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『堕ちた洋館が求める者は』
ヤロスラーヴァ・ベルスカヤla2922

「……いつになったら、ここから出られるの?」
 心細そうに呟くのはヤロスラーヴァ・ベルスカヤ(la2922)だった。
 ヤロスラーヴァがこの洋館に迷い込んだのは数日前のこと。迷い込んだ原因も彼女は分からなかった。あえて言うなら「気づいていたらここにいた」という表現が正しいかもしれない。洋館は豪奢な雰囲気があるが、退廃、堕落というぞっとするものも感じさせていた。
(ここに迷い込んで数日経つけど、館の主人らしき人は見つからないんですよね……)
 不気味だ、と感じる理由はヤロスラーヴァが味わっている現象にもあった。目覚めると、いつの間にか衣装を身にまとっているのだ。自分では着替えていないのに、いつの間に着替えているのかとヤロスラーヴァは洋館、そして主にも不信感を持っていた。
(夜に手紙が届きますけど、字を見る限り男性っぽいんですよね)
 手紙には歓迎の言葉が書かれているけど、それを素直に信じさせてくれないなにかも感じていた。この洋館に留まるようにとも書かれていたけど、ヤロスラーヴァとしては、早く帰りたいという気持ちでいっぱいだった。

 そして数日後。
 部屋に置かれている宝石箱の存在に気づき、勝手にあけてはいけないと分かっていながらも抗えない衝動が出て宝石箱を開けてしまう。その中に収められていた宝飾品はまさにヤロスラーヴァの心を奪うようなものばかりだった。
(……私が生活している部屋に置かれているんだから、身に着けてもいい……ですよね?)
 ドキドキとしながら宝飾品を身に着けると、鏡に映る自分の姿が言葉にできないほど美しく見えたのだ。
 その日の夜の手紙は宝飾品を身に着けたヤロスラーヴァに対する賛美の言葉ばかりだった。翌日からはドレスだけではなく宝飾品も届けられるようになり、宝飾品や主に対する警戒心が次第に薄れていることにヤロスラーヴァは気づかない。
(……ここにいたい気持ちはあるけど、家族や友人、恋人のところに戻らなくちゃ)
 ちらり、と宝飾品に視線を映すと今感じた「戻らなくちゃ」という気持ちもぐらりと傾いていることに気づいたけど、ヤロスラーヴァは気づかないふりをした。

 とある朝。
 ヤロスラーヴァは化粧台にメイク用品が置かれていることにきづいた。ドレスや宝飾品同様にダークな雰囲気を感じさせるものだったけど、これまで未経験だったダークカラーを試してみたくてこっそり使ってみることにした。
 まるでこれまで当たり前のように使っていた感覚があり、初めてのダークカラーメイクも違和感のない仕上がりにヤロスラーヴァは少し驚きを隠せなかった。
 ダークレッドのリップ、アイシャドウはまるで夜の蝶のような美しさを感じさせ、鏡の中の自分をうっとりとしながら見つめていた。
 その日の夜から、主の手紙の内容が少し変わった。愛の言葉がつづられていて、ヤロスラーヴァはその愛に応えるのもやぶさかではない気持ちが出てきたのだ。
(よく考えれば、この洋館も煌びやかで素敵な場所……)
 ここに住み続けたいという気持ちが強くなってくる。同時にヤロスラーヴァは主に惹かれはじめ、心に残っていた愛する人たちがとても軽いものに感じるようになった。
(……私は、どうすればいいの?)
 ヤロスラーヴァはそんなことを考えているけれど、心の奥底では主を選んでしまっていることに気づいていない。
 ――ヤロスラーヴァへの誘惑はまだまだ続く。
 そして、心から彼女が堕ちた時、新しい彼女が目を覚ますのだろう。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは、今回書かせて頂きありがとうございました!
内容の方はいかがだったでしょうか?
気に入っていただけるものに仕上がっていますと幸いです。
それでは、またお会いできることを楽しみにしています。

水貴透子
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2020年11月17日

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