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『フォルダの中は四季折々』
珠興 凪la3804)&珠興 若葉la3805

 吐き出す息が白い。寒さと街を彩るクリスマスの飾りが、季節が冬に入った事を教えてくれていた。
 時間が過ぎていくのは早いなぁ、と珠興 凪(la3804)は思う。
「もうすっかり冬だね」
 ちょうど似たような事を考えていたらしく、隣に居た皆月 若葉(la3805)が呟いた。言葉と共に吐き出された彼の息も、やはり凪と揃いの色に染まっている。
「若葉、大丈夫? 寒くない?」
「大丈夫! 凪のおかげで!」
 心配そうな凪の声に、若葉は満面の笑みを返す。そして、繋いでいる手に込める力を彼は少しだけ強めた。確かに寒くはあるけれど、重なり合った掌だけは互いの体温のおかげで特別に温かい。
「予約の時間、そろそろだよね?」
「えーっと、ちょっと待って」
 紫陽花のストラップが揺れる。繋いでいない方の手で、凪はスマートフォンを操作した。ディスプレイに光が灯り、壁紙に設定している愛しい伴侶の写真が表示される。
 若葉がディスプレイを覗き込もうとしてきたので、凪は見やすいようにスマートフォンを彼の方へと傾けながら、現在の時刻を確認した。
「「あと十分くらい……?」」
 見事に声がハモり、二人は笑い合う。
 今日のデートの目的地は、最近巷で話題になっている喫茶店だ。特に評判が良いのは、季節に合わせて期間限定で販売されるケーキセット。
 いずれ喫茶店を経営する事を夢見ている二人にとって、勉強のためにも一度は行ってみたいと思っていた店だ。それに、クリスマスシーズン限定のメニューを愛しい人と一緒に味わえるという事も、単純に楽しみであった。

 ◆

 サクリ、と聞いていて心地の良い音をフォークが奏でる。焼きたてのパイは、今の季節にピッタリだと凪は思った。
 珈琲の上で存在を主張しているラテアートは、凪の方はサンタクロース、若葉の方はトナカイが象られている。
「ふふふー、まさにクリスマスって感じだね!」
「ね。こういう季節を感じるメニューって良いよね。また来たくなるよ」
 店の評判は、間違っていなかったようだ。舌をなぞる美味しさに舌鼓を打ったり、変わった風味のクリームに隠し味には何を使っているのだろうと二人で推測し合ったりと、楽しい一時を過ごす。
「凪、あれ」
 不意に、若葉が他のお客さんの迷惑にはならないように小声で、けれど興奮を隠しきれぬ様子で何かを示した。彼の示した先……店の窓際には、一つのスノードームが飾られている。
 中央に猫が佇んでいるスノードームだ。その猫を見た瞬間、凪は若葉が何を言わんとしているのかを瞬時に理解した。
「似てる」
「だよねー、似てるよね」
 尻尾の先と足先が白い黒猫は、よく家に遊びに来る野良猫に少しだけ似ている。
 思わず笑みと共にこぼれ落ちた呟きに、若葉も楽しげに同意した。スノードームの中で周囲の雪を見上げているその姿は、粉砂糖を振っている凪をじっと見上げている時の野良猫の姿を彷彿とさせた。雪の中佇む猫という幻想的なスノードームが、何だかいっきに親しみのある微笑ましいものに見えてきてしまう。
 二人はしばらく、そのスノードームを見ながら、話に花を咲かせるのであった。

 ◆

 ――あ、流れ星。
 なんて言葉を二人が聞いたのは、喫茶店をたっぷりと堪能し、ショッピングを楽しんでから家へと帰る途中であった。
 周囲を歩いていた人達が、空を見てはしゃいでいる。凪と若葉も、それに倣うように頭上を見上げた。
「わぁ! 凄い!」
「綺麗……」
 ちょうど、満天の星空の中を縫うように光が駆けて行くところであった。それも、一つではない。最初の流れ星の後を追うように、幾つもの星が流れていく。
 若葉の瞳が、まるでその光を反射しているかのように輝いた。凪もまた、夜空に次々と描かれていく光に見入る。
「そういえば、流星群が来るって言ってたっけ?」
「今日だったんだー……。凪、写真に撮ろうよ!」
「上手く撮れるかなぁ? 夜景を撮るのって難しいよね」
 星空を何枚か撮影する。最近写真を撮る機会が増えたおかげか、スマートフォンの中へと星空を綺麗に収める事に成功した。
「凪、もしかして俺の事ばかり撮ってない?」
「ふふ、バレちゃった?」
「バレちゃったって、もー。撮るなら、凪も一緒に写ってよ」
 夢中で空を見上げてる若葉の事も撮っていたら、その事に気付いた若葉が凪の事も撮りたがり、結局二人で星空を背景に何枚か写真を撮る事になった。
 撮影した写真を見返しながら、凪は笑みを深める。凪のスマートフォンの中は、料理や二人の写真で溢れていた。スクロールをしても、一番最初の写真に辿り着くまで結構な時間がかかりそうな程の量の思い出がそこにはある。四季折々の二人の姿が、このフォルダにはたくさん詰まっていた。
「今日行ったお店、料理も珈琲も美味しかったね」
「うんうん。また行こうよ!」
 クリスマス以外の季節のメニューも気になるし、定期的に訪れてみるのも良いかもしれない。来年の冬には、また新しいクリスマス限定メニューも増えている事だろう。
 未来に思いを馳せる凪の隣には、いつだって若葉の姿があった。流れる星に願うまでもない。明日も明後日も、自分は若葉と一緒にいるだろうと凪は確信していた。
 若葉だって、そう思っているに違いない。お互いがいない道など、二人にはもう想像する事すらも出来なかった。
「凪、マフラーずれてるよ」
「ありがとう。ふふ、温かいな」
 ずれた凪のマフラーを、若葉が直してくれる。けれどやはり、何よりも温かいのは繋いだ手から伝わる温もりだ。
 仲良く歩く二人を見送るかのように、また一つ、夜空を星が駆けて行った。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
そして、ご結婚おめでとうございます。たとえ記念日ではない日であっても、お二方にとっては特別で大切な日になるのだろうなぁと思ったため、今回はこのような感じのお話を綴らせていただきました。
お二方のお気に召すお話になっていましたら、幸いです。何か不備等ありましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
それでは、このたびはご依頼誠にありがとうございました! またいつか機会がありましたら、よろしくお願いいたします。
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グロリアスドライヴ
2020年12月07日

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