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『LOVE&JOY』
五代 真la2482


「危ないっ!!!」
 長い下り坂を気持ち良く駆け下りていた俺は、飛び出してきた子どもの姿を捕らえた瞬間、慌てて全力でブレーキを握り、車体を横へと倒した。
 ――ダメだ、間に合わないっ!!
 タイヤがアスファルトで焼ける臭いがして、俺の視界は両方の瞼が閉じられた事によりブラックアウトする。
 衝撃が身体を襲い、俺は固い地面に強かに打ち付けられ、勢いが殺されるまで地面を滑った。
 それでも受け身を取った事でダメージは最小限に抑えた俺は、直ぐ様起き上がると、愛車が直撃したであろう子どもの姿を探す。
 ――が、そこにいたのは俺と殆どガタイの変わらない男だった。


「「「いらっしゃーい♪」」」
 明らかな男の裏声が来客を迎える。
 「おや、新人かな?」問う常連客に、“姉”さん達が「ピンチヒッターなの」と満面の笑顔で俺を手招く。
「あ、新しく入りました、“マコ”です」
 俺は引きつる頬で無理矢理笑みを作って頭を下げた。

 ――ドウシテコウナッタ。

 愛車のマウンテンバイクでいつもの通り無計画旅行中、子どもとぶつかりそうになったが、その現場に居合わせた男が子どもを庇った為、子どもは奇跡的に無傷だった。
 しかし、男の方に利き腕を骨折させるという重傷を負わせてしまった。
 その男の勤め先というのが……ゲイバーだった。
 いや、ゲイバーと言うよりスナックといった店内は3人のどう見ても女装した“姉”さんと、“ママ”の4人で切り盛りしてきたらしい。
 そしてよりによって俺が轢いてしまったのが、俺の横にいるママだったため、俺は強制的に文字通りママの右腕代わりに傷が癒えるまで働くことになったのだった。

 いや、だって普通思わないだろ!?
 俺とガタイの変わらない男が、病院での治療も受けずに「店がある」と言って立ち去ろうとするもんだからさ。
 どう見たって折れてる右腕そのままにしておけないだろ?!
 俺の身分証……五代 真(la2482)と書かれたライセンサーカードを見せるため手渡し、店でも何でも俺が手伝うから、頼むから病院行ってちゃんと治療受けてくれって頼み込んで、ようやく病院に行ってくれたんだぜ……
 「……じゃあ、あんた、今日から“マコ”ちゃんとして働いてもらうわよ」なんて、無駄に艶のあるバリトン声で言われた俺は、最初意味が分からなかった。

 店構えは普通にバーかスナックなんだろうなという雰囲気で。店内に入って、ボトルの並んだ棚を見てその印象が間違ってなかったんだなと思って、やたらと女の服が引っかけられた控え室に案内されたから、てっきり黒服でもやらされるのかと思ったら、「アタシのだけど、貸してあげるからこれ着てごらんなさい」とか言われてどピンクのフリルワンピースを渡された俺は思考も動きもフリーズした。
 「アンタが、今日からアタシの代わりに“ママ”になるのよ」とか言われたたっぷり三秒後、店外にも届くほどの大声を上げた。
「はぁ!?」
 「声が煩い」と頭を叩かれて、ついでに渡されたのはセミロングのカツラ。
 全力で辞退しようとしたが、ママの手には俺のライセンサーカードが握られていた。
 「男に二言は無いわよね?」ニッコリと笑ったママは次の瞬間、ドスの利いた声で「だよなぁ?」と俺の肩を叩いた。
 ……正直、下手なエルゴマンサーより怖かった。(絶対本人には言えないけど)

 ……結局、腹を括った俺は、“マコ”として店に立ち、ママの指示通り働き始めた。
 最初こそ氷が多いだの水が少ないだのと叱られたが、3日も経てば一通りの酒は造れるようになった。
 何より新人というだけで、ボトルを入れてくれたり、俺に1杯奢ってくれる人もいたりして、俺は3食昼寝付きアルコール付きの(しかも店内で煙草吸っても怒られない!)この生活は女装しなけりゃいけない点を除けば悪くは無かった。
 ママも最初こそ無茶苦茶だと思ったが、話してみればさっぱりした性格で、付き合いやすかった。
 便宜上、1番上の姉さんをイチ姉、真ん中の姉さんをニコ姉、3番目の姉さんをミツ姉とするが、この3人もキャラが分かってくれば、ボケとツッコミでお客さんを笑わせたり、苦手そうなお客さんを相手にしている時にさり気なくヘルプに入ったりして、フォローし合ったり出来た。
 何より、姉さん達はこんな飛び入りの素人でノンケの俺にも優しかった。
 「アタシ達にだって、好みはあるのよ」と歌って踊れる美少年系が好きなイチ姉がそう言えば、「私は私の事好きになってくれる人がいいな……」とロマンチストなニコ姉がもじもじと指先を絡ませ、その横で渋オジ派のミツ姉が「つーか、ここの3人に振られるとか、アンタ、普段から男として見られてないんじゃない?」と止めの一撃をくれたりもしたが……うん、仲良くやれたと思っている。
 店が終わった後、24時間チェーンの牛丼を食べに行ったり、飲み過ぎた日は締めのラーメンを求めてタクシーに乗り込んだりもした。
 「ライセンサーって何やってんの?」と問われて、実際行った依頼の話しをしたらドン引かれたりもした。

 三週間経って、ママのギプスが外れた。それからリハビリが始まって更に二週間が経った頃。
 「マコ、今日までありがとう」そうママから突然告げられた。
「え? 急に何よ、改まって……」
 オネエ言葉で話すことに抵抗もなくなった頃だった。俺は本気で意味が分からなくてママを凝視するしか出来なかった。
 ママの腕は順調な回復を見せており、リハビリの結果、無理しない程度に以前の生活に戻って良いと言われたらしい。
 ママから手渡されたのは給料袋。
「要らないよ、だって、ママを怪我させたのは私じゃない」
 そうだとしても、一緒に働いた事実は事実だから、受け取れとママは無理矢理俺のポケットに給料袋をねじ込んだ。
 「ライセンサーの給料と比べりゃ雀の涙だろうけどね」そう言って姉さん達も笑った。
 その日は、お客さんを巻きこんでママも姉さん達も俺もしこたま飲んで騒いで泣いて笑った。アルコールで頭のネジがぶっ飛んだことにして、最後の夜をみんなで目一杯楽しんだ。
 そのまま潰れるようにして店のソファで寝て、そして、昼過ぎに目覚めた俺は、誰も起こさないようにそっと店を出た。

 服は来た時と同じTシャツとGジャンとGパン。
 少しだけ涼しくなった空気の中、奇跡的に何処も壊れなかった愛車のペダルを踏み込む。
 多分恐らく、もう二度と経験することの無い濃厚なひと月の出来事を胸に、俺は振り返らずに町を出た。


 ――その背を見送る4人がいたことに、気付かないふりをしたままで。


 追記。
 貰い事故的にしばらくオネエ言葉が抜けない問題が発生したが、親しい友人達の前に戻る頃には元の口調に戻る事が出来たので、ばれずに済んだ。良かった良かった。






━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【la2482/五代 真/脅威の適応能力】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度はご依頼いただき、ありがとうございます。葉槻です。

 多分初ノベル依頼ですよね……? こんなん出ましたけど大丈夫でしたでしょうか……?
 魔が差したというか、ふわっとオネエ言葉で話す真さんが降りてきたんです……ほんと何故だ。
 ひと夏(秋?)の思い出としてご受納頂けましたなら幸いです。

 口調、内容等気になる点がございましたら遠慮無くリテイクをお申し付け下さい。

 またどこかでお逢いできる日を楽しみにしております。
 この度は素敵なご縁を有り難うございました。

おまかせノベル -
葉槻 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年11月30日

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