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『SPOT LIGHTS』
吉良川 奏la0244

「音合わせバッチリじゃん! びっくりしたよ! 奏ちゃん、やっぱり君、すごいよ!」
 そう言ってステージ下で拍手をするのは、とある音楽番組のプロデューサーだった。
 背後では収録スタッフが戦々恐々としながら生放送収録に向けた準備を進めている。
 だが水無瀬 奏(la0244)にはまだ、自分が3時間後にTV画面に映るのだという実感はなかった。
「メイクは出番の1時間前から始めます。では本番、よろしくお願いしますね」
 ADがに促されて奏がマイクを返すと、ステージには即座に次のリハーサルを行うバンドのメンバーが上がった。
 周囲はTVでしか見た事のない顔ばかりだった。

(まさかあの事件の現場にいた人が、こんなに大きな番組の総合プロデューサーだったなんて)
 番組のセットは、毎回年末の音楽番組が行われるお馴染みのスキー場内に組まれていた。
 既設の野外ステージをメインとし、周囲に飾り付けられた冬のイルミネーションやリフト、真っ白なゲレンデも時には出演者達が歌うステージになる。
 本来なら奏は、ここでライセンサーとしてナイトメアの捜索に当たるはずであった。
 番組の撮影現場であるこの場所はSALFが行方を追っているとあるナイトメアの出没報告があった場所に近い。
 そのためライセンサー達は万一のために警戒に当たることになったのである。
 しかし奏を見たプロデューサーは、「君、番組に出てくれないか!?」と開口一番に口にした。
 彼はかつて奏が関わった事件の現場に居合わた。
 そこで奏が歌ったりダンスを踊ったりしながらイマジナリードライブをコントロールして戦う様子を間近で見ていたのだ。

「実は、海外のアーティストが一組、飛行機の欠航で来られなくなっていてね」
 プロデューサーはそう奏に説明した。
「MCのトークやCMでその時間を埋めることはできる。でも、奏ちゃんが来てくれたのは僕、何かの運命じゃないかと思うんだよね! SALFには僕が土下座でも何でもする! 頼むよ! サプライズ出演の『ライセンサーアイドル』としてステージに上がってくれ!!」
 そう、まさに「拝み倒される」形で奏は急遽出演者の中に加わることになった。
 SALFがそれを許可した理由が奏に詳しく語られることはなかったが、今回は問題なしという事になったのだろう。
 直ちに現場で衣装が用意され、選曲が行われ、リハーサルが進み、ついに生放送番組がスタートしたのである。
(奏が歌うのはメインステージ……あの青いライトの演出、綺麗だったな。奏のために用意してくれたのかな)
 ステージ衣装の上にロングダウンを羽織り、奏は舞台裏で出演者たちの歌声を聞きながら、何度も自分の出番のイメージトレーニングを重ねた。
 歌うのは3分と十数秒。
 そこに全力を注ぐべく、奏は気合を入れた。

「水無瀬さん、ではお願いします!」
 ADに呼ばれ、奏はMCのトークを聞きながらステージへと進む。
 見ると、会場には雪が降り始めていた。
(ライトにキラキラして、綺麗)
 ロングダウンを脱ぎ、青いアイドル衣装の奏はステージに立つ。
 背後のバンドメンバーにアイコンタクトし、ヘッドセットマイクの電源を入れる。
 ディレクターの合図でカメラが回ると、ステージ上の明かりが落ちた。
「それでは歌っていただきましょう! 今回のサプライズゲスト、水無瀬奏さんです!!」
 MCの声と共に、TV画面に青い光に包まれたステージと、そこに立つ奏の姿が映し出される。
 低いベースのイントロに合わせ、カメラが奏にズームする。

(奏に期待されてるのは、アイドルとしての華やかさと、ライセンサーとしての勇ましさ。今はそれを、TVの向こうのみんなに伝えなきゃ!)
 華やかで力強いイマジナリードライブのオーラを纏い、奏が歌い始める。
 ステージの傍らには凍った湖があり、イルミネーションに彩られている。
 そのライトもまた、奏のステージに合わせて彩(いろどり)を変えた。
 だが、奏が歌い始めて十数秒後だった。
 突然凍った湖が割れ砕け、何か巨大なものが飛び出してきたのだ。
「ナイトメアだ!」
 ステージを遠巻きにしていたライセンサーが叫び、武器を取る。
 続けざまに何体も現れたそれは、氷のような真っ白な鱗を持つ巨大な双頭の蛇だった。
(もしかして……奏のイマジナリードライブに引き寄せられて……?!)
 奏は自分達が追うナイトメアが、ライセンサーを標的にする性質があると言われた事を思い出した。
 白い双頭の大蛇は牙を剥き、曲の間奏の合間にその一体がステージ上の奏に向かってきた。

(こうなるとは思わなかったな。でも、奏にとって、戦場こそ我が舞台! やる事は変わらないよね!)
 演出に使用するためにステージに持ち込んだ真月の鎌「プレニチュード」を手にし、奏はナイトメアに対峙する。
 ステージの周囲では他のライセンサー達も戦闘を始め、イマジナリードライブの輝きが夜の雪原に弾けた。
(ここからが盛り上がるところだからね! 行くよっ!)
 月の輝きを持つイマジナリードライブの刃が唸り、双頭の蛇を鋭く斬りつける。
 氷のような鱗が散り、スポットライトに弾ける。
 だが蛇は2つの頭を振りかざし、挟み撃ちを狙って奏に襲い掛かった。
(あの太い胴体は硬いみたい……だったら、あの首を!)
 奏はステップを踏むように蛇の攻撃を回避し、片方の首に狙いを定めようとする。
 だがその時、蛇の尾が唸りを上げ、奏の体に叩きつけた。

「ああっ……!」
 バランスを崩した奏の体を直ちに長い蛇の体が捕らえた。
 白い鱗がギシギシと音を立て、奏の体を締め上げていく。
 だが奏はプレニチュードの柄を強く握りしめ、堪えた。
(曲はまだ続いてる……このままステージを完結させないまま終わるなんてできない!)
 プロデューサーは現場に「全員、撮影を続けろ!」と指示を出していたらしい。
 バンドも演奏を続行し、カメラマンも全力で戦う奏の姿を撮り続けていた。
 アイドル魂は伊達じゃない。
 奏は蛇の体を押し返し、するりとその間から抜け出した。
 そしてサビの歌詞を力強く歌いながら、プレニチュードを翻し、片方の首に狙いを定めた。
(ここは奏のステージ! もう邪魔はさせないよ!)
 高音のシャウトと共に、白刃は蛇の首を叩き斬った。
 銀に輝く鱗が吹雪のように周囲へと飛散する。
 頭を失った長い体が跳ね、ステージは大きく揺れた。
 蛇の首からは鮮血が流れる事はなく、周囲には氷が割れ砕けるような音が響いた。

(片方落とされて怒ってる……! 油断すると飲まれちゃうね!)
 奏は蛇が激しくステージ上をのたうち回り、怒り狂った様子で自分に向かってくるのを見た。
 スポットライトの中に立つ奏は、終盤の歌詞を歌いながら「来い」とばかりにプレニチュードを構えて見せた。
(あと23秒、全力で歌いきるよ!!)
 蛇は牙を剥き、鎌首をもたげて真上から奏を狙った。
 だが奏は衣装の裾を翻し、軽やかにその背後へと回り込んだ。
 ステージライトがより明るく奏を映し出す。
 そして蛇の頭が此方を振り向いた瞬間、奏は飛び出した。
(これで、フィニッシュ……!)
 首を失った蛇が氷の破片となって散っていくその光景は、視聴者には完全な演出にしか見えていなかったことだろう。
 最後に奏は武器を収めると、カメラに向かって「ありがとうございました」と弾ける笑顔を向けたのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼ありがとうございました、九里原十三里です。
今回はおまかせノベルということで、水無瀬 奏(la0244)さんのお話を1から作らせていただいております。

舞台は、年末の音楽番組の収録現場でおっきなスキー場です。
奏さんは歌ったり踊ったりするバトルスタイルをお持ちとのことで、私が「こうやって戦ってほしい!」と思う姿を書かせていただきました。
持ち歌とダンスで敵を圧倒するライセンサーアイドル、カッコいいですよね!

改めまして今回はご依頼ありがとうございました。
どうぞ最後までグロリアスドライヴをお楽しみください!
おまかせノベル -
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グロリアスドライヴ
2020年12月03日

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