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『松ぼっくりの恩返し?』
珠興 若葉la3805

 皆月 若葉(la3805)はライセンサーであり、大学生でもある。
 ある日、大学で授業を受けた帰り、キャンパスの建物内でそれを見つけた。
「松ぼっくり?」
 建物の外ならば松ぼっくりがたくさん落ちている。
 念のため、窓から外を見るが、木から風に飛ばされてやってきた、ということもなさそうだ。
「誰かが授業で使うために持ってきたのかな?」
 使うといっても想像できるのは、デッサンするとか、芽が出るかを調べることだ。
「でも、どうだろう?」
 たまたま入った物と考えれば、外に放り出すのがよいだろう。
 一方で、誰かが何かをするために拾ってきたものならば、拾得物になる。
 若葉は事務室に向った。結果、職員には「捨てておいて」と言われた。
「また拾えば……そうだね」
 これが特別な物ということはないだろう。
 特別な物ならば、職員も捨ててといわないし、持ち主も簡単に落さないだろう。
 若葉は外に出ると、松系の木が生えている方に向った。
「……松の木の下に落すより、離れた所に置いた方が、親切なのかもしれない?」
 松ぼっくりが種と考えれば、ここにいるより運ばれた方がいいのかと考えた。
 松林ではない所の地面に埋めた。
「運良く、生えてくるといいね」
 若葉は立ち去った。

 その晩、若葉は寝付けず、布団に入りゴロゴロしていた。
 自然に眠れるように、起きて本を読むことにした。
 しばらくして、コツンコツンという音がした。
 気のせいかと思ったけれども、何度かする。
「窓から……?」
 風が強ければ何か当たったからかと思うけれども、それはないようだ。
 気のせいと思うけれども、またコツンコツンという音がした。
 まるで窓をちょっと固い物で叩いているような感じだ。
「まさか、ナイトメア? 傷ついた鳥かも?」
 若葉は念のため外を見ることにした。
 まずは窓を開けずに見る。特に何もない。
 用心しつつ窓を開け、懐中電灯を手に見る。
 一つの松ぼっくりと少量の土が転がっているだけだ。
 もし、これを誰かが投げつけていた音ならば、多くの松ぼっくりなどが転がっていてもおかしくはない。それに、誰かが近くにいるはずだ。
 もし、これを持って叩いていたならば、同様にどこかにそれをしていた者がいるはずだ。
 どちらにせよ、こちらを伺う者の気配もないし、特に音も聞こえない。
「松ぼっくり、いつからあるんだろう? まさか、学校の松ぼっくり?」
 松ぼっくりの形は学校で拾って、林に埋めてあげたものと似ているような気がした。
「でも、区別付かないかも……」
 松ぼっくりが複数あったとして、見分けられる自信がないことに気づいた。
「やっぱり、どこからか飛んできたのかな?」
 誰かが見ているのだろうかと、明かりを照らしながら周囲を見た。
 深夜の、暗い町が広がっている。
「この松ぼっくり、ここから落すのも……ひとまず、このままにしておこう」
 若葉は窓を閉めた。
 しばらく聞き耳と立てていたが、何も音がしなかったので、そのまま布団に入る。
 今度は、奇妙なものが気になって眠れない。

 眠りが浅いまま、朝を迎えた。
 ベランダを見ると、朝日に照らされて松ぼっくりはあった。
「そもそも、この近辺に松ってあったっけ?」
 窓の外を改めて見るが、松らしいものは見えない。
 若葉は朝食を摂り、学校に行く。あの松ぼっくりを持って。
 ベランダに取りにいったが、松ぼっくりはない。
「……鳥が運んだのかな?」
 ベランダに散らばる土の状況を見ると、松ぼっくりがあったところから、何かすったような跡も見える。
「……まさか……ねぇ?」
 若葉は余計なことは考えの片隅に追いやり、学校に向う。

 若葉が道を歩いているとき、背後で気配を感じた。
 振り返ると、交差していた道を人が通り過ぎた。
「昨日から変なことがあるから、過敏になってるのかも」
 そのまま真っ直ぐ歩く。
 学校が近くなり、人通りが多くなると、妙な緊張感から解放された。
 建物に入った。建物内は教室付近はざわめいているが、入り口は静かだった。
 カツンという音を聞いた。
 振り返ると、そこには松ぼっくりが立っていた。
 前を向き歩くが、定期的に音がする。振り返ると同じ距離を保って松ぼっくりがいる。
「……!?」
 おかしい。
 松ぼっくりに見えて、実は、ナイトメアなのだろうか?
 もし、ナイトメアならば、一般人に被害が出ると危険だ。
「あの松ぼっくりなら、昨日から俺をつけているんだよな?」
 なぜ、つきまとわれるかが分からないため、それに問う。
「なぜ、付いてくるのかな?」
 松ぼっくりは嬉しそうに跳ねた。
「……え、ええと」
 嬉しそうというのはあくまで若葉の見立てだが、松ぼっくりに感情があるように思えた。
 色々考えつつ、気持ちの整理をする。動くというのは想定内だが、実際見ると、少し驚く。
「なんでつきまとうんだ?」
 カタンカンと跳ねている。
 音の間隔などから何かを示していると感じるが、分からない。
「モールス信号、とか?」
 モールス信号についてを端末で検索する。
 どうやら、それを模している音らしく、松ぼっくりと対話が成立した。
 以下が若葉が解読した松ぼっくりの言葉。

 昨日はありがとう!
 お礼に、何かしたいなって思ったんだけど、しゃべれないし、松の笠をどうにかするしかできなくて。
 せめて、リースにでもして?

「……いや、当然のことをしたまでだから……好きなところに埋まっておいていいよ。それが俺の望みだから」
 若葉は答えた。
 松ぼっくりは感激を示し、立ち去った。

 残された若葉は「疲れているのかな、俺」とつぶやいた。
 おもむろに頬をつねるが、痛いので現実だと認識し、教室に向った。
 はたしてあの松ぼっくりは本当にいたのだろうか? 調べるのに掘り返すのも嫌だったので、不思議な出来事として、胸にしまうのだった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 発注ありがとうございます。
 色々あって「そうだ、松ぼっくりの恩返しにしよう!」と思ったんです。
 思ったんですけど、結局……ホラーのような……。
 いかがでしたでしょうか?
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グロリアスドライヴ
2020年12月21日

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