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『ねこぱらこうりゃくせん』
アルマla3522

 わっふわっふわふふ〜ん♪
 と、いう感じでもちやかなツーステップ。全長80センチの謎生物または“もち犬”のアルマ(la3522)は今、陽気におさんぽをキメている。
 いつもなら腰に多節刃が巻き付けられていて、彼はおさんぽに連れていかれているわけなのだが――方式が人類スタイルじゃないことに疑問を抱く者は、当人始め関係者の中にひとりとして存在しない――今日は違う。野放しなんである。理由は、多節刃の主であるところの“兄”が療養中だからだ。
 兄はナイトメアとの最終決戦を全力で戦い抜き、代償にオーバーホールを行うこととなった。従来のままの機工でいいなら1日で済んだのだが、ある事態へ備えた新機能を導入したことで、その調整に手間どっているのだ。
 ちなみに、すべての作業をこのアルマがしていると言うと、聞いた者のほとんどが同じことを口にする。つまるところ「本当に!?」と。
 さすがにしんのすがたをとりもどすひつようがあったですけど。
 思い出したアルマはもちー。息をついた。
 真の姿はシニカルな風情をまとう身長187センチの美形技師であり、その知能と知性は他者の追随を許さないレベルにある。一応、この世界における常の姿“もち犬フォーム”でも同じ能力を発揮できるのだが、思考や有り様が形に引っぱられてもち化するため、いろいろ大変なのだ。
 と、まあ、そんなこともありつつ、全力で兄を修理・改修した後はすることもなくなって、アルマは暇になってしまった。お友だちも皆いそがしそうで、声をかけるのは憚られるし……
 わんわん、そうです! ぼくがおりこうにおさんぽできるいいこだと、おにいちゃんにしらしめるです! そしたらおにいちゃん、ぼくをかわいがらずにいられますまいー!
 オンとオフしかないのが犬である。思いついたら即行動、アルマは早速街へと繰り出したのだった。


 商店街は年末の空気に煽られ、道行く人々もいつもより足早だ。年末進行や決算など、急がなければならない理由がそれぞれにあることもあるだろう。
 そんな人々の足下を技巧的なステップワークや華麗なターンでかいくぐり、目が合った男児や女児にぱたぱた手を振って愛想を振りまきつつ、帽子の中からがま口財布を抜き出した。で、ぱくーっとご開帳。
 わん! ぐんしきんはかんぺきです!
 そのとき、人波を抜けて一条の香がはしり抜けた。
「おいしそーなにおいがするです!」
 もちちちち。足を速めてアルマはにおいの元へと駆ける。

「おひとつくださいですー」
 なにやら下のほうから声がして、店先におでん屋台を出して売っていた店主はぐっと身を乗り出した。まだ見えない――見えない――見えた。二頭身半の謎生物が。
 子ども? いや、そのつぶらな瞳はかわいらしいばかりでなく、確かな知性を輝かせている。昔テレビで見たウーパールーパーを思い出したのはそのせいだろう。
「わふー、だいこんとがんも、からしもりもりでー」
 言われるまま、ふたつの具を発泡スチロールの小丼に入れ、縁へからしをいっぱい塗って渡してやれば、謎生物はやけにこなれた調子で割り箸を使い、からしをつけた大根を頬張って、
「んきゅー、しみるです」
 渋く見えなくもないもち顔を振り振り、美味の熱を噛み締めた。
 そしてごちそうさまをした後、謎生物はしゅたっと手を挙げる。
「コンロのべんのところ、ちょっとゆるくなっててあぶないですからしめとくですよ」
 もちもちやってきて、どこからか取り出した工具でガスコンロをかちゃかちゃ。店主も気になっていた不具合を全部解決して去っていったのだった。

 その後も謎生物はいくつかの店へ立ち寄り、見かけによらないダンディな味わいっぷりを見せてはちょっとしたプレゼントを残していった。そして。
 コロッケがおいしい肉屋の電灯は輝きを取り戻し、ごま団子が売りの中国料理屋の食洗機は洗浄力を高め、駄菓子屋のおばあさんが持つスマホからは無用なアプリが削除される。
 これらの逸話は後日、座敷童出現記としてまとめられ、商店街やネットの一部を賑やかすのだが――アルマ本人に知る由はない。

 わっふっふ、すばらしーです!
 再び視点主へと返り咲いたアルマは、もちもちわふわふ自分を褒めた。
 気になるにおいをハシゴ嗅ぎして迷子になったり、よその家の犬と友誼を深めて時間を忘れたり、そんな脱走犬あるあるをやらかさずにここまでやってきたのだから。
 そんな彼が今辿っているのは、以前兄がひとりで歩いた道である。
 なぜ兄の行動をそこまで知り尽くしているのかは置いておいて、別に追体験型ストーキングしているわけじゃないのだ。たとえ『わふ。これがおにいちゃんのあるいてたみちです!』とか思っていても。
 果たして辿り着いた先は、今時めずらしい空き地だった。
 ……ハロウィンの日、彼の双子の妹は言った。兄が猫集会に混ざっていたと。
 ぼくもぜひおなじたいけんを! きょーつーするわだいはきょーだいかんけーをぐぐっとふかめるですから!
 ふんすと小さな手を握り締めるアルマの視線の先、猫たちはだらだらと群れていて、入り込むには今しかない感じで。
「そーっとぼくもまぜてくださいですー」
 踏み込んだ途端、今までだらけていた猫たちが一斉に跳び起き、ふしゃー!
 威嚇されたアルマはころりん後転、一度離脱した。
「なんとりふじんなおいかり! でもぼくにはひみつへいきが」
 アルマが帽子の中から取り出したものは――猫語と人語を翻訳して双方へ伝えてくれるスピーカーつき翻訳機『ワカルニャー』!
「わんわん。ねこのみなさん、ぼくはてきではないので、どうぞまぜてくださいです」
 これを聞いた猫の代表は、ぎにゃ。早速翻訳してみると。
 犬は信用できねぇにゃ。
 語尾に“にゃ”がつくのは妹の意見によるんだが、ともあれ。
「たしかにぼくはいぬですが! もっちりとここちよいこのボディ、みなさんもきっとおきにいりますよ!」
 そう言いながら、犬はすぐ暴れるにゃ。オンとオフしかねぇからにゃ。
 否定はできない。否定できるはずはないがしかし。ここで引き下がってしまったら、兄と戯れ愛でられる未来が崩れてしまう。
 こうなればもう、あれしかない。
「わふ、しょうてんがいでいただいたおみやげがあるです。どうかこれでひとつ」
 ぺったり土下座して、アルマは修理のお礼にともらった食べ物の包みをずいと押し出した。

 無事交渉が成立し、アルマは猫たちに混ざって香箱座り。
 ご飯パワーもあってすっかり場へ馴染んだ彼は、母猫から子猫を紹介されたり、好奇心旺盛な輩にそのもっちりボディをふみふみされたり。
「わふーぃ」
 冬には貴重な日向と猫たちのぬくもりが、アルマに大きなあくびをさせる。兄に早くお話したい気持ちはあるが、ちょっとだけ、みんなといっしょに昼寝していこうか。
 アルマに寄り添った代表がクールに、んにゃ。いいぜ、寝てけよと言っているのはもう、翻訳機を通さずとも理解できて。


 この出来事をアルマに報告された兄は、割れる勢いで奥歯を噛み締め、彼を置いて跳び出していくことになる。もちろん、母猫に子猫をご紹介されたりふみふみされたい一心でだ。
 計算の狂ったアルマだが兄にすかさずご一緒し、事なきを得た(?)こと、特に記しておこう。


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2020年12月11日

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