▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『闇色のドレスをまとい堕ちていく者』
ヤロスラーヴァ・ベルスカヤla2922

「……これは」
眠りから覚めて、豪奢な寝台から起きるといつの間にか見知らぬ衣装をまとっていた。黒薔薇をモチーフにした漆黒のドレスはヤロスラーヴァ・ベルスカヤ(la2922)の白い肌を更に映えさせるようなものだ。
「きれい……」
 赤や紫の宝石を身に着け、メイクはドレスに合うようにダークカラーのものだった。
「これは、手紙?」
 サイドテーブルに置かれた手紙には、ヤロスラーヴァに対する愛の言葉が綴られている。誰がこの手紙を書いたのか、ドレスや宝飾品を用意したのかはわからないけれど紡がれる愛の言葉にヤロスラーヴァはやぶさかではない気持ちを持ち始めていた。
(一生一緒にいて欲しいと書いてあるけど、家族や友人、恋人を捨てるなんて出来ません)
 愛の言葉を投げかけられることは、はっきり言って嬉しかったけれど手紙の主に対する気持ちと家族や友人、恋人たちへ向ける気持ちの方が強かった。
 しかし、日数が経つにつれてヤロスラーヴァの興味は家族たちではなく手紙の主に対するものの方が大きくなり始めていた。

※※※

 ある日、ヤロスラーヴァが目を覚ますと昨日の姿と同じものだった。ここ最近は目覚めると別のドレスを身に着けていたというのにどういうことだろう、とヤロスラーヴァは首をかしげる。
 しかし、その疑問は部屋の中に置かれたあまたのドレスが答えのように思えた。これまでは手紙の主がヤロスラーヴァに服を着せていたのだろうが、今日は自分自身で好きなドレスを選ぶといい、という意味なのだろう。
「こんなに素敵なドレスがたくさん……! ふふ、どれを着ればいいんでしょう?」
 シルクの手触りを楽しみながら、目移りするほどのドレスに喜びを隠せなかった。
(このドレスを選ぶなら、ダークブルーのアイシャドウを合わせて……)
 これまではメイクされていることが当たり前だったけど、今日はヤロスラーヴァが「手紙の主のため」にドレスを選び、自分でメイクをしている。
 数日前、家族や友人、恋人の方が大切だったはずのヤロスラーヴァの心には愛する人たちよりも手紙の主のことを考える時間の方が大きくなっていた。
 ただ、そのことにヤロスラーヴァは気づいていない。自分の心が変わっていないように思っているけれど、少しずつゆっくりと手紙の主に染められているのだ。
「……いつもドレスや宝飾品を贈ってくれているのだから、お礼の手紙くらいは書いた方がいいですよね」
 誰に問うでもなく、ヤロスラーヴァはポツリと呟き、ペンを取る。この時、既にヤロスラーヴァは手紙の主のことしか考えていなかった。
 まるで恋人同士のような文面で愛を綴り、署名と共に手紙に口づけてキスマークを落とす。この日からヤロスラーヴァの日課は、毎夜届く手紙の返事を書くことだった。

※※※

「これは……指輪?」
 ある日、手紙と共に届いた小さな箱に入っていた指輪を見てヤロスラーヴァは驚いた。手紙には求婚の言葉が綴られていて、ヤロスラーヴァはうっとりとしながら左手薬指にはめ、いつも手紙にしているようにキスをした。
「ふふ、我が花嫁だなんて……貴方様はずいぶんと気が早い方なんですね」
 そう言いながらも、ヤロスラーヴァの心は既に手紙の主の妻だった。
「私の未来の夫に手紙を書かなくては……」
 これまでは少しでも残っていた愛する人たちの記憶が、ヤロスラーヴァの中から消えた瞬間だった。
 衣装に相応しい闇の者の妃になる、ということなどヤロスラーヴァは考えてもいないのだろう。

――これは、夢。
 だけど、夢だとしても彼女の心にひとつの黒い点がついたことは言うまでもない。白い心を汚した闇色の染みを残したまま、ヤロスラーヴァはゆっくりと目覚めていくのだった。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
初めまして、水貴透子です。
OMCで書かせて頂くのは久しぶりだったのですが、いかがだったでしょうか。
気に入っていただける内容に仕上がっていますと幸いです。
今回は書かせて頂き、ありがとうございました!

水貴透子
イベントノベル(パーティ) -
水貴透子 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年11月17日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.