▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『THE GARDEN』
月居 渉la0081

「アンタがワタルか。思ったよりも若いのが来たな。依頼した”S”だ。俺の庭へようこそ」
 月居 渉(la0081)を出迎え、にこやかに手を差し出したのは、派手な身なりをした大柄の黒人の男だった。
 つばの広いゼブラ柄の帽子を被り、毛皮のコートを身に着けた男の胸元には太い金の鎖が光っている。
 見るからにこの街(スラム)の成功者のいでたちだ。
「SALFからライセンサーを1人だけ寄こして欲しいという依頼だと聞いてる。その理由はなんだ?」
 渉は男の握手に応えず、彼の顔を警戒を隠さずに見返した。
 明らかに堅気ではない。
「あまりよそ者を街に入れたくなくてね。土地柄だと思って大目に見て欲しい」
 Sは渉をリムジンに乗せ、運転手に北へ向かうよう命じた。
「男ならアメコミは好きだろう? きっと気にいるはずさ」
 ひび割れだらけの道を進みながら、Sはこの街に渉を呼んだ理由を話した。
 市や州が街を見捨てたからだと彼は言った。

「奴らにしてみればここは悪党の巣だ。市民が何人ナイトメアに食われて死のうがあいつらは知ったこっちゃないらしい。だから俺が直接SALFを呼ぶことにしたのさ」
 行政のトップは市民からの通報その他でこの街に巣食うナイトメアの存在を認識しながらも、何も対策をとらないというのがSの主張だった。
 渉は視線を窓の外に向けた。
 車の周囲を何台ものバイクが走り、ライフルを帯びた人相の悪い男たちばかりが乗っている。
「あいつらは俺の部下だ。何かあればアンタを助けるように言ってある」
 Sはそう口にした。
 どうやらSはマフィア紛いの彼らをまとめ、この街にある種の自治を敷いているらしい。
 車が止められたのは、化学薬品工場の跡だという建物だった。
 錆びた太いパイプが煙突の周囲に渦巻き、崩れ落ちたトタン屋根の間から草木が生えていた。

「昔、肥料を作ってた工場さ。硝酸アンモニウムと硫酸アンモニウムを混合して……この辺りの潰れた工場はみんなそうだ」
「なるほど」
 渉がSと共に車から降りると、周囲にはさっきの男たちが集まってきた。
 Sはナイトメアがここにいると渉に言った。
「奴の最後の目撃証言はここだ。多分まだ、中にいる」
 街の男たちには戦う気が十分にあったが、ナイトメアにとどめを刺せるのはライセンサーである渉だけだ。
 渉はライフルを構えた彼らと共に工場の敷地内に入った。
 その時だった。
 獣の咆哮するような声と共に、周囲に銃声が響き渡ったのだ。

「来たぞ、ヒーロー。悪役のお出ましだ」
 Sは姿を現したナイトメアを前にそう口にした。
 普通乗用車の2倍もの大きさをしたその獣はライオンによく似た姿をしており、金属光沢のある真っ赤な体を持っていた。
 全身には体毛ではなく硬い鱗のようなものが生えており、動くたびに軋んだ金属音が響いた。
 そしてその頭部には、正面を向いた6つの銃筒のような金色の角が生えていた。
「来るぞ!」
 誰かの声が響き、渉の周囲の男たちが一斉にナイトメアに向けて銃を撃った。
 だがナイトメアはそれをものともせず、6本の角からエネルギーの砲弾を放ちながら勢いよくこちらに突っ込んで来た。

「乗れ! ワタル!」
 周囲の男たちが逃げまどう中、Sが渉を傍らに停められていたバイクの後部座席へと急き立てた。
 そして悲鳴と銃声が響く中、Sは勢いよくバイクを発車させた。
「奴はオフロードで200キロ出せる! だがこっちは240キロだ! 振り落とされるなよ!?」
 Sはエンジンを唸らせ、工場前の道路へと飛び出した。
 するとその後ろから、咆哮と金属音とが猛スピードで追いかけてきた。
「ギリギリまで引き付けてくれ!」
 渉は振り落とされないようSのコートを握りしめながら言った。
「こっちの射程は最大で40mだ! 安全な場所で奴の足を止めたい!」
「オーケー! じゃあしっかりつかまっとけ!!」

 Sはハンドルを切り、そのまま脇道へと入った。
 するとナイトメアは素早くそれに反応して方向転換し、勢いをつけて真横から飛び掛かって来た。
「くっ……!」
 渉は咄嗟に白槍「コレオグラフ」を手にし、ナイトメアの鼻先へと振りかざした。
 ナイトメアは宙返りするようにしてそれをかわし、渉の頭上をその大きな影が飛び越えていった。
「やるなワタル! 面白くなってきやがったぜ!」
 Sが口笛を吹いて笑い声を上げる。
 そしてバイクを止めることなく、そのまま正面の建物のガラス窓へと突っ込んだ。
「ウィーッハッハァ!!」
 ガラスの割れ砕ける音が響き、渉はぎゅっと目を瞑った。
 飛び込んだのは錆びたドラム缶の転がる廃倉庫の中だった。
 バイクが大きくUターンして止まると、真横の窓を突き破り、ナイトメアが勢いよく飛び出してきた。

(止まれ!!)
 渉は王渇ノ書を手に詠唱した。
 ナイトメアの体を捕らえたのは、その足元に出現した冥府の沼だった。
 デモンズブレイドの幻影の刃は敵を足止めすると同時にその身を貫く。
 だが身動きできぬナイトメアは怒りの咆哮を上げ、周囲へとエネルギーの砲弾を滅茶滅茶に撃ち放った。
「ヤバい!!!」
 渉とSはとっさにそう気づいたが、遅かった。
 凄まじい爆発音が響き、渉とSはバイクごと吹き飛ばされ、ガラスを突き破ってその向こうの廊下に叩きつけられた。
 エネルギー弾が放置されたドラム缶に命中し、たちまちに引火したのだ。
 中に入っていたのは恐らく廃油だったのだろう。

「クソッ! おい、ワタル! ワタル、無事か!?」
「俺は平気だ。それより……ナイトメアはこんなことじゃ死なない」
 渉は立ち上がり、ナイトメアに近づいた。
 ナイトメアは炎を纏いながら、怒り狂った咆哮を上げ続けていた。
 冥府の沼が相手を足止めできる時間には限りがある。
 渉は王渇ノ書を握りしめ、さらなる攻撃を繰り出した。
(デモンズブレイドは効いてる。今なら……!)
 放たれたアシッドバーストの威力に、ナイトメアは悲鳴を上げ大きくバランスを崩した。
 だがナイトメアはその体勢のまま、再びエネルギー弾を放つ。
 渉は敵の後ろ側に走り込んでそれをかわすと、さらに攻撃を叩き込む。
 そしてナイトメアがガクンと上体を下げたのを確認すると、意を決して炎の中に飛び出した。

(これが決まらなければ撃たれる。だけど、一か八か!)
 ナイトメアが頭を上げた瞬間、渉はその間合いに大きく踏み出した。
 6つの砲口が渉を撃たんと光を帯びる。
 だが砲弾が放たれるよりも早く、渉は相手の至近距離から強烈なゼロブラストの威力を叩き込んでいた。
(これで、どうだ……!)
 凄まじいイマジナリードライブのエネルギーは、ナイトメアの巨体をその衝撃波で吹き飛ばした。
 建物が大きく揺れ、熱風と共に周囲のガラスや炎までもが空間から叩き出される。
 ナイトメアの体は向かいの廃工場の壁を突き破り、間もなく先ほどの爆発とは比べ物にならないほどの大きな爆音と閃光とが轟いた。
 
「とんでもない超大作になっちまったな、兄弟。カメラを回しておけば良かったぜ」
 火柱を上げる工場を前に、Sは肩をすくめて見せた。
 炎に包まれる廃工場の中からナイトメアが再び起き上がってくる様子はなかった。
「テンションが冷めないうちにもう1回どうだい? ワタルの運転手なら、いつでも大歓迎だぜ?」
「いや、二度と御免だね」
 渉は肩をすくめて笑い、Sとガッチリと握手を交わしたのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
この度はご依頼ありがとうございました、九里原十三里です。
今回はおまかせノベルということで、月居 渉(la0081)さんのお話を1から書かせていただきました。

舞台は無法地帯のスラムな街です。
デトロイトとか、そういう工業地帯っぽいイメージです。
渉さんがストリートダンスが趣味という事でしたので、こういう雰囲気は似合うのではないかと思い、ド派手なカーチェイス&爆発で演出させていただきました。

では、改めまして今回はご依頼ありがとうございました。
どうぞ最後までグロリアスドライヴをお楽しみください!
おまかせノベル -
九里原十三里 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年11月18日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.