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『ある年の六月十七日とその翌日の一幕』
ラシェル・ル・アヴィシニアla3428)&ルシエラ・ル・アヴィシニアla3427

 物心ついたときにはそうだったので今まで疑問に思わなかった。毎年ある日に手を引かれ、叔父達の家へ連れて行かれて、それだけなら時々はあることなのだが、泊まることになるのは凄く珍しい。叔父達も好きなので泊まるのには少しの非日常感もあり、ワクワクする楽しいことだ。その時期が近付くとカレンダーを確かめ待ち遠しく思っていたくらいである。しかしふと、ルシエラ・ル・アヴィシニア(la3427)の脳内に疑問が生まれた。叔父達が自宅にいて自分達兄妹の面倒を見てくれているということは、何か任務があって外出しているわけではないのとイコールだ。だって両親と叔父は英雄と能力者で二人一組で戦うのが必要不可欠だ。であれば何故二人だけいないのか。歩きながらうんうん唸って考えていると左右に兄弟を連れ手を繋いで歩くピピが軽く首を傾げ訊いてくる。
「ルシ、どうかしたの?」
 ピピは反対側の兄のラシェル・ル・アヴィシニア(la3428)と共に足を止め、そっと手を離すと、まだ見上げなければならない程度にある身長差を埋めるように膝を曲げて屈み込んだ。まだこの世界に来たばかりのときには自分達と殆ど変わらない子供だったとは、写真を見た為知ってはいるが少し不思議に思えるくらい愛嬌と落ち着きを兼ね備えている人物にしか見えない。若干心配性の気があるラシェルには体調不良を疑われたがふるふると首を振って軽く否定すると知らないのは自分だけかもと不安を覚えながら訊く。
「毎年今日になると父様と母様が二人でどこか遠くに行っちゃうのは、どうしてなの?」
 そう訊くとやはり二人は解っていたのかほぼ同時に顔を見合わせて、表情を綻ばせた。二人がどんな性格なのか、ルシエラもよく理解している。だから馬鹿にされたりはしないと知っていたが、二人の浮かべた笑みは想像よりとても優しくて温かなものだった。髪を撫でる少し大きな手。悪戯っぽく内緒話するようにピピは囁き声で言った。
「それはね、今日は二人のパパとママの結婚記念日、だからなんだよ」
「ケッコン記念日!」
 思いも寄らぬ、けれど言われてみれば納得の答えにルシエラは興奮気味に胸の高さに上げた両の拳をぎゅっと握り締めた。自分達兄妹から見ても両親は仲睦まじく見ていると幸せになれるけれど、例えば朝方起きてきたときなどこちらの存在に気付くと二人はすぐこちらを構おうとするのである。
「つまり、今頃はラブラブ〜なのだの」
 母を真似た喋り方で言えば、
「そういうことだな。俺としてはもっと回数を増やしてもいいくらいなんだが」
 兄も父を思わせる口調で返した。それに対しルシエラも確かにと声高に同意する。そっと、さり気なくピピに背中を押されて後ろを向けば、車道を勢いのある車が通り抜けるところだった。引き寄せるその手とは別に肩口に乗せられた手は兄のものだ。ピピに行こと促されて叔父二人の自宅へ向かうべく、歩みを進めているとふと閃くものがあった。
「私も何か、父様と母様をお祝いしたいの」
「……ああ、そうか。その発想はなかった」
「いいアイディアだと思うよっ!」
 ほのかな興奮に胸を膨らませるラシェルとにこにこと楽しそうに肯定するピピの反応に誇らしげな思いで一杯でルシエラは胸を張った。そうこうしている間に三人は無事に到着し、いらっしゃいではなくて、おかえりとここまで一緒に歩いてきたピピに出迎えられる。叔父二人は小学校の非常勤講師と喫茶店店主、兄妹の親と共に、エージェントとして活動を続けながらそれぞれの夢を叶えたとても忙しい身である。故に今は不在で彼らが帰ってくるまでの間ピピと遊ぶのが通例となっていた。ラドとエルには一杯遊んでもらったから、と子供がするような遊びでも笑顔でしながらピピと過ごす時間は楽しいものだが今回は違うことをしよう。

「……みんな揃って何してんの?」
 その言葉を聞いて顔を上げれば、いつの間にか帰ってきたらしいこの家の主の片割れ、若葉がリビングの出入り口傍に佇んで不思議そうな顔をしている。締めていたネクタイを緩めつつ歩み寄る叔父は三人が囲んでいる用紙に気付き、テーブルに手をつくとその内容を覗いてきた。
「直接お祝いを言う、手紙を渡す、花束を買ってくる、手作りのご飯とかケーキを作る――って何これ?」
 誰かの誕生日だっけと呟いてから若葉は脳内で今日の日付を確認したらしく、唐突にはっ、と閃いた顔になった。
「ああ、ラドとエルさんの結婚記念日だからか!」
「正解、流石はワカバなの!」
 若葉が納得し、ピピはぐっと親指を立てて、二人は兄弟、或いは兄妹のようにじゃれ合う。全員入れるスペースを用意すれば、叔父も鞄を脇に置いて輪に加わった。

「そういうことなら僕に任せて、ね」
 相談の輪の中に若葉が加わり、暫しした頃、もう一人の叔父である薙も帰宅してデジャブを感じるやり取りを交わした後でぐっと拳を握った。喫茶店の店主として自ら珈琲を淹れたり軽食を作ったりもする彼なら料理の腕に文句のつけようもないし、泊まりがけのときなどは勿論それ以外にも食べる機会は多々あって、両親の作るものも勿論好きだが、叔父達の料理も美味しいのでいつも楽しみにしている。その彼に教えてもらうだなんて想像するだけで楽しくなった為、ルシエラは熱い視線を叔父達に注いだ後、頭を下げた。
「二人とも、宜しくお願いするの!」
「面倒かけてごめんなさい」
「やだなぁ、そんな水臭い」
「そうだよ。僕達は家族、なんだからね」
 若葉と薙の二人はラシェルを挟むように座り直すと、加減はしてだが身体を横に倒し、押しくら饅頭をするようにしつつ笑い合う。兄は一瞬遠慮するように身を縮めたがすぐに嬉しそうな表情を浮かべ、お礼の言葉に言い直した。
「ふふ、ラドとエルに内緒だなんてワクワクするね♪」
 そんな四人のやり取りを見守っていたピピが笑顔でそう呟いた。確かに父と母に隠し事をするなんて今までにもない。父の日母の日に渡すプレゼントも手作りする過程を見守られているくらいである。
 かくして、ぶっつけ本番による両親の結婚記念日を祝うプレゼント作りが今始まるのだった。

 ◆◇◆

 いつもは五人でワイワイとゲームをして遊んだり、自分達兄妹が生まれる以前、愚神やヴィランという脅威に晒されていた世界を両親と叔父を含むエージェントが皆総出で救ったという、当時の話を聞いたりして過ごしているのだが少し夜更かししていいよとお墨付きを貰い皆であれやこれやの準備を進めていくのは、これまで以上に楽しかった。自分達はまだ子供で未来がどうなるのか未知数だが、けれど前にアメイジングスと――両親と叔父達とは違う形ではあるが未だ存在する残党や新たな脅威と戦う力があると聞かされたら将来の夢は既に決まったようなものだった。元々大好きな家族が守りたい人にもなり、だから何かしたいという思考が湧いてくるのだ。
「おやすみ」
 布団に包まれるとすぐに、睡眠欲が顔を覗かせる。部屋の入り口の前に立つ若葉と薙が照明のスイッチに手をかけながら日溜まりのような目を向け、そう言うのをぼんやり見ていた。真横のルシエラは既に夢の中。おやすみなさいと頭が回らないながらも返せば返事の代わりに音がして、肉眼でも動ける程度に暗く照明が落とされる。深く目を閉じたラシェルは夢見る。父と母が仲睦まじく二人きりで過ごす夢だ。いつも子供のことを最優先にしてくれる二人だから、今日一日だけでも相手を想う時間を送れたならいい。それが正夢であると願いながら一抹の寂しさを覚え、けれど蓋をして――夢の中で見守っていた。

 いつもなら両親が叔父宅に訪れ、四人一緒に帰るのだが今日は連絡してもらって、先に自宅で待っていることにした。勿論その理由は昨日全員で用意した贈り物を配置する為である。ルシエラはリビングのソファーに腰を下ろして落ち着きなく足をぶらぶらとさせている。そんな妹に大丈夫だと言ってやりたいのだがかくいうラシェル自身も喜んでもらえるかどうか不安で、元から饒舌ではない口が回らない状態だ。一方で、折角だから見たいなという理由で今もいる薙と若葉とピピはといえばただ純粋に楽しみにしているようで、これが大人と子供の違いかなんて思ってみたりもする。と、ガチャと玄関の扉が開く音がしてラシェルとルシエラは背をぴんと伸ばした。いつもだったら嬉しいのに、緊張感を拭い切れず、とりあえずルシエラの様子を窺おうとしたところで丁度彼女が勢いよく立ち上がり、二人分の靴を脱ぐ音が聞こえるほうへ走っていく。一瞬三人に目を向けたが何も言わず微笑んでいるだけだった。結局自己判断で後を追うように玄関に行く。
「ルシエラ、どうかしたのか?」
「ラシェルもそんなに急ぐとは珍しいの。まさか、何かあったわけではないのだろうが――」
 勢いのまま父に抱きついたルシエラと目線を合わせようとしながら、母が心配そうに眉根を寄せる。ラシェルは考える間もないままに口を開いた。
「――あの、父さんも母さんも、結婚記念日おめでとうっ」
「本当におめでとう! ――私、父様と母様が家族になった大切な日、知らなくて……だからお祝いしたくて、ラシェルやみんなと準備したの」
 どうにも気が急いて、全員で言う予定だった言葉がつい零れ落ちた。勿論色々な形で祝いたいのも本当だ。ただ最初にしたかった贈り物は言葉だったから、兄妹共に我慢出来なくなったのだ。両親は顔を見合わせ、そして笑みを零す。
「そうか、そういうことか。ラシェルもルシエラも本当に優しい子に育ち嬉しい限りだ」
「そういえば一度も理由を話したことがなかったの」
 ルシエラは父に、ラシェルは母に抱き締められてぎゅうっと強く抱き返した。触れ合う頬の感触や優しい声音が擽ったくて、けれどこんなに嬉しい出来事もない。暫し誰からともなく、くすくす小さな笑い声が零れる空間になって、やがて落ち着き、お土産を皆で分担し持ちながらリビングに戻ると、一部始終を見ていたのかと思う程幸せな表情の三人に出迎えられ、照れ臭いけれどそのこともまた嬉しい。家族と過ごす時間はこんなにも暖かくて、大事な人を守れるエージェントになりたいと何度でも願う。
 全員でクラッカーを鳴らし改めてお祝いして、買ってきた花束をテーブル中央の花瓶に飾り――食卓には薙監修の元ピピと若葉にも手伝ってもらい作った料理が並ぶ。家にある椅子を掻き集めてダイニングテーブルを囲めば話題は底を尽きず、自分やルシエラが担当した味付けに甘い部分があっても、美味しい美味しいと気遣いでも何でもなく心底美味しそうに言ってくれる皆の反応が少し気恥ずかしくもある。どうにかそれらしい体裁を保ったケーキを頬張る頃には今まで聞いたことがない程の話題にまで及び、新たな目標がまた一つ出来た。今日この日のことはきっといつまで経っても忘れないだろう。夜また三人が帰り眠りにつく前に、ルシエラと二人来年も祝おうと話して、既に楽しみなそれに心が躍る。

「まさかこれ程嬉しいサプライズがあるとは驚きだ」
 ふふと二人を寝かしつけた後にも笑い声が絶えない上機嫌なエルを見て、ラドシアスも感慨に耽りながらもう一度手元の手紙に視線を落とした。子供特有の拙さを感じさせつつも、真面目さと優しさが垣間見えるラシェルの字と元気でありながらも均整の取れた優雅さも兼ね備えたルシエラの字で綴られたそれは、九割の好きと一割の我儘を言ってもいいという願いで構成されている。英雄同士である自分達の間に子供が生まれたのは奇跡のようなもので、両親として悩んで迷ってを繰り返しながら、それでもエルと二人三脚でやってきて、現在があるのだとしみじみと思う。
「ああ。それにまさか俺達の生まれ故郷を探したい、なんて言い出すとは夢にも思わなかったな」
 二人共故郷の記憶は曖昧なもので世界を行き来する革新的技術が実現した今も特別探してはいない。今は家族がいて、あちらに行くことはあっても戻るつもりはないのも大きいが。いつの間にか諦めていたことをラシェルが己の願いとしたことが嬉しかったし、ルシエラもエルの教えを胸に前に進もうとしている。自慢の子供達がいて幸せ者だと二人で過ごす時間とはまた別種の喜びで心が満たされる。今度若葉達にも礼をしようと話しつつ昨日結婚記念日を迎えた夫婦の夜は更けていった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ここまで目を通して下さり、ありがとうございます。
折角のおまかせノベルなので二人のご家族の描写も
入れたい、でも今GLD世界にいてこのタイミングで
完結後の話を勝手にやるのもあれだなと思ったので、
過去話にしました。これはこれで捏造ですけど……
皆勢揃いなので書いていてとても楽しく幸せでした。
尺の都合もありプレゼントを用意する過程などは全く
書けませんでしたがふんわり様子を想像出来るような
和気藹々とした雰囲気が描けていたら嬉しい限りです。
ラシェルさんの喋り方は幼少時と今現在の中間くらい、
咄嗟のときには幼少時のほうが出てくるイメージです。
今回も本当にありがとうございました!
おまかせノベル -
りや クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年11月20日

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