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『女王』
桃簾la0911)&神取 アウィンla3388


 その日、桃簾(la0911)と神取 アウィン(la3388)は、廃屋の調査で派遣された。流石に二人では足りないだろうと、地蔵坂 千紘(lz0095)とグスターヴァス(lz0124)も数合わせで寄越された。幸いにも知らない顔ではない。
「買い手が付かなくて放置されてる家かぁ。ナイトメアか不埒な人間の住処の二択だよね、今のご時世」
「あるいは虫だな」
 アウィンが相槌を打つと、千紘は我が意を得たりとばかりに頷き、
「シロアリに食われてそう。あいつら人が住んでてもお構いなしだからな。あ、シロアリってゴキブリの近縁らしいよ」
「そうなのですか」
 桃簾は怯む様子もなく頷いている。ぶるぶるしているのは運転しているグスターヴァスの方だった。
「やめてくださいよ……あの柱にびっしり貼り付いてるの、全部ゴキブリなんですか?」
「まあ近縁だから。人間と猿みたいなもんじゃないの? 動物園の檻に入ってるのは人間じゃないし」
 極論である。
 やがて、車は現場に到着した。なかなか広いお屋敷だったので、二手に別れることにする。桃簾と千紘、アウィンとグスターヴァスに別れた。前衛後衛と、回復を考慮してのことである。

「アウィン、ぐっさんをよろしくね」
「地蔵坂殿も……桃簾様を頼む」
「桃簾も判断は常識人だから大丈夫だよ。判断は」
「含みを感じるな……」
 二十代男二人がひそひそと囁き合う一方で、
「終わったらアイスを食べましょうね」
「良いですね! そう言えば桃簾さん、この前オープンしたカフェのアイスがなかなか評判らしいですが」
「奇遇ですね。わたくしもその話は聞いています。お前も知っているなら話は早い。そこまで運転なさい」
「かしこまりました」
 桃簾とグスターヴァスは仕事が終わった後のアイスを楽しみにしているのだった。


 桃簾と千紘は東側を探索した。歩く度に廊下の板がみしりと鳴る。
「ほんとにシロアリに食われてんじゃねぇのか」
「踏み抜かないように」
「へい」
 そろそろと進んでいると、前方から音がした。木の床を、固いが柔らかさもあるもの……例えば爪で叩くような音だ。規則正しい。
「何かの動物のようですね」
「犬かな」
 ライトを消して、様子を見る、するとどうだろう。廊下の向こうから、目を光らせて、鼻を動かす大型の犬のような物がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。目が爛々と光っているので、ナイトメアだろう。どうやら、侵入者を匂いで感知したらしい。
「千紘」
「了解」
 桃簾は床を蹴って跳躍した。べきっ! と音を立てて床板が割れたが、天井の電灯に飛びついて事なきを得る。その間に、彼女に気を取られた犬の鼻面へ千紘がライフルで射撃攻撃を食らわせた。高い鳴き声を上げて犬が後ずさる。
 その間隙を突いて、電灯から飛び降りた桃簾は、落下の勢いを生かして葬剣を叩き付ける。手応えを感じるや、刃を出した脚甲で蹴りを入れた。抜刀した歌鈴蘭で下から斬り上げると、勢いで刀を壁に突き刺し、背負っていた教典杖を振り下ろす。廃屋に鈴の音が響き渡る。コンボからの、錦繍による連続攻撃だ。犬が噛み付こうとする動きを読んで後ろにかわす。千紘が心射撃を撃ち込むが、毒は効かなかった。
「桃簾気を付けてね!」
「問題ありません」
 グラップラーである桃簾の回避は安定している。
 天井から嫌な音を聞いて、彼女は上を振り仰いだ。先ほど飛びついた電灯がみしみしと鳴っている。
「下がって! 電灯落ちるぞ!」
 千紘が声を張り上げるのと、桃簾が犬から離れるのは同時だった。一拍置いて、電灯が落下する。犬を下敷きにした瞬間、床が抜けた。
「わあ」
「綺麗に抜けましたね」
 そろそろと覗き込むと、犬型は床下で伸びていた。桃簾は葬剣で上から突き刺し、千紘はライフルで追い討ちを掛けた。

「あー、あの柱がボロボロなのって、シロアリにやられたのかな?」
 犬型を倒したついでに、千紘が床下を観察すると、確かに見える範囲の柱はかなりの損傷を受けているようだった。だが、虫らしきものは見えない。
「食べたい部分がなくなったのでしょうか?」
「僕もシロアリグルメ事情は詳しくないからわかんないけど、家主がいなくなる前に駆除でも頼んだのかもね。それにしても虫の一匹くらいいても良さそうだけどさ」
 千紘は床下から上半身を引き上げた。それから来た道を振り返る。その視線が壁も越えたなら、アウィンとグスターヴァスが見えたかもしれない。
「……鍛えてるアウィンとぐっさん一緒にしてまずかったかなぁ……ぐっさん、一回依頼で廃屋の床踏み抜いたって聞いたんだけど」
 再び廊下を歩き始めた千紘がぼそりと呟く。
「それは……」
 足元に注意を払っていた桃簾が顔を上げた。
「フラグですね」


「いや……このおうちばっちぃ……私帰りたい……」
「グスターヴァス殿……」
 埃が溜まっている床を見て、グスターヴァスがめそめそと泣き(真似)始めた。アウィンとて、こんな汚い家には住んだこともないし住みたいとは思わないが、任務であるなら致し方あるまい。
「あなたが虫嫌いとは知らなかった」
「いや、嫌いじゃないんですよ。不潔なところに出る虫が嫌なだけで、私も昔は蝶々追っかけてずっこけて泣いてました」
「そうか……」
 そうか、以外に言うこと、ある? ない。

 なお、この二人、それぞれ筋トレを是としており、結構筋肉がついていて体重も相応だ。二人を一緒に重量計に乗せると、合計が百五十キロにギリギリ満たないくらいになる。
 距離を詰めて歩くと床がたわむような気がして、やや距離を空けた。アウィンも知覚白兵武器で前衛を張れるが、ひとまずグスターヴァスを前、アウィンを後ろとしている。

 さて、こちらの二人は廊下の途中で狸型と遭遇した。
「あら可愛い」
 可愛いが、次の瞬間、目と歯を剥いて襲いかかって来る。
「ギョエッ!」
 グスターヴァスが裏返った声で叫んだ。メイスで受け止めて押し返し、ガーディアンストライクで反撃する。その後ろから、アウィンがジャックポットで正確に狙い撃った。
「あまり派手に立ち回ると床が抜けそうだな……」
「ですね! こんな時に備えて持っていた虎の子のショットガン……」
「それ、夢で見た記憶があるな……」
 グスターヴァスが持つと、バイオレンスコメディの登場人物に見えるから不思議である。
「吹き飛びな!」
 案の定、バイオレンスコメディの登場人物みたいなことを言いながら発砲する。それで怯んだ隙に、アウィンは星嵐で廊下をまっすぐに撃ち抜いた。廊下が真昼のように明るくなり、後には動かない狸型が残るのみである。

「桃簾様、アウィンです。今こちらに狸型ナイトメアが……ええ、倒しました。床ですか? いいえ、今のところは壊れていませんが……ええ、射撃で倒したので」
 桃簾から、床下の状態を聞かれたアウィンは首を傾げた。
「虫ですか? そう言えば見ていません……わかりました。注意します」


「アウィンたちの方には狸が出たようですね」
「狸? 犬科ではあるけど、集団として統一性はないよな」
「ここは身を隠すのにうってつけでしょうから、ナイトメアが一時の宿に使うこと自体は不自然ではありませんね……ところで、千紘」
「何?」
「シロアリはゴキブリの近縁と言いましたが、アリとの共通点は姿以外にないのですか?」
「集団に女王がいるらしいね」
 桃簾は顎に手を当てた。統一性のない敵、朽ちた柱、それでも姿の見えないシロアリ……。
「……まさか……」
 桃簾が一つの結論に辿り付こうとしたその時だった。
『桃簾様、こちらに合流していただけませんか』
 アウィンから通信が入った。彼にしては珍しく早口だ。少々焦りが感じられる。
『ゴキブリ!!! の仲間!!!』
 グスターヴァスの絶叫も聞こえる。二人は顔を見合わせると、比較的頑丈な床を踏んで駆けつけた。


 グスターヴァスが元気良く一歩を踏み出すと、その床がべきっと高い音を立てて抜けた。
「アアアア!」
 万歳の姿勢で落下しかけるグスターヴァス。アウィンが咄嗟に羽交い締めの形で引き留めた。
「あっ、ベルトのバックルが引っかかってるぅ……悲しみにくれます……」
「それは……困ったな」
 どうにか引き上げられないかと頑張っていると、のそのそと向こうからやってくる虫の姿が見えた。

 羽根のあるシロアリ……女王シロアリである。

「ギャーッ!」
 グスターヴァスは悲鳴を上げた。アウィンが桃簾と千紘に連絡を入れながらも、銃撃で相手を牽制している間に、二人が駆けつける。
「やはり、シロアリを捕食して擬態していたのですね」
 桃簾が呟いた。
「床下に虫がおらず、けれど柱には虫害に遭ったような跡がありました。そして、うろついているナイトメアは犬と狸で統一性がない。ならばあれらは仮住まいとしているだけでしょう。本当の主は他にいると思いました」
「ぐっさん頑張って!」
 二人でグスターヴァスの腕を掴んで引き上げた。アウィンは近づけまいと女王シロアリの顔面に拳銃で発砲している。
「アウィン、気を付けなさい。あれが女王なら、兵隊アリもどこかに……」
 桃簾が警戒を促しながらグスターヴァスを引き上げると、穴からシロアリ型ナイトメアが顔を出した。
「うっわ!」
 千紘も拳銃を抜いて応戦する。しかし、それ一匹だけではなかったようで、後から後からシロアリ型は顔を出した。小型犬の成犬くらいの大きさがある。虫が苦手な人間からしたら卒倒案件だが、千紘はやや安心した様な顔を見せた。
「良かった、でかくて……原寸大で服の中入ったら最悪じゃん……」
「想像させないでください!!!」
 千紘のぼやきに、グスターヴァスが叫んだ。
「そうですね。大きい方が当たりやすくて良い」
 桃簾が微笑んだ。アウィンは眼鏡を直しながら、
「桃簾様、女王はおまかせしても良いでしょうか。私は兵隊アリを」
「頼みます。千紘も援護を。グスターヴァスは回復を頼みます」
「オッケー。前衛よろしく。ていうかこいつらシロアリ食ったのかよ。最悪じゃん」
「想像させないでください!!! 回復は承りました!!!!!!!!!!」
 桃簾は素早く肉薄すると、手始めに錦繍を叩き込んだ。脚甲の刃が柔らかい身体を切り裂く。アウィンは女王ごとシロアリの集団を蛍惑で焼き払った。生き残ったシロアリたちは、特にこれと言った相手は定めずに手近なライセンサーたちにたかる。
「イヤーッ! 私の衛生観念が悲鳴上げてるぅ!」
「ぐっさんうるさい! 静かに頑張って!」
 千紘がフレイムロードを撃ち込んだ。
「声を出した方が力の入りは良いそうだが」
 アウィンがぼそっと呟いた。グスターヴァスはそれを聞くや、大義名分ができたと言わんばかりに叫びながらパワーツイストで薙ぎ払った。
「次で仕留めたいところだな」
 アウィンはライフルに持ち替えた。控え目だから目立たないが、高い知覚攻撃力が持ち味のライセンサーである。
「アウィン、合わせます。わたくしに続きなさい」
「かしこまりました、姫」
「女王には、花の王が終焉を与えましょう」
 桃簾は葬剣を振り下ろした。花の王、牡丹の幻影がひらく。防御も回避も許さない、決定的な一打を叩き込んだ。
 それとほぼ同時に、アウィンが二度目の蛍惑を撃ち放つ。それは不吉の星。屋内を照らしたそれはシロアリ紅く染めた。


「結果論だが、ナイトメアが害虫駆除をしたということになるな……手遅れだとは思うが」
 その後の調査では、特に何もいなかった。どうやら、大量発生したシロアリをナイトメアが捕食してしまったらしい。
「そうですねぇ……丸ごと建て替えないと無理でしょうね。とは言え、解体工事も安心してできそうな感じはあります」
 グスターヴァスはまだぶるぶる震えながら頷いた。桃簾は満足そうに、
「無事解決した後に食べるアイスは格別ですよ。さ、グスターヴァス、件のカフェまで運転を。気になるなら一度本部で着替えても良いでしょう」
「どうせ汚れたのシールドじゃん。大丈夫じゃない?」
 などと言い合いながら車に乗り込む。
 四人は廃屋を後にした。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
桃簾さんと千紘ってお互いに歯に衣着せないやりとりを平然としていて、不思議な関係だなと書きながら思いました。

ここで言うのも、なんですが、アウィンさんご結婚おめでとうございます。お医者さんになったらアウィンさんも「神取先生」なのですよね。ご夫婦で「先生」と呼ばれる期間が少しでも長いようお祈り申し上げます。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
おまかせノベル -
三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年11月24日

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