イラストコンバート第二弾 ハイブリッドヘブン スタート!

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『それは心を映す鏡だから』
日暮 さくらla2809)&ラシェル・ル・アヴィシニアla3428

 その三学年年下の少女はまるで人形のようだった。彼女はにこりともせずその場に佇んでいて、子供らしい短い手足は今にも折れてしまいそうに細くもある。綺麗に切り揃えられた薄紫色の髪はまさに、春を象徴するあの花のようだ。俯いていた彼女が視線に気付いて顔を上げ、髪に隠れた金色の瞳が姿を見せる。それは例えるならば暮れる日のような意志の強さが覗き、人生が存外短いと知っているかのように煌いていた。目と目が合って、頑なに引き結ばれていた唇が緩む。振り返れば、これが初恋だったのかもしれない。それも一目惚れ――そう思い始めたのはつい最近のことなのだけれど。何れにせよ、今でも鮮明に憶えている記憶には違いない。
 ラシェル・ル・アヴィシニア(la3428)は閉じていた瞼を開き、思索を打ち切る。と同時にぱたんと扉の閉まる音がして、つい先程まで賑やかだった病室は嘘みたいにしんと静まり返った。今個室の主である日暮 さくら(la2809)の唇からは疲労を内包した吐息が漏れ出る。それからまたはっと気付いたようにさくらはこちらを見て眉尻を下ろし、口唇で微笑みを形作る。残酷な言葉が一つ零れ落ちた。
「私は一人で平気ですから、ラシェルも帰っても良いのですよ?」
 その言葉を聞いて、らしくないことに頭に血を昇らせ、けれどラシェルはそれをぐっと抑え込んだ。感情を剥き出しにすれば、余計に引いてしまうことは目に見えている。そもそもこんなにも感情が揺れ動くのは彼女の想いが痛い程に解るからだ。顔に出していないつもりだが、こちらを見返すさくらには伝わるものがあったらしく我が事のように僅か表情を歪めてしまった。つらいのは絶対に彼女自身なのに。落とした視線の先に映ったのは愛刀愛銃を握り締めるその手がギプスに固められて吊られている姿だった。
「……平気なわけないだろう。深手を負い、今この時期に戦線離脱を余儀なくされ――君が、何とも思わない筈がない」
 言い切ればさくらは困惑したように目線を彷徨わせて、枕側に近いベッドの傍に座っているラシェルからは顔が見れないように背けた。窓へと視線を向ける彼女の横顔は髪に遮られて見えない。ただ利腕ではない無事なほうの拳を固く握るのが見える。
 まだ故郷にいた頃、エージェントになる前も新米だったときも幾度となく自分達は挫折を味わった。何せ両親は世界を救い今尚それぞれの形で戦い続けている救世主。親世代と違い一人でも戦えることはノウハウを流用出来ないということでもあって、結果にキャリアは加味されず、その遠い背中を追い続けなければならないのだ。だがさくらはいつだって、気丈に振る舞い、最初はそのたびに己もこうでありたいと尊敬の念を抱いたものだが歯を食い縛って、その心情をおくびにも出さず目標に走り続けていてふと気付いた。彼女が何でもない顔をしていても、何とも思っていない筈なく苦しんできたことに。初めはその事実を多分同類だから、だと思った。実際に共感をすることは多い。けれどただそれだけなら、
(きっと寄り添いたいだなんて思わなかっただろう)
 そう心中で零すとラシェルは椅子から腰を浮かせ、さくらがお腹の前に置いているいつの間にやら小さく感じるようになった手に自らのそれを伸ばし触れる。その金色の瞳は初対面のときの印象と重なって見えて自覚は確信になった。
「俺は――君のことが好きだ。さくら」
「……っ!?」
 息を飲み、それから彼女は、
「な、何を言い出すのですか! こんなときに冗談だなんて」
 と、振り向き言うのでラシェルはただ一言「冗談じゃない」と平時通りのようでいて、微かに熱量を込めた声で返す。さくらははくはく唇を戦慄かせた。下手な慰めとでも思っていたのかもしれないと彼女の反応を見て思う。触れた手から伝わった体温は高く、それがじわじわとこちらにまで伝染しては腕を通して全身に広がるかのようだ。いや逆なのかもしれない。
「最初は同情だと思っていた。君は俺と同じで、格好悪いところを見せたくない相手がいるから」
 自身は妹、そしてさくらは弟妹と幼馴染――実のところ自分達は幼馴染だといってもそこまで親密な関係というわけではない。彼女と家族ぐるみの付き合いが多くあるのは年下の子供達で、断じて低く見積もるようなつもりではないのだが守ろうと思う対象であるがゆえに弱味を見せたくないというある種の子供じみたプライドもあり。さくらは俯いて沈黙を続けている。身体は強張りながらもけれど振り解きはしなかった。彼女の脳裏には先程までの光景が思い浮かんでいるのかもしれない。味方を庇い重傷を負ったさくらを心配し集まってきたのは、件の幼馴染とこの世界で出会った彼女の友人達だ。何事もなかったように普段と同じ愛想なくも感じられる顔で話をする姿に重苦しい雰囲気は直に霧散したがそれも虚勢で。強くて愚直な程に真っ直ぐなさくらはそれでもただ十九の少女で、時に頽れそうな足を奮い立たせている。
「だが、家族と同じように想っているだけなら、君に触れたいなんて思わなかった筈だ。俺は君を守りたいし、弱音を吐けるだけの存在になりたいし、今ここで抱き締めたいと思う。そんな俺は嫌いか?」
 そう全て口にしてから脳内に鳳仙花の鮮やかな赤が過ぎる。途端に喉がからから乾いていることを意識して、喘ぐように息を漏らした。
「いや、聞かなかったことに――」
「ラシェル」
 暫し告白とも呼べないような拙い言葉の羅列を耳にしていた彼女に名前を呼ばれ、いつの間にか深く下げていた視線を戻した。先程とは逆に今度は彼女が顔を上げ、こちらを見つめている。意志の宿った瞳は光り輝きながらも昼に憂鬱な時間を過ごしたとしても全て許せるような、穏やかな色味を帯びて見えた。
「私は、あの男にも、貴方にも負けたくありません。そしていつかサムライガールとしての道を極めます。ですが言葉少なでも、貴方は確かに私を支えていて、だから踏み留まれているというのも事実です。ですから、つまりその……」
 言い淀み、熱っぽい吐息を零したさくらは微笑みを浮かべた。その頬は名を体現するかのように桜色に染まっている。くらくら目眩がした。
「……ラシェル。私も貴方が好き、ということです」
 蚊の鳴くような声ながらも目はしっかりこちらを見返すのが彼女らしくて状況が状況なのに現金に愛おしく感じてしまう自分がここにいる。怪我をした腕を考慮すれば背中に腕を回し抱き締めるのは躊躇う代わりに、片方の手を寝台について上半身を前に倒し、赤い頬に唇を寄せた。そこと別の箇所にするだろうと思ってか彼女の肩はびくりと跳ね、睫毛を震わせ閉じていた金色が覗くと、すぐ恨めしそうに半眼になる、その一部始終を目を開き見つめていたラシェルは思わず緩く口角が上がる。
「……ちゃんと唇に……して、下さい」
 拗ねるように呟かれたその言葉は彼女の本音。勿論それに応えない理由などなく、頬に手を添えて顔の向きをこちら側に寄せると、二度目の間近に見るさくらの顔を目に焼き付けつつ顔を近付け瞼を下ろす。それが人生初めての好きな人に触れる、特別な感触であった。

 ◆◇◆

 背後から抱き締められる感触に、さくらは手元に落としていた視線を持ち上げる。少しだけ首を捻って真横を向けば、そこには確かめるまでもなく、陽光に当たると黒が紫色っぽく見える毛髪に覆われた愛しい恋人の頭が肩に顔面を押し付けるようにして乗っかっている様子がぼんやりとながら映る。それと同時に回された腕はさくらの腹部に回り、特別に痛みなどないのだが体温が伝わる程度に密着した。なのに言葉がないのはいつものことなので、邪険にするでも声を掛けるでもなく、眼鏡の奥側にある瞳を瞬かせるとなるべく動かないようにしようと心掛けつつそれを外す。視力が下がったわけではなく単にオンオフの切替えというか事務作業や先程までしていたように、何か集中したいことがあるときに掛けると効率良く動けるように慣らして以来、愛用している行為だった。尤も相手がラシェルである場合に限っては一ミリも機能しないのだが。持っていた本をテーブル上に置くと小さく音が響きそれで何か触発されたということもないだろうが、ラシェルが身動いだのが判る。
「さくら」
 と名前を呼ぶ声はくぐもり、病気に罹っているかのように弱々しくもあった。だがそのことには触れずさくらは「はい」とだけ応えた。そうしてまた暫し沈黙が降り、息苦しさなどは全く感じないのだが目線だけを動かして室内を軽く見回す。悪夢が蔓延るあの世界が救われ無事に故郷へ帰還した自分達エージェント。最終決戦の間際にまさかの初恋が実り恋人同士になって――帰る頃には幼馴染達にも筒抜けになっていて、両親には長らくの家出――転移を強行したのだからその表現が相応しいだろう――を詫びるもすぐに、戦場で培った勘なのか何なのか恋人の存在に気付かれてひと騒動があったのだがまた別の話の為割愛する。ただ結果だけ述べるのであれば双方の両親に認められて無事同棲することになった。なので、見えている光景は二人っきりの空間だ。日当たりのいい場所には以前ラシェルから贈られたハーバリウムを始めとする思い出の品が並び、数を増やしている最中である。と、常に背後の彼を意識しながら、物思いに耽ると声が聞こえた。
「俺の考えた作戦が、上手くいかなかった。仲間は誰も全く悪くない。事前情報にも不備はなかった――ただ俺の見通しが甘かった為に作戦が失敗しかねなかったんだ」
「……結果はどうだったのですか」
 意識せずとも声はとても穏やかなものになる。腹部に乗った手がぴくと動き、しかし首は上下に振られた。特に怪我もなかったらしいと少し安堵する。余りに長い沈黙が続いて、
「今のままじゃ、駄目だ。俺はもっと強くなりたい」
 その言葉は決して悲観的ではないけれど弱々しく、普段彼が妹の前では押し殺している弱音が微塵も取り繕うことなく引き詰められていた。元よりラシェルは自らを過大評価も過小評価もしない性質を持っているが何せ見本は遠い目標である両親の背なので理想通り動けない己自身を歯痒く思うことは多いと我が身を返り思う。尚、未だ現在進行形だが。
(……ですが嬉しくも思ってしまうのです。私が貴方の特別な人であるという証明だから――)
 ラシェルの手に己のそれを重ね優しく包み込んだ。慰める言葉を告げるのは簡単だ。けれど似た者同士だから本人が納得していないことを肯定しても何の意味もないと痛いくらい解っている。
「私はいつでも貴方の傍にいます。今までもこれからもずっとずっと隣を歩いていきますから」
 薄い服越しに体温が伝わってきて心地良さに眠りへと誘われた。両目を閉じれば顔を上げたラシェルが口を開く。
「そう言われると俺はますます君のことが好きになって、もう二度と離れられなくなってしまいそうだ」
 ――一見すると余りに熱烈な口説き文句。それが嬉しいものなのも確かに間違いないが。
「離れる気なんてないのでしょう? 勿論、それは私も同じことですが」
「あぁ、そうだ。もしも嫌だって言われたとしても俺も離れたくないな」
「その言葉が聞けて私は満足です」
 そう返せばラシェルは嬉しげに吐息にも似た笑い声を漏らした。後ろから抱き締められるのも勿論好きだけれど流石にしっかりと顔を見たくなってそしてそれは彼も同じだったようだ。やんわり離れる手に逆らわず重ねるのをやめて振り返りそのままラシェルのほうに向き直る。そして、まるで睨めっこのように目と目を合わせた。ラシェルは見た目ではこの瞳が特段好きらしい。一番さくららしくていいと言われても言われた側からするとどの辺がいいのかまるで解らないのだが。ラシェルは弓矢、自身は刀剣と銃を持つ大事な手を今は、最愛の人と触れ合う為に使いたい。高い位置にある彼の顔がかくりと傾き、額が触れ合った。ラシェルの瞳は彼の母と同じ色で、けれど人のことはいえないがどんなに楽しいときでも大笑いはしないその気持ちを物語るようで愛おしい。
(――あぁ、そういうことなのですね)
 自分達は似た者同士で、この先もより似ていく関係だから。きっと殆ど同じことを思っている。眼鏡はなくても目の前にいるラシェルにだけ集中しそして溺れていく。幸せが募る毎日と彼を愛して――。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ここまで目を通して下さり、ありがとうございます。
今回は二人の恋愛IFと聞いてあまり幼馴染っぽくは
ないかもしれませんがやはり強くなることに対して
ストイックなところと年長者として頑張るところが
共通点だと思っていて(愛想がなく見えるところもですが)
そこに共感からの、実は言葉少なな優しさに惹かれていた、
みたいな感じでふんわりイメージしてみました。
IFということでさくらちゃんに大怪我をさせてしまいましたが
そのままラシェルさん達に託したのでも復帰し参戦したのでも
特に考えていないのでお好きに解釈していだければ。
二人共普段はベタベタしないけれど支え合える関係的な……!
今回も本当にありがとうございました!
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2020年11月11日

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