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『全てを代償に』
ネムリアス=レスティングスla1966

 ――圧倒的だった。
 性能の差は歴然。

 戦うネムリアス=レスティングス(la1966)の脳裏に、そんな言葉が浮かんだ。

 まるで機械生命体のような外見の宿敵は、矢継ぎ早に全身から何百もの光線を放ち攻撃して来た。
「容赦ないなッ……!!」
 ネムリアスは瞬時に光線の隙間を見定め、縫うようにしてかいくぐる。
 すると奴はネムリアスが移動した先に瞬間転移して回り込み、手を軽く薙いだ。
「ぅわっ!」
 咄嗟にネムリアスは銃で受け流して避けた――つもりだったが、衝撃で吹き飛ばされてしまい地面に叩き付けられた。
「ぐぁっ!」
 奴の異形の腕、その輝く手刀は大したことのなさそうな動きでも、一撃必殺並みの威力を持つのだ。ネムリアスのコンディションが万全だったとしても、楽に戦える相手ではない。
 だが、そんなことは端から分かっていたことだ。それを承知の上で、全てを犠牲にしてボロボロになろうとここまで来た。
 このまま伸びていられない。ネムリアスはすぐに起き上がって奴の動きに集中する。
 攻撃しようと武器を構えたところに、奴の殺気を感じ弾かれたように横に跳ぶと、直後光線がネムリアスのいた地面を焼いた。
「チッ、攻撃の隙がねぇ」
 ネムリアスは的にならないよう走り、奴のとの間合いを測る。
 一撃一撃がハンパじゃなく、そんな奴を相手にネムリアスは致命傷を負わないよう、寸でのところで避けるだけで精一杯だった。
(弄ばれている)
 苦々しい思いで、ネムリアスは木や遮蔽物に隠れながら移動を繰り返す。
 奴は片腕を失い体力も限界に近いネムリアスを甚振って、楽しんでいるのだ。ネムリアスが反撃する暇もなく必死に避けるのを見て優越感に浸る、悪趣味なサディスト。
 それでも、ほんの一瞬でも気を抜けば即死は間違いないだろう。
 足を止めたら死ぬ。
 ネムリアスは多少身を削られようとも攻撃をかわし、捌き続け、機会をうかがっていた。

 確実に奴を出し抜ける、その瞬間を。

 膨大なエネルギーを注入された衛星軌道砲が唸りを上げている。発射が迫っているらしい。
「これ以上長引くとマズイな……」
 発射されたらもう奴との決着がどうとか関係なく、この世界の終わりだ。
 ネムリアスの心に緊張感が高まる。
 だが天がネムリアスにチャンスをくれたのか、ついにその時が訪れた。
 奴の光の剣のようになった手刀をギリギリで回避したネムリアスは、その場でガクッと体勢を崩し膝を付く。
「く、そ――!」
 立ち上がろうとしても、もう体が言うことを聞かなかった。
 息も絶え絶えで、体力が限界なのだ。
 動かなければ殺られる。
 しかし、ネムリアスは残った片腕をも地面に付けてしまう。
 ざし、ざし、と奴が近付いて来る足音が聞こえた。
 ネムリアスは顔を上げられない。
「――!」
 ネムリアスの正面に奴が立った。心臓をその手で貫くために。
 脚だけがネムリアスの目に見える。
 奴に人並みの感情があったなら、きっと勝ち誇った笑みを浮かべているだろう。
 たっぷり間を取ってから――ネムリアスの絶望をあおるために――、奴は処刑人のようにおもむろに腕を上げた。
 そして一気に手刀が振り下ろされる。

「待っていた……この瞬間を!」

 ネムリアスは残った全精力を傾け、温存していたスキル『焔滅』を発動した!
 仮面の眼がカッと光ったかと思うと、ネムリアスの体が炎に変化する。
 奴の手刀は炎をすり抜け、ネムリアスの心臓を捉えることができない。奴の驚きの声がネムリアスの耳朶に届き、次の刹那、ネムリアスは起き上がりざまカウンター攻撃を放った!
「これで……終わりだ」
(このカウンターに全てを賭ける!)
 今までの人生を、感情を、記憶を、背負って来た全てを。
 これから紡ぐことがあったかもしれない全ての未来の可能性を。

 己の『全てを代償』に。

 自分が持っているもの、残ったものを全部、この一撃に乗せる。
 そう、『これから』のことなど考えなくていい。これさえ終われば、何もいらなくなるのだから。
 そういったネムリアスの想いがイマジナリードライブに反応したのか、体に纏う蒼い焔が一層鮮烈に燃え上がった。
 片腕だけになってしまった義手が神速回転する。
 鋼鉄の拳が奴の体にめり込んだ。
 その拳は今までのネムリアスのどの攻撃よりも重く、強い想いのこもった拳だった。
 ネムリアスの全てと引き換えにした一撃が、体の中心にある奴の心臓ともいえるコアを貫く。さらに義手の回転が、コアを完膚なきまでに砕いたのだった。

 スキルを発動してから、全てが一瞬の出来事だった。
 ネムリアスが腕を引き抜くと、コアを貫かれた奴は力尽きたようにどさりと両膝を付く。
 その顔はまるで信じられないとでも言っているかのようで、呆然と空虚な機械の目でネムリアスを見つめていた。
 そのうち奴の目から光が消え失せ、体は徐々に灰になり……、ボロボロに崩れ去ったのだった……。
「やった……のか……」
 言葉に出してみたものの、ネムリアスの心には実感がない。
 宿敵のコアを貫いた自分の腕を見下ろし、ぎこちなく握ったり開いたりしてみる。
 あんなに長い間追い続けた宿敵との戦いが、今終わった。
 世界中の情報を集め追いついたと思ったら逃げられ、町を一つ破壊されたり、衛星を落とされたり、恩人の姿を利用されたり、何度も死にそうにもなった。
 そんな奴との決着が。
 終わってみれば呆気なかった。
 それが今の感想だ。

 それでも、終わったのだ。

 と、軌道砲の作動音がネムリアスを現実に引き戻す。
「止まってる暇はないな」
 後は目の前の軌道砲を破壊するだけだ。
 もうくたくただったが、ネムリアスは疲れた体を動かして一歩足を踏み出す。
 その時――、突然頭に激痛が走った。
「ッ!?」
 声すらも出せない強烈な痛み。
 それから全身の力が抜け体が傾ぐのを感じ――、何かを思う間もなく、視界がブラックアウトした。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご注文ありがとうございます!

今回もハラハラする内容でしたね!
ですがようやく戦いには決着が……!ということで、あっさりにならないように、そして最後の一撃はネムリアスさんの想いが詰まってるんだなと思ってもらえるように書かせていただきました。
ご満足いただけたら嬉しいです。

どこかイメージとは違う描写や、「ここはそうじゃない」と思われる所がありましたら、些細なことでも構いませんので、リテイクをお申し付けください。

また続きを書かせてもらえたなら幸いです。
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久遠由純 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年11月18日

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