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『JOLでTOT!』
LUCKla3613)&ソフィア・A・エインズワースla4302)&アルマla3522

 街のただ中でLUCK(la3613)はふと足を止め、竜尾刀「ディモルダクス」を握り込んでいない左手を見下ろした。
 うむ、ついている。
 見覚えどころか二時間前には存在すらしなかった、でかい割に軽い追加装甲が。
「あ、みぎうえのボタンおしてくださいです」
 竜尾刀、その多節刃の先に腰をくくられ、もっちもっち歩いていた全長80センチの謎生物がもちもち駆け寄ってきて、言った。
「どちらから見て右上だ? ――これか」
 意外にもためらいなく、LUCKはぽちー。すると装甲から『Yes master.JOL starting』とかいうアナウンスが流れ出して変型、変型、変型。
『Mode“TOT” Dammit』
 果たしてLUCKの左手に仕上がった黒きジャックオーランタンが咆吼し。
 LUCKは『Holy Shi』の先をランタンに言わせないよう、ふんすふんすしている謎生物の顔へむにゅっと押しつけた。
「俺の品位が疑われるような外装を追加するな」
「わふふふ、ラクニィはおかんがえがあさいのです。だってきょうというひは、はろいんなのですから!」
 すっかり顔は潰れてしまっているはずなのに、特に困った様子もなく言い切る謎生物の名はアルマ(la3522)。
 LUCKの生身の中枢神経系が収まる義体の整備や改良を担う技師であり、実年齢はそこそこのものであるらしいが……
「JOLがジャックオーランタンの略であることは確信したが、TOTが意味するところを吐け」
 吊り下げられたアルマは背中を反らして胸を張りつつ「トリックオアトリートです!」。
「はろいんはおこさんがおとなさんとゆかいにあそぶいちにちですよ? ラクニィはおかおがむっつりなのでおこさんにもてもてないです。なのでぼくがひとはだぬぎぬぎしたしだいなのです」
 なるほど。LUCKはツーポイントフレームで鎧った両眼をすがめ。
「おまえの心遣いに気づけなかったのは俺のミスだがしかし」
 器用に竜尾刀を繰ってアルマをぐるぐる巻きの刑に処した。
「これでは子どもへ向かうより前に、不審者として連れていかれるだろうが」
「わふわふ。じつはきりはなしてあたまにかぶれるですよ?」
「黒ずくめのカボチャ頭などますます不審者だろうが」
 言い合うふたりを少々離れた位置から見ていたソフィア・A・エインズワース(la4302)は今、かなり深刻に悩んでいた。
 ちなみに彼女、完璧な演技で他人の振りをしている。いや、知り合いと思われたくないのではない。むしろ逆だ。
 なにあれふたりで楽しそう! あたしも混ざりたいんだけどー!!
 でもあたし、兄貴みたいにできないしなー。あー、あたしも幼女にしてもらっとけばよかった? でもなー、うーん。幼女だとたいちょー普通に誘拐犯だよねー。
 双子そろってLUCKの見た目を保証できないあたりは置いておいて。彼女もまたアルマ同様、LUCKとは非常に太い縁の糸で結ばれた存在なのだ。平たく言えばいっしょに騒ぎたい。誰もが弁えてしまっていたあの頃にはできなかったからこそ。
 そうだよね。
 体裁もしがらみも引きずってきたものも、今は忘れよう。それを誰よりうまくやれるのが自分の取り柄だし、今このときをなにより大切にしたいのが自分の望み。
「たいちょーっ!」
 賑々しく突撃したソフィアはぶら下げられたアルマを押し退け、LUCKへしがみついた。
「FTOTどっち!?」
「おまえまで参加してくるな! それからFはなんだ!?」
「ファーストだよ! たいちょーの今日初めてのTOTはあたしがいただく!」
「いちいち略さなくていい! そもそも俺は菓子など持っておらん!」
「わふふ。ひだりしたのボタンぽちるとおかしでるですよ?」
「このやけにカサカサした感じはそれか!」


「無意味に疲れた……」
 行きつけの喫茶店のいつもの席で、げんなりため息をつくLUCK。
「今後、なにかしらのイベントがある日はもち犬の散歩を控えるか」
「だいはんたいです! ぼくのきちょーなおさんぽタイムはゆずれません!」
 向かいからずびしと手を挙げたアルマに続いたのは、彼のとなりに座ったソフィアである。
「あたしも反対。だってたいちょー、こういうときじゃないとあたしたちに付き合ってくんないし。小隊の部下との交流も大事だよ!? たいちょーの務めってやつなんだからね!」
 実際、LUCKはいそがしい身である。依頼から依頼へ飛び回っていることはもちろんだが、休日のほとんどをとある女の待ち伏せに費やしているせいで。
 だからこそ定期メンテナンス日はアルマと、加えてソフィアにとって貴重な「LUCKと遊べる日」になっているのだ。
「いや、おまえら結構な時間俺にくっついているだろうが」
 小隊のたまり場ではもちろん、とある女に振る舞いたいと料理を研究していればどこからともなく現われるし、ひとりで息をついているといつの間にか横に居たりもする。それがまるで迷惑に感じない理由、LUCK自身にもまるでわからないのだが……
「わふ、それはそれですよ」
「えー、それはそれでしょ」
 同時に言ったアルマとソフィアは同時にずいとテーブルへ乗り出し、無言でプレッシャーをかけてきた。
 この目で見られるとな。LUCKはもう一度ため息をついてふたりの額を押し戻す。
「わかった。それで、今日はなにかしたいことが」
 あわてて口をつぐんだときにはもう遅い。
 アルマとソフィアは同時に言ったものだ。
「はろいんするです!」
「ハロウィンしよー!」
 今夜、街では商工会主催の仮装行列が催されるらしい。夜が来れば仮装した人々が繰り出してきて、結構なお祭騒ぎになるはずだ。
「人外の仮想をして菓子を配る……まあ、サイボーグの俺なら仮想はいらんか。あとはおまえたちだが」
「ラクニィはぜったいわんこのおみみつけるです! だってけなげでいちずでしつこくてすとーかーで」
 このよくわからん機械カボチャ以外にまだ仮装させる気か!? と訊くよりもなによりも、アルマのセリフの後半部に刺されるLUCKである。しつこくてアレな自覚はあるのだ。あるのだが、けなげと一途で止めておいてくれるのが人情なのでは!?
「たいちょー絶対猫耳だから! ダッシュして回避して一発決めるって戦闘スタイルがもう猫だし、こないだ猫集会に混ざってるの見たし! 日向のベンチに座って猫に囲まれてて……猫? え、あれ? もしかして、おじい、ちゃん?」
 うん、隊長の特性を把握しているソフィアは偉い。加えて確かに猫集会の真ん中へ居合わせたこともあった。あったけれども。最後の疑問はさすがにだめなやつなのでは?
「わふわふ! わんこでぼくとおそろいなのです! ちょーこうきどーじりつがたしっぽもつけちゃうです!」
「だめだめ! あたしとにゃんこ合わせするんだから! しっぽは……たいちょーかわいくないからなー。あ、語尾ににゃんとかつける?」
「俺の体裁というものを少しは慮れおまえたち」
 ふたりの頭をがっしと掴んでアイアンクロー、「きゅー」、「たいちょーギブギブ」と降参させるLUCKである。
「出来はあれだが、せっかくカボチャがあるんだ。俺はこれを被る。仏頂面さえ隠れれば、子どもも少しは安心してくれるだろう」
 すぐスラングをしゃべろうとする怪しいメカカボチャとはいえ、使えるものは使う。それが戦場でも日常でも変わることない「当然」というものだ。
 が、双子はそろって残念そうな目を彼へ向けてハモった。
「うわーむじかくだあー」
「わふーむじかくですー」
「なにが言いたい? 意味がわからん」
 LUCKの顔方面の無自覚については「お約束」なので置いておいて。

 アルマとソフィアに絡まれたり取り合われたり共闘されたり、その合間に買い出し指示を出したりしているうちに夜が来る。
『家族連れがメインとなるのは精々が21時まで。いや、安全を考慮し、20時をリミットとしておくべきだろう。それまでにひとつでも多くのターゲットへアタックするぞ』
 メカカボチャを頭部に装着したLUCKの言葉に、猫少女コスのソフィアと犬のようなものコスのアルマはかぶりを振った。
「たいちょー。ここ、戦場じゃないんだからね?」
「じぶんでつくっといてなんですけど、カボチャこわいですし?」
 LUCKがしゃべると無駄に目が光り、オオオとおどろおどろしい低音が鳴るギミックつきのカボチャである。夜道でいきなり出くわした幼児、号泣必至。
 しかしLUCKは自信ありげに言うのだ。
『恐怖の先にある甘やかな菓子を掴ませる方法について、俺なりに考えていることがある』


 ぎゃー。わたわたママゾンビの後ろに隠れようとしたドラキュラ小僧を見るやいなや、LUCKがソフィアへ告げた。
『右を塞げ!』
「了解にゃあっ!」
 小僧の逃げ道を塞ぎに滑り込んだソフィアがギラリと目を光らせ、「ギシャー!」。
「悪い子はいにゃいかあああああ!?」
 セリフはかわいいのに、無駄な演技力が発揮されるせいでもう小僧絶叫、生き地獄である。
『アルマ!』
「わふー!」
 その間に、今度はアルマが左からもっちり小僧へ迫り、
「わふー、ぼくのほっぺをひっぱるです。みわくのもっちりほっぺですよ?」
 信じられないくらい伸びる! 小僧の恐怖に塗り潰されていた心がちょっと開いたそのとき。
『さあ言え。今日という日にふさわしい言葉をおまえの口で』
 鍛え抜かれたボディを黒き衣装で鎧ったお化けカボチャがおどろピカおどろピカ、小僧の背後に仁王立ち、告げたのだ。
 ここまで来たらもう、ママも半泣きである。アルマのほっぺたをもちもち引っぱりながら赦しを乞うよりなくて。
『いや、始めから脅してなどいない。ただ言わせたいだけだ。ハロウィンといえば……あるだろう? トで始まりトで終わる決めゼリフが』
 おどろピカおどろピカ。
 あまりの圧にママと小僧はひしと抱き合い、回らぬ舌でついに言ったのだ。トリックオアトリート?
『無論トリートだ』
 満足げにうなずいたLUCKはメカカボチャにけろりとクッキーの包みを吐き出させ、それをそっと渡した後、『いいハロウィンを』。

 ソフィアの作戦タイムの要求に、LUCKは彼女とアルマを連れて一度路地裏へ引っ込んだ。
「たいちょー、考えってまさかあれ!?」
『うむ。不器用ながら精いっぱいJOLを演じてみた。最近、映画に親しんでいることもあるのでな。とはいえやはりソフィアにはかなわんが』
 どうしてこの人はこう、戦場以外だとこうなのか。絶望したソフィアだったが、実のところ自分もそこそこ同じジャンルを演じていることには気づかなかった。
「でもさ、たいちょー怖がられてるよ?」
『俺はただ菓子を配りたいだけなのだが……』
「だよね。しょうがないから先にあたしが怖がらせといて、たいちょーが助けに入る感じで」
 こうなれば、もっちりもとい、しっかりしなければならないのはアルマである。
「わふ。ここからぼくがしきをとるです。ラクニィとフィーはぼくのいうとおりにしてください」

『子ども、トリックオアトリートと言え』
 おどろピカなJOLが愉快なポーズを決めて言い放てば、脇からすかさずかわいさばかりを押し出した猫少女が「これがジャック界の“はじめまして”のポーズにゃ♪」と告げ、もち犬が「わふー」、お腹を出す。
 誘導→解説+かわいい→癒やし。完璧なフォーメーションかと思われたが……
 うちは間に合ってますので。親はアルマの腹をなでようとした子を引っぱり、キャッチを避けるがごとくに去って行く。
『む、逃がすな!』
「ヴァニャーっ!」
 すばらしい体捌きでLUCKが親子の前を塞ぎ、『菓子をくれてやるまで俺はけしておまえたちを逃がさん』。
 背後からうなり声を滴らせて迫るソフィアは「言うにゃあああああ、ティーオーティぃぃぃぃぃ!」。
 考えてみれば、生真面目なLUCKがこうしたイベントを気にすることはなかっただろうし、ソフィアはこちらの世界へ来たばかり。ふたりのハロウィン知識は相当にふんわりしているのだろう。
 ぼくが――ぼくががんばらなきゃです!
 そのもちぷりボディを立ちすくんだ親子の前に放り出し、お好きに愛でるがいいの構えを取ったアルマだが、彼もまた気づいていなかった。親子の踏み出す先を、自分が塞いでしまったことに。
 菓子の善意が過ぎればいたずらとなり、いずれ悪夢となる。3人が貴重な教訓を得るまでには、まだまだ時間がかかるのだった。

「……トリートだ」
 結局。メカカボチャを脱いだLUCKは案の定――本人的には不思議ながら――子どもならぬ女子とご婦人から菓子をねだられまくることとなり。
「はいはいトリートね! って、お触りは子どもだって反則だよー!」
 ソフィアはそのチャーミングさから子どもに大人気。LUCKの解せぬ視線に後頭部を灼かれるはめに。
 さらに指揮官たるアルマはといえば……幼児全般、特に幼女先輩方の絶大な支持を得て、連れて帰るの大合唱を浴びている。
 それでもぼくはやりとげたのです! ラクニィとフィーとさんにんではろいんを!
 あちこちから引っぱられてにゅうにゅう伸ばされながら微笑むアルマの顔は、大悟を得た修行僧のごとくに澄み切っていた(気がしなくもない)。


 リミットの20時を迎える頃には、買い足した菓子も尽きていた。
 かくて3人は名残惜しむように、ゆっくりと帰路を行く。
「きょうはタフないちにちだったです」
 ほふー。伸びたほっぺたをむにむに、形を整えるアルマにソフィアがうなずいた。
「だねー。ハロウィンがなにかわかったし、来年はもっとちゃんとやんなきゃ。あ、たいちょーもだよ?」
 水を向けられたLUCKはうなずくでもかぶりを振るでもなく、苦笑した。
「来年のことよりも今年のことだ」
 疑問符を飛ばすソフィアとアルマに、右と左の拳を伸べて。
「おまえらにもトリートだ」
 最後にふたりへ渡すため、取っておいた2枚のクッキー。これで今年のハロウィンを締めくくる……実にいい感じの締めだったはずなのに。
「お菓子よりいたずらがいい! だって今日、あたしたちお菓子配ってばっかでぜんぜん遊んでないし!」
「わふー! ぼくはとってもがんばったので、おさんぽとかよしよしとかわしゃわしゃとかのいたずらをよーきゅーするです!」
 クッキーはしっかり奪い取っておきながらこの言い様。
 果たしてLUCKは息をつき、
「よし。ではこうしよう。俺から逃げ切って家まで帰れたら次の日まで遊んでやる。ただし俺につかまったら、いたずらの域を越えた恐怖を味わわせる」
 わふー、りふじんですー! たいちょーの鬼ー! 言いながら逃げ出すアルマとソフィアを追い立てながら、LUCKはやさしくその目を細めた。
 無論、手加減はせんがな――!


イベントノベル(パーティ) -
電気石八生 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年11月13日

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