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『BUMMER』
柞原 典la3876

「アタシが知ってるのはこれくらいよ。後は聞かされてない」
「ええよ、おおきに。それで十分や」
 柞原 典(la3876)はジャケットを羽織り、まだ気だるそうにしている女を背にした。
 ライター忘れてるわ、という声がドアのところまでついてきた。
「大事な物なんでしょう? お父さんの形見?」
「……さぁ、何やろな」
 それじゃあ、と愛想笑いでそれを受け取り、典はマンションの部屋を後にした。
 端末を開くと、SALFからの着信が何件も連なっていた。
「あの組織はクロや。間違いあらへん」
 通話相手のSALF職員に対し、典は今夜の成果を報告した。
 レヴェルやエルゴマンサーと通じている疑惑のある組織が1つ、近々大規模な摘発を受ける事になりそうだ。
「ああ、そうそう昼間の嬢さんいたやろ? 今やったら多分、部屋でグッスリ寝てるわ。手錠かけるんやったら、早いほうがええんちゃう? まぁ、お巡りさんの仕事やろけど」

 俺も帰って寝るわ、と典が口にしようとした時だった。
 背後で激しい爆発音が聞こえた。
 振り返ると、さっきまで典がいたマンションから煙が上がっていた。
「ちょ、あれまさか」
 そう典がそう意識した直後、マンションの最上階から五階分ほどが爆炎を上げ、一瞬にして吹っ飛んだ。
 さらに耳を劈く爆音が立て続けに起こり、激しい爆風が典に吹きつけた。
「くそ……耳が。場所分かる? 緊急事態やわ」
 爆音で聴覚が鈍った耳に、通話の相手がすぐに各所に通報すると叫んでいるのが辛うじて聞こえた。
 マンションはそのほとんどが真っ赤な炎に包まれ、既に典が近づけるような状態ではなかった。
(これ、まさか)
 この事態を引き起こした犯人候補の名が頭の中をぐるぐると駆け巡る中、典はマンションの向かいの小ビルの屋上に黒い影を見た。
 影は燃えるマンションを見届けるようなそぶりを見せた後、さらにその奥の建物に飛び移り、姿を消した。
 明らかに人の動きではない。
 ナイトメアだ。

「おったわ、犯人」
 典はそう口にすると、逃げていった黒い影を追って走り出した。
 付近には通報を受けたパトカーが数台乗りつけ、近所の住民が消防ホースを引っ張り出しているのも見えた。
 その奥に停められた一台のミニパトカーを見つけると、典は傍にいた巡査に乗せてくれるよう声をかけた。
「火ぃつけて逃げてったナイトメアがいる。多分、今なら捕まえられるわ。追ってくれへん?」
 典がライセンサーであることを告げると、巡査はすぐに乗れと言ってエンジンをかけた。
 駅前の目抜き通りに出ると、道路に走り出たあの黒い影が目の前を横切り、住宅地の向こうに駆け込むのが見えた。
 巡査は「シートベルト!」と叫ぶとアクセルを全開に踏んだ。
 急ハンドルを切り、路地に突っ込むようにして逃げた影を追う。
 典は今の状況を通話相手に話せるだけ話すと、一旦端末をオフにした。

「お巡りさんあの、赤いランプついてるとこ何?」
 後部座席から覗き込みながら、典は前方の点滅する赤いランプを指さす。
 すると巡査は「変電所ですね」と言った。
「後ろの山の上に高い鉄塔があるので、飛行機が間違って突っ込まないように赤色灯があるんです」
「ああ、そう」
「あそこに逃げ込まれたら厄介ですね……中入られたら」
 パトカーはそのまま、変電所の敷地の前に出た。
 有刺鉄線の張られた金網フェンスの向こうに、電気の電圧や周波数の変換を行うための物々しい設備が詰め込まれている。
 典はその一部が丸く焼き切られたようになり、大きな穴が開いているのを見つけた。
「多分あれ、俺が追ってるの気づいてるわ」
 わざと痕跡を残し、誘っている。
 そんな気配を感じ、典は喉の奥で笑った。
「ここまででええよ、おおきに。こっからはお巡りさんの仕事やないし」

 典はパトカーを降り、武器を手に変電所の中に入った。
 送電のための鉄塔や電線が張り巡らされ、中はかなり狭かった。
 幸い付近の道路に設置された街灯の明かりが届いており、暗くはない。
 百旗槍「キリエ」を手にした典は変電設備の奥に潜んでいるであろうモノの気配に全神経を集中させながら、相手が動くのを待った。
(応援、呼ぶべきやったやろか)
 典がそう思った時だった。
 目の前の太い電線が切れ、火花と共に鞭のように跳ねた。
 そして次の瞬間、爆発音と共に目の前の鉄塔が倒れてきたのである。
(始まったわ……!)
 典はキリエの白く輝く魔法陣型の障壁を展開し、倒れてくる鉄塔を防いだ。
 だが次の瞬間、その奥から体を真っ黒な布で巻いた人型のモノが勢いよく飛び掛かって来たのである。

「うわっ!」
 咄嗟に典は倒れた鉄塔の後ろに身をかわした。
 すると典を捕らえようとした手がそれに触れた瞬間、爆発音が響き鉄塔の先端が吹っ飛ぶのが見えた。
(何なん……あれ)
 典は障壁を張りながら、太いパイプの連なる遮断機の陰に下がった。
 あのマンションも最初に爆発が起こり、その後で火災になった。
(まさか、触るもん全部爆発させる能力者とか、そういうんやないやろな!)
 嫌な予感を覚え、典は遮断機の下をくぐって後ろに逃げた。
 その途端、周囲に激しい爆発音が響き、青い火花が夜空に瞬いた。
(あかん!)
 典は咄嗟に飛び退き、傍らにあったコンクリート柱の陰に走り込んだ。
 周囲が昼間のように明るくなり、道沿いの街灯がすべて消えた。
 顔をあげると、遮断機は炎と火花を上げて燃え上がっていた。

(こうなったらもう、短期決戦で仕留めるしかないわ)
 典は意を決し、対物ライフル「EX-」を手にした。
(多分、こっちの姿が見えたらまた突っ込んでくるやろ。そしたら……)
 柱の陰から飛び出した典は、ナイトメアが典を見つけ、こちらに走ってくるのを見た。
 ライフルを構えた典は引き金を引き、相手を牽制した。
(避けたわ、素早い奴や)
 典は相手が傍らの鉄塔の後ろに入ったのを見て距離を取った。
 ナイトメアが触れた途端、再び爆発が起きそれが典の方へ倒れる。
 身動きを取れなくしようとしているのは明らかだった。
(どっちが早く仕留めるか、その勝負ってとこやな!)
 典はライフルを抱えたまま、鉄塔を避けて真横に走り出た。
 そしてナイトメアの姿を見つけると、迷わずに引き金を引いた。

(今度はこっちが追い詰める番やで)
 逃げたナイトメアを追い、典はライフルを撃ち続ける。
 だがナイトメアもまた、その動きで典を誘い込もうとしているようだった。
(まぁ、その手は食わへんけどな)
 高い鉄塔の後ろへ逃げ込もうとするナイトメア。
 典は相手が次にどこへ逃げ込むかの当たりをつけた。
 そしてその頭上にイマジナリードライブの刃を出現させた。
(大当たり。マンション吹っ飛ばした罰やで)
 天罰の刃はナイトメアの体を貫き、動きを止めた。
 典はさらに、ナイトメアの頭上へと氷の楔を降り注がせる。

(これで仕舞や)
 マインドリーパーを手に近づくと、ナイトメアは典に向かってくる素振りを見せた。
 だがその瞬間、振りぬかれた死神の大鎌はその体を真っ二つに寸断していた。
 しかし――。
「うわぁああっ!!」
 寸断された体は爆発を起こし、典は爆風によって変電所の外まで弾き飛ばされた。
 顔をあげると、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
「ああ、しんど。敵とったったで嬢さん……まぁ、成り行きやけどな」
 大きくため息をつき、典は煙草に火をつけた。  

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼ありがとうございました、九里原十三里です。
今回はおまかせノベルということで、柞原 典(la3876)さんのお話を1から作らせていただいております。

ちょっとダークで諜報活動めいたお仕事からの、戦闘の舞台は変電所へ。
攻撃するのもされるのも危ないところでの攻防、というのを狙ってみました。

改めまして今回はご依頼ありがとうございました。
どうぞ最後までグロリアスドライヴをお楽しみください!
おまかせノベル -
九里原十三里 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年12月07日

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