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『秋麗 嵐山二人旅』
la3088)&マサト・ハシバla0581

●紅葉
 泉(la3088)とマサト・ハシバ(la0581)は、日頃の息抜きも兼ねて京都の嵐山観光に来ていた。
 今日は見事な秋晴れで、日差しは暖かく澄んだ青空が広がり、絶好の観光日和。

「う〜ん、ええ陽気や〜!」
 気持ち良さそうに灰色の縞模様の白虎耳をぴくぴくさせながら、泉は伸びをする。
「今日は珍しくちゃんと上着を着ているな」
 小さく笑みをこぼしてマサトが言った。いつもの泉は基本薄着なのだ。
「寒いんは平気! やけど薄着やったら人間は見とって寒いて言うもんな? 今日は一般人も多い観光地に来たわけやし、変に見られるのもアレやから。ちゃぁんとあったこうして来たんよ」
 泉がドヤ顔で服を自慢するようにくるりと一回転。長い尻尾もくるりと揺れた。
「感心だな、似合ってる」
 そんなやり取りをしながら、二人して紅葉で有名な川沿いの道を散策する。
 訪れたタイミングが良かったのか、ちょうどいい色合いに染まった紅葉がずっと先まで続いており、二人の目を楽しませた。
「あ、見てハシバ、あっこのグラデーション綺麗やなぁ〜! わ、このもみじめっちゃ真っ赤や」
「同じ場所に生えているのに、樹によって色が微妙に違うんだな。興味深い」
 泉は子供のようにあちこちに目を走らせては感嘆の声を上げて、マサトはそれに自分なりの感想で応えたりして歩いていた。

「ん? どうしたお嬢さん?」
 紅葉ではなくマサトを見ている泉に気付いて、マサトが問う。
「んーん、なんでもあらへんよ」
 悪戯っぽく笑って首を振りつつ、泉はハシバも楽しんでくれているみたいで良かった、と思っていた。
 この小旅行には泉がマサトを誘った。
(デート言うて誘うたけど……)
 マサトはその単語に引っかかることなく、普通に快諾してくれた。
 冗談めかして言った『デート』は泉にとってはそれなりに『デート』のつもりだったりする。マサトはそれに気付いていないかもしれないけれど。
(えへへ、まぁえっか)
 照れ臭い気持ちを隠して、泉は景色を眺めた。
 対岸の山に連なる色とりどりの紅葉のパノラマが広がっている。空の青さに木々の鮮やかな赤や黄色が映え、その美しい自然の景色は思わずため息が出るほどだ。
 ほう、とマサトが声を漏らす。
「嵐山は初めて来たが、こういう所だったんだな」
 マサトは血筋は日本だが、ほとんど日本にいたことがなかったため、全てが新鮮に映った。ましてやこうして観光地に足を運びのんびり観光したことなどない。
 ナイトメアが日本や世界を蹂躙しても、まだこうして美しい自然が残っているのは驚嘆に値する。まだこの星は簡単に滅びたりしないと、そう言っているかのようだった。
「風はちょいとひゃっこいけど、山の紅葉は綺麗やねぇ……ここの神さんは大事にされとるんやなぁ」
 マサトの隣で泉はしみじみと、目に見えない何かを敬うように目を細めた。
「大事にされとるさかいに山の恵みで神さんは応えてくれるんやて。ウチとこやったらそう言われとる♪」
「なるほど」
 マサトは泉の話にうなずいた。
 山の幸でなくとも、心を満たすことができるという意味では、雄大な景色も恵みと言える。きっと、泉が元々いた世界も自然があふれ、上手く共存していたのだろう。
 ふと、マサトの頭上からもみじの葉がひらひらと舞い落ちて来た。
 マサトはその葉を掌で受け止める。
 形もよく色も真っ赤だ。
「ならこれも、山の神様からのプレゼントだな」
 何気ない仕草でそのもみじを泉の髪に挿してやった。泉の銀髪に赤い葉がとてもよく似合っている。
 マサトはこういうことが嫌味なく、そしてわざとらしくもなく、さらりと出来る男だった。
「ふぇ?」
 マサトの突然の行動に泉が若干変な声を上げ、それから彼女の頬がほんのり色づいたように見えたのは、マサトの気のせいだったろうか?
「お、おーきにさん」
 嬉しそうに泉は笑って、いそいそと携帯端末を取り出し自分の姿を確かめる。それからもう一度にへらっと笑った。
 喜んでくれたらしい。
「なぁハシバ、今度はあっち、行ってみよ?」
「ああ、ほら、そんなに急がなくても景色は逃げないぞ?」
「せやけどせやけど、たくさん見たいんやもんっ♪」
 急にはしゃぎ気味になった泉を、マサトは微笑ましい気持ちで見守るのだった。

●竹林
 次に二人が訪れたのは、竹林が道の両側に続く小径だ。
 たくさんの竹がまさに天を覆うほど高く伸び、視界が緑一色に占められるその光景は、どこか荘厳な雰囲気さえ漂う。
「ほぁぁ……竹林……すごいなぁ……空まで覆われてるみたいな……ほぁぁぁ……」
「ホントに、すごいな……」
 泉とマサトは二人して空を見上げた。
 普段はあまり意識したことはないが、マサトもどこででも見られるわけではない珍しい景色を見て、自分の心が澄んでいくような心地になる。
 万物に神が宿る国ならではと言うべきか、さっきの紅葉の景色もそうだったが、葉の色や形、生え方、見る者の心に訴えかけるほどに昇華した景観そのもの、その全てに神秘的な何かを感じずにはいられない。
 もう『ほぁぁ』しか言葉が出ない泉の気持ちもよく分かる眺めだった。
 縦長の竹がずらっと並んでいる中を歩いていると、外界から切り離され自分がどこにいるのか分からなくなりそうな隔絶感がある。まさに竹林の迷宮のようだ。
(上ばっかり見て危ないぞ。仕方ないな……)
 目が離せないのか上を見ながら歩いている泉の傍を、さり気なく離れないようにするマサト。
 ここでたしなめて泉の気分を盛り下げたくない。彼女がつまずかないよう自分が気を付けていればいいことだ。
 と、突然泉が足を止め、マサトに振り返り言った。
「なぁなぁハシバ、手ぇ繋ご?」
 笑顔で手を差し出す。
「ふむ。確かに、その方がより安全だな」
 マサトも迷いなく浅黒い肌の方の手を差し出し、泉の小さな手を握った。
「安全てもぅ……ぷぅ、子供扱いぃ……」
 拗ねたように頬を膨らますも、泉は満足そうに竹に挟まれた道を歩く。
 繋いだ手が温かくて嬉しい。
「えへへ、暖かいなぁ……ぽかぽかしよるわ♪」
 それは手だけではなかったけれど。
 だから泉は言葉にする。
「あんな、あんな……ウチ、ハシバのこと大好きやで♪」
 楓の葉のように染まった頬で、満面の笑みを湛えて。
「ああ、俺も泉のことは好きだ」
 優しい微笑みと共に返されるマサトの返事。
 泉はうん、と笑顔のまま大きくうなずいた。
 本気の答が欲しかった訳じゃない。ただ、この時間があまりにも幸せで、どうしてもマサトに伝えたくなったのだ。
 マサトは偽らずに『好き』だと返してくれた。それだけで十分だ。

(ウチの好きとハシバの好きに違いがあったとしても……、友達や思われとっても、そんでもいっちゃん傍に居りたいさかいに……)
 ――ハシバはウチの『特別』やから――

 今はまだ、マサトには伝えられない本心。言葉には出せない気持ちを、泉は胸の内にしまった。
 それでも、
(こうして手ぇ繋いでたら、周りからは恋人同士に見えるやろか……)
 竹林を見上げながら少しだけ、そんなことを考えた。
 そう考えるくらいは、竹林におる神さんも許してくれるやろ……?

 そんな泉の横顔を見ながら、マサトは先程の泉の言葉を考える。
 泉のことは、好きか嫌いかと聞かれればもちろん好きだ。それは嘘じゃない。
 泉は頼りになる仲間であり、可愛らしい友だと思っている。
 だけどそこに恋愛感情はあるのかと言われると、自分でも何とも言えなかったりする。
 きちんと一人の女性として見ているし、彼女から自分に向けられる好意に気付かないほどマサトは鈍感でもないつもりだ。
 でも――。
 簡単に答は出せない。
 今はただ愛すべき友人として、泉と手を繋いで歩こう。

 気付けばいつの間にかマサトの心が軽くなっていた。泉と手を繋いだ効果だろうか。
 しかしマサトはそれを面に出すことはせず。
「あ、あっちに紅葉もあるんやねぇ」
「神様のプレゼントが一杯だな」
「せやねぇ。ウチら得したなぁ」
 泉は竹林からその先の紅葉に視線を移し、景色以外の物も感じているかのようにのんびりと歩いている。
 マサトも泉の歩調に合わせながら、ゆっくりとその時間を楽しむのだった。

●茶寮
 竹林をぐるりと回り十分に堪能した後、その先に戻った道沿いに茶寮があった。
 休憩がてら、二人は立ち寄ることにする。
 外のテーブル席で緋布を敷いた椅子に座り、メニューを注文。
「ウチはお抹茶と八ツ橋とー、抹茶のシフォンケーキやて! これも頼もか♪ ハシバは?」
 店構えはガッツリ和風なのだが、メニューは若者に合わせた物も取り揃えているらしい。
「そうだな……、俺はお茶と、八ッ橋くらいで十分だ」
 しばらくすると注文の品がテーブルに並ぶ。
「早速いただきまぁす♪」
 泉は女の子らしくスイーツが好きなのか、幸せそうなほくほく顔でケーキや八ッ橋を頬張っていく。
「ん〜、お抹茶美味しいわぁ。それに、和風なんや洋風なんや分からんけど、このケーキも美味しいなぁ♪」
「そうか、それは良かった。なんならもっと頼むか?」
 泉の食べっぷりをにこやかに眺めながら、マサトはお茶をすする。
「ん、ハシバこそそれだけでえぇのん?」
「あぁ、俺は甘い物は苦手ではないが、お嬢さんが美味しそうに食べてるのを見る方が、腹が膨れそう、だ」
「そんなんじっと見んといてやぁ。マナー違反やでぇ」
「ははは、悪かった。でも遠慮せず食べるといい」
 笑うマサトに、泉はまた子供扱いされているなと思いつつも、もう一つスイーツを頼んでみたりして。

(楽しい時間はすぐに終わってまうなぁ……)
 ちょっとしんみりと、泉はお茶を飲みながら竹林の方を眺める。
「楽しい時はあっという間だな」
 泉の心の中を読んだかのようなタイミングで、マサトが言った。
 同じことを思ってくれていたのが嬉しい。
 思わず顔をほころばせ、泉も
「でも二人で小旅行はこれ一回てことないやろ? またどっか遊びに行こな!」
「ああ、そうだな」
「約束やで!」
 爽やかな風が吹き抜け、泉の髪をさらう。その時、マサトが髪に挿してくれたもみじの葉が落ちた。
「あっ……」
 せっかくマサトがくれたもの。
 泉は葉を拾い大事にハンカチの間に挟んだ。
(今日のこと、ウチ絶対忘れへんよ)
 紅葉も竹林もスイーツもマサトの姿も、全部忘れない。
 心に刻み付けるように、泉はゆっくりとお茶を飲み干した。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご注文ありがとうございます!

嵐山旅行、いいなぁと思いつつ、またそう思っていただけるように書かせていただきました。
泉さんの恋心の可愛らしさとかも感じてもらえたら嬉しいです。お二人の微妙な距離感は今後どう発展するのか気になりますね〜。
どうかご満足いただけますように。

どこかご希望と違う描写やご不満な所がありましたら、小さなことでも構いませんので(なるべくお早めに)、ご遠慮なくリテイクをお申し付けください。

またご縁がありましたら幸いです。

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2020年11月10日

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