イラストコンバート第二弾 ハイブリッドヘブン スタート!

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『約束の行方は何処へ』
柞原 典la3876

 久方振りの食事を口にしながら柞原 典(la3876)は今朝方の記憶を辿る。今日も彼と逢う夢を見ていたような気もするがどうにも定かではないし、むしろあの日憶えていたことが不思議な程。ある種運命じみたものを感じてしまったのは毒されたせいか。
 結局三分の一程を残して食事を終えると、近頃はリビングに置きっ放しのスマホを持って家を出た。平日のバスは立たねばならない程人は多くなく、真横も空いている窓際の席に腰を下ろすと、頬杖をついて流れる景色を眺めてみる。碌に飲食もせず生きる日々は死んでいる状態と似たようなもので、昔から一度も抱かずにいた筈の生きる理由というものを失ってしまった現実を嫌という程思い知らされる。今自殺しても悲しむ人間は多くはない。
(俺はそれでもまだ、生きなあかんのやろ、きっと)
 心の中で典は呟き、手慰みに弄っていたライターを絶対に落ちないようにポケットの奥に深く仕舞い込んだ。バスに暫し揺られてやがて辿り着いたのはSALF本部で、今もそれなりにいる人々の間をすり抜け貼り出された依頼に目を通す。社会人経験がある為、よく解っているが身寄りのない人間が生活をし続ける為には、それなりの金が要る。とはいえ今戦闘系の依頼を受けても碌な結果にならないのは目に見えている為、非戦闘系に絞って調べた。ライセンサーはナイトメアに対抗し得る存在であり、故に英雄視されていてある種広告塔と機能するので、その手の依頼は案外多いのだ。暫しして目に留まったある依頼を受け、帰宅することにした。

「写真……写真なぁ」
 受諾したはいいが、いざやろうと思うと手に付かない。先日典が受けたのは『何でもいいから写真を撮って欲しい』という不思議な依頼だった。本職もいなくはないがライセンサーは写真家ではないし、典もプロを雇う予算がない小規模な会社に勤めていた際に自社商品を撮影したことがある程度である。こういう場合は何でもいいのがかえって厄介で、むしろ盗撮された嫌な思い出がある程なので多少はテーマがあると助かることに受けた後気付いた始末だ。ライセンサーの世界が見たいという話だが、自分と他人とで違うとしても職業の差があるかは疑問に思う。流石に自宅にある物を撮るのは憚られ、日中街中で人混みを撮ればそれらしいとも考えたが、何故か実行し提出するのも気が進まず、シャッターを押さずじまいのまま家に戻る。
「これで一日仕事か。ほんまもんの写真家とかもっと大変なんやろうけど」
 自然を相手にしたものなどは尚更に大変と聞いた気がする。それも、典にはどうでもいいことだが。依頼を受けた当日に弁当を食べて、やはり食欲は湧かず残り物は生ゴミにして――気付けば二日ばかり日を跨いだ間も、一食も食べていない。億劫である以上に純粋に忘れてしまうのだ。一度覚えたらどうにも口寂しくなって、惰性で吸っていた煙草も殆ど吸わず、代わりに懐からライターを取り出しては、無意味に蓋を開閉したり、点いた火を眺めることを繰り返した。約束とは形なきもので唯一物体として残っているそれはあの男の形見だった。
 俺が殺すまで死ぬなとあの男はそう言った。高圧的で無茶苦茶で、しかし確かにそれは約束だった。どうせ果たせやしないとずっと約束しない主義を貫いていたのに、次第に増えた物騒なそれは心中で段々存在感を増していって――いつからか生きる理由になっていたのに。あのエルゴマンサーは先に逝ってしまった。約束を典にも一つ裏切らせ地獄で待ってると、最期の最期に追加の約束までして。しかしその約束相手がいなくなって、典の精神にはまるでぽっかりと穴が空いたかのようだ。四六時中頭を駆け巡るのは敵の筈の彼と過ごした日々と鮮明に記憶している言葉と仕草。そして当時、彼は果たして何を思っていたか、永遠に見つからない答えを探している。
 スマホを見ればメッセージアプリの数え切れない量の通知が出る。その殆どがミュートにした女のものだ。今まで生きる為に全てを利用しようと特別と勘違いされない程度には関係を持ち続けていた。だが今は返答さえ億劫でずっと連絡を無視し続け、いっそスマホを解約してもいいか等と考えることも増えた。結局それすら面倒で、その内容を確認することもなく置いてしまうのだが。
「兄さんがくれた寂しいって感情が溢れてきて、どうかなってしまいそうやわ」
 三十年弱生きて理解出来なかった二つの感情。寂しいは彼がいなくなったそのときに、いや決着をつけなければならなくなった瞬間に解って、楽しいは自覚をした頃にはもう二度と感じられなくなった。その事実がまた、寂しい。
 明かりも点けず真っ暗な部屋、典は窓へと近付くと景色を眺めた。硝子に反射する紫水晶の瞳に華やかな街明かりが煌く。感慨も何もない毎日見れる夜景だ。なのにそれが、何故か今日は目を離せなかった。再びスマホを取って、カメラアプリを起動する。機材に指定等はなくて、生活費を稼ぐ為に依頼を受けたのに、わざわざ自費で購入するのも馬鹿馬鹿しくて不精をした。角度を変えたりと素人なりに構図を決め最後に、フィルターを加えた。
「俺の目には今はこんなふうにしか映らへんわ」
 耳障りなシャッター音がして、画像が保存された。すぐ内容を確認すれば、そこには縦長に撮った夜の街と月が切り取られた写真が映る。色どり豊かに光輝く人工照明も写真の中では白一色で、人の営みがあるというよりも、人間がいなくなった後も自動的に機械だけが機能している印象がある。ただ空の漆黒の中にぽつりと浮かぶ満月がその輪郭を滲ませるように光輝いて、その存在を主張している。勿論白に染まっているが。
 ――色の無い世界。物心ついた時から世界は薄い膜の向こう側のようだった。色覚異常があるわけではない。しかし典には色がないように思えたし、同時に今、自分がこの世界に居るという実感もなかった。だって、そうだろう。親がいた証明は産着に書かれた名前一つ。氏名も戸籍も人生も全て虚像で他人――主に女に好まれるのは、この顔が人々にとって綺麗とか美しいとか表現されるものだから、ただそれだけだ。両親に捨てられた時点で人生の終点は既に決まっていたのかもしれない。しかしある日、不意に変化が訪れた。白と黒だけの世界がぼんやりと色付いていったのはライセンサーになってから。そして典が向かう先には金色の標があった――けれど今は存在しない。あのエルゴマンサーの死と共になくなったから。また世界はモノクロになった。一度色のある世界を知ってしまったが為に前より味気なく見える。
「これで暫くは生きていけそうや」
 所詮は都合の良い夢だとしても、長生きしろと言われたからには果たさなければ。――破る約束は左目を譲り損ねたその一つっきりでいい。撮れた写真に満足し、スマホを仕舞って典は再び窓の外に視線を向けた。初めて彼と出会ったあの夜にも月が出ていたからいつか人生に幕を下ろすときも月が出ているといい。
(――とか思う辺り俺も兄さんに感化されたんやろうか)
 真っ白な月を見上げて息をつき、典はスマホを置くと、ベッドの中へと飛び込む。久しぶりに昼間から外に出て、疲れが溜まっていた。そうして眠る典は知らない。今日の写真が転機となって数年後『色を探す色の無い世界』と評されるモノクロ専門の写真家になると――。知る由なく明日も生きていく。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ここまで目を通して下さり、ありがとうございます。
以前にリプレイを拝見した時点で色々とくるものが
ありましたが、今回改めて心情を書かせていただき、
書きながら切ない気持ちで一杯になりましたね……。
いつの日か最後の約束が果たされるというときには
せめて、典さんの抱いている寂しさが少しだけでも
紛れているようにとそう願わずにはいられないです。
典さんは色々トラブルがあった関係で、防犯意識が
高そう=高層マンション住み? みたいな発想から
心情的にそこまで身が入らないだろう、というのも
考慮し自宅からの撮影という形に今回してみました。
勝手な妄想なのでイメージと違ってたらすみません。
今回も本当にありがとうございました!
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りや クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年11月16日

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