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『ANDROMEDA』
神埼 夏希la3850)&吉良川 鳴la0075

「なんだか、大昔のヨーロッパ、みたいだ、な」
 島に降り立った吉良川 鳴(la0075)は目の前に広がる光景を前に思わずそう口にした。
 神埼 夏希(la3850)は周囲の人々がびくりとこちらを振り返るのを見て、「鳴、静かに」と人差し指を立てた。
「族長さんの指示に従わなきゃ。私達がここに来てるのは、絶対秘密なんだから」
「んむ、悪い」
 周囲にはピリピリとした空気があり、松明を手にした何人もの見張り達が絶えず森や海岸の方を警戒していた。
 彼らの着衣は11世紀以前のゲルマン民族の服装に似ており、長く文明と隔絶されてきた空気があった。
 鳴がそう感じた通り、まるで時を遡ったような光景が広がっている。

 SALFの話では、彼らはある種の原始回帰思想を持ち、自ら現代的な生活を捨てた人々なのだという。
 20世紀の終わり頃からこの小さな島で何世代にもわたって独自の暮らしをしてきたようだ。
「ライセンサー、というのですか。そんな存在があったことすら、私達は知りませんでした」
 族長は2人を島の奥に招き入れると、現在の窮状を話し始めた。
 この島が置かれている状態が発覚したのは、1人の勇気ある若者が密かに島を抜け出し、近隣の島に助けを求めた事からだった。
 とある厄介なナイトメアがこの島に目をつけ、居座っているというのだ。
 島の人々はそれを、「海獣(ケートス)」と呼んでいた。

「ケートスは私達を支配下に置き、ひと月に一度若い娘を生贄に捧げるよう強いております。勇気ある者達がケートスを倒そうとしましたが、今まで何人もが犠牲になりました。このままでは……」
「大丈夫、私達も一応、SALFから事情は聞いてきたからね。後は私と鳴に任せてくれるかな? 今回のために、ちゃんと作戦を立ててきたんだ。もう心配は要らないよ」
 夏希はそう、島の人々に話した。
「だけど1つだけお願いがあるんだ。ケートスに生贄を捧げるのは満月の夜……明日だったよね? 若い娘さんの服を、一着私に貸して欲しいの」
 島の若い娘が身に着けるという真っ白な晴れ着を借り受けた夏希は、服装をそれに着替え、島の娘に見えるように化粧を施した。
 鳴はその様子を見ながら少し不安そうにしていた。
「夏希、本当にやる、のか?」
「大丈夫。この作戦なら絶対うまくいくよ。何度も練習したじゃない」
 そう言って夏希は持ってきた長く太い鎖を鳴に見せた。

 2人はここに来る前にSALFから島に居座るナイトメアをどう捕らえるかについて綿密な打ち合わせをしてきた。
 海に棲むナイトメア「ケートス」は飛行能力を持つドラゴン型のナイトメアである。
 しかも厄介なことに、人語を解し、高い知能を持つという。
「……逃がさないこと。それが、今回の一番の課題、だから、な」
 鳴は煙草を吹かしながら、そうぼんやりと口にした。
 ケートスはずる賢いナイトメアだとSALFからは聞かされている。
 不利な戦いを避ける傾向があるため、もしもケートスにライセンサーの夏希や鳴来たと知られれば、即座に撤退させることは可能だという。
 だが、逃亡されれば別の場所で同様の被害を発生させる恐れもある。
 夏希と鳴に命じられたのはケートスを上手くおびき出し、確実に仕留めることだった。

「作戦名『アンドロメダ』、か」
 鳴はギリシャ神話の物語を思い返していた。
「ケートスは、あの話を知ってるのかもしれない、な。話を聞いてると、そう思う」
 エチオピア王ケペウスと王妃カシオペアの間に生まれたアンドロメダは美しい王女だった。
 しかしアンドロメダはある時、母カシオペアが海の女神たちの怒りを買ったことが原因で怪物の生け贄として奉げられることになってしまう。
「波の打ち寄せる岩場に鎖で縛りつけられたアンドロメダは、そこに通りかかったペルセウスに救われるんだよね」
 夏希はそう言って軽くおどけて見せた。
 ケートスは島の人々に対し、生贄の娘をその神話の筋書きの如く海に捧げるよう強いているという。
 自らを「古代の海の神」として扱う事を求めているのだ。
「ペルセウスが持っていたメデューサの首を怪物に見せて、石に変えてね。今回は鳴がそのペルセウスの役」
「持ってきたの、メデューサの首じゃなくてライトマシンガン、だけど、な?」
 鳴はそう言いながら、持ってきた装備を確かめた。
 今手にしているのはフィッシャー製のLMG-ブラック・ペインA1だ。

「1人で無茶、するなよ? 俺もいるんだから、さ」
 この作戦の要は夏希だ。
 そのため、かなり危険を伴う役目を負っている。
 だが夏希は心配そうな鳴に対し、「大丈夫」と笑顔を見せた。
「分かってる。ちゃんと頼りにしてるよ?」
 翌日の夕刻、作戦は決行された。
 生贄の娘に化けた夏希は武器を服に隠し、島の人々と共に海へ向かった。
 そして海神の生贄としてささげられたアンドロメダのように、荒磯に鎖で縛り付けられた状態でナイトメアの出現を待った。

(神話のアンドロメダ王女は、ペルセウスが来てくれることを知らなかったんだよね。怪物に食べられる恐怖を感じながら、こうして海に縛られていたのかな)
 こんな海に、ただ一人、生贄に捧げられる瞬間を待って――そんな事を考えながら、夏希は岩場に立ち、海風に吹かれていた。
 月が上り、潮が満ちてくると、夏希のいる岩場には激しく波しぶきが打ち付けた。
 夜空には雲一つなく、海面は月の光でキラキラと金色に輝いている。
 波と風とが吹きつける度に、両腕に巻き付けた鎖がジャラジャラと音を立てた。
(こうしてると、生贄に捧げられたアンドロメダの気持ちが分かる気がするな……だけど、私には鳴がいる)
 その思いを胸に、夏希は自分の役目を果たすべく岩場に立ち続けた。

 最も月が高く上がる「南中」の時刻にそれは姿を表した。
 空気が張り詰め、海鳴りが響くのを聞くと、島の人々が「来るぞ」とざわめき始めた。
 鳴は夏希の姿が見える場所に待機し、ケートスの出現を待った。
(射程の長い武器の方がいい、な)
 メテオローム45を準備し、いつでもロケットランチャーの弾頭を発射できるように構える。
 すると夏希のいる岩場の沖合の海面が凪いだ瞬間、大きな黒い影が静かに現れた。
(あれがケートスか……)
 鳴は照準器の向こうに、その大きな影がコウモリのような大きな翼を広げるのを見た。
 上半身はまさにファンタジーの世界のドラゴンのそれである。
 だが下半身は魚のウツボのような、鱗に覆われた長い形状をしていた。
 ケートスは岩場に上がると、品定めするように夏希を見下ろし、その大きな目で睨むように見た。

「この島の愚民共もようやく我に何を捧げたらいいかが分かって来たらしいな」
 満足げな口調でそう口にし、ケートスは喉を鳴らした。
「何とも美しい娘ではないか! そなたこそ我が贄に相応しい!」
 ケートスは夏希を一飲みにせんと大きく口を開けた。
 だが、その時だった。
 この瞬間を待っていた鳴がケートスの翼の被膜を狙い、満を持してロケットランチャーの弾頭を放ったのだ。
(行くぞ、夏希!)
 大型の隕石にも似た弾頭はケートスの翼を突き破り、その巨体が大きくバランスを崩した。
 それを見た夏希は素早く鎖を解くと、レイピア「タルジュラキーク」を抜き勇ましくケートスに切りかかった。
「ありがとう鳴! 作戦通りだよ!」
 氷のように鋭く透明な刃が月光に輝き、ケートスに鋭く切りつける。
 冷気を纏ったタルジュラキークの刃に裂かれ、その黒ずんだ皮膚からは真っ赤な血が噴き出した。

「おのれ! 謀ったか!!」
 ケートスは逃亡を図らんと翼を大きく広げたが、鳴のランチャーの一撃を受け、既に飛行能力はなかった。
 すると戦わざるを得ないと悟ったのだろう。
 目の前の夏希に向けて真っ黒な炎を吐きかけたのである。
「……っ、危ない!」
 夏希は咄嗟にフォートレスシールドを構え、ケートスの炎を防いだ。
 その間に鳴は潜んでいた場所から飛び出し、武器をライフル「ミーティアAT7」に持ち替えて銃撃を開始した。
「夏希! 近づきすぎるな!」
 鳴は残ったもう一枚の翼を狙って撃ちながら、そう声を上げた。
「ケートスのブレスは、フォートレスシールドだけじゃ、防ぎきれない!!」
 銃弾はケートスの被膜を突き破り、穴を開けた。
 するとケートスはその巨体を大きく揺らし、長い尾を鳴に向かって鞭のように叩きつけた。
「この、無礼者めが!!」
「うわっ……!!」
 長い尾に煽られ、弾き飛ばされた鳴は岩場に体を強打した。
 手放したライフルが大きな音を立て、海中へと落下していく。
 さらにケートスは鳴に向け、高温の炎を吐きかけた。

「鳴!」
 夏希は咄嗟にケートスに飛びつき、その首にタルジュラキークを突き立てた。
 ケートスは苦し気な声を上げ、岩場に倒れる。
 その間に夏希は鳴のもとへ走った。
「鳴! 鳴、大丈夫?!」
「大丈夫……だ、これくらい。それより……まだ油断、するな」
 苦痛の表情を浮かべながら、鳴が立ち上がる。
 幸い夏希がすぐにケートスを鳴から遠ざけたのと、身に着けたコートなどがあったおかげで深刻な火傷にはなっていなかった
 背後ではケートスが立ち上がり、体勢を立て直す気配がした。
 まだ身動きが取れなくなるほどのダメージにはなっていなかったようだ。
「首を剣で刺したのに。思っていたよりも、耐久力があるって事だね」
 夏希はフォートレスシールドを構え、鳴を庇うように立ちながら、その頭上へと神恵の雨雫を降り注がせた。
 暖かな治癒の雫が鳴の傷を癒す。
 その間に身を起こしたケートスは首に突き刺さったタルジュラキークを抜き捨てると、「おのれ!」と叫んでこちらを睨みつけた。

「我をコケにしおって!! 目にもの見せてくれる!!」
「鳴! 頭を下げて!!」
 夏希はフォートレスシールドを構え、吐きかけられた黒い炎を防ぐ。
 しかしその炎は先ほどとは比べ物にならないほど強力だった。
 そしてケートスは炎を吐きながら、じりじりと夏希に近づいてきた。
(なんて強いブレス……これじゃ、盾が!)
 夏希がそう感じた時だった。
 大きな音を立て、盾にヒビが入ったのだ。
「やっぱりこう、なったか……! 夏希、俺がやる!」
 鳴はシールド・オブ・メガロスを手にすると、夏希の後ろから飛び出した。
 そしてケートスの攻撃を誘うように、「こっちだ!」と声を上げた。
「こっちにはまだ、武器がある! お前はここで終わり、だ!」
「おのれ!!」
 挑発に乗ったケートスは鳴をキッと睨みつけると、今度はそちらに向かって炎を吐きかける。
 鳴はすかさず盾を構え、その炎を受け止める。
 シールド・オブ・メガロスはその耐久力を以って黒い炎を跳ね返した。
 だが夏希のフォートレスシールドは既に限界を迎えており、真っ二つに割れ落ちた。

(危なかったな。だけど、鳴の盾ならあの強烈なブレスにも耐えられる!)
 夏希はLMG-バジリスクを手にし、壊れた盾を捨ててケートスの背後に回った。
 そして鳴と挟むようにしながら、銃弾をその巨体へと撃ち込んだ。
(この島の人を何人も犠牲にしてきた怪物ケートス……だけどそれも、ここで終わりだよ!)
 激しい銃撃を受け、ケートスは怒りの咆哮を上げて夏希にその長い尾を振りかざす。
 だが夏希はそれをひらりと回避した。
 その間に鳴は再びロケットランチャーを構える。
(翼は、もう使い物にならない。だったら、最後、は)
 鳴が狙ったのは、ケートスの頭部だった。
 ケートスが夏希を狙って炎を吐きかけようとした瞬間を狙い、鳴は残った弾頭でケートスの頭を狙い撃った。
 轟音と共に弾頭はケートスの頭を弾き、巨体が岩場に倒れこんだ。
 だがケートスはその巨体を引きずり、海の中へと逃げ込むそぶりを見せた。

「我は、まだ……終わら……ぬ……」
 このまま逃がせばいずれ体力を回復し、再び被害を出す恐れもある。
 夏希は岩場に落ちていたタルジュラキークを拾い、ケートスに飛び掛かった。
「これで、とどめだよ!!」
 冷たい氷の刃がケートスの心臓を貫く。
 その一撃が致命傷となり、ついにケートスは動かなくなった。
「任務完了、だね。どうかな、鳴? 私ちゃんと、アンドロメダ王女の役目できてた?」
 夏希はそう言って鳴にホッとしたような笑顔を向ける。
 鳴は大きく頷き、「お疲れ様」と微笑み返したのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼ありがとうございました、九里原十三里です。
今回はおまかせノベルということで、神埼 夏希(la3850)さん、吉良川 鳴(la0075)さんのお話を1から作らせていただいております。

舞台は、ヨーロッパの隠れ里的な島です。
夏希さん、鳴さんのお2人にはギリシャ神話のアンドロメダとペルセウスのストーリーを基にした作戦を展開していただきました。
今回夏希さんが装備していたレイピアをカッコよく描き、鳴さんにもスナイパーとして活躍していただくにはどうしたらいいかな、と考えて書かせていただいた次第です。

改めまして今回はご依頼ありがとうございました。
どうぞ最後までグロリアスドライヴをお楽しみください!
おまかせノベル -
九里原十三里 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年12月08日

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