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『スイッチ』
桃李la3954


 桃李(la3954)はグスターヴァス(lz0124)とペアを組んでナイトメアの討伐へ向かった。グスターヴァスが後方支援、桃李が前衛での立ち回りだ。鉄扇が閃く度に、房飾りと鱗粉が舞い、その中で長い手足を振るう桃李は演舞を見せているかのようでもあった。
 グスターヴァスのフレイムロードに合わせて、桃李が死霊沼を発動。身動きが取りにくくなったそれらを、パワーツイストで巻き込んだ。弱ったものは、桃李が鉄扇や鞭で各個撃破していく。削れたシールドはグスターヴァスが回復した。ペアであることはわかっていたので、ツインヒールだ。雨雫よりちょっとだけ回復量が多い。ちょっとだけ。

 二人の連携攻撃で、ナイトメアは数を減らして行った。最初に聞いていた情報よりも数は多かったが、落ち着いて掛かればどうということはない。少々時間は掛かったが、どうにか討伐は済んだ。

「ふぃ〜終わりましたね」
 周囲をざっと見て回る。討伐完了と見て良さそうだ。
「じゃ、戻りましょうか」
「そうだねぇ。帰ろうか」
 帰り支度をしていると、背後で音がした。おや、と思って振り返ると、猛烈な勢いで、猛禽の姿をしたナイトメアが突っ込んで来るのが見えた。さっき見て回った時は気付かなかった。見逃したのか!
「ひぇっ!?」
 イマジナリーシールドは解除していて、慌てて張り直そうとしたが、タッチの差でナイトメアが早かった。くちばしがグスターヴァスの腕を掠める。分厚い装備を切り裂いて、皮膚を割いた。血が飛び散る。
「痛っ!?」
 思わず悲鳴を上げてしまった。桃李に、このまま逃げるか対応するかを相談しないと。そちらを向いて……グスターヴァスは息を止めてしまった。
「……」
 桃李はまったくの無表情だった。いつも面白げに笑んでいる、瑠璃の瞳は怒気すら感じられる。
「と、桃李さん……?」
 スキルも尽き掛けていますし撤退を……と進言しようとしたグスターヴァスの目の前に、鮮やかな色彩と模様が一杯に広がった。桃李の着物だ。
「わっ」
「グスターヴァスくん、コレちょっと預かっててくれるかな?」
 着物をキャッチして再び見えた桃李はにっこりと笑っていた。先ほどの無表情を見てしまっているから、その落差がいっそ恐ろしい。
「──すぐに終わらせてくるよ」
「は、はい……」
 ナイトメアの方を見た桃李の背中は、着物がない分、随分と小さく見えた。けれど、何故だろう……いつもより大きく感じる。
「桃李さ……」
 次の瞬間、桃李は地面を蹴った。


 残り一回の氷閉ざす銀で機先を制する。攻撃にふらついた鳥が反撃に突っ込んで来るのは、まだ残っていた神速幻舞の恩恵で回避。桃李には羽一枚触れることが叶わない。なびくのは後ろに長く伸ばした髪の毛だけで、いつもは面で立ち回る桃李が、今日は線で戦っているように見えた。
 先日、アフリカ関連の任務で、キャリアーの上で戦う機会があり、その時も彼は着物を脱いでいた。が、そのキャリアーを操縦していたのがグスターヴァスで、おまけに操縦と回復に忙しかったので桃李の様子を眺める余裕などなかった、
 だから、着物のない桃李が戦う姿はひどく新鮮に思える。着物を抱きかかえながら、固唾を呑んで見守った。その緊張は、桃李が単騎で挑んでいるからなのか、はたまたその新鮮な姿になのか。
 双蝶【鳳】が翻る。その薄い金属が空を切る音がグスターヴァスのところまで聞こえた。笑い声の様だ。事実、相手を嘲笑うかのように桃李は回避し、接近して斬りつけ、時に下がって術を行使する。死霊沼の手が鳥の脚を掴んだ。反撃に飛ばされた羽根は回避し、再接近して鉄扇で打つ。羽毛と悲鳴が飛び散った。


 徐々に生命を削られていった鳥は、やがてとどめの一撃を受けて断末魔を上げた。辺りには羽毛と血が飛び散っている。桃李は鉄扇を閉じると、軽い足取りでグスターヴァスの元へ戻って来た。
「ありがとう」
 そう言って、グスターヴァスが抱きしめていた着物に手を伸ばした。グスターヴァスは慌てて離す。桃李は少ししわになったそれを羽織り直した。腕を出して、グスターヴァスをひょいと横に抱え上げた。いわゆるお姫様だっこである。
「ととととととと桃李さん!?」
 これにはグスターヴァスもびっくり。桃李はにっこり。
「よし、じゃあ帰ろうか。丁度この近くに病院があったからね。そこで診てもらおうね」
「脚は無事なので歩けますが!?」
「駄目だよ。君は怪我人なんだから。大人しくしてるんだよ?」
「は、はひ……」
 桃李は痩躯のどこからそんな力を出しているのか、特に苦労した様子も見せずに病院へ向かう。
 その病院の待合室に座っていた患者とその付き添い、受付の職員は、桃李がグスターヴァスを横抱きにして入って来たのを見て、目を丸くしたという。


 グスターヴァスが診察を受けている間、桃李は待合室で長い脚を組んで座っていた。

 元来、桃李はそこまで他人に興味がない。面白ければそれで良い。
 けれど……気に入った人や物を傷つけられたら流石に怒りは覚える。飄々として、喜楽を見せることが多く、怒悲哀と言った感情は滅多に見せない彼だが、怒りや悲しみがないわけではないのだ。

 さっきも……グスターヴァスの腕を猛禽が裂いた時、自分がいつも湛えていた笑みが、意識せずともすーっと引いていくのを感じた。言葉は冷たく鋭く。けれど、逆に冷静になって、頭が冴えた。自分が何をすべきか、がよりクリアに見える。だからと言って、普段訳もわからず戦っているわけでもないが。

 桃李が着物を脱ぐ時。それは本気になったことを意味する。こちらも、別にいつもが手抜きと言うわけではない。ただ、意識を切り替える為のスイッチの様なもの。
 徹底的に、可及的速やかに敵を排除せよ。これ以上彼が──お気に入りが傷つけられる前に。

「ふぃ〜久しぶりに縫う怪我しましたよガハハ」
 処置室が開いて、中からすっかりいつもの調子を取り戻したグスターヴァスが出てきた。桃李は立ち上がり、
「大丈夫かい?」
「ええ。抜糸には来ますけど、特に何かヤバ目なことはないみたいです。よかったよかった」
「安心したよ」
「ありがとうございました」
 グスターヴァスはぺこんと頭を下げる。彼が顔を上げた時に見た桃李の顔は、もういつもの読めない笑みに戻っていた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
やだ……桃李さんがイケメン……!? ってときめいちゃいますね!
何かを外して本気モード、素敵だと思います。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年11月11日

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