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『私がそれになっても!?』
吉良川 奏la0244

●クローゼットのペンギン
 水無瀬 奏(la0244)はとある依頼に、仮装をしていくことを考えた。
 クローゼットには私服やアイドルの衣装など様々なものがかかっている。
「『不思議の国のアリス』のアリスかな」
 ナイトメアがこちらを見逃してくれると思えないため、戦闘もあるはずだ。そうなると動きやすい服装は重要だ。
 ワンピースなど取り出していると、クローゼットの奥に、奇妙なものを見つけた。
「何かな、これ?」
 紺色のペンギンの着ぐるみだ。
 くちばしが上下に開き、そこから顔を出すタイプのもの。
 その上、このペンギン、ピンク色のドレスを着ているし、頭にはピンク色の花も一輪ついていた。
 どこで買ったかなど全く思い出せない。しかし、自分のクローゼットに入っているということは、何かで買ったもしくはもらったのだ。
 アイドル風ペンギンとでもいうべきその着ぐるみを取り出し、首をかしげる。
「ドレスの下、足は……ペンギンよね」
 ペンギンの足は見た目、短い。
 着ぐるみはそれを再現しているだけでなく、足も大して開かないようになっている。通常の歩行すら難しいだろう。
「まさに、ペンギン歩き……になるわね」
 放浪者にペンギン姿の人もいる。これを着るとそんな感じになるのかもしれない。
「試着してみようかな」
 着た結果、動きづらいことは確定した。
「そもそも、背中のチャックが閉められない……」
 手がペンギンだから。
 可動域も、ペンギンだった。
 一応、全身写る鏡の前に立ってみたが、見なかったことにした。
「脱ごう」
 立ったまま足の部分をはずそうとしたが、靴状態になっているためか引っ掛かり外れない。
 よろめいたが、壁に手をついて止まったが、頭も打った。
「いっ」
 一瞬が目の前が真っ暗に成り、光が散るほど痛かった。
 奏はため息を漏らし、着替えを続行しようとして、目を見開いた。
「服がないっ!」
 正しくは、着ぐるみが消えていた。
「ピンク色のドレス?」
 その先にあるのは黄色い足。
「……えっ!」
 鏡を見た。
 そこには着ぐるみではなく、まさに、アイドル風ペンギンの姿の奏がいる。
 頭の上にピンと踊る毛はいつもの自分の証のようだ。
「……いやいやいやいや……」
 額に手を当てる。
「寝よう」
 奏は潔く布団に入り眠ることにした。これは疲れてみる夢、幻覚なはずだから。

●夢だか、何だか
 朝起きたが、アイドル風ペンギン姿は続行だった。
 ドレスはクローゼットを見ると、服はペンギン体形に合いそうな形になっていた。
「ズボン、無理よね」
 カジュアルな服装に変えた。
「不思議よね……普通に着替えられる」
 腕の長さなど異なるため難しいはずが、これまでずっとこの姿だったというように着替えはスムーズだ。
「これは何……夢?」
 とりあえず、情報がいると、端末をいじるが、ニュース写真や何もかも人間の代わりにペンギンが写っている。
 テレビの朝のニュースを読むキャスターはペンギンだった。
「岩飛びペンギンかな? いやいや、そういうことじゃないわね」
 いくつかチャンネルを見たが、コメンテーターもペンギン、ペンギンが犬を散歩させているなど映像を見ることになる。
「まさか、これは……ナイトメアの仕業!」
 と言ってみたものの、あまりにも平和すぎるテレビの内容だ。
「やっぱり、夢……でも、おなかすいたような……夢だけど?」
 朝食を食べようと、冷蔵庫を開ける。その中には魚がたくさんある。
「……ああ、何種類かの魚があるわね。野菜や卵は?」
 ペンギンの食料を考えると、おかしいところはない。
「生魚、丸呑みってことになるのかしら」
 魚を取り出す。その魚の目は新鮮できらめいている。
「……丸呑み?」
 奏はペンギンだ。先ほど着替えるのも自然にできた。だからできるはずだ。
 魚の丸呑みはどうするか分かる。
 頭からくわえ、飲み込めば良い。
「でも、理性が邪魔をする……今日、レッスンの日?」
 食べるのはあきらめた。
「外の様子も気になるし、行こう」
 奏はきちんと戸締りをして出かけるのだった。

●どこまでもペンギン
 街ゆく人は自然にペンギンだった。大人も子どももペンギンだった。
 練習場につくと、知り合いに挨拶後、練習着に着替えに行く。
「おなかすいたわね」
 昼ご飯は何か食べられるものがあるか探すつもりだ。外だと違うものもあるだろうと考えもした。
 それまではみっちりと練習だ。
 音楽は知っているものだし、踊りもわかる。
 頭の中にある振付をするが、ペンギンの姿ではどうもうまくいかない。
「足が短いのよね」
 見える分は短いけど、それ以外も可動域があるのは分かる。歩くのも走るのも、座るのもそれでどうにかなる。しかし、踊りとなると難しい。
 奏は転ぶ。
 ぺたんと転ぶ。
「昨日までできたのにっ」
 鏡に映るのはペンギンの奏。
 練習用のコスチュームはいつも通りのようだけど、ペンギンだ。
 歌うことはできるのだけれども、踊れない。
「ペンギンにはペンギンの良さがあり、ペンギンにだけできる踊りがあるのよ」
 それを追求すれば良いのだ。
 前向きにとらえてみる。
「それにしてもおなかすいたわね……」
 朝食抜きだ。
 それにしても夢にしてはリアルすぎる。
「やっぱり、世の中が何かの拍子で変わってしまったのね……魚丸呑み……」
 しないと餓死してしまう。
 食事について代案がないか、街に探しに行くことにした。
 階段を踏み外した。練習で思った以上に体力を消耗していたらしく、下りる動作がうまくいかなかった。
「きゃああああああああ」
 きれいに転がり、落ちていく。

「お嬢さん、大丈夫ですか?」
「あ、はい……」
 心配して手を差しだしてくれる相手はペンギンだった。
 自分の姿もペンギンだった。
 夢が終わらないのか、それとも世界が変わったのか……分からない……。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 ご指名ありがとうございます。
 なぜか、ペンギンとアイドルしか目に入らず。
 どこからどこまで夢なのか、分からない内容になりました。
 ありがとうございました。
おまかせノベル -
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グロリアスドライヴ
2020年12月08日

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