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『恋の資格』
ミラ・ケートスla0103


 眩しい日差しを受けて、海は煌めく。
 夏まっさかりのエオニアの砂浜で、ミーベルステファノスが行われていた。
 小さな王女様の願いで始まったこの祭りに、ミラ・ケートス(la0103)が来るのは初めてだ。

「みんな賑やかで素敵ね」
「祭りを楽しめる心の余裕があることは良いことだね」

 ミラがちらっと隣を歩くアイザックを見上げると、なんだか楽しそうだ。あまり見てると目が合いそうで、慌てて逸らす。

「ライセンサーも多いね。珍しい屋台も多いな。あれ、なんだろう」

 アイザックが指さす屋台を見て、ミラは目をぱちぱち。

「アイクは『焼きそば』を知らないの?」
「やきそば? うん、知らない。試しに食べてみようかな」
「ふふ。アイクって、何でも知ってるのに、時々意外な物を知らないわよね」
「そう? 知らないものを知るのは楽しいよ。特にジャパンカルチャーは興味深いね。日本にいられた時間が短いのが惜しいよ」
「日本にいたころ……あのクリスマスケーキを作った頃よね」
「うん。あの時はクッキーごちそうさま。とっても美味しかったよ」

 アイザックに差し入れたクッキーが気に入ってもらえた。2年越しの喜びを噛みしめる。

「ミラ君も、やきそば食べる?」
「えっと……」

 それは一皿を二人で分けるのだろうか? お箸は一膳? 間接キスになりますか? ……と考えて真っ赤になり。青のりが歯にくっついたら可愛くないかしらとそわそわし。
 顔が赤くなったり、青くなったり、ミラが忙しい合間に、アイザックは焼きそばを頼み終えて、別に皿を用意して取り分けた。

「はい。どうぞ」
「あ、ありがとう」

(さ、さすがに分けるわよね。食べずらいもの)
 焼きそばに青のりは乗ってないらしい。安心して、砂浜に座って一緒にもぐもぐ。
 祭りのソース焼きそばらしい、チープでどこか温かな味わいは、ほっとする味がした。

「優しい味ね。美味しいわ」
「このソース、凄い日本的だね。お醤油でしょう?」
「醤油は入ってると思うわ」

 そんなたわいもない話をしながら、海を眺める時間も貴い。もっとずっと二人きりでいられたら良いのに。
 楽しそうに腕を組んで歩く男女を見て、流石にあんな大胆にはなれないと赤くなり、目をそらせば手を繋いだ恋人達がいて。
 慌ててきょろきょろすると、気づけばカップルだらけな気がした。

「このお祭り。恋人同士で来るのが、流行ってるのかしら?」
「どうかな? でも楽しくて、カップルで遊びに来るのにぴったりだよね」

 まさか、こうして二人きりで座ってるだけで、カップルに見えるのではと気づき、ミラは顔を真っ赤にして俯く。

「わ、わたし……恋は、よくわからなくて……でも、気になるわね」
「ふふ。恋話したくなるお年頃かな」

 そうアイザックが言ったところで気がついた。これはチャンスなのでは?
 さりげなく、アイザックの好みの異性を聞いてみたい。

「そうなの。……恋の話、聞いて見たいわ。アイクは……どんな方が、好き?」

 顔を真っ赤にしながら、しどろもどろに問いかけるミラへ、アイザックはうーんと悩みながら答える。

「そうだな……。僕と価値観が似てる人かな。目標に向かって一生懸命頑張ってて。自分の想いをまっすぐに伝えられる。自立した人は良いよね」

 いつも言葉に詰まってしまう自分は、自立してないだろうかと、密かに凹みつつ、問いを重ねる。

「自立……そう、なのね。見た目が綺麗とか、可愛いとかは気にならないの?」

 セクシーなの、キュートなの、どっちがタイプよ。今後のファッションの参考にしたい。

「う……ん。見た目のタイプってないかな。ふふっ。好きになったら、その人が僕のお姫様で。世界一綺麗で可愛く見えると思うんだ」
「お姫様!」

 アイザックから存外甘い言葉が飛び出して、ミラの心はドキドキが止まらず、苦しくて、思わず胸を押さえる。
(アイクって、もしかして恋人に凄い甘いタイプ?)
 踏み出さなきゃ。勇気を出さなきゃ。そう思ったけど、これはもう限界では?

「ああ、そうだ。一緒にお酒が飲める人がいいな」

 ふわふわした理想が続く中、急にすとんと現実的な答えが返ってきて、ミラの心が静まった。

「お酒が飲めない人はダメなの? 未成年とか……」
「飲めない人がダメとは言わないけど、未成年はダメだよ」
「え?」

 それまで笑顔だったアイザックが真面目な顔で海を眺める。その横顔をじっと見つめた。

「子供は守るべき宝で、恋愛対象にすべきではないと、僕は思っている」

 それは誠実な正論で。しかし残酷な現実だ。
 年齢の話はしたことがない。見た目は……微妙な年頃だと思う。だからアイザックがミラを大人だと思ってるのか、子供だと思ってるのか知らない。
 もし、今までの優しさが、子供扱いだとしたら……悲しくて泣きそうだ。

 真っ青になった顔を見られたくなくて。慌てて立ち上がったら、くらりと立ちくらみがした。

「ミラ君! どうしたの? 具合が悪い?」

 アイザックが慌ててミラを支えて、顔色を確かめようと覗き込んでくる。
 触れられた所が熱く感じて、顔色は真っ青から真っ赤に、口をパクパクさせて声も出せないほど慌ててしまう。
 するとアイザックは喋れないほど具合が悪いと勘違いした。

「いいよ。喋らなくても。救護室に行こう。熱中症かもしれない。ごめん、ちょっと失礼」

 そう言ってふわっとミラを抱き上げた。

 ……これは……お姫様抱っこでは?

 逞しい腕に包まれて、見上げると間近に顔があって。胸の鼓動が煩いほど高鳴る。
(アイクが近すぎて、心臓の音が聞こえちゃいそう。ああ、どうしたらいいの)
 緊急救助だとか、そういうつもりじゃないとか、解っていても、胸が苦しすぎて、息ができない。

 救護室に辿り着いたのはあっという間だ。
 テントの中で寝かせられた時には、ミラはぽわんとした表情で、まともにアイザックの顔を見られなかった。
 恋する乙女が何もできずにぼんやりしている間に、アイザックはてきぱきタオルで包んだ保冷剤を用意していく。

「喋れる? 頭痛は? 吐き気は?」
「ええ、大丈夫よ。ちょっと貧血だったかも。でも今は、元気だから」

 あまりにアイザックが真剣な顔をしているので、申し訳ない気分になって、そう答える。
 ほっとしたようにアイザックは微笑んだ。

「そう……良かった。じゃあ、しばらくここで休んだ方が良いね。彼女のことよろしくお願いします」

 立ち上がって救護室のスタッフに話かけるアイザックに、ミラは声をかけた。

「ありがとう。アイク。心配かけてごめんなさい」
「謝ることじゃないよ。お大事にね」

 アイザックの背を見つめ、いなくなるまでぎゅっと手を握りしめる。
 色んなことがありすぎて、心臓が持たないし、苦しくて、苦しくて。

 何度も深呼吸を繰り返し、落ち着く頃に気づいてしまった。たぶん、倒れたのが他の人でも、アイザックは同じことをしただろう。
 他の女性をお姫様抱っこするアイザックを思い浮かべただけで、嫉妬で胸がきゅっと苦しい。

「……他の子に嫉妬するような子、アイクに恋する資格がないかしら……」

 ミラは呟いて、ぽろりと涙を零した。
 きっと、アイザックは恋人ができても、誰にでも優しいままだ。
 そこが素敵だと思うのに、恋する乙女としては、やきもきする。

 夏の海は刺激が強くて、ちょっと塩分強めな気がした。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
【ミラ・ケートス(la0103)/ 女性 / 18歳 / 夏のお嬢さん】


●ライター通信
いつもお世話になっております。雪芽泉琉です。
ノベルをご発注いただき誠にありがとうございました。

「【祝夏祭】終祭festival」でミラさんとアイザックが二人で祭り見物をしたシーンは、盛大にアドリブをカットしたので、それを膨らませてみました。
ミラさんの実年齢は知らないので、そこはぼかして、アイザックの恋愛観を語らせましたが、実際にどう思ってるかはシナリオで。
アイザックの人命救助はお姫様抱っこが基本です。可能なら男性でも。

何かありましたら、お気軽にリテイクをどうぞ。
おまかせノベル -
雪芽泉琉 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年12月23日

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