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『ドラマ「怪談蒐集家・桃李 〜八百比丘尼〜」』
桃李la3954


 桃李(la3954)は貸本屋に足を運んでいた。怪談蒐集家と言う、趣味と実益を兼ねた商売をしている彼は、全国津々浦々を巡って聞き取り調査を行なっている。
 そういうわけで彼は次の調査に向けて資料を集めようとしていたのである。馴染みの古書店で、伝説や言い伝えなどの本が並んだ棚を物色する。

「八百比丘尼、ね」
 目に付いたのは、人魚の肉を食べて不老長寿になった比丘尼の話だ。そう言えばこれは福井県の方だったっけ。別に行けない距離ではない。助手のグスターヴァス(lz0124)くんも誘って福井まで列車で行こうかな。人魚だから海の方だし、魚も美味しそうだ。
 そんなことを考えながら読み進めていくと、後ろから声を掛けられた。桃李とかいう怪談蒐集家はお前か、と。振り返ると、制服をきちんと来た官憲が数名、彼を囲むように立っている。
「そうだけど、官憲が何のご用かな?」
 貴様を逮捕する。説明はそれだけだった。桃李はあれよあれよという間に警察車両に乗せられ、そのまま留置所へ連れて行かれてしまうのであった。


「桃李さん……」
 面会室の向こうで、グスターヴァスは目をうるうるさせながら自分を見つめた。
「そんな、犯罪に手を染める前に私に話してくれたら良かったのに……一体何でそんなことを……」
 そこまで言うと、言葉を詰まらせておいおいと泣き出す。
「私は桃李さんの心の支えにはなれなかったのですね……」
「いやいや、グスターヴァスくん。俺は無実だって」
 桃李はくっくっくと愉快そうに笑いながら言う。
「そう言えば、俺がどうして捕まったか知ってるの?」
「いえ、聞いていません」
 聞いていないのに泣いていたらしい。桃李は、ずっと彼の隣で仏頂面を作っている、別の金髪の男を見た。身長は六尺丁度くらい。グスターヴァスの明るい金髪と違って、こちらはやや濃いめでくすんだ色をしている。目の色は灰色だった。なんとなく犬科の動物を思わせる。知人の情報通であるヴァージル(lz0103)だ。
「やあ」
「よう。お前、本当に無実なのか? 被害者は在野の伝承研究家。外出先から帰ったところ、家中の研究資料がほぼ全て盗まれていた。少し前にお前が怪談のことで訪れていたそうだな」
「ああ、次の怪談のことで何かヒントがないかなと思って」
 不老長寿伝説の研究をしている研究者で、だからこそ桃李も八百比丘尼を調べようかと思ったのである。
「何で俺があの先生の本を盗むんだい。いる本ならお願いして借りれば良いじゃないか。別に知らない仲じゃないんだし。それに、あの先生の研究資料のほとんどって、それは俺一人じゃ無理だよ。見てよこの細腕」
「馬鹿野郎。体力のねぇ奴がフィールドワークなんざできるわけねぇだろ。ふざけたこと言ってるとこいつは偽証してるって言ってやるからな」
「ヴァージルくん酷いや」
 桃李は両手を目元に持っていって泣いているふりをした。グスターヴァスはおろおろして、
「ああっ、桃李さん泣かないでください……ヴァージルさんもいじめないでください」
「いじめてねぇよ」
「まあ、冗談は置いておくとして、実際、俺一人で持ち出したと思われているのかい?」
「いや、複数犯の主犯格がお前だと思われている」
「俺にそんなカリスマがあるかなぁ」
「ありますよ!」
 グスターヴァスが勢い込んで言う。ヴァージルがその頭をはたいた。
「馬鹿野郎、あったらこいつが主犯格ってのもあり得るじゃねぇか」
「そうでした……! でも桃李さんの求心力を私は否定できません」
「そうかよ。で、どうすんだお前。このまま濡れ衣かぶるのか?」
「いや、とんでもない。ちょっと、現場の状況が知りたいんだけど、ヴァージルくん、何か知らない?」
「いや……今はまだ知らないが、ちょっと調べてきてやる」
 ヴァージルは頷いた。何故か、こう頼むと警察の情報を持ってくる彼である。


 数日後、ヴァージルとグスターヴァスはまた連れ立って桃李に面会を求めた。顔を合わせるや、ヴァージルは現場の状況を説明し始める。
 研究家の資料は全て書斎に置いてあった。畳が抜けてしまうのではないかと心配される程の冊数なので、扉と机以外のほぼ全ての壁面を覆う本棚に資料が保管されていた。
 それが、ほとんど盗まれていたと言う。残っていたのは長い髪の毛。
「まあ、この長い髪の毛もお前が疑われた理由の一つだな。あと、魚の鱗が落ちていたそうだ」
「鱗?」
「人魚じゃないですか……」
 グスターヴァスが呻いた。
「そんなわけねぇだろ。魚の種類は今調べている。必要か?」
「いや、必要ないよ。なるほどね。その先生、外出って食事じゃない? 割烹料理……はないか。すき焼きか、洋食かな?」
「……どうしてわかった? すき焼きだ」
「そうすると俺の思った通りだ。犯人は割烹料理の店に勤めている誰かだよ。板前か、少なくとも厨房にいる人。最近雇われた人がいると思うよ。多分その人が犯人の一人だと思う」
 アメリカ人二人は顔を見合わせた。
「根拠は?」
「まず、研究資料と言うのは、一次資料……その伝承が書いてあるそのものの本というのも含まれているんだよ。あの先生はそう言う資料も多い。そして不老長寿伝説だ。謎めいた、骨董書物。コレクションとしても価値がある」
「なるほどな。残っていた本は全て近年発売された本だ」
「やっぱりね。鱗は割烹料理店で働いていたら付くんじゃないかな。洋食でも付きそうだけど、多分割烹だなぁ。あの先生は、洋食とすき焼きは好きでね。目を付けた時点で、そう言うことも調べたんじゃない? その二軒は割烹料理点を挟んで建っているんだ。だから、先生が食事に来たタイミングを見て、仲間に合図するなり何かした。実際に家まで案内したのかもしれないね。万が一鉢合わせした時、店にすぐ連絡されると困るから一番顔を合わせる可能性が低い割烹料理店に入ったんじゃないかな」
「待て。仕事中だぞ。抜け出せるのか?」
「先生の留守を狙うだけなんだから、別に馘首されたって構わないのさ。むしろ追い出された方が良い。足取りを追えなくなるからね。尤も、そのまま雇われているとしても、もうとんずらしているだろうけど。長い髪は……まあそんな人間幾らでもいるよ。長髪だと料理店では良い顔されなさそうだから共犯のだろうけど」
 ヴァージルは腕を組んだ。
「自信の程は?」
「なくはないって感じ」
「警部補に話してみる。お前も来い」
「私はここで桃李さんをお慰めして……」
「とっとと来い」


 果たして、桃李の推理は的中していた。割烹料理店では、入ってすぐにやめてしまった板前がいた。名前も住所も出鱈目だったが、人相書きを作って手配したところすぐに捕まり、資料は無事研究者の元へ戻ったと言う。
 桃李も無罪放免だ。腕を伸ばしながら、
「長いこと部屋の中にいたから身体がなまっちゃうよ」
 億劫そうにぼやく。
「また、どこかに行きますか?」
「そうだね。あ、そうだ。君を誘おうと思っていたところがあって……」
 歩きながら、桃李は次の計画を話して聞かせるのだった。

 次は何が待っているだろう。
 それは行ってからのお楽しみだ。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
桃李さんの得体の知れなさと安楽椅子探偵ってこんなにマッチするんだなぁ……と妙に納得してしまいました。当てたことには驚くのですが、桃李さんが当てたことにはそこまで驚かなかったり。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年11月20日

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