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『ドラマ「コールド・ロータス」シーズン4 第7話「惑い映す青」』
柞原 典la3876


「またこいつらか」
 ナイトメア出現の報を受けて、現場に駆けつけた柞原 典(la3876)は顔をしかめた。今までに数度、相対した、精神的な幼児退行をもたらすナイトメアである。相方のヴァージル(lz0103)は典を庇うように前に立った。
 五歳の典は加害の記憶が生々しく、うなされるほどだ。今も苦しくないわけではないだろうが、ああいう精神状態には戻したくない。そう思って、ロードリーオーラを使用したが……。
「あかんわ、兄さん。効いてへん」
 典の言うとおりだった。最近遭遇するこれらの敵は、典を執拗に狙う。ヴァージルが注視を付与してもお構いなしだ。アリーガードや射線の妨害で割って入るが、全てに対応するのも限度があった。
 普通の下等なナイトメアであれば、注視には簡単に掛かる。けれど……知能が高かったり、誰かの指揮を受けていれば話は別だ。典は周囲を鋭く見回して、挑発するように告げる。
「こそこそせんと、出ておいで?」
「何だ気付いてたのか。隣しか見てないと思ったよ。」
 そんな皮肉を言いながら姿を現した青年を見て、ヴァージルは絶句した。
「千紘……?」
 死亡した筈のライセンサー、地蔵坂 千紘(lz0095)だった。ヴァージルは戸惑っているが、典はさして驚いた様子も見せない。
「地蔵坂さんってあんたやったか。兄さんに縁があって、口が達者……それに伴ってまあ頭も回る。その上でナイトメアに捕食されたことが確認された、って言うたら、あんたしかおらんから、それは驚かんなぁ」
 ヴァージルには言わなかったが、ナイトメアに捕食されたなら、その時点で擬態されて現れる可能性はあるのだ。
「そういうの、牽強付会って言うんだぜ」
「正解やったろ」
「結果論だ」
 千紘は肩を竦めた。それから、典が傘の先で突いているナイトメアを一瞥して、
「それ、量産出来ないんだから困るなぁ」
「あんたの配下か」
「幼児退行しちゃえば、戦力外で殺害も容易、便利でしょ。まあ、戦場に子供殺しは付きものだよね」
 それを聞いて、ヴァージルの眉間に皺が寄った。
 傷を抱えた五歳児の典。苦しむ子供に対して、更に危害を加えることを前提とするその思想が癪に障る。千紘は目を細めて、厭な笑みを浮かべた。
「誕生日プレゼントのアドバイスは役に立った?」
「お陰さんで。兄さん、こないだの時計、見せたって? よう似合っとるやろ? あんたが、俺の渡すもんなら兄さん何でも嬉しいやろ言うてくれはったけど、まったくもってその通りやったわぁ」
 典がそう言ってにっこりと笑顔を見せると、空気がぴりっと緊張感を帯びた。
「俺、使えるもんは使う主義やから。あんたは利用されただけ。決めたのは俺や」
「は? 僕が口挟まなきゃ何も決められなかったくせに良く言うよ……うざったいな。本当に」
「何で典ばっかり狙うんだよ」
 ヴァージルがやや強い口調で問う。
「邪魔だからだよ。僕はあなたが気に入っててね。飽きるまで手元に置いて、飽きたら食べちゃおうと思ってたんだけど、ライセンサーになったから簡単に手出しできなくて」
 典を見た。青い鋼玉に似た目が刺すように鋭い眼差しを向けている。
「お前のせいだろ。保安官事務所時代はそんなんじゃなかったけどなぁ」
 ちょっとあざとく首を傾げてヴァージルを見る。
「あのK9は元気?」
「殉職した」
「そう。君はあの犬を気に入ってたからな。そっちの人は知らないだろうけど」
「兄さん、あの話したって。温泉旅行で一緒に露天風呂入った話。ああ、配偶者ごっこして、おんなじベッドで寝た話もしたろうなぁ? 兄さんぬくいから、寒い時の旅行は一緒に寝るくらいが丁度ええわ」
 腕を取って、甘えるように肩へ頭を預ける。
 その後も、七並べの様に二人の言い争いは続いた。最終的に典が、
「あんた、兄さんの保安官事務所時代の話ようするけど、俺もライセンサーなる前の兄さんとは十回くらい一緒しとるからな。過去の栄光にしがみついてて、みっともないわぁ。見てられん……いや、ええ見世物やね。もっと惨めったらしく過去にすがっててくれてもええんやで」
 断ち切るように言い放つ。千紘は片目を細めて、
「顔しか能がねぇ癖に言ってくれるよな。中身空っぽなのに。ああ、そうだ。僕がお前食ってその顔になりゃ万事解決だよな! 安心しろよ、僕は誰にも愛されねぇ奴と違って普通で真っ当な人間の記憶があるから!」
「自称普通で真っ当な人間の愛とか迷惑千万やわぁ。そないなもんありがたがってる時点で底が知れるで」
「いい加減にしろ! お前らは俺の歴代彼氏かなんかか!? 人の過去を暴露するんじゃねぇ! プライバシーを尊重しろ!」
 やや顔を赤くしたヴァージルが一喝した。真顔を作ってから千紘の方を向いて、
「これだけ言っとく」
「なぁに?」
「千紘は子供を殺さない」
 それを聞くと、すっと相手から表情が消えた。しかし、それも一瞬のことで、
「今の僕には関係ない」
 袴の裾を翻して去って行った。

「何であの人の時は適性見なかったん?」
 帰る道すがら、典はふとそんなことを尋ねた。典との協働がライセンサー適性を見るきっかけだったのなら、千紘の時は何故そうしなかったのか。
「あー、そうだな。それはやっぱり、千紘が俺の制服に価値を見出してたからだな……地元の人間がいてくれた方がやりやすいんだとか何とか言って……だから俺もそれに応えた。保安官事務所もSALFの動きは承知しているから、協力してくれって一般人との間に入ってたんだ」
「なんやそれ……ちゅうか自分のせいやん……あと、K9って何?」
「捜査に使う犬だ。千紘が来た時に出す機会があったんだよ。彼が死んだ後に別の事件で殉職した。ハンドラーが泣いてたのを覚えてるよ。そんなことまで拾ってんのかあいつ」
 ヴァージルは頭を抱えた。それから不安そうに典の腕を引き。
「気を付けろよ。あいつ、あんなの配下にしてるんだから……またお前……」
 何かを思い出すように口をつぐみ、黙って典の手を握りしめた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
正体暴露の回という事と「青」を使いたくてスキル名からタイトルつけたんですが言うほど惑ってない説(立証済み)。
何で千紘が典さんの愛され云々を知ってるのかって話なんですが、調べたんでしょうかね……?
K9は警察犬と訳されるようなのですが、ちょっと検索したら保安官事務所にもいるみたいですね。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
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三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年12月07日

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