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『火の山に巣食うもの』
小宮 弦方la4299

 その日、小宮 弦方(la4299)が任されたのはとある山での任務だった。
 山には未だに溶岩が吹きあがる火口があり、地球の息吹を感じられる場所として見学に訪れる人々も多いという。
 しかし最近、見学路の付近でナイトメアの姿が目撃され、火山の調査に訪れた研究者や登山者が行方不明になる事件が多発していた。
 そのため、ライセンサー達が調査に入ることになったのだ。
「今のところ、ナイトメアの気配はありませんね。自分は少し、北側の方を見てきます」
 弦方は仲間たちと手分けしてナイトメアの痕跡を探していた。
 しかし北側の斜面にできた洞窟の入り口に弦方が近づいた時、事件は起きた。
 突如足元の地面が崩れ、そのまま地下深くへと勢いよく滑落したのである。

(まさか洞窟の入り口が崩れるなんて……巻き込まれたの、俺だけだよな?)
 弦方はペンライトで周囲を照らしながら状況を確認した。
 周囲には硫黄の臭いが漂い、どこからか風が吹き込んでいた。
 上を見上げると、自分が落ちてきた場所は遥か上にあり、自力では登れそうになかった。
「あ、小宮です。聞こえますか? ……はい、無事です。実は北側の洞窟から地下に……」
 弦方はインカムで外部にいる仲間に連絡を取り、救助を要請することにした。
 多分、ロープか何かを下ろしてもらえば大丈夫だろう。
 だがそう思っていたその時、暗闇の奥から獣の唸るような声が聞こえてきた。

「小宮です。ナイトメアを見つけました。このまま奥を確認します」
 インカムに向かってそう報告し、弦方は足音を立てないよう静かに奥へと入っていった。
 次第に周囲が青緑色の光を帯び、明るくなり始めていた。
 明かりの正体は洞窟の地面や壁に生えた夜光茸の一種のようだ。
(大きなキノコだな。なんだか昔、何かのおとぎ話で読んだ地底の世界みたいだ)
 幻想的な光に包まれた地底の未知の世界だ。
 次第に大きくなる夜光茸のカサをかき分けながら、弦方は思わず気分が高揚するのを感じた。
 だが、そんなファンタジックな空間の奥に、「それ」は潜んでいた。

(まさか、こんなのが隠れてたのか)
 巨大な夜光茸のカサの陰から、弦方は岩の上で蜷局を巻く巨大な黒い生き物の姿を確認した。
 ワニのような大きな頭、針のような光沢を持った硬い鬣(たてがみ)と長い髭、そして魚類のヒレを思わせる大きな翼が確認できた。
 ドラゴンだ。
 弦方は目の前のそれをそう認識した。
「小宮です。ナイトメアの居場所を確認しました。場所は――」
 声をひそめ、弦方はインカムに向かって伝える。
 だがその時、大きな頭がゆっくりと持ち上がり、金色に輝く2つの目が弦方をカッと見据えた。
「……! 気づかれたか!」
 漆黒のドラゴンは哺乳類を思わせる大きな耳を持っていた。
 恐らく、僅かな音をも聞き漏らさない優れた聴覚を持っているのだろう。
 こうなっては戦うしかない。
 弦方は葬剣「アルタイル」を手にし、構えた。

「来い!」
 殺気を露にした弦方に対し、ドラゴンは咆哮し、警戒の意を示した。
 そして大きく口を開け、長い体をくねらせて向かってきた。
(突進されるのはまずいな)
 弦方は剣を振るい、エネルギーの刃を飛ばしてドラゴンを牽制し、距離を取ろうと試みた。
 だがドラゴンは刃をその硬い体で跳ね返すと、弦方の攻撃などお構いなしといった様子で突っ込んで来た。
「うわっ!」
 弦方はとっさに夜光茸のカサの陰に身を隠した。
 ドラゴンの巨体が岩にぶつかる音が響き、夜光茸の胞子が洞窟中に飛び散り、燐光が弾ける。
 僅かにできた岩の窪みを見つけて飛び込むと、弦方はどうにかこの窮地を脱する方法を考えた。
(ここはあいつの巣なんだ。下手な動きをすると食われる)
 じゃらりと硬い鱗の生えた体をくねらせ、ドラゴンは再び弦方を狙おうとする気配を見せていた。
 今弦方がいる位置であれば、ドラゴンは容易に飛び掛かってこられないように見えた。
 ドラゴンが弦方を一飲みにしようと口を開けても、手前の突き出た岩に阻まれて失敗しそうな地形だ。
(一か八か……誘いをかけてみるか)
 弦方は剣を構えなおし、再びドラゴンに向かってエネルギーの刃を飛翔させた。
 案の定、ドラゴンは咆哮しながら弦方に食いつかんと飛び掛かって来た。
 そして弦方が岩の窪みに身を引いた瞬間、ドラゴンはガキンという音を立てて頭部を岩に強打した。

「今だ!」
 弦方は意を決して飛び出した。
 狙ったのはドラゴンの喉元だった。
 剣を振りかざし、葬剣「アルタイル」の刃を直接そこに突き立てる。
「グォオオオオオオオ!!!!」
 ドラゴンが咆哮し、体をくねらせた瞬間、弦方は自分の体が地面から離れるのを感じた。
 剣を突き立てられたドラゴンは弦方をぶら下げたまま、勢いよく宙へと舞い上がったのである。
「わぁあああああああ!!!」
 弦方は剣の柄を握りしめたまま、強力な力で空中へと引っ張りあげられた。
 ドラゴンはそのまま勢いよく洞窟の天井を突き破り、ぐんぐんと上昇していく。
 そしてまぶしい光と共に、地上の空の下へと飛び出したのである。
(ああ、火山が……!)
 弦方はさっきまで自分のいた山と噴煙を上げる火口を自分の遥か真下に見た。
 ドラゴンは空中で一回転すると、今度はそのまま地上に向かって急降下していった。

(手を離したら、終わりだ!)
 葬剣「アルタイル」をあらん限りの力で握りしめ、弦方は急降下の衝撃に耐え続けた。
 弦方を振り払うつもりだったのだろう。
 ドラゴンは真下の森に落下すると、木々の枝葉を突き破って無茶苦茶に飛び続けた。
 だが弦方も歯を食いしばり、それに耐え続ける。
 すると前方に見えてきたのは、真っ赤に煮えたぎる溶岩の湖だった。
(嘘だろ?! ま、まさか……あそこに!)
 あろうことかドラゴンは摂氏1200度もの溶岩の淵へと向かっていた。
 もしもあの中に振り落とされれば命はない。
 弦方は必死で手を伸ばし、ドラゴンの髭を掴んだ。

「止まれ!!」
 引き抜かんという勢いで、弦方はドラゴンの髭を思い切り引っ張った。
 その瞬間、ドラゴンが大きな悲鳴を上げた。
 真っ黒な体が大きくのけぞり、バランスを崩す。
 目の前には巨大な岩が迫っていた。
(ぶつかる!)
 身体に大きな衝撃を感じ、弦方は引き抜けた剣と共に空中に投げ出された。
 そしてそのまま、低木の茂みの中へと落下した。

(間一髪……だったのか?)
 幸い溶岩の中に落とされることはなかった。
 だが弦方が顔を上げた時だった。
 そこには怒りに牙を剥くドラゴンの頭が迫っていた。
「ここまで来て、食われてたまるか!!」
 ドラゴンの頭が迫った瞬間、弦方は最後の力を振り絞り、それを回避した。
 そして剣を振りかざし、ドラゴンの喉奥めがけて突き立てた。
「ガァアアアア……!!!!!!」
 真っ赤な血が勢いよく噴き出す。
 ドラゴンはそのまま、冷え固まった真っ黒な溶岩の大地に倒れ、暫くしてピクリとも動かなくなった。

 一連の事件を起こしていたのはこの黒いドラゴンだったのだろう。
 その後、火山周辺でのナイトメアの目撃情報はピタリと止み、SALFの調査でも安全が確認された。
 不思議な事に、弦方が目撃したドラゴンの巣やあの夜光茸の森はいくら調査しても再び発見されることはなかった。
 だがいつの日か、好奇心旺盛な探検家か誰かがまたあの場所にたどり着く日が来るのかもしれない。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼ありがとうございました、九里原十三里です。
今回はおまかせノベルという事で、小宮 弦方(la4299)さんのお話を1から作らせていただきました。

キャラクター設定から「冒険好きなのかな?」という印象を受けましたので、SALFの依頼と絡めつつ、少しファンタジックな演出で書かせていただきました。
舞台は地球なのですが、もしかしたらナイトメアがいなくてもまだまだ未知の何かがあるかもしれないですよね!

それでは改めまして今回はご依頼ありがとうございました。
最後までどうぞ、グロリアスドライヴをお楽しみください!
おまかせノベル -
九里原十三里 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年11月13日

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