。



【Remember 16 years 了】

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼、ありがとうございました。
父との絆であるアサルトコアを巡る物語、お届けいたします。
邂逅、進化、成長。そういったものを背景に。
お楽しみいただけましたら幸いです。

ムーンについては、【友if_B】設定で描写しております。
シングルノベル この商品を注文する
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年10月26日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.