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『複製品と紛い物』
ネムリアス=レスティングスla1966

 視界が白く染まった後、一瞬意識が飛んでいたらしい。
 体に残る力をかき集めながら、ネムリアス=レスティングス(la1966)は身じろぎした。
 どうやら自分は仰向けに倒れているようだ。
(まだ、動く)
 朦朧とした意識の中、己の体が自分の意志でまだ動かせることを認識し、よろよろと立ち上がる。
 立ってみると自分が無事だったことが不思議なくらい、爆発の跡は酷かった。
 周囲十数メートルは爆発で吹き飛んでおり、何もない。かろうじて残った木も真っ黒な幹だけになって短くなったものが数本墓標のようにぽつねんと立っていて、剥き出しになった地面には紫のロボットの残骸らしき物がいくつか転がっているだけだ。
 ネムリアスは自分の体を見てみた。
 紫ロボの動力源に突き入れた義手の片腕は指が数本持って行かれ黒焦げで、もう使い物にならない。さらに首にはロボが逃がすまいと掴んだままの手が手首の先でちぎれてぶら下がっており、まるでグロテスクなアクセサリーみたいだ。
「仕方ない……」
 ネムリアスは残った腕で黒焦げの腕を切り離し、指が首の肉に食い込んで外せないロボの手は、強引に己の肉ごと引っぺがした。
「くッ――! はぁ、はぁ、はぁ……」
 忌々しいロボの手をぞんざいに放り、痛みで荒い息をつきながら呼吸を整える。
 ありがたくもない因縁で何度も戦った紫のロボットだが、こうやってやっとロボが完全に死んだとなっても、ネムリアスには何の感慨もなかった。
 ただ厄介でめんどくさい敵だった、とそれだけだ。
 片腕を失い首の肉も抉られ、それ以外の部分も爆発のダメージであちこち痛みが走る。イマジナリーシールドも破壊されて、もはや自分を守るものは己の技量と現実的な肉体の丈夫さだけ。
 全身ボロボロだった。
(ボロボロだな……。だが、ここで倒れるよりマシだ)
 とネムリアスは思う。
 ボロボロだろうが、まだ動けるのなら戦う。戦うためにここまで来たのだから。
 宿敵と戦う前に倒れてしまったら、今までの色々な犠牲が無駄になってしまう。それは己に対しても犠牲にしてきたものに対しても、絶対に許されないことだ。
 戦いに負けて死ぬより、戦う前に死ぬ方が悔いが残る。
 それがネムリアスの決意であり覚悟だった。

 全身の痛みを無視するように努めながら、ネムリアスは再びキャリアーが強いエネルギーを検知した島の中央に向かった。

「これはまさか……」
 目の前にある物を発見した途端声を漏らす。
 そこには、以前に破壊したはずの巨大な衛星軌道砲の砲身が突き刺さっていたのだ。
 砲の先は地面に向いている。
(――!)
 ある予感がネムリアスの脳裏をよぎる。
(本来は無理だ。だが――)
 検知したエネルギーはかなり強力だった。これだけのエネルギーで暴走させ、一回限りならば。
「貫けるのか……!? この星の核を……!」
 ネムリアス自身半信半疑だったが、おそらくはできるのだろう。よしんば核が破壊されなかったとしてもこの星が無傷でいられるはずはなく、確実に甚大な被害は出る。どんな天変地異が起こりどれだけの死傷者が出るのか、それはもう予測不能だ。
 そうなればこの世界はどうなるか。
 それを想像しかけた時、ネムリアスは気配を感じてハッと目を上げた。
 軌道砲の上に誰かがいる。
「!!」
 その人物は、異形な腕から伸びたケーブルで軌道砲と繋がっていた。軌道砲に膨大なエネルギーを直接送っているのだ。

 全身を機械の鎧で覆ったような、ロボットのようにもサイボーグのようにも見える姿のそいつは、ネムリアスの原典の亡骸を喰らい、その力を奪ったエルゴマンサーだった。

 ずっと居場所を追い求めていた奴が、今そこにいる。
 そして奴は今まさにネムリアスのいるこの世界を、星ごと壊そうとしているのだ。
「一体何を考えているんだ!?」
 ネムリアスは奴に向かって声を張り上げた。
「こんなことをしたらお前達の食料でもある人類も滅びるぞ!? アホか!」
 しかし、奴はネムリアスをつまらない物を見るかのように見下ろし、嘲笑を返した。
 くだらん、と奴の声が聞こえる。
 軌道砲へのエネルギー供給を続けたまま奴は言った。
 望むのは破壊と蹂躙だけだと。それだけが己の糧だと。
 そのためならどれだけの世界が犠牲になっても構わない、と。
「なんだソレ……!!」
 ナイトメアとしても常軌を逸している、とネムリアスは思った。
 それくらい奴の思考は壊れている。
 ナイトメアが種として進化するためですらなく、ただ己の破壊衝動を満たすためだけに世界を壊すなど、到底納得できるはずがない。

 ネムリアスの心に新たな怒りの火が点いた。それは蒼い焔となって体から立ち昇る。
「人の力を奪って、何を偉そうに言ってんだテメェ!!」
 ネムリアスの怒りの叫びを歯牙にもかけず聞き流した奴は、ようやく準備を終えたのか、それともこれ以上ネムリアスを放置して邪魔されたくないと思ったのか、己と軌道砲を繋ぐケーブルを外した。
 余裕たっぷりにこきこきと首を回してから、改めてしっかりとネムリアスの姿を認める。その様はまるでお前などいつでも殺せるんだと言っているかのようだった。
(ああ、さぞかしそう見えることだろう。奴は無傷でまだ元気一杯。しかしこっちは既に片腕を失くし満身創痍だ。だが、それでも)
 ネムリアスに大人しく負けてやる気など1ミリもない。
 これまで奴と戦うために、友人との繋がりも視覚や味覚、楽しみも全部捨てて、時間も労力も生活の全てを費やして来たのだ。
 奴だけは、この手で決着をつけなければならない。

 奴は邪悪な本性に似つかわしくない光の羽を展開し飛び上がり、ネムリアスへと向かって来た!

(きっとコレが最後の戦いだ)
 頭の奥でそう悟りながら、ネムリアスは残った腕で銃を構えた。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
今回もご注文ありがとうございます!

前回の続きですね。今回は派手な戦闘シーンはないですけれども、ボロボロになりながらも戦いを諦めず赴くという、嵐の前の静けさみたいな雰囲気で書かせていただきました。
ご満足いただけたら嬉しいです。

どこかイメージとのずれや描写にご不満な所がありましたら、些細なことでも構いませんのでご遠慮なくリテイクをお申し付けください。

続きもご注文いただけたら幸いです。
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久遠由純 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年11月06日

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