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『MASQUERADE』
神取 アウィンla3388

「本当はあの方と一緒に行きたかったのよ」
 とある島国の年老いた王太后は神取 アウィン(la3388)に対し、何度もそう口にした。
 小さくなっていく島影を飛行機の窓から見送りながら、心細げなような、それでいて浮足立っているような表情を浮かべている。
「ええ、存じております殿下。王様はヨーロッパに留学なさっていたそうですね」
 アウィンがそう言うと、王太后はちょっとおどけて見せた。
「ずるいわよね、自分ばかり。私は生まれてから一度も国を出たことがなかったのよ?」
 
 王太后の夫である前々王は病気で早逝した。
 後を継いだ息子も王国がナイトメアに襲撃された際に犠牲となったため、孫娘が幼くして現国主となり、王太后はこれまで彼女を支えるべく老体に鞭打ち摂政としての役目を果たしてきたという。
「今回ご覧になるオペラは、王様のお気に入りだったそうですね」
 アウィンは2日後にウィーンのオペラ座で予定されている貸し切り公演の演目を思い返した。
 賑やかな仮面舞踏会を主題にしたオペラであり、迫力ある戦闘シーンや歌い手の実力が試されるドラマティックな場面が矢継ぎ早に展開される華やかな作品である。
「生きているうちに私もあの作品を観て、あの世であの方に報告して差し上げたいの」
 王太后は少女のように笑い、皺だらけの指にはめられた古い真珠の指輪を撫でた。
「だけど貴方のような素敵な男性にエスコートしてもらったって言ったら、ヤキモチを焼くかもしれないわね?」

 アウィンが命じられたのは、カロス北部ノルデン領主家次男としての育ちの良さを活かし、王太后をエスコートする事だった。
 王太后は自分が物々しく護衛に守られることを嫌っている。
 そのため、王族の高齢女性の扱いを心得ており、万一の場合にはナイトメアとも戦う事のできるアウィンが今回の外遊に呼ばれたのだ。
 オーストリアの王族や政治家等と面会した翌日、王太后はこの国の王妃と共にオペラ座に入った。
 王太后は初めての海外を終始笑顔で楽しんでいる。
 だがそんな中、アウィンや同行したライセンサー達は彼女に近づく不穏な気配を感じ取っていた。

「王妃様は王太后殿下の長年の文通相手と聞く。今はむしろ、お2人きりのほうがオペラ鑑賞を存分に楽しまれよう」
 アウィンは幕が上がる直前に劇場スタッフに言付けし、王太后の傍を離れた。
 オペラ座の外に出ると、雪が舞っていた。
 劇場の扉を固く閉ざすと、アウィンは百旗槍「キリエ」を手にその前に立った。
 灰色に渦巻く雪雲がオペラ座の真上に厚く垂れ込めている。
 不意にその中から、けたたましい鳴き声が響いた。
「来るぞ!!」
 アウィンはキリエを足元の雪に突き立て、白く輝く魔法陣型の障壁を展開した。
 雲の中から放たれた一筋の光線。
 それが障壁に跳ね返され、激しい火花が散った。

「全員配置に着け!!」
 号令と共にライセンサー達が一斉に武器を構える。
 雲の中から現れたのは、仮面をつけた巨大な鷲の群れだった。
 人間の中でも「高貴なもの」を狙う性質のあるこのナイトメアは、王太后や観劇に同行した王妃らを狙い、群れでの襲撃を目論んでここへやって来たのである。
「どうやらお前もそのお眼鏡に叶ったらしいな、アウィン!!」
 仲間のライセンサーがそう声を上げた。
 アウィンに向かってきていたのは、ナイトメアの群れの中でもひときわ大きな個体だった。
 王冠のような冠羽を持つ、いわば「群れの王」というべき存在だろうか。
(さっきの光線を撃ったのもこいつか……つまり、宣戦布告というわけだ)
 ナイトメアが上空で宙返りし、再び攻撃を仕掛けてくる気配を見せる。
 アウィンはその間に武器をバスターライフルGR-117に持ち替えた。

(先ほどの光線は連発できないはずだ。ならば次は直接ぶつかってくるな)
 そうアウィンが予想した通り、ナイトメアは空中で勢いをつけ、今度は突進を狙って突っ込んで来た。
 頭部にある仮面と全身を覆う羽の防御力の高さにものを言わせたこの攻撃は、今まで何人ものライセンサーを苦しめてきた。
 アウィンも強硬突破されることを覚悟しながら銃の引き金を引く。
(素早さは向こうのほうが上だ。当てない事には始まらん!)
 光り眩む白の威力を込めた魔法弾が放たれ、ナイトメアの肩で閃光が弾けた。
 上空で羽が飛び散り、その巨体がくるりと体を傾けるのをアウィンは見た。
 だがナイトメアは勢いを殺すことなくそのままアウィンに突っ込んで来た。

「うあっ……!!」
 正面からの体当たりを受け、突き飛ばされたアウィンは背後のオペラ座のドアに体を強打した。
 ナイトメアは素早く上空で宙返りし、再度アウィンへの攻撃を企てる。
 だがアウィンは直ちにキリエを構えると、障壁を展開し間一髪のところでその体当たりを防いだ。
 攻撃を防がれたナイトメアは悔し気な声を上げ、再び空へと舞い上がった。
(肋骨を一本持っていかれたかもしれん……今の攻撃をもう一度食らいたくはないな)
 アウィンは大きく息をし、次の手を考えた。
 オペラ座内部からは激しいチューバとティンパニーの音が響く。
 恐らくは中盤の戦いの場面だ。
 楽譜にはフォルテッシモ(きわめて大きく)が続き、劇場は大音響に包まれる。
 恐らく中にいる王太后には表の銃声等は全く聞こえていないだろう。

(こちらからどう出るか。決定打を考えたいところだが)
 相手はここまでの間にエネルギーをチャージし、再びあの光線を放つ準備を整えたはずだ。
 次は確実に撃ってくるだろう。
 アウィンは王手をかけるべく、一計を案じることにした。
(あのナイトメアには攻撃の前に僅かな「溜め」がある。そのタイミングを読めれば行ける!)
 劇場の扉を背にし、アウィンはリボルバー「ピースメイカー」を手に上空の相手を睨んだ。
 ナイトメアはひと声大きく鳴くと、その口をカッと大きく開いた。
 咥内が赤く光り、強い光線が放たれる。
 その瞬間、アウィンは自身のシールドに重ねて銃弾を放ち、それを阻んだ。

(読みが当たった!)
 出現した煌く星々のような天河の障壁がナイトメアの攻撃を霧散させる。
 だがナイトメアはすかさず次の攻撃を繰り出す様子を見せた。
 再度空へ舞い上がらんと大きな翼を羽ばたかせる。
 するとその瞬間、突風がナイトメアの真横から吹き付け、その体勢を崩させるのが見えた。
(今だ!)
 アウィンはこの機を逃さず、仕掛けた。
 デモンズブレイドの冥府の沼が出現し、ナイトメアを捕らえる。
 扉の向こうからは、オペラの主人公があらん限りの声を張り上げて勝利への決意を歌うバリトンが響いていた。

(勝利は我にあり、だったか!)
 リボルバーを捨て、アウィンは武器を銀の魔弾「セレブロ」に持ち替えた。
 幻影の刃に貫かれ、上空へ逃れる事を阻まれたナイトメアが怒りの声を上げて翼をばたつかせる。
 アウィンは足元の雪を蹴り、その真下へと走り込んだ。
(これで、止めだ)
 至近距離から撃ち込まれたゼロブラストの威力はナイトメアの眉間を打ち抜き、その仮面が真っ二つに割れて落ちた。

「あら、何だか騒がしいのね」
 オペラが終幕し、外に出てきた王太后は周囲の様子を見てそう口にした。
 アウィンは何事もなかったかのように「ええ」と微笑み、その肩にコートをそっとかけた。
「何しろ仮面舞踏会(マスカレード)の夜ですから。みんな浮足立っているのですよ」

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼ありがとうございました、九里原十三里です。
今回はおまかせノベルということで、神取 アウィン(la3388)さんのお話を1から作らせていただいております。

舞台は、真冬のオーストリアです。
アウィンさんはお育ちがノーブルな環境とのことだったので、高齢な王族の女性でもきちんとエスコートできるのではないかな、と思いそういう感じの任務に行ってもらいました。
そして依頼主が何にも知らないところでキッチリ大変なお仕事を片付けて何事もなかったかのように帰っていくジェントルマンに書かせていただいております!

改めまして今回はご依頼ありがとうございました。
どうぞ最後までグロリアスドライヴをお楽しみください!
おまかせノベル -
九里原十三里 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年12月04日

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