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『ドラマ「コールド・ロータス」シーズン4 第5話「あなたの幸せ」』
柞原 典la3876


 十二月。街はすっかりクリスマスムードだ。尤も、柞原 典(la3876)にとってそれは面倒な季節を意味している。男女問わずに誘いを掛けられる。が、ここ最近はその手の誘いも減った。ヴァージル(lz0103)の存在があるのだろう、多分。配偶者のふりをすること二度、幼児退行したお互いの面倒を見ること一度ずつ。SALF本部内では、すっかり二人はワンセットになっていたし、任務で会う一般人たちも、なんとなく割り込めない気配を感じているようであまりちょっかいは掛けてこない。体格の良いヴァージルから勝手に圧を感じているのかもしれないが。

 典が他人に特別な感情を持つことはあまりないが、ヴァージルの方はそうでもない。典の数十倍は他人と関係を作りたがる。そう言うことで、浮かれながらまたアドベントカレンダーの話をしている相方を見て、
(また誰か惚れたか……)
 典が呆れながらそう感じるのも無理はないことである。去年の今頃は確かレヴェルの女性にうっかり惚れてしまって手痛い失恋を経験していた気がするが。
(今度はレヴェルとかやないとええけど)
 と、心配する程度には典とヴァージルの関係も変化した。尤も、失恋を前提にしているあたり、典らしいとは言える。いや、これはヴァージルの方が学習しないことにも依るのだろう。
 とは言え、予想通りではあった。数日後、相方はしょんぼりした様子で本部に来た。多くは語らなかったが、失恋したのだろうと典は悟る。敢えて尋ねることはなかった。


 さて、典とヴァージルは相方関係ではあるが、実はスケジュールはそこまで厳密に管理していない。この日はヴァージルが休みを取っていて、典は一人でSALF本部へ赴いた。
「ほう、蟹漁船が」
 港にカニクイザルの姿をしたナイトメアが山ほど現れて占拠。高い声で鳴きながら、飛び跳ねて帰港を待っていると言う。誰が戻るか。

 早く蟹と人類帰って来ないかな〜と思っているかどうかは知らないが、しっぽを揺らしながら芋を洗うようにひしめき合っているところへ、ライセンサーたちは踏み込んだ。そうすると、食べ物を心待ちにして目をきらきらさせていたお猿さんたちの顔は捕食者のそれになり(最初から捕食目的ではあっただろうが)、するどい雄叫びを上げながらライセンサーたちを威嚇する。
「お気張り」
 典は散華を降らせると、いつもの様に百旗槍を持って後方に陣取った。

 引っ掻くわ噛み付くわ尻尾で首を絞めるわで大わらわだった。グラップラーくらいしか回避も出来ず、あちこちで悲鳴が上がる。起点をずらして識別不可の範囲攻撃を撃とうとしったネメシスフォースやスピリットウォーリアは苦い顔をしていた。攻撃は全て識別しか持ってこなかった典にはあまり関係のない話である。問題は、旗槍に登って来る猿たちで、そう言う個体については槍を地面に叩き付けることで反撃した。
 そうは言っても、全部のスキルが識別不可と言うわけではないので、使えるスキルを出し惜しみしないで戦えば負けることはない。
 多少手こずったが、どうにかナイトメアの駆除は済んだ。依頼人たちから、「お礼に」と、どっさり全員に蟹を渡される。典にも。
「……どないしよ。この量、一人で食えんやろ」
 買ったら結構な値段する筈なので、儲かったと言えばそうなのだが、食べなければ意味はない。
 思案して、典の頭に豆電球が灯った。
 兄さんとこ持ってこ。


「兄さん、蟹食べよ」
 先日、幼児退行したときに泊まり込んだので、自宅は知っている。チャイムを鳴らすと、中から憔悴したような顔のヴァージルが出てきた。
「よう。どうしたんだ、それ」
「依頼の報酬でもろた」
「美味そうだな……とりあえず茹でるか」
 ヴァージルの料理の腕はよく知らないが、先日尋ねた際に鍋とフライパンがあったのは覚えている。ヴァージルは鍋を取り出すと、水を入れてコンロに置いた。

 塩ゆでにした蟹をテーブルに乗せ、男二人で向かい合って座り、黙々と食べる。口に合ったのか、ヴァージルは次々と食べて行った。ひとしきり食べると落ち着いたのか、やや表情が明るくなる。飲み物を取りに行って戻って来た彼へ、典は、
「で、失恋した相手、どんな子や?」
 そう尋ねると、ヴァージルは目を剥いた。
「何で知ってんだよ!?」
「わかりやすいねんな。言うてみ」
 典が頷くと、相手はぽつぽつと話始めた。出会った場所とその人の魅力、手応えを感じたやりとり等々。結局、人当たりがとても良い彼女が礼節を持って接していた多くの人間。その内の一人がヴァージルだったというだけで、彼氏がいたらしい。今度、家族に彼を紹介するのだと言われて、恋の風船は吹き矢で貫かれるが如く割れた。
(兄さんの好意に気付いとったんやろな)
 それでさりげなく恋人の存在を匂わせた、のかもしれない。ヴァージルもそれで略奪に走るようなタイプではないから丸く収まったと言うわけだ。
 話している内に涙目になってきた相方に腕を広げる。
「おいで、兄さん」
「つ、つかさ……」
 ヴァージルはその胸にひしと抱きついた。典が慰めてくれるなんてそうそうない。失恋で泣いているのか、それで感極まっているのかは判別しかねた。その頭を撫でながら、典は思う。
(俺のこと想ってくれはる兄さんのこと、たまには労っても罰はあたらんやろ)
 気まぐれでもあった。けれど……。

(兄さんはしあわせで)
 そんな仄かな願い。

 そんなことはおくびにも出さず、典は自分のすぐ下にあるつむじを見て、
「兄さん、クリスマスシーズンになると失恋するの恒例行事?」
 そんな憎まれ口を叩くのだった。
「うっせ……ていうかお前と飯食うところまで去年と同じじゃねぇか」
 ぶつくさ言うヴァージルの顔の熱さは服越しにわかった。子供よりも子供っぽい振る舞いをする相方に、典は思わず笑ってしまった。
「俺から余所見するから」
「あー、そうかよ! そうだな! 俺たち二回も結婚してるからな!」
「兄さんの浮気者ー」
 けらけら笑いながら頭を撫でた。
 十二月の陽は早くも傾いている。徐々に暗くなる外を見ながら、その後も二人は蟹を食べた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
ヴァージルが料理できるかは全然決めてないんですが、少なくとも鍋で謎の粘性が高い液体を錬成するタイプではないですね。
前回の「余所見するから」に比べると圧倒的に間の空気が暖かいなとは感じます。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年11月20日

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