▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『砂の女王を追い詰めろ!』
日暮 さくらla2809


 日暮 さくら(la2809)はSALF本部で難しい顔をしていた。白い眉間には深い皺が刻まれている。
 不意に細長い指がその皺に触れた。繊細な見た目を裏切るように、ぐりぐりと伸ばそうとする。
「さ、サイレン(lz0127)! 何をするんですか!」
 驚いたさくらは顔を上げて、戦友のサイレンに抗議する。相手は、長い前髪の隙間から緑玉の瞳でさくらを睨むように見ていた。
「また眉間に皺を寄せて。そんなにむつかしい顔をしなくても良い。どうにかなる」
「どうにかって」
 さくらもどちらかというと猪突猛進な方だが、サイレンはそれ以上におおざっぱだ。
「ナイトメアがいて、わたしたちがいるならどうなると思う?」
 答えようとする前に、サイレンがテーブルを叩いた。
「戦ってわたしたちが勝つだけだ! 全員フライにしてやる! カツだけに!」
「カツとフライは成り立ちが違うそうですが……」
 さくらのツッコミも耳に入らないようで、サイレンは自分で言った冗談に、胸を張って「ガハハ」と、その見た目とは相反する豪快な笑い声を上げている。正直、さくらは面白いとは思えず困ってしまったのだが、同じライセンサーのヴァージル(lz0103)もスルーしていた。
「さくらが懸念するのも尤もだ。今捕まっている他にも、レヴェルの共犯者がいるんだろう」
「そうだとすると、厄介ですね。警戒する対象が広くなります」
「おいらにもわかりやすく説明してくれよぉ」

 その周りをうろうろしているのは、ヴァルキュリアのワンダー・ガーデナー(lz0131)である。元々は遊園地にあるホラーアトラクション案内AIの一体だったが、ある日突然自我に目覚め、「おまえ、刻んじゃいたいほど綺麗だねぇ」と同じAIの幽霊型ロボットに飛びかかったのをきっかけに、ヴァルキュリアとして認められた。その後、紆余曲折を経てライセンサーになったと言うわけだ。その後、心理教育や修正パッチをダメ元でインストールし、現在では飛びかかることはなくなっている。が、美しいものを見ると目の光が怪しい。

 ヴァージルも結構な面食いで、ガーデナーは同類だと思っているものの、ヴァージル本人によると、「俺は別に顔は刻みたくない(震え声)」と言うことである。前職が保安官代理で銃には慣れており、今も射撃を得手とする彼とさくらは、銃で切磋琢磨する間柄だ。

 元人魚のサイレンは、いた世界こそ違えど、さくらと同じ放浪者。ライセンサーになったのはヴァージルよりも早く、彼の面倒を見ていたので姉貴面しており、同じく弟妹分がいるさくらとは気が合う。十ほど年上のヴァージルの事も、つい弟のように見てしまうさくらである。

 そんな愉快(?)なライセンサーたちだが、さくらは幾度も彼らと一緒に任務にあたった。一癖も二癖もあるが、彼女にとっては大事な戦友たちだ。


 今、彼女たちが追っているのは、アメリカを中心に暗躍しているエルゴマンサーのパメラ・ハーロウである。決め台詞は「テキサスの砂にしてあげるわ!」。テキサスの砂漠ど真ん中に建てたインソムニア「サンドキャッスル」の女王様を気取っている。
 そのパメラが、最近また破壊工作を始めた。だが、今回はどう考えても、生きている人間の共犯者がいるとしか思えない。擬態元のパメラは死亡が確認されており、あらゆるIDや身分証の使用が停止されているため、彼女が人間のふりをして動くには限度があるのだ。もっとも、そこら辺の人間に愛想良く近づいてタクシー代を借りる(踏み倒し前提で)くらいは可能だろうが。

 案の定、数日前、彼女に協力するレヴェルが一人捕まった。現在取り調べ中だが、その間にもパメラの活動は止まらない。他にも一般人の協力者がいると見て間違いないだろう。聴取中のレヴェルが何か知っていれば、事前に彼女の悪事を止められるかもしれない、と、ライセンサーたちは期待と焦燥で落ち着きがないのだ。

 運の良いことに、求めていた情報はそれから間もなく手に入った。ライセンサーの一人が勢い込んでさくらたちが作戦会議をしている部屋に飛び込んでくる。
「共犯者の一人が吐いた。パメラは火薬メーカーの倉庫を襲うつもりだ」
「何ですって?」
 爆破に使われたらとんでもないことになる。既に出発したパメラの車も特定されており、あとはライセンサーたちが駆けつけるだけだ。
「すぐに止めないと……」
「バイク出す。俺が運転するから、お前はサイドカーから撃ってくれ」
 ヴァージルの申し出に、さくらは頷いた。
「サイレンたちはどうしますか?」
「わたし? わたしは考えがあるから。うさぎ、お前もこい」
 そう言うと、サイレンは二メートルほどあるガーデナーを片手で引きずってどこかに行ってしまった。首を傾げて見送るさくらとヴァージルの射撃コンビ。


 さくらはヴァージルが運転する大型バイクのサイドカーに乗った。SALFのロゴ入りで、警報を鳴らす緊急車両ほどではないが、それなりに他の車両の気遣いを期待することができる。ヴァージルは制限速度ギリギリで道路を走った。やがて、太陽が地平線の向こうに沈む。
「──あれですね」
 長い鉄橋に差し掛かったところで、情報にあった黒いワゴン車が見えた。も向こうもこちらに気付いたようで、スピードを上げる。制限速度を超えていた。ヴァージルもそれに追いすがるように加速。
 助手席から拳銃を持った手が伸びてきた。発砲する。ヴァージルはサイドカー側の腕に取り付けていた盾で射線を妨害。弾丸を弾き飛ばす。ゼルクナイトの本領だ。
「できるだけ守ってやるつもりだが、どうする?」
「大丈夫です。あなたの防御を信じていますし、それに──」
 自然、口角が上がった。
「銃を使われて、負けるわけにはいきません。こちらも腕を見せなくては」
「はは」
 呆れるかと思ったが、ヴァージルは軽快な笑い声を上げた。
「気が合うな、俺もそう思う」
 それを合図に、バイクが加速した。SALFでなければスピード違反で捕まっている。SALFであってもなくても、ちょっとした制御の狂いが命取り。そんな速度。エンジンが唸りを上げている。バイクは車に追いついた。
「その根性だけは褒めてあげるわ」
 ワゴン車のバックドアが開いた。さくらは目を細める。写真で見たパメラ・ハーロウだ。彼女はショットガンを構えてこちらを見ていた。
「でもそこまでね! いくらイマジナリーシールドがあるって言ったって、そのスピードのバイクが横転、転落、ついでに爆発に巻き込まれたら無事じゃすまないでしょ! あたしのせいじゃないわよ! あんたたちは自分の無鉄砲で大怪我するの! ざまーないわー! あーっはっはっは!」
「御託を並べる暇があるのか、余裕だな」
 ヴァージルがさくらを見た。彼女は頷くと、二挺拳銃・ヨルムンガルドを抜いて発砲する。漆黒の拳銃が火を吹き、銃声に驚いたパメラは荷室でひっくり返った。
「ちょっと! こういう口上は最後まで聞くもんでしょ!? そんであたしが先制するのが様式美でしょうがよーっ!!!!」
「てめぇの様式美なんざ知るか! さくら、どんどんやっちまえ!」
「わかりました! 運転は任せます!」
 まだ、刀は届かない。さくらは好機を待って、根気よく撃ち続けた。車体に着弾して火花が散った。グラップラーでスナイパーのさくらは、余程のことがなければ外さない。自らの能力に驕ることなく、常に最善を尽くす真面目さも相まって、その射撃は正確だ。
 しかし、相手も肝が据わっているのか、なかなかこちらの挑発に乗らない。
「これ以上はスピード出せねぇぞ」
「わかりました。では」
 ヴァージルのぼやきに、さくらは片膝を立てた。荷室ドアが全開なら、やってやれなくもない。
「飛び移ります」
「おい」
 ヴァージルが目を剥いたその時だった。インカムに雑音が入る。
『あー、テステス。わたしだ! 今から機銃で撃ちまくるから気を付けるように』
「え?」
 サイレンの声がする。さくらが上を見ると、確かに戦闘ヘリが猛スピードでこちらに追いついて来ていた。エンジンと風で、プロペラ音が聞こえなかったらしい。
「サイレン?」
『ワゴン車の前に撃つから』
「おい」
 ヴァージルが呻いた。サイドカーを見て、
「掴まっとけ」
 さくらがその忠告に従って座り直したその瞬間、ヘリコプター下部に装着されている砲身が動いた。そうかと思うと、その先端が連続して光り出す。ヴァージルがバイクを減速させた。
「ぎゃーっ!?」
 ワゴン車の進行方向を、銃撃が襲った。運転手が驚いて、減速して蛇行する。車の後部が一気にこちらへ接近した。スピードを緩めていなければ、衝突していたに違いない。
『わーはははは! 愉快愉快! ざまあ見ろ。さくら! これで届くんじゃない?』
「そうですね! ヴァージル、加速してください!」
「よしきた!」
 さくらの要請を受けて、ヴァージルは加速した。彼女はサイドカーで膝を立てる。
「倉庫には行かせません」
 再び、車とサイドカーの距離が詰まって行った。さくらは守護刀の柄に手を掛ける。
「刀も銃も私の刃」
 ヴァージルが速度を調整し……ワゴンとバイクのスピードが重なった。二者の距離が一定を保つ。
「行け、さくら!」
 それを合図に、さくらはサイドカーを蹴ってワゴンの荷室に飛び乗った。パメラがショットガンを向けるのは、抜刀の勢いで銃身を弾き飛ばす。
 白刃が夜景を映してきらきらと光っている。この光は人の営みを表す光。あの灯火を消させてはならない。たくさんの縁がそこで灯っている。
 パメラは銃床でさくらに殴打を浴びせる。咄嗟に避けて、二挺拳銃を突きつけた。
「倉庫は諦めてください」

 その時、またワゴン車の前に機銃の弾丸が撃ち込まれた。車は大きく蛇行し……。

 橋を飛び出した。

「さくら!」
 ヴァージルの大声が遠くから聞こえる。ワゴン車は下の川へまっすぐ落ちて行く。さくらはドアの縁を掴んだ。その時、今度はヘリコプターの回転翼が上げる爆音が、高笑いの様に聞こえる。見上げると、そこから何か、折りたたまれたものが展開しながら落ちてくる。縄ばしごだ。
『掴まれ!』
 さくらは言われたとおりにそれを掴んだ。登ろうとしたとき、脚に何かが引っかかる。一体何に? 不審に思って下を見ると……。
「あんたとあのヘリも道連れよ」
 まだ動けるパメラがさくらの脚を掴んでいた。このままでは、落下の勢いでヘリコプターも落ちてしまう。さくらかパメラが手を離さなければ……。
 その時、橋の上から弾丸が飛来した。パメラの手を正確に撃ち抜き、解放されたさくらは縄ばしごを登って車から脱出した。
「覚えてなさいよー! よー……! よー……!」
 パメラの捨て台詞がエコーになって耳を打つ。さくらは振り返らず、一目散にヘリまで登っていった。下で派手に水しぶきが上がる音が聞こえる。
「ふええん! さくらぁ! さくらぁ! 無事で良かったよう! さ、これに掴まって……」
「鋏を差し出すのはやめてください……」
 ヘリに乗っていたガーデナーの手助け(?)をやんわりと断って、さくらはどうにか乗り込んだ。ガーデナーは彼女に大怪我がないことを確認すると、ひしと抱きつき、
「良かったよう! おいら、心配したよう!」
「ガーデナー……ありがとうございます」
 もふもふが好きなさくら、ここぞとばかりに着ぐるみの手触りを堪能する。戦闘でしょっちゅう転んで、その度に汚しているが、その次までにクリーニングを受けて、もっふもふの手触りを維持しているガーデナーである。
「ジル、わたしだ! さくらは無事! これからヘリポートに向かう」
『どこのだよ』
「どっか!」
『この辺にヘリポートがいくつあると思ってんだ?』
 そんな戦友のやり取りを聞きながら、さくらはガーデナーから渡された毛布にくるまって、夜景を見る。今は彼のわめき声も耳に心地良い。交わされる会話を聞いて、彼女はくすくすと笑った。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
北米トリオ味方IFです。少々はっちゃけましたが、敵同士だったときから味方IFのことまでひっくるめて、彼らとさくらさんでありそうなことを全部乗せしました。
本編はシリアス目が多かったので、ライトな感じでお送りしております。
ヴァージルとは少年漫画ですのでちょっとバディ風にさせていただきました(実際息は一番合いそう)。相方さんもゼルクですしね。ゼルクと組むのは慣れてそうな。
NPCの設定は今回用です。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
おまかせノベル -
三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年12月10日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.