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『海より至るもの』
神取 冬呼la3621

「びっくりしました。まさか、この島に現役の御嶽(うたき)が今も残っているとは思わなかったので」
 神取 冬呼(la3621)がそう言うと、平均年齢80を超えるおばぁ達が一斉に笑い声を立てた。
 彼女らの沖縄本島よりも古い言い回しには、文化人類学者の冬呼をも悩ませる難解な表現が多く、なかなかその会話のすべてを理解するのは難しい。
 だが、大いに歓迎されている事だけは確かのようだった。
「別に内緒にしておいたわけじゃないさぁ。田舎だから誰も関心持たなかっただけ」
 地元民たちはそう言って笑う。
 だが、文化人類学的にはこれが大変貴重な発見だと冬呼は確信していた。
 この島には琉球王国より続く神女による祈りの儀式が今の残っているのだ。
「衣装の仕立てがすごく素敵です。沖縄本島の斎場御嶽(せいふぁーうたき)の資料にあったのにそっくり。材料は芭蕉布ですか? うわー……この時代に手織り、手縫いとか信じられないなー」
 島民にとってはさして珍しくないいつもの光景、という雰囲気だったが、冬呼にとっては目に入るもの全てが貴重な資料だった。
 周囲には若い娘や、幼い少女の姿もあり、全員が琉球装束に身を包んでいる。
 少し緊張気味にしている彼女らの姿を、冬呼は何枚も電子画像に収めた。

「昔、琉球の王様とキコエオオキミガナシ様にこの格好しなさいって言われたのさぁー。そこからアタシのおばぁもそのおばぁも何も変えてないからねー。ほらほら、あんたも着てみなさい」
 琉球王国時代のノロ(祝女)さながらのいでたちをした女達の長は、研究のためにこの島にやってきた冬呼を自分達と同じ服装に着替えさせた。
 彼女は実際に、この島では今も「ノロ」と呼ばれているらしい。
 この島の祭祀を取り仕切る格の高い存在なのだ。
「ああ、よく似合う。さぁ、そろそろ渡りましょうねぇ。潮が引いてる間に行かないと、御嶽から帰ってこられなくなるのさぁ」
 さぁ行きましょう、とノロは冬呼の手を取った。
 沖縄南部のこの離島には現在、180人ほどが暮らしているらしい。
 その西側にある小島に向かって、宝石を溶かしたような美しい海に細い白砂の砂州が伸びていた。
「うわぁ! なんて明るい海なんだろう! ガイドブックにも載っていない素晴らしい絶景ですね。まさに、『美ら海』ってこういう景色なんだなぁ」
 思わず冬呼がそう言うと、ノロは声を立てて笑った。
 冬呼はやや足の不自由なノロの手を取って支えながら、ゆっくりと小島にある御嶽へと渡った。
 信じられないほどの透明度を誇る凪の海の底には、美しいサンゴと魚たちの姿も見える。
 その間に伸びる砂州は、まさに異世界へ至る駆け橋のようだ。

「本土のお盆の行事と同じさぁ。毎年集まって、お祈りして終わったらみんなで美味しいもの食べてねー。いつもの事さぁー」
 ノロはそう語るが、島の西側にあるこの御嶽は今も完全に男子禁制の場であり、学術的にはかなり重要な「ほぼ手付かずの場所」であった。
 そして今回の調査が許されたのも、冬呼が既婚の女性だった事が大きいようだった。
 古来沖縄では他の地域と違い「神女」「巫女」の立場の者、特に地位の高い者の多くが既婚の高齢女性である。
 夫がいるという立場が彼女らを信頼させたのは間違いなかった。
(この御嶽は「生きてる」って、そういう意味だったんだな)
 冬呼は神女達と共に島へ上がりながら、ここの事を教えてくれたとある学者の話を思い出した。
 ナイトメアの登場以降、妖怪や神といった「不可思議な脅威」の存在は信じなくなってしまった。
 だがもしもこの地球にそんなものが残っているとしたら、あの島なのではないか――その学者はそう口にしていた。

(はるか遠い世界へ逝った者達への祈り……人ならざるものと対話する場所、か)
 ガジュマルの木々の間を抜け、ノロは西の水平線が見える崖の上に座し、長い線香に火をつけた。
 肉料理や菓子、果物が捧げられ、神女達が一斉に祈りの言葉を謡い始める。
 声を遥か海の彼方、ニライカナイに届けるために。
 冬呼は女達の一番後ろに座り、その光景を見守っていた。
 しかし場の雰囲気が高揚し、神女達がある種の緩い「トランス状態」になり始めた時だった。
 神女達の謡う声が明らかにこの場の人数よりも多いことに冬呼は気づいた。
(これは……輪唱?)
 声を声が追いかけ増えていく。
 幾重にも重なる祈り。
 だがこれは明らかにおかしい。
 冬呼は反射的に立ち上がり、未完の総譜を開いていた。

(ノロさん達は気づいてない。これは完全に「捕まった」な)
 神女達は無意識のうちにその「声」に囚われ、繰り返し祈りの言葉を謡い続けていた。
 明らかに「人でないもの」の気配がここに集まっていることを冬呼は察した。
 だが残念ながら、神話的な現象ではなく現実世界に蔓延する現実的な脅威、ナイトメアだ。
「亡くなった人たちの魂(マブイ)……なわけはないよねぇ?」
 冬呼は一人女たちの輪から離れ、斜面のガジュマルの木々の間から上ってきたそれらの姿を見た。
 白い靄のような塊が、ぼんやりと琉球装束の神女達を真似たような姿を形作っていた。
(全部で3体か。あの2体なら、まず止められるな)
 ノロに近づこうとしていた2体にまず、冬呼は狙いを定めた。
 足元に出現させた冥府の沼が靄の女達を捕らえ、幻影の刃が貫く。
 デモンズブレイドの刃を受けた靄はぐにゃりと形を崩し、呻くように揺らめいた。 

(効いてる……でも、もう1体を怒らせたな!)
 冬呼は残った1体が真っ赤に光り、剣を手にした女の姿になってこちらに飛び掛かってくるのを見た。
 咄嗟に冬呼は身をかわしたが、ナイトメアは冬呼の体を捕らえ、真っ赤な刃が迫った。
「……っ! 煙みたいな体のくせに!!」
 引きはがそうとするも、ナイトメアは冬呼の着物をしっかりと掴んで離さない。
 さらに吸い取られるように体の力が抜けるのを感じた。
 このままではまずい。
 冬呼は無理やり銀のナイフを引っ張り出すと、ナイトメアの体の中心――女の像の心臓辺りを狙って突き刺した。
(良かった、効いた!)
 ナイトメアは甲高い悲鳴を上げ、冬呼から離れた。
 だが今度は冬呼が反撃する番だ。
「私から持っていった分、返してもらうよ!」
 冬呼はナイトメアを逃がさずに捕らえると、その生命力を奪い取った。
 反転する緑に力を吸い取られたナイトメアはあっという間に形を失い、姿を消した。

(なるほどね。靄、っていうより形を変えられる「アメーバ」みたいな状態って言った方が近いのかな!)
 残りは2体。
 冬呼は弱りかけたそれらのもとへ走り、同様にして生命力を奪い取った。
 最後の1体が姿を消すと、ナイトメアの声に捕らわれていた神女達がハッと我に返ったような様子を見せた。
「冬呼ちゃん、何かあったの?」
「ちょっとね、悪い『マジムン』が出たみたいです。でも大丈夫、やっつけましたよ」
 冬呼はそう言ってノロの手を取った。
 マジムンは沖縄に言い伝えられる悪霊の総称だ。
 ノロは何かを察したような顔をしたが、皺だらけの顔をくしゃっとさせて「そうなのねー」と笑った。
「じゃあ、みんなそろそろ帰りましょうねー。早く帰らないとおじいたちがラフテーをみんな食べてしまうさー」
 向こうの島に戻って晴れの日のご馳走を食べよう。
 冬呼は昔からの島人の1人のようにそう言って女達と笑いあった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼ありがとうございました、九里原十三里です。
今回はおまかせノベルということで、神取 冬呼(la3621)さんのお話を1から作らせていただいております。

舞台は、沖縄の離島です。
敵は沖縄のマジムン(悪霊)のような、力を吸い取るナイトメア。
冬呼さんが女性の文化人類学者、既婚女性という事で、そういった立場でこそ入っていける場所、として思い浮かんだのが御嶽でした。
沖縄には実際にほぼ現地民のおばぁしか入れない御嶽や、知られざる神聖な場所がたくさんあるそうです!

改めまして今回はご依頼ありがとうございました。
どうぞ最後までグロリアスドライヴをお楽しみください!
おまかせノベル -
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グロリアスドライヴ
2020年12月21日

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