イラストコンバート第二弾 ハイブリッドヘブン スタート!

▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『秋の訪れと共に深まるは』
吉良川 鳴la0075)&神埼 夏希la3850)& 朝霧 唯la1538)&水無瀬 響la2686)&吉良川 奏la0244

 程良く混ぜた卵を専用のフライパンに流し込めば、聴いているだけでもお腹が空きそうな音と共に黄身は鮮やかに色付く。そしてあっという間に半熟になるそれを水無瀬 奏(la0244)は鼻歌を口ずさみながら箸で器用に巻き取った。空いたスペースには油を敷き、卵を足した矢先、
「奏ちゃん、失礼するのですよぉ」
 と朝霧 唯(la1538)が元より小柄な身体を縮こませて後ろを通り抜けようとした為、コンロに一歩近付いて行き易いようにした。彼女が持つボウルの中に、まだ湯気の上がるポテトが見える。
「ありがとうございますですぅ♪」
「どういたしまして、だよ!」
 さっと素早く通り抜けた後、折り目正しくも礼を口にする唯のほうに振り向くと、目を合わせそう返した。どことなく擽ったそうに笑う彼女につられるようにして奏も微笑むも、卵を入れたばかりなのを思い出し、慌てて前に向き直る。と一部始終を見ていたらしい吉良川 鳴(la0075)が思わず、といったふうに零した声を耳聡く聞き奏はそちらへと振り返った。三人が並行し料理を作るのには手狭なスペースながらもダイニングキッチンなので、向こうに座り様子を見守る彼と奏の実兄である水無瀬 響(la2686)の姿がよく見える。鳴は機嫌が悪いと思ったのか、いそいそ立ち上がり、義兄的存在の彼に対して少しだけ邪魔そうな表情を向ける唯の視線さえ何のそのと、何故か微妙に距離を取りつつ背後に回ってきたので奏もまた正面を向くと、卵を巻く作業を再開し始めた。
「やっぱり卵焼きだけは、失敗しない、ね」
「うーみゅ、鳴くんは失敗したほうがよかったの?」
 本来なら半熟状態に仕上がっていただろう卵焼きは全て固まったが、その代わりに意図して混ぜ切らなかった白身が渦巻模様を描いている。料理下手になった元凶に関しては解決しているが自覚していない根深い所で未だに苦手意識が残っていて、相変わらず卵焼きを除いた料理は破壊的と表現される腕前を誇っているのであった。それに今回の面子的にも奏の出る幕はない。出来立ての卵焼きを切り分けていたら、どこかはらはらとした様子で見守っている鳴が気になり徐に箸でそれを摘むと振り返る。
「っと、どうした?」
「味見をしないかなって」
 鼻先に突き付けたそれからはまだ湯気が上がっている。最近はこういう状況になるとむしろ彼自ら摘み食いをしてくるのだが、今日は何故か躊躇い目を泳がせた。視線を追いその理由に気付く。ん、と催促して一口大というには少々大きめの卵焼きを彼の口元に運んで、咀嚼したことを確かめた後で、しかし返事は待たず奏は箸を置き鳴が見ていた彼女――彼の元恋人の神埼 夏希(la3850)の隣に立って、その透き通るような髪が掛かった肩に手を乗せれば、彼女は急に我に返る。
「夏希さん、大丈夫ですか?」
「……うん、大丈夫だよ。ごめん、ぼんやりしちゃってたね」
 そう言って優しく微笑むと、
「腕によりをかけて作るから、奏ちゃんも楽しみにしてて♪」
 と言って俎板の上の包丁を取る。先程までの浮かない顔は影も形もなく楽しげに具材を切り始めた。振り返り鳴を見つめるも彼は彼で難しい表情を浮かべている。
(私にも何か出来ることはあるかな?)
 アイドルの本分として考えるのならば歌やダンスだが。ぷんぷんと怒る唯に背中を押されて出ていく鳴が響に声を掛けられるのを横目で見ながら奏は思いを巡らせた。重箱に卵焼きを詰めていると、空きが出来そうと気付き、閃くものがあって密かに実行に移すことにした。

 ◆◇◆

 朝から五人が何故鳴の家に集まったのか、それはお弁当を作る為であり、そしてそれを手に出掛ける為でもある。列車を乗り継ぎ彼の自宅がある地域から離れていくにつれて、景色は次第に都会から田舎へと移っていく。車内で小一時間揺られて全員が降車する頃には丁度昼前と若干空腹を感じるくらいの時間だった。その後は徒歩で行き、眼前に映る景色にわぁっと奏か唯の声が零れて、或いは夏希のものかもしれないと、響は振り返くが後方に陣取る彼女がそれに気付いたのは丁度今だった。
「綺麗ですねぇ、響さん」
 遠慮がちに袖を引きつつ唯が話しかけてくる。少し声が弾んでいるように感じるのは興奮のせいか、既に幾らかの疲労を感じているせいなのか不明だが。どちらにしても嬉しそうな顔の彼女を見返して響が相槌を打ったところで、
「日帰りで来られるところで、こんな絶景が見られるなんて思わなかったよ!」
「まぁ、ツアーとか組まれてる名所に比べれば、劣るだろうけど、ね。手頃でいいんじゃないかな?」
 今すぐにでも先に進みたそうな奏に笑みを噛み殺しながら鳴が返し、真横で目を輝かせる彼女と数秒ばかり見つめ合った後に、
「夏希、お前もそう思う、よな?」
 と振り向いて訊く。それに漠然とながらもついた彼女のイメージとは異なり、カジュアルかつ動き易い格好をしている夏希も、笑顔で頷いてリュックを背負い直すように跳んでみせた。
「頂上に着く頃にはお腹もぺこぺこになってるだろうし、かなり手を掛けて作ったから、美味しく食べてもらえると嬉しいわね」
「あぁ、楽しみだな」
 夏希が料理が得意なのは半年以上も前の、初の顔を合わせる機会でもあったバレンタインのときに知ったことだ。だからそう返せば彼女はきょとんとした顔でこちらを見返し、微笑んで後方を見つめた。響が背負ったその中身が、奏と唯と夏希の料理が詰まった重箱だ。
「では、そろそろ出発進行だよ!」
 と人一倍張り切った様子の奏が腕を上げて号令を出し、意気揚々と歩き出す。そうして五人は紅葉狩りをしに山の頂上へと向かうのだった。

 登山口からも赤や黄に染まる木々の美しさは判ったが、落ち葉を踏みしめて進むと鮮やかな色彩と共に秋の風物詩を感じ、歩みも軽くなる。整備された道を歩くも行楽客が多くて、横一列に並ぶわけにもいかず鳴と奏が前を行き、後ろに響たち三人が並ぶ。時折茶化すように唯に夏希が話を振り、唯が言い返し小動物が威嚇でもするかのように睨んでいたりした。喧嘩する程、という奴らしい。
 景色も話も楽しい。だがこのところ響には気掛かりなことがあった。そのお陰だろう、夏希が遅れていることに気付けたのは。わざわざ声をあげて、注意を引かなくてもいいと判断し響も歩調を緩めて、段々距離を縮め、充分近くなった頃に小声で呼びかける。
「夏希、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
 彼女はそうにこやかに応えるが、僅かにその口元が引き攣っているのに響は気付いた。異変を悟られまいとして早く歩こうとした為に逆に、動きに不自然さが生まれ、それを見て響も何故彼女の歩みが遅くなっているのかを悟り、眉間に皺を刻む。
「無理して歩くのは、やめたほうがいいな」
「ちょっと、響さん、やめて……」
 手首を掴まれ夏希は声を荒げて、だがそれを知られたくないのか急にか細くなる。泣きそうに彼女の表情が歪み、すぐその場に蹲ってしまった。うなじ辺りで結われた長い髪が肩口を滑り、俯いた為にどんな顔をしているか判らなくなる。前方の三人を呼び止めようとして、そこで漸く響は知る。自分たちが取り残されたのを。

 ◆◇◆

 足を挫いたのだとすぐに解った。何故なら砂利に紛れた小石に躓き、転びかけたときに足首を捻り、それ以降ずきずきと痛くなったからだ。地面を踏む度に痛みが走るものだから、無意識に庇って歩く羽目になって歩みも次第に遅くなる。待って、と声を掛けることは、至極簡単だった。そうすれば、四人は一斉に後ろを向いて口々に心配する言葉を返し休憩を提案しようとしてくれただろう。そうと知りながらも躊躇ったのは先頭を歩く鳴と奏が楽しげに話している様子がよく見えた為だ。その瞬間様々な感情が溢れ出して、誰にも気付かれることなく消えてしまっていいなんて思ってしまった。結果響に面倒を掛け、本当にどうしようもない。
「一人で歩けるから大丈夫だよ!」
 何度も首を振って固辞をしたが、
「怪我人は大人しく世話をされなさい」
 響に兄の一面を出しつつ言われれば、どうにも拒みきれず、肩を借りて一旦来た道を引き返し、休憩用に設けられただろうベンチに腰を下ろす。隣に座る響はコンタクトを取る為、懐からスマホを出してメッセージを送るようだ。今まで夏希と響には交流は少なく、二人で話す機会も今が初めてかもしれない。となれば会話するのも難しく、口を突いたのは無難な言葉だ。
「さっき肩を貸してくれてありがとう。迷惑掛けてごめんね」
 折角の紅葉狩りなのに水を差しちゃった、と付け足し、軽く笑ってみせたつもりだったが殊の外罪悪感がこみ上げてきて、うまく笑えなかった。肩を落とし俯き、別の話題を探すが思い浮かばずに焦った頃不意に響の声が響いた。
「そのことは気にしなくてもいい。ただ俺も謝らないといけないことがあるのかもしれない」
「響さんが、私に?」
 まるで思い当たる節がないので、顔を上げ首を傾げて聞き返す。彼は少し逡巡したように沈黙して、それから口を開いた。視線が当てどなく前を向いて、静かに声が零れ出る。
「その、結局鳴と恋人には戻れなかっただろう。その上、結果的に鳴を持っていく形になったのは俺の妹である奏だからな。勿論鳴が自分で選んだことで、俺が口を出したことはないが……申し訳ないとはずっと思っていたのでな。こんなときでもないと言えないのは情けない話だが」
 饒舌なほうではない響が一人で延々話していたのは夏希が呆気にとられていたせいだった。
(だってそんなことを考えてたなんて思うわけないじゃない)
 今まで言葉にし突っ込んでくることはおろか、そんな素振りを見せることもなかったのだ。
「気付くのが遅れたことも悪かったと思ってる」
「響さん今日謝ってばっかりだね……」
 ふぅと零れ落ちた溜め息に勘違いしたようで、肩を落とす響を見て、今度は笑い声が出た。
「別に謝られるようなことじゃないわ。だって響さんの言う通り鳴と、それに私自身が決めたことだもの」
 バレンタインのときには張り合ってもみたが、結局は鳴を焚きつけ、告白するように促したのも自分なのだ。別れても尚抱き続けた愛はすぐには冷めず、未だに引き摺ってはいるが後悔していない。だから、鳴に今日一緒においでと誘われたときは随分悩んだ。自分がいないほうが全員が楽しめる筈だと。最終的に行くと決めたが鳴と奏の甘い空気も気を遣われることも少しくる。けれど謝罪を耳にしてホッとした気がした。生まれた余裕に心からの笑みが零れて、悪戯心が首を擡げる。
「それはそれとして響さんも唯ちゃんを大切にね?」
 犬猿の仲でも同じ恋する乙女としては彼女を応援する気持ちもある――というのは半分で響を揶揄ったらどんな反応をするか知りたくなりそう付け足したが、隣に座った彼を覗き込むようにしてもその反応は想像を遥か下回るものだった。響の頭上に疑問符が浮かぶのは比喩表現にしろ、何を指しているかも解らなそうな顔の彼に、
(唯ちゃんもまだまだ大変だなぁ)
 とつくづく思って、苦笑いを漏らす。彼女は彼女で諦める程弱くはなく、見立て的には成就する可能性は充分にある。敢えて、触れずに放っておこうと思って他愛のない話をして休み、返事が来ないと歩き出した矢先に二人の名前を呼ぶ、見ず知らずの人間の声が聞こえてきた。

 ◆◇◆

 たまの休みに皆で紅葉狩りをすることになり、日程が決まったときから楽しみにしていた。まさか、そこに夏希が合流するとは思わなかったが、警戒はすれども噛み付かれなければ温和に接することが出来るくらいには精神面では大人のつもりである。それに、料理を趣味とし、特に和食が得意な夏希には劣るものの、唯も生活の為に自炊しているので、彼女と同じ土俵では勝負せず、響に渾身の料理でアピールすると妄想したりもした。なのに。
「流石鳴にぃも一緒に暮らしているだけあって、よく分かってますよねぇ。響さんもそう思いませんかぁ?」
 近況について話をしていたとき、鳴の飼い猫がよくくっついてくるという話になり、無類の猫オタクの唯は即座に食いついて前のめりにその仔の話を訊いた。奏と二人鳴を挟み込む形で話をしまくった後響も黒猫を大切にしているし――と話を振って後ろを向いたがそこに自分が慕う彼の姿は影も形もない上、横に並んだ夏希さえもいない。一拍分を置いて悲鳴をあげる。
「びっくりした……って、あれ? 響と夏希は?」
「お兄ちゃんも夏希さんもどこに行ったのかな? 全然気が付かなかったよ!」
 呑気な二人に背中を向けて唯は、小走りに道を引き返した。目を皿のようにして探すも開けた道で見失うわけがなくすぐ様唯を追って引き返してきた鳴と奏の二人に悲痛な声を漏らした。
「二人ともどこにもいないですよぉ! まさかナイトメアに襲われたんですかぁ!? どうしましょう、鳴にぃ、奏ちゃん!」
「落ち着け、唯」
「ライセンサーが五人もいて、気が付かなかった筈ないから、それは大丈夫だと思うよ。夏希さんはどうか分からないけど、お兄ちゃんのことだから多分――」
「迷子になったんだろう、な。まぁ夏希も一緒なら、何か事情があったのかもしれないけど、ね」
 一緒ならという鳴の言葉を聞き、瞬時に頭の中で無数の妄想が膨らみ出した。例えば寒さを凌ぐ為に身体と身体を寄せ合う響と夏希だとか、怪我した彼女を背負い下山を試みる響だとか――混乱した唯の脳は季節も標高もすっ飛ばして暴走をする。
「響さんと神埼さん……二人きりとは! あたしはどうなるのですかぁ!」
 うがーと自分の妄想に苦しんだ唯は宥めようとか近付いてきた鳴に縋り、子供のように――実年齢的には子供に違いないのだが――わんわんと泣き出し奏に頭を撫でられること五分が過ぎた頃に落ち着いて洟を啜る。そして、
「このままだと埒が明かないから、とにかく二人を探しに行こ? ねっ?」
 と奏に優しい声で促されて、
「はい。分かりましたぁ……」
 と気が気ではないが彼女の言うことも尤もなので、少しでも二人きりの時間を減らすべく、気を取り直すと二人を探す為に三人一緒に道を引き返す。道といっても辺りに落ち葉の絨毯が出来ていて、手摺や階段もない為、境界線は酷く曖昧だ。脇道に逸れていたのなら探すのは容易ではないかもしれない。途端に大変に感じ必死の捜索に暗い影が差したその直後、奏が声を掛けられた。
「えっ? はい。祝夏祭で歌っていたのは、私ですよ!」
 同じ行楽客らしい青年はそのときアイドル部の特設ステージを観ていたのだと話した。練習として披露した奏の歌を聴き一目惚れしたのだとか。段々鳴の機嫌が急降下するが、奏の手前もあって邪険にせず静観している。このままファンとの交流で終わるかと思いきや、様子がおかしいと思ったらしく何かあったか尋ねてきた。それを受けて奏も同行者と逸れたことを明かし、すると大学のサークル仲間で来たという彼が捜索を手伝いたいと言う。
「手伝ってくれてありがとうですよ!」
 と奏が頭を下げる。鳴も異論は挟まずに、
「唯も、行こう」
 そう彼らに促される形で、唯は二人の捜索を再開したのだった。

 ◆◇◆

「響さぁんっ!」
 前を歩いていた唯が二人の姿を目にするなり弾かれたように走り出した。悪い人間ではなさそうだがファンを自称する青年に奏の連絡先を渡すわけなどなく、彼氏と公言したい気持ちに駆られつつも我慢し、鳴が彼に伝えた連絡先に見つかったと届いたのは数分前のことだ。灯台下暗し、脇道の先の休憩所に響と夏希はいたようで、それを知るのと同時に響からも休憩所にいると連絡が来ていたことに気付いたのは横に置く。
「待て、唯」
 彼女を止めようとする響は夏希に肩を貸していた。唯には夏希が響に抱きついているように見えたのか、一直線に響の胸に飛び込むと、追っかけじみたことはしても奥手な彼女的には意外にも大胆に抱きついて、思わずという風に泣き出した。大泣きを受けて響の空いた側の手が彷徨う。
「響さんも神埼さんもすっごく心配したんですよぉ」
 恐らくは違った意味でもとは勿論言わないでおく。顔を押し付け普段の響や今の夏希のように髪を結んだ彼女が首を振ればふるふるとその髪の毛が揺れ動く。動けない響に目線で訴えられ、鳴はちらと奏を見つめて、彼女と目を合わせ、そして夏希の隣に歩み寄り、代わりに肩を貸した。彼女と至近距離で視線を交わせば、はにかんだように笑う。今日この紅葉狩りに幾らか強引に誘った自覚がある鳴だが、その笑顔を見て、誘ってよかったと心底思う。自分以外の面子とはまだ距離があるように感じていたので、それが縮まっているように感じ嬉しくなった。
「少し大袈裟な気もするが、心配をかけて、すまなかったな」
 などと言いながら響は泣きじゃくる唯の頭を撫でて宥める。が、唯が泣いている意味も分かっていない、とりあえずの対応なのは明らかで顔を上げたかと思いきや唯は引っ込みかけた涙をまたぶり返してしゃくり上げた。唯の気持ちを蔑ろにする響に無自覚だと解っていても憤りを感じ、まずは彼女を慰める。
「その、唯、なんかごめん、な。こいつがこうなのは今に始まったことじゃないし、許してやって欲しい」
「もう、お兄ちゃんってば、唯ちゃんを泣かせちゃダメでしょっ」
 めっとする奏に鳴も追従した。
「そうだぞ、響。幾らなんでもそれはない、よな?」
 うんうん、と全力で奏も同意する。一方で夏希は、
「よく解らんが、すまない」
 とあんなにも分かり易い唯の好意にまるで気付く素振りのない響を見て、唯に対して気の毒そうに、だが少し悪戯っぽく微笑む。彼女が泣き止むのを待ちながら夏希の怪我を見て患部を冷やし包帯を巻いてと無理なく歩けるよう手当てした。依頼やら何やらでその手のことには慣れている為、上手く出来ただろう。
 青年宛に無事に合流出来た報告を済ませて礼も伝え、まだ恨めしそうに、だが憎めなそうに響を見返す唯の健気さにその想いが報われるよう願い山登りを再開した。合流前とは少し違う空気になるも決して嫌いではない。その後山頂に設置された椅子に座ると木の机の上に女性陣が早朝作った弁当を広げ食事をすることにした。戴きます、と全員で手を合わせて箸を手に取った。和食系は夏希、洋食系のおかずは唯が作った物だ。そして勿論のこと、
「んん、美味い」
 唯一料理上手の二人にも引けを取らない味の奏の卵焼きにも舌鼓を打つ。机の上に文字通り真っ赤な紅葉が舞い落ちてきて、食べながら秋らしい風情も楽しむ。と、そうこうしているうちに唯の手料理を食べた響から「好きな味だ」と感想を受けた唯の機嫌はあっさりと上昇した。女性陣三人の料理を満遍なく食べて一息つこうとしたら隣に座った奏が呼びかけてきたので見て硬直する。
「これ、鳴くんの為に作ったんだよ。食べてもらえたなら嬉しいな」
 頬を赤らめた彼女は密閉容器の蓋を開いて中のメンチカツらしき物を見せてくる。らしき物というのも、虹色に光っている為に推測の域を出ないのだ。最近は熱心に色々作っているのだが、味見をする気配はなく、交際し始めて食べ慣れた鳴からしても一応食べられるが奏のものでなければ食べようとは思えない味のままだ。奏の作るそれが輝き出さないようびくびくしつつ見守っていたつもりだが、見過ごしてしまったのか。
「折角だし、食べたらどうだ?」
 まるで意趣返しのように、だが十中八九天然な響に背中を押され逃げ道を見失う。
「きっと上手くなってると思うわよ」
 夏希も無責任にも笑顔で言う始末。彼女の場合わざとかもしれない。腹を括って先端にペンギンがついたピックを摘むと、その食べ物を口に運ぶ。そうして味わったそれの味は鳴にとって、この紅葉狩りの思い出の一つにある種なるのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ここまで目を通して下さり、ありがとうございます。
シリアスな描写の割合が多かったかなと思いつつも、
夏希さんの心情や響さんたちとの関係が変わりゆく
大きな節目だろうと思ったこともあり、仲良さげな
空気も出しながらもそちらへと重点を置いています。
またアイドルらしい方法でというのも考えてみましたが
その為のスマートな手段が思いつかず、知名度を活かす
という形で表現させていただきました。個人的には
やっぱり響さんと唯ちゃんがくっついてほしい気持ちも
ありつつ、ですが響さんと夏希さんのやりとりも何だか
胸が暖かくなるものでした。終わりが近付いているのが
名残惜しい程今後が楽しみです。
今回も本当にありがとうございました!
パーティノベル この商品を注文する
りや クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年11月02日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.