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『きっとこんな幸せ』
霜月 愁la0034

「さて、と」
 箪笥を、クローゼットを順番に開けていく。
「基本、外だから暖かくしないと……でも動きやすいのが良いよね……。上着も脱いだり着たりだろうから、あまり重たくないのにしたいな……となるとインナーが……」
 つぶやきながら、条件に合致する服をとりあえず手あたり次第引っ張り出してベッドの上に広げていく。さて、これらをどう組み合わせようか、と、クローゼットから振りむいて、並べた衣服を俯瞰して。
「……意外とあるな」
 そこで一度、困ったようにポツリと零した。
 服装に気を配るたちなのかと言えば──そうとも言える、というのが霜月 愁(la0034)の自認になる。
 曖昧な返事になるのは、お洒落、という意味で気を遣っているかと言えばそれは違う気がするからだ。自らを飾り立てたい、他人の目を惹きたい……という気持ちがあるかというと、そんなつもりはあまり無い、と、思う。
 じゃあ無頓着かというと、服を選ぶときに意識していることは、ある。
 ライセンサーとして、彼の資質はオールラウンドに伸びていた。白兵戦をする技量や耐久面に優れる一方で、遠距離攻撃を主体とすることも出来るし、補助や搦め手の手段もそれなりに持ち合わせている。結果、戦いにおける彼の立ち回りというのは状況や同行者次第で毎回柔軟に変化していた。そこで彼は、準備に余裕があるならその、『今回の立ち回り』を意識した服装を纏うようにしている。なまじ何でもできてしまうが故に、己の役割以外の事をあれもこれもと欲張るのを抑制し、しっかりとすべきことに専心できるようにだ。
 例えばそんな風に、服装が、意識を、気分を作り上げるというのは実感としてある。そういう意味では、服に拘りがあると言えば、あるのだろう。
 だから、偶に──彼の場合、稀に、と言うべきかもしれない──ある休みの日の時間つぶしには、服を見に行くというのは良く選ぶ行動だったし、そうすると、彼の見目はアパレル店員なんて職を選ぶものの魂を燃えやすくする性質があるのだろう。しょっちゅうコーディネートをされては、悪くないなと思うとなんとなく買ってしまい……今の状況の話に戻る訳である。
 気が付くと思ったより手持ちの衣服が多い。
 ちなみに、何故か女物の服もあった。……いやまあ、何故か、とは言っても、心当たりはあるのだが。その素材を活かそうとするとユニセックスなものに纏まりがちな彼の姿は、先述の流れにおいて稀に良く店員に性別を勘違いされ、たまーに、疲れてぼんやりしているとそのままつい……という事が、何度かあったような気が、思い出すと、そう言えば。
 ともあれ今日はこういうのには用は無いから──別の日ならあるのか? ほら、任務の都合で必要になることが無くもないかもしれない──と、一旦それらはしまい込んで、残った候補を見る。
 ……店員さんに選んでもらった組み合わせは、覚えている。その組み合わせから一つ選択すれば間違いは無いのだろうが。
(今日はもう少し……自分でも考えてみようかな)
 どうせ時間はあるのだし。
 なにせ、目覚ましより30分は早く起きてしまった。
 それぐらい、今日の予定に浮かれている自覚はあった。むしろ睡眠時間の短縮がこの程度に収まったのがよくやったと思うくらい。
 遊園地に行くのだ。今日──大切な親友と。
 薄手だけど素材の工夫で暖かなシャツを摘まみ上げて見比べながら、滲む暖かな想いに頬を緩ませる。
 両腕にそれぞれかけたシャツの色を見比べながら、ふと、彼に対してはどうなのだろう、と思った。
 ……別に他人の目を気にしてお洒落をしているわけではない、けど、彼に対しては?
 今日、自分は、彼に見て欲しくてこんなに気合入れておめかししている?
 …………。
 ほんのり、暖かくて、幸せな、この想いは。
 恋愛感情、なのだろうか。
 多分、友情という枠に納めるにははみ出してしまうような気も、した。ただ、はみ出た部分に友情以外に貼るラベルがそれなのかというと……分からない。
 もう一度、腕のシャツを、これはと思って周囲に集めた衣服をじっくりと眺める。
 彼を思って選んだなら、自分はどういう方向を目指したんだろう。格好いい? 可愛い?
 ……別にそうした意識は見られない。いつも通り、自分がただ良いなと感じるものを自然に選び取っただけ。
 うん。多分、今日のこれも、任務に臨むときの気持ちとそう変わらないのだろう。
 ただ、これからの時間の為に。今、自分で一番いいと思える自分になりたい。
 彼と一緒の時間はそれだけで楽しいに決まっているけど……でもだからこそ、出来うる限り最高の時間にしたいから!
 だから。
「うん……セーターはこれで……ボトムは……」
 選んでいく。自然な、ありのままの自分。……ありのままの、気持ち。
 彼と一緒に居ると、幸せ。
 この幸せを、共に分け合いたい。
 ……大好き。
 この気持ちがどんな形なのかは分からないけど──同じ想いを、熱を、相手も向けてくれていることは確かめ合っている。
 だからそれでいい。この想いに、急いで名前を付けなくたって。
「……よし」
 選んだ服を纏って、鏡の前に立つ。上出来と思える自分が、そこに居た。

「……まだ、こんな時間、か」
 無事に今日の服も決まって。広げた服を丁寧にしまい直して……時計を見上げたら、まだまだ時間に余裕があった。
 元々かなり余裕を持ってセットした時間よりさらに早く起きたのだから当然と言えばそうなのだが。
 その為に殊更おめかしに時間をかけたつもりだっただけに、待つ時間がまだまだあることにどうしてもじれったくなる。
 ……早く、会いたい。
 ソファで無駄に足をブラブラさせて、恨みがまし気に時計を見ても、ちっとも進んでくれはしなかった。
 手持無沙汰だ。どうしようか……と考えて、そうだ、朝ご飯、折角だし少し手をかけて作ってみようか、などと思い立った。
 今日は沢山遊ぶのだし、しっかり食べておこう──そんな発想すら、これまでの自分を考えたら驚きだけど。
 まったく、自分一人の食事なんて、どうでもいい、が最もよく出る部分だったというのに。食事に対して、じゃない……自分に対して、だ。生き延びてしまった、罪深い、そんな命はもう他人の為のものであるはずだ……と、そう思っていた頃の。
 痛みはまだ、そこにある。過去の傷は決して消えない。それでも、過去へと囚えようとする闇よりも強い光が、未来を照らしていることを今は感じている。
 いつか過去は消える、じゃない。過去の傷に、暗闇に、この先ずっと苦しむとしても……それでも、生きていたいと思えるだけの希望。
 ……そう思えば、待ち遠しくてくたびれる、この時間すらそれを実感させてくれる。
 それじゃあ、噛み締めようか。
 ふわふわのオムレツでも焼いて。ベーコンを添えて。レタスと、こないだふと作ってみた自家製ドレッシングで。
 ポットで丁寧にお茶を淹れて、ゆっくりと啜りながら……。
 ──時間まで、きみの事を考えていよう。









━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
凪池です。ご発注有難うございます。
出かける前のおめかしシーン……というわけで、参考までにOMCを色々眺めさせていただきましたが、まーそうこうするうちに色々膨らんでしまって随分と捏造してしまった気がしますが大丈夫でしょうか。
それ以上に全体的に大丈夫なのかな気もしますけど。ええ、まあ発注文によりますと恋愛感情かは肯定も否定も出来ないとのことで。
加減……は、これで、合ってる……のか?(
書いてて正直よく分からなくなりました。問題ないことを祈るばかりです。
改めまして、この度はご発注有難うございました。
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凪池 シリル クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年12月11日

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