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『伝説の本を求めて』
cloverla0874


 clover(la0874)は、川原を熱心に探していた。
 秋も深まり、夜には鈴虫の声が聞こえる、そんな時期。まだ日の高い内から、美少年ヴァルキュリアは草を分けて足元を注意深く見ている。
 純粋な好奇心が、その金色の瞳を光らせていた。どうしても、見てみたいものがある。そんな輝きが、その目には宿っている。
「あっ、いたいた。おーい」
 不意に、後ろから声が掛かった。袴の裾を翻して、地蔵坂 千紘(lz0095)が手を振りながらこちらへ走って来る。後ろからはグスターヴァス(lz0124)が悠然と歩いて来ていた。
「千紘おにーさんとぐっさん! どうしたの? 俺のこと探してたの?」
「うん。ボードゲームやるんだけど、人数欲しくてさ。何か忙しかった?」
「んーとね、捜し物してるんだけど全然見つかんないんだよね」
「何か落としたの? スマホ?」
 眉を寄せて心配そうにしている千紘に、cloverは首を横に振る。
「俺がなくした訳じゃないんだけどー、なんかさ『河原には伝説の本が眠っている』って教えて貰ったんだ。どんなのか気になるじゃん?」
「へー。徳川の埋蔵金的な……?」
「わかんないっ」
 何しろ、もう随分前の話らしく、今では落ちているかどうか……ということである。
「河原に捨てられた伝説の本ねぇ」
 グスターヴァスが首を傾げながら目を細めている。猜疑の気配を感じて、すっかり宝探し気分になっているcloverは彼の上着の裾を掴んで引っ張った。
「探すの手伝ってよ! 見つかったらみんなでわけよーっ」
「ああ、僕、おじいちゃんから聞いたことあるかも」
 千紘が思い出したように言った。夏休み、祖父の家に遊びに行った時に、ちらと聞いた気がする。わしらが子供の頃には、河原にいけない本が落ちていたもんだ。なお、話の続きは祖母に止められていた。
「……ねえ、千紘さんそれって……」
「それが伝説の本と同じものかはわからないけど」
「千紘おにーさんのおじいちゃんの頃には落ちてたんだっ? まだ当事者が生きてるってことは、俺たちもワンチャン……?」
「あるかもよ。どんなのだろう。おじいちゃんが子供の頃って、1900年代で、まだナイトメアとの交戦もなかったような頃だし、EXISも当然ないし……呪いの本……?」
「えっ、こわっ! いけない本ってそう言うことかなぁ……」
「時空の歪みそのものは観測されてたみたいだし、もしかしたらそう言う呪いとか怪奇現象ってナイトメアだったのかも?」
「あ、あの、お二人とも……」
「千紘おにーさん、戦闘の用意あるっ!? ぐっさんは?」
「一応武器も持ってるから、もしナイトメアでも大丈夫だよ!」
「戦闘の準備はありますけど、あの……」
「やったー!」
 こうして、「伝説の本探し」は開始され、何か言おうとしたグスターヴァスの手は行き場を失ってさまようのであった。

 グスターヴァスは嫌な予感を覚えていた。何かの集まりで人から聞いたことがあるのだ。
「昔はよく河原にエロ本が落ちていたらしい」
 本当に落ちていたら2人の目から……いや千紘は成人してるけど……cloverが駄目で千紘はOKというのも不公平なので、やっぱり2人の目から遠ざけないといけない。固く誓うのであった。


「おにーさんのおじいちゃんが『よく落ちてた』って言ってたんでしょ? ってことは、本そのものは何冊もあるのかな……?」
「それこそ、どれが本物の『伝説』になるか蟲毒みたいに殺し合っているのかもしれない……本が」
「やっぱり呪いの本だったっ……?」
 未知なる本への憶測と好奇心は留まるところを知らない。
「そんなわけないでしょ……」
 グスターヴァスの控え目なツッコミも、宝探しの冒険気分に取り憑かれた若人2人には届いていないようだった。

 「伝説の本」らしきものは一切見つからなかったが、ゴミは多数見つかった。見かねた一行は、近くのコンビニでゴミ袋と軍手を購入する。
「汚ねぇな。飲んだものくらいちゃんと片せよ」
 千紘はぶつぶつ言いながらオレンジジュースの紙パックをゴミ袋に放り込んだ。cloverも、キーホルダーを拾い上げ、
「これは交番かなーっ。持ち主が探しに来てくれると良いけど」
 と言いながら別の袋に入れた。グスターヴァスは紙ゴミや空になった煙草のパッケージなどを黙々と拾っている。肝心な物が見つからないまま、日は徐々に傾いて行った。このままでは環境美化運動だけして終わってしまう。それはそれで良い気もするが。
 ふと、グスターヴァスは人の姿が大きく印刷された雑誌を目に留めた。やたらと肌色が多……確認して、凍り付いた。背中を冷や汗が伝う。
 明らかに豊満な胸部を強調するようなマイクロビキニの女性。というか、上はもはや水着の用をなしていない。ばっちりカメラ目線。表紙には「【自主規制】」だの「【自主規制】」だの書かれている。いやもうこれ【自主規制】でしょ。こんな誰の目にも付くところに捨てるな!!!!! っていうか、やっぱり河原に捨てられるエロ本ってあるのか!? 都市伝説だと思ってましたよ! 「(都市)伝説の本」かよ!!!!!!
 cloverと千紘は捨てられたあんまんにたかっている蟻をどうするかで議論している。今のうちに、ただのゴミに見せかけて捨て……。
「あれ? ぐっさんどうしたの立ち尽くして。もしかして、見つかった……?」
 しかし、こう言うときに限ってバレてしまうのである。振り返ると、つむじの双葉をぴこっと揺らしたcloverが目を輝かせ、
「えっ! おじさん見つけたのーっ!? 見せて見せて!」
「違います!!!!! これは、伝説の本じゃありませんから!!!!!」
「何でわかるのさっ! クロくんにも見せてーっ!」
「駄目です!」
 グスターヴァスはそれを拾い上げると、丸めてねじった。スピリットウォーリア(サブ)の腕力でぎゅうぎゅうにしてしまう。その様を見て、cloverがびっくりしたように目を丸くした。
「ただの本にそこまでする? やっぱり怪しいな……ちょっと、見せてよっ」
「ぜーったい駄目です!」
「ぐっさん?」
 千紘がジト目で見ている。
「僕たちが多少やばいもんでビビるとでも思ってんのか?」
「そうだよーっ! いつもお仕事一緒にしてるんだから、俺たちがそんな簡単に怖がって逃げるわけないって知ってるでしょ!?」
「そう言う問題じゃないんですよー! ウオアーッ!!!!」
 グスターヴァスは雄叫びを上げると、ゴミ袋の口をむんずと持ったまま、ダッシュでその場を離れた。
「待てーっ!」
 SALFまでの追いかけっこ。グスターヴァスは建物に飛び込むと、オペレーターにゴミ袋を預けた。
「決して開けないで処分してください!!! あと18歳未満に見せないで!!!!」
 自分で捨てなさいよ! と怒られた。追いつくcloverと千紘。オペレーターは、子供に意地悪するんじゃない、と言いながらゴミ袋の口を開けた。
「オペレーターさんっ! そのゴミ袋の中に伝説の本がっ!」
 cloverが必死になって訴えると、オペレーターは丸められた雑誌を取り出した。反対に捻ってその表紙を見ると……ゴミ袋に再び落とし、手順に沿って処分します、とまるで有害物質の処理の様に言う。
「なんでーっ!?」
 期待から一転、cloverの悲鳴がこだまするのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
2060年って電子化が進んでそうな言うイメージがあるので、落ちてたら本当にレアなんだろうな〜という気はしちゃいますね。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年11月02日

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