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『来来来世』
cloverla0874


 朝、寒さで目覚めた。ぬくぬくお布団の中にもう少しいたいけれど、えいっと思い切って起き上がる。
 カーテンを勢いよく開けたら、冬特有の柔らかな陽の光がclover(la0874)を包み込んだ。

「良い天気だよーっ。お出かけ日和!」

 せっかく女の子になったのだから、今日はうんと女の子らしく着飾って、デートをするのだ。
 え? デートのお相手が誰かですって。それはもちろん……。
 ぐれんのわんこをぎゅっと抱きしめて。

「今日は君と一緒にデートにいこー!」

 本当にデートしたい相手は、もういないから。

 事前に女性向けファッション誌でデート服のリサーチ済みだ。
 女子には『推し色』を身につけるという文化があるらしい。
 手芸店で買ってきた、紅蓮と紫の2本のリボンを、クローバーのブローチに結んで、お気に入りの白いケープに付ける。
 純白のcloverが彼色に染まったようで……。頬がほんのり赤くなりそうなのを、笑ってごまかす。

「あはは、なんてねっ!」

 今日はお化粧にもチャレンジしてみるのだ。美少女な自分には必要ないかもしれないが、さらに美少女度がアップアップするかもしれないし?
 瞼に白のキラキラパールを乗せて、色つきリップをつける。ほんのり薄化粧。それだけでも、いつもより輝いて見える。
 鏡に映った自分の姿に、我ながら見惚れる。

「やばい。完璧びしょーじょの爆誕だー!」

 トートバックから顔を覗かせるぐれんのわんこを連れて。その首には紅蓮と紫のリボンを首に結んである。デートだからお揃いコーデ。
 玄関で焦げ茶色のころんと丸いブーツを履く。
 この季節にはちょっと肌寒い、ライトグリーンのチュールスカートを着た。くるぶしまである長い裾から、ブーツが透けて見える。ふわふわボリュームの裾が、風で揺れると綺麗で、思わず見とれて買ってしまったのだ。
 春向きのスカートだが、春まで待てない。

「よーっし! 出発だ」

 そう叫んで、ぐれんのわんこの頭を撫でると、頷いた気がした。



 吐く息も白い、冬の始まり。けれどまだ秋の名残は残っていて、今ならまだ綺麗に見られるはずと、とある公園を訪れた。
 赤、黄色、橙。色とりどりの紅葉に染まった木々が美しい。

「わーー! ねえ、見て、あの真っ赤な葉。君にぴったりじゃないかなあ」

 バックから取り出したぐれんのわんこをぎゅっと抱きしめ、紅葉を見ながら一歩づつ歩く。
 さくり。さくり。落ち葉を踏む音、感触を感じながら、ふと思い出した。

 君と出会って、もう1年だね。
 初めて会ったとき、本当に酷いめにあった。
 だって、美少年ボディを燃やされて傷つけられたのだ。
 次に会ったときには、傷物にした責任とーれーっと怒ったり。
 その次が……うん、最後だった。
 会う度に戦って、落ち着いて話をする時間もなかったのに、君と友達になりたいって思ったのだ。
 『幸せになろうよ』と本気の約束をした。無理だと思っていたが、思いのほか真摯な返事が返ってきて。

 ああ、そういう真摯な君に惹かれたのかもしれない。
 ……この手にまだ君を殺した感触が残っていて、少し手が震えた。

 失ってから気づく物もある。
 君がいなくなって、君を思い返す度に、どんどん君への思いが増していって。
 もっと一緒にいたかったって、後悔で胸の奥がきゅっとなる。
 
 その時、強い風がさっと吹き、落ち葉が舞い上がる。思わず髪を押さえたら、微かに視界の端に移った、紅蓮の髪。紫の瞳の人影。

「え……──君?」

 慌てて追いかけようとして、瞬きの間に消えた。
 それは幻覚か、あるいは……。

「まさか、幽霊? それはそれでいっかって思ったけどー。不意打ちだと……」

 ぽたり。頬が濡れている気がした。まさか涙?
 慌ててぬぐおうとして、はたと気づく。今日は化粧をしている。乱暴にこすったらダメだ。
 そっとティッシュで押さえる。

「女の子って不便だなあ。君のために泣くこともできないなんて。なーんって」

 おどけて笑って、ごまかして、そっと胸を押さえた。まだ鼓動が早い気がする。



 たっぷり紅葉を楽しんだら、ちょっぴりお腹もすいてきた。おしゃれなカフェレストランに入ってランチタイム。
 赤と白のチェック柄のテーブルクロスが可愛い。テーブルの向かいにぐれんのわんこを乗せて。

「デートだし、向かい合って食べないとね」

 ぺらりとメニューをめくる。この店に入るのは初めてのはずなのに、何故か懐かしい気分がする料理を頼んだ。
 ぐれんのわんこの前に、ハムタマゴとツナサラダのサンドイッチをお供えして(この後cloverが美味しくいただきました)。
 たっぷりシチューをまとったショートパスタから湯気がたちのぼり、熱々そうだ。

「猫舌な君のために、冷ましてあげようか?」

 ……ん? 一緒に食事したことがないのに、なぜ猫舌だとおもったか?
 そんな気がしたのだ。
 ふーふーと冷まして、かぷりと噛みしめる。口の中に広がるシチューの旨味が凄くて、体がじんわり温かくなる優しい味で。

「んっ、まぁ〜〜い!!」

 食後にドライフルーツが効いたパウンドケーキとを食つつ、紅茶を飲むと、ほっと一息。

「美味しい? 今度は俺が作ったお弁当を、一緒に食べようよ」

 物言わぬぐれんのわんこが、返事をした気がした。



 次はどこに行こうかなと、ぶらぶら歩いていたら、下校中の小学生を見かけた。
 おそろいの黄色いお帽子なのは、まだ年少さんか。
 男の子と女の子が、仲良く手を繋いで歩いていた。
 何故か、それが、彼とcloverの姿にダブって見えたのだ。

 もしも、生まれ変わったら、あんな風に歩けるだろうか?

「幼馴染み美少女って最強じゃない?」

 子供達の後ろを、犬の散歩をしている人が続く。ふわふわの小型犬が愛らしく、つぶらな瞳をじっと見てしまう。
 ……ん? 生まれ変わった時に、人間になるとは限らない?
 もしやふわふわわんこになるかもしれない。
 二匹で、くっついて寝そべったり。おいかっけこしたり。
 それは、それでとても可愛い。

 けれど……やっぱりだめだ。

「来世でも俺は、美少女になる!」

 だって、犬は人より寿命が短いし。どうせ生まれ変わるなら、少しでも長く二人の時間を過ごしたい。

「あっそうだ!」

 はたと気づいて、急いで最初の公園に戻る。
 紅蓮に近い色合いで、綺麗な葉を四枚あつめ、大切にハンカチに包む。持ち帰って押し葉にして、これで四つ葉のクローバーを作れば『紅蓮の四葉』だ。
 君との絆を深めるお守りにしよう。

「俺がびしょーじょになってあらわれたら、驚くかなぁ」

 君と過ごした頃は、まだ美少年ボディだった。四葉モードは見せてない。
 とまどう姿を想像したら、くすりと笑ってしまう。

 軽やかな足取りで、チュールスカートを揺らして、家路へ向かう。
 もしも、生まれ変わったら。そう考えるだけで、自然と笑顔があふれる。
 ヴァルキュリアが、ナイトメアが、生まれ変わるかなんて知らないけど、信じれば絶対叶う。

 過去を悔いて泣くより、未来を夢見て笑う方が、ずっとcloverらしい。

 君と再会するのは、来世か、あるいは来来来世?
 どんな姿になったとしても、必ず見つけてみせる。その魂を見失わない。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
●登場人物一覧
【clover(la0874)/ ? / 17歳 / 乙女もーど】


●ライター通信
いつもお世話になっております。雪芽泉琉です。
ノベルをご発注いただき誠にありがとうございました。

cloverさんと言ったら、彼の存在を抜きに語れないのかなと思い、されど雪芽にご本人を描く技量もないので。
彼を思うcloverさんの乙女モードを描いてみました。
時期は12月初頭。『四葉モード』に正式に移行してから。少しファンタジーを交えつつ、史実よりで書かせて頂いております。

何かありましたら、お気軽にリテイクをどうぞ。
おまかせノベル -
雪芽泉琉 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年12月11日

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