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『孤島殺人事件』
桃李la3954


 桃李(la3954)とグスターヴァス(lz0124)は、レヴェルの調査任務でその孤島に赴いていた。一人の男をレヴェルと目して調査を進めていたが、その男が殺害されてしまう。
「仲間割れかな? 口封じかな?」
「どちらも可能性はありますねぇ」
 本土から応援の警察が来るまで時間が掛かる。幸い、島から脱出する手段もほとんどない。島の警察に捜査協力を申し出て、あれこれ聞き取りなどをしていると、一人のアメリカ人観光客の話題が上がった。背が高く、金髪で、目は灰色。愛想と顔の良い男であると。
「……まさか」
「まさかかもしれないねぇ」
 教えられた宿に二人が向かう。桃李は奥に向かって声を掛けた。
「ヴァージル(lz0103)くん、いるかい?」
「……なんでわかったんだ」
 宿の主が目を丸くしている間に、仏頂面のヴァージルが出てきた。主人は彼がそんな顔をしていることにもまた驚いているようである。そう言えば、町中にナイトメアが出て避難誘導しているとき、結構愛想が良かったなぁ、などと思い出す桃李。外面は良いのだ。
「犯人はあなたですか!?」
「何の犯人だよ」
「まあまあ、とりあえず、ちょっとヴァージルくんにも協力してほしいことがあるから、お部屋にお邪魔しても良いかな?」
 桃李は笑顔でそう提案──後にヴァージルが語ったところによれば、提案の形をした強制だと言うが──すると、相手は渋々と承諾した。

 何の犯人だよ、と最初に言ったことからして、ヴァージルは殺人事件について聞いていなかったらしい。桃李が事件の概要について説明すると、彼は呆れた様に、
「お前ら、人間同士でも殺し合うくせに、よく俺たちに手数割いてられるな?」
「安心してください。あなたたちだけじゃなくて、害獣にも割いてますよ。あんたたちも害獣みたいなもんです」
 グスターヴァスが冷たく返した。
「ま、それは置いとくとして、じゃあ、ヴァージルくんじゃないんだね?」
「当たり前だ。銃殺だったのか?」
「いや、刃物」
「俺だと思ってんのか?」
「ううん。だから最初に協力って言ったじゃないか。犯人捜しを手伝ってよ」
 グスターヴァスが白目を剥いてひっくり返った。


「俺は保安官代理に擬態しているだけであって本物じゃない。捜査のことなんて知らねぇぞ」
 島中を連れ回されるはめになって、ヴァージルは不服そうにしていた。桃李はにこにこしたまま、
「まあまあ、そう言わずに。ヴァージルくんがいてくれた方が、俺たちの調査も楽になるからさ」
 傍で聞いているグスターヴァスは卒倒しそうになった。殺人事件の捜査協力で、更にエルゴマンサーに手伝わせるライセンサー。前代未聞である。多分。

 しかし、ヴァージルというのもなかなか律儀で、聞き込みになると大変愛想良く協力した。イケメン揃いだなぁ! と地元の漁師に言われれば、
「そんな、とんでもない。この二人と並べられるなんて恐れ多いですよ」
 などと、白い歯を見せて笑っている。恐らく、「こいつらと一緒にするんじゃねぇよ」と言いたいのだろう。それを見て憤死しそうなグスターヴァス。その二人を後ろから見ている桃李は笑いを堪えるのに必死だった。
「何笑ってんだてめぇ」
 聴取を終えて、その人から遠ざかると、ヴァージルは不機嫌そうに桃李を睨む。
「いやいや、別に悪い意味じゃないさ。ヴァージルくんが協力してくれるのが嬉しいだけだよ」
 グスターヴァスがとんでもない顔でこちらを見ているのには、気づかないふりをしておいた。


 その後も根気良く聞き取りを続け、内容をメモ、警察の情報と付き合わせて整理したところ、一人の人物が容疑者として浮上した。
「これはちょっと、お話を聞かないとね?」
「そうですね……あなたは余計なことしないでくださいよ」
 桃李に同意しながらもヴァージルを睨むグスターヴァス。言われた方は、目を細めて鼻で笑った。

 その人物は、桃李たちの問いを最初ははぐらかしていたが、返答の矛盾を指摘し続けている内に逆上した。自白に近い暴言を吐きながらナイフを振りかざす。桃李も鉄扇を抜いて構えようとした、その時だった。
 銃声が轟いた。相手は膝を押さえて倒れる。
「往生際の悪い野郎だ」
「ヴァージルくん」
 桃李は特段驚いた様子も見せず、まだ銃口から煙の立ち上る拳銃を持ったヴァージルを振り返る。
「ちょっと! あんまり簡単に撃たないでくださいよ!」
「うるせぇな。命まで取ってねぇだろ。お前らは命があって口が利けりゃ満足なんだろ」
「そう言う問題ではなくてですね……!」
 グスターヴァスは慌てて駆け寄った。痛い、痛いと喚く彼に応急処置を施す。ヴァージルはそれを冷ややかに眺め、
「俺たちにとやかく言うんだから、そいつもちゃんと裁けよ。ああ、お前らは『駆除』って言うんだったか?」
「この人はナイトメアじゃございませんよ」
 見返すグスターヴァスの目も刺すように冷たい。桃李は笑顔のまま間に入った。
「まあまあ、良いじゃないか。ヴァージルくんも協力してくれたし。俺たち二人だから、君をどうにかしようなんて思わないし。君も手を引いてくれるよね?」
「良いだろう」
「ところで、どうやって帰るんだい? 泳いで本土まで戻るの?」
「いや、もうすぐ迎えが来る……ほら、お出ましだ」
 金魚鉢に入ったウミガメがゆったりと宙を泳いでやってくる。グスターヴァスは目を細めた。恐らく、このウミガメもナイトメアなのだろう。彼がたまに行動を共にしている人魚の配下だ。桃李はそれを面白そうに見て、
「竜宮城の乙姫様からのお迎えかな?」
「何だそりゃ。カメは賢いんだよ」
 どうやら、この男には浦島太郎の知識はないらしい。
「じゃあな。あばよ」
「またね」
 カメに案内されて去って行くヴァージルへ、桃李はひらひらと手を振った。グスターヴァスは挨拶するのも癪なのか、黙ってその背中を睨んでいる。
 やがて、ヴァージルの姿が見えなくなった。グスターヴァスと桃李は、めそめそと泣いて弱音を吐く犯人の男を連れて、島唯一の診療所に向かった。駐在にも連絡を入れる。すぐに県警本部に連絡すると言う。大怪我をしていることも伝えると、一緒に搬送ヘリも手配してくれると言った。
「ああ、銃創はなんて言い訳しようか?」
「エルゴマンサーから守ってあげました、で良いじゃないですか」
 海を見ながら桃李が大袈裟に困った様な口振りで言うと、グスターヴァスは素っ気なく応じた。桃李はその顔を覗き込み、
「怒ってる?」
「桃李さんには怒ってませんよ」
「それなら良かったよ」
 桃李はにっこりと笑い、潮風に髪をなびかせた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
グスターヴァスは桃李さんとヴァージルに挟まれると機嫌の良い悪いが忙しそうだなって思いました。間に入ってそれとなく調整する桃李さん、自由気ままに見えて実はバランサーなのかもしれませんね。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
おまかせノベル -
三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年12月15日

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