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『わらしべ長者は程遠い』
ミク・ノイズla3895

 ミク・ノイズ(la3895)は昔話の『わらしべ長者』を読んだ。
「わらしべが、金銭になる? いやいや……無理があるな」
 物々交換の結果そうなるならば楽でいいが、実際問題どうなのか。
 たとえばお金を稼ぐとして、地道な仕事でコツコツためることはフリーダムに生きるのと異なる道だ。SALFの仕事は報酬が良くとも、命の危険もありうる。フリーダムにはいいけれど、楽ではない。
「昔話の教訓は、価値がないものはないとか、か?」
 物の価値などは昔話と今は違うし、価値がないものはないと考えると勉強になる気もする。
「つまり、道に落ちている松ぼっくりが、誰かには価値があり、何かに変わるかもしれないということか?」
 家の近くに先日たくさん松かさとか松ぼっくりと呼ばれるものが落ちていた。
 わらしべはないのだから、身近なこれからスタートしてみても良いのかも知れない。
「試しにやってみるのも面白いのか? ……三年寝る方が……いや、ただ眠るのは辛いな」
 自由に楽しむことがなければつまらない。
 休日の散歩がてら、物々交換できるかどうか試す方が変化があって楽しいかも知れない。
「長者、というと、今の時代ではどの程度のものが長者だろうか?」
 お金というのはあってもキリがないし、どれくらいがいいのかも分からない。
「結局、一生食うに困らないお金があっても、人は働き出すと聞いたことがあるな」
 人生色々、価値も色々。
 お金に困ろうが困らまいが、ミクの生きるのは「フリーダム」だ。

 さて、松の木の側でできるだけ立派な松ぼっくりを拾った。
「せめて、これだよい、と思うのを拾いたい」
 何が立派かはわからないが、一片一片がしっかりして、ふっくらどっしり大きい物を選ぶ。
 それを持って街に出る。
 人通りの多いところで、松ぼっくりを目立つように持って立つ。

 通りを行く人たちはミクを見ることなく動いている。
 なんとなく寂しくなってくる。
 寂しくなると寒さが染みてくる。
 帰ろうかと思うくらい、反応がなかった。

 ふと、小さな子どもがじっと見つめているのに気づいた。
「おっきー」
 いいなーという視線を松ぼっくりに注いでいる。
「これは、何かと交換だぞ」
 小さな子ども相手に大人気ないかなと思う。
 小さな子どもは素直にうなずき、ポケットから飴一粒取り出す。
「……分かった、良いだろう」
 松ぼっくりは小さな飴に変わった。
 子どもは嬉しそうに、松ぼっくりと手をふりふり立ち去る。
「……これでいいのか?」
 物々交換といえばそうだけれども、松ぼっくりが飴に変わったところでこの先続くのか分からない。
「私が食べたとして、この飴がおいしいかどうかだな……いや、古き良きものだな……これは」
 パッケージはシンプルを通り過ぎ、地味だ。一枚のフィルムで、両脇絞っただけの古典的なものだ。
 中身は黒飴。
「長者にはほど遠いな……」
 苦笑する。
 
 これ以上、人と出会えないだろうと移動しようかと考えた。
「もーし、も、げっ……げふっ」
 咳こむ老人が前にいた。
 水があればいいのだが、それはない。買いに行っている余裕はない気がする。
 飴玉一個で解決できるか分からない。
「……これを食べて、喉を潤してくれ」
 ミクは包みを開け、飴を取りやすくして老人に差し出した。
(人助け放置はないな。実験終了でも、よい終わり方だろう)
 老人は飴を口に入れ、味わうように動かす。
 唾液が出れば咳は止まるらしいが、まだ咳こむ。
 下手をすれば飴を詰まらせるため、ミクは少し様子を見る。
 程なく、老人の咳は治まった。
「良かった。私はこれで」
「嬢ちゃん、助かったよ。これで良かったらもらってくれ」
 パッケージがしっかりしたお菓子の袋を取り出した。有名なメーカーのどら焼きのようだ。
「別に、さっきの飴、もらい物だし」
 老人はもらったものはもらったものだといい、助かったのだからお礼だという。
 せっかくだからとミクはもらうことにした。
「でも、用心して、水も飲んでおいたほうがいい」
 別れ際にミクは念を押しておいた。老人は「ありがとう」と良い、立ち去る。

 老人が去ったあと、どら焼きを見る。
「これ、おいしいらしい……」
 話には聞いても、近くに店がないと買わない。おいしいものと考えると、さすがにミクの頬が緩む。
「わらしべ長者続行か、それとも、おいしいものになったと、ここで終了するか」
「これを食べるには、お茶がない。いや、これと茶を変えたら、今度は茶請けがない」
 難しい問題に直面する。次に物々交換されるものが茶とは限らないが、そういう流れもありうる。
 ハトがとことこ足元を歩いている。
「袋持っていると何かもらえると思うのだろうか?」
 それはそれで賢い。
「とはいえ、私はやらないぞ、わざわざ」
 場所を変わることにした。
 今度は、商店街にある広場に行った。
 広場ではくつろぐ人も多いため、人の移動が少ない。これは出会いが限られることにつながる。
 どうしたものかとミクは考える。
 また足元をハトがポッポーと歩いている。それもミクの視界に入る形だ。
 今度は二羽いる。
「同じハトで、友達を連れてきたのか?」
 それはないと思うが、そう考えるとなんとなく面白い。
 しゃがむとハトはミクの周りを歩く。一定距離を保ち近づかない。
「ここで、私が食べ、お裾分け?」
 ちらりと「エサやり禁止」の看板も見える。
 ハトが一羽、一羽と増えてくる。
「期待されているっ!」
 ミクが立つと、ハトは慌てて逃げた。
「野生動物に期待させるのもいけない。夜になるし帰るとするか」
 ハトのため、自分のために立ち去るのだった。

 帰宅後、どら焼きを食べつつ、発見した古いテレビプログラムを見る。
 物々交換していくという話だった。
「積極的に声を掛ければ違うのだろうか?」
 そこまでする必要はないかもと思う。
 ただ、後でどう変わるか見ると面白いし、ドラマが見えた。
「ま、のんびりとした一日だった、な」
 ミクはあくびを一つした。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 こんにちは。
 発注ありがとうございました。
 設定を見たとき……わらしべ長者がよぎりました。
 さすがに無理があるので、ほのぼのとした一日となりました。
 なお、昔話の教訓とかあるのかは分かりません。
 いかがでしたでしょうか?
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グロリアスドライヴ
2020年12月14日

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