▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『放課後オーバーフロウ』
吉良川 奏la0244


 5月も末、初夏らしく爽やかに晴れたある日、水無瀬 奏(la0244)は雛姫から呼び出され久遠ヶ原学園にやってきた。

「奏さん! 来てくださってありがとうございます」
「ううん。私も雛ちゃんに会えて嬉しいよ! 頼みがあると言ってたけど……刀の練習かな?」
「いえ。……放課後の遊び方を、教えて欲しいんです」
「遊び方?」

 奏がきょとんとすると、雛姫は事情を説明する。
 小学校までは雛姫も普通に自分で学校に通っていた。しかし兄と一緒にナイトメアに襲われた事件から、両親は過保護になり、学校の送り迎えは必ず車で、放課後に友達と遊びにいけなかった。

「久遠ヶ原学園に入学してから、どこよりも安全だからって自由になったんです」
「この島はライセンサーだらけだし、ナイトメアに襲われることはないよね」
「それで……学校のお友達と、放課後遊びに行ってみたいなと、思っていたのですが、どう誘えばいいのか解らなくて」

 もじもじ恥ずかしそうに雛姫は言う。箱入り娘の雛鳥は、遊び方すら知らないらしい。奏は飛びきりの笑顔を浮かべて言った。

「そういうことなら、今日は17歳同士、特別な時間を過ごそうね!」
「はい!」

 17歳試験をしたくらい、奏は17歳にこだわりがあった。
 二人の17歳女子高生達は「放課後の遊び方」を学びに、久遠ヶ原学園内の街へと歩き出す。



 最初に向かったのはタピオカミルクティースタンド。行列に並ぶ間も話が弾む。

「女子高生といったら、やっぱり流行を押さえておかないとね」
「ミルクティーは好きですが、タピオカは初めてです」
「飲む前に写真撮ろう」
「え、あ、はい」

 きょどりつつ、恥ずかしげに微笑んだ雛姫の隣で、奏は満点笑顔で写メをとる。
 タピオカミルクティーも良い感じに映りこんで、SNS映えしそうだ。
 写真が撮れたら二人でタピる。ずずっと飲んで、ぱーっと笑顔が広がる。

「タピオカがもちもちで、びっくりで美味しいです」
「美味しいね。ミルクティー以外も色々あるんだ。今度はマンゴーを飲んでみようかな」

 二人できゃっきゃしながら、タピオカミルクティーも写真を撮って。

「雛ちゃんってSNSやってる?」
「アカウントは作ってみたのですが、使い方が解らなくて」
「じゃあ、さっそくタピオカミルクティーをアップしてみる?」
「わぁ……!! 良いですね。そうか。女子高生ってこういう」
「うん。でも顔写真はない方が良いかも。ネットも気をつけないといけないよ」

 アイドルをやってる奏は特別で、普通の女子高生はネットに顔をさらさない方が良い。特に雛姫はお金持ちの家であるし、犯罪に利用されかねない。
 そんなネットリテラシーも丁寧に説明すると、雛姫は真剣に頷く。

「さすが奏さん」
「アイドルなら、SNSも活用できないとね。雛ちゃんもアイドルやってみる?」
「む、む、無理ですぅ!」

 真っ赤になって首を横にふるふるする姿に、奏は思わず笑ってしまった。



 タピオカミルクティーの後は、腹ごなしにゲーセンへGO。

「ゲームセンターで遊ぶって、なんだか大人でドキドキします」
「ゲームセンターは初めて?」
「はい。小学生は大人と一緒じゃないとダメって言われましたし」

 何もかも珍しいようで、きょろきょろしている雛姫の手を引いて向かう先は、もちろん音ゲーコーナーです。
 雛姫のお手本として、今日はノーマルモードで。奏にはヌルすぎるのだが、あまりに高難易度プレイを見せて、引いてしまうのは不味い。

「この線に光がきたらボタンを押して……」

 雛姫に笑顔で説明しながら、余裕のフルコンボ。

「わぁ……!! 凄い、奏さん素敵。流石アイドルですね」

 目をキラキラ輝かせた雛姫の肩にぽんと手を置く。

「次は雛ちゃんも一緒にやってみよ」
「え? 私もですか? むずかしそう……」
「大丈夫。初心者モードもあるし。軽く遊ぶだけだよ」

 一番簡単な曲を選んで、雛姫の隣に並んで手取足取り教える。

「そこ、右、左。押したまま」
「わ、わ、わあ……こ、こうで……きゃー」
「どう?」
「む、難しいけれど……とっっても、楽しいです!」

 危なっかしい手つきながら、気づけば雛姫も奏も笑顔になっていた。
 音楽に乗って体を動かすうちに、奏のポニーテールと、雛姫のお下げ髪が揺れて、仲良くくっついた。



 次はスイーツバイキング。甘い物ならいくらも食べられちゃうのが女子高生です。

「わあ……パーティーやイベントでバイキングは見たことがあるのですが、放課後に来ても良いのですか」
「もちろん。ねえ、雛ちゃんは何が好き?」
「えっと……チョコ、モンブラン、やっぱり苺ショート、ああクレームブリュレは外せません」
「二人で手分けして全部取ってこない? 二人で分ければ食べきれるよ」
「わぁ! それは良いですね」

 ドリンクバーで紅茶を淹れてきて、テーブルに広がるケーキの山に、奏の目も輝く。
 カロリーなんて野暮なことは気にしない。

「雛ちゃん、このティラミス、珈琲が苦めでちょっと大人の味かも」
「こっちのサバランも、洋酒が効いてます」

 まだ17歳。だけどちょっと背伸びしたいお年頃。
 大人の味がするケーキを食べて思わずうっとり。
 甘い物をたっぷり堪能した所で、紅茶を飲んでほっと一息。雛姫が小さく囁いた。

「今日は、奏さんを誘ってよかったです。……実は、ずっと迷ってて」
「どうして?」
「だって、奏さんは、ライセンサーとアイドルと学校で、お忙しいかと思って。それに……恋とか、そういう話も……」
「こ、恋って! 雛ちゃん、それは違うよ!! 雛ちゃんも、紅葉さんを……」
「そ、それは違います! だって、悪い人かもしれないし……」

 奏は思わず頬を染めた。幼馴染みとずっと思っていたけれど、最近ちょっと意識しはじめている。
 雛姫の頬も真っ赤で、恋話に花が咲く乙女らしい一時。

「恋に、仕事に、学校に、大忙しだよ。でもね、友達と過ごす時間だって、とっっても、大切なんだよ。今日は誘って貰えて嬉しかったよっ」
「では、またお誘いしても良いですか? その時までに音ゲーも練習してみます」
「良いね。じゃあ次は二人で一緒に協力プレイしてみようか」
「はい!」

 奏はふにゃっと微笑んだ。
 放課後遊びに行く相手を考えて、一番に自分を選んでくれたのが嬉しい。
 そう考えてふと気づいた。

「……そういえば、私も、あまり女の子の友達と放課後遊びに行ってなかったかも……」
「そうなんですか?」

 ライセンサーとアイドルで忙しく、中々遊ぶ時間を作れない。
 希少な遊びの時間は、幼馴染みと一緒か。一人で音ゲー荒しか、任務でどこかにでかけたり。
 学校帰りに女子会するのは、ちょっと新鮮だ。

「たまにはアイドルじゃない、普通の女の子の時間も良いかもね」

 奏の母は永遠の17歳。奏もきっとそうなる。それだけ17歳は特別な年なのだ。
 だけど、人生で本当の17歳は1年だけ。その飛びきり大事な時間、めいいっぱい楽しまなきゃ損だ。

「雛ちゃん、この後買い物に行かない? お揃いのシュシュ探ししよう」
「お揃い! 嬉しいです」

 もう帰るなんて、もったいない。
 二人は命がけのライセンサーだから、放課後別れたらもう会えないかもしれない。
 恋も、仕事も、友情も、すべて全力で楽しんで、キラキラした青春を過ごしたい。ケーキを選べないみたいに、やりたいことはいっぱい。女の子はよくばりです。
 二人の放課後はまだ続く。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
●登場人物一覧
【水無瀬 奏(la0244)/ 女性 / 17歳 / 放課後17歳】


●ライター通信
いつもお世話になっております。雪芽泉琉です。
ノベルをご発注いただき誠にありがとうございました。

時期的には「狂鳥・因縁の荒鷹」の直後くらいです。
二人が17歳の間に、女子高生らしく遊ぶ姿を見たくて書いてみました。
タイトルは雪芽の趣味です。奏さんが歌ったら似合いそう。

何かありましたら、お気軽にリテイクをどうぞ。
おまかせノベル -
雪芽泉琉 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年12月14日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.