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『Gift』
ラシェル・ル・アヴィシニアla3428

(これはまた…そっくりだな)
 ラシェル・ル・アヴィシニア(la3428)は仕事帰りに訪れた街のショーウィンドウに野良猫のタマさんを見つけて思わず足を止める。とはいえ、勿論本物ではない。ガラスのような素材で出来たキーホルダーが店頭を飾り、その中の一つがタマさんに瓜二つなのだ。おすましした横顔にくるんとかぎしっぽなフォルムが愛らしい。加えて、そのキーホルダーの黒猫はソックスキャットであるから尚の事だ。
「あの、よろしかったら見て行かれませんか?」
 熱心に見ていたのが店員の目に留まったようで、そっとドアを開け中から優しそうな女性が声をかけてくる。
「あ、いや…有難…と、すまない。電話だ」
 だが、さして今欲しいものでもなく、彼は携帯に助けられる。
 けれど、この判断が後々間違っていた事を知るのだが、この時気付ける筈もない。
「あぁ、ああ…わかった。じゃあついでに買って帰るよ」
 出てきた店員に会釈して彼は歩き出す。空にはすでに星が浮かび、周辺の街灯には灯が灯っている。
(そうか、もうクリスマスか)
 この世界にやってきてどれ位経ったか。ラシェルは放浪者であるから初めはこちらの文化に驚いたものだが、郷に入っては郷に従え。地球での活動が増えてからは季節の行事にも慣れたもので、クリスマスというものが家族団欒を大切にする日でもある事を知っている。
(うちも取り入れてみようかな)
 寒さに身震いしながらそんな事をふと考える。家に帰りクリスマスの話をしたら妹も乗り気だった。そこで折角ならとプレゼント交換もしようという事になり、思い出したのはあのキーホルダー。
(あれならきっと気に入ってくれる筈だ。なんだか楽しみになってきたな)
 普段なら寒いだけの年末が、少しの事でワクワクのある年末へと変わる。
 だが、その後仕事が続いて気付けばクリスマスイブの朝になっていた。

(急がないとな)
 上着を羽織り、急ぎ足であの店に急ぐ。
 けれど、どういう訳かお目当ての店が見つからない。あの時と同じように道を辿ってやってきた筈であるが、辿りついた店には歯車をモチーフにしたスチームパンクなアクセサリーばかりが並び、中にいる店員も全然違う。
(おかしいな。方向音痴ではない自負はあったが)
 そうこうするうちに中の店員と目が合ってしまい、咄嗟にその場を離れる彼。
 けれど、何度確認しても店の場所はここで間違いないようだ。
「あー、いらっしゃい…ってあんた、さっきの」
 再び訪れた不審な客に皮服コートの店員が声を上げる。
「すまない。1つ聞きたいんだが、数日前もここで販売をしていたか?」
 どこかへんてこな質問だという事は理解していた。しかし、こう聞く以外の言葉が見つからない。
「あー…そっか、そういう事か。お客さん、知らないんだね。ここがレンタル店舗だって事」
 かなりフランクな口調で店員が言う。
「レンタル店舗?」
「そ、日借り出来る場所って事。で今日はうちが借りてるんだよね。だから前見たものを探してるなら残念でした。だからさ、どううちの? うちので手を打たない?」
 彼女が作っているのだろう。あれこれと説明してくれる。
「あー、いや、大変申し訳ないがちょっと」
「ちぇっ。まあいいや……とそう言えば、店舗内にオーナーカレンダーがあったんだった。ちょっと待ってて」
 店員はそう言い奥へと下がっていく。その間に周囲を見渡せば、確かに壁の隅にはレンタルショップと小さく書かれている。
(なるほど。主に手作り作家さんが間借りしている訳か)
 初めてで店を開くのには勇気がいる。であるならば、お客の反応を見る為にもこういうスペースが重宝されるのだろう。
「ほら、あったよ。確かその日は…」
 カレンダーには作家名・シャムと記されていた。
 
 この世界は携帯で何でも調べられるから便利なものだ。
 しかし、名前が判ったところでドンピシャヒットするとは限らない。シャムといえば猫の品種でもあるから猫や猫愛好家のブログ、はたまた全く関係ないお店のHPに行きついたりする。
(もしかして、ネットはあまり使っていないのか)
 なかなかヒットしない歯痒さを抑えて、ネット検索を続ける事数時間。
 諦めかけたその時、ラシェルの目に留まったのはついさっき上がったばかりのSNSの写真だ。
『今日たまたま歩いてたらこんな可愛いの発見! 思わず衝動買いしちゃった♪』
 そんなメッセージと共に写っているのは紛れもなく、前回見た商品の一つだ。その後ろには見切れ気味だが、あの時見た店員の横顔が写り込んでいる。そして、幸運な事にすぐ近くにはその通りの看板も確認できる。
 そこからも再びハイテクの出番であった。通りの名を入力して場所を検索する。正確な場所が判らなくても、ある程度まで絞れれば後は足で探せばいい。携帯のバッテリーが消費されていくのと闘いながらラシェルはシャムの出店場所を探す。
 そして、夕日が傾き始めた頃、ラシェルの姿を見取りシャムがハッする。
「あ、貴方は…」
「どうも……こないだはなんだかすまなかった。まだ大丈夫だろうか?」
 今日は道端で販売を続けていたらしい。簡易テーブルにクロスを引いて、その上には数々の作品が並べられている。
「え、えぇ構いませんけど、どうして?」
「あはは、それを話せば長くなる。ともかく見せてくれるかな」
 たった一度だけ会った仲であるのに、ラシェルの口調にはいつもの不愛想さはない。それも今日一日、彼女を探して奔走したからかもしれない。
「あの、もしかして大切な人へのプレゼントですか?」
 シャムが彼の靴の汚れからここまでの経緯を察し尋ねる。
「ああ、そう…と、これだ。まだ残ってくれていて良かった。この猫、うちに遊びに来る野良猫に似ているんだ」
 柔らかく微笑んで彼がお目当ての黒猫を取り上げる。
「成程それで…なんかわざわざ有難う御座います。あの、もし宜しければこちらも如何でしょうか?」
 そこで勧められたのはもう一つの猫のキーホルダーだった。ラシェルの持っいるのが首に赤いリボンのに対して、もう一つの方は青いリボンをしている。
「貴方がこないだ眺めておられたのがこちらの黒猫さんだった気がして、帰ってからもう一つ作ってみたんです」
 シャムが気恥ずかしげに言う。
「え…けど、何で?」
 買わずに去って行った客の自分に対して、わざわざ追加を作るなんて彼としては驚きでしかない。
「さあ、何ででしょう。けど、携帯のそれが印象的で…男性でお花のモチーフを付けてらっしゃる方って多くないので、もしかしたら頂き物かなって。だとすると見ていたのは誰かへの贈り物……だったらペアも素敵じゃないですか」
 ラシェルのポケットからはみ出て見える白椿のお守り。それを覚えていたらしい。彼女の観察眼と想像力は素晴らしいと思う。
「そうか、有難う。これも何かの縁だ。それも貰うよ」
 ラシェルはそう言い、二匹の黒猫を購入する。
「ふふっ、気に入って頂けたら今度はその方と見に来て下さいね」
 商品の説明と今後の出店スケジュールが書かれた紙を添えくれる彼女にラシェルは「必ず」と答え、家路を急ぐのであった。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
初めまして、こんにちは
ご依頼有難う御座いました 奈華里と申します
ご依頼頂いてから割と時間が経ってしまったので、どうせならとクリスマスを取り入れてみました

タマさんとお守りが繋いだストーリー
立ち絵等を拝見いたしまして優しいイメージだったのでほんわかしたものにさせて頂きました
気に入って頂けたら嬉しいです 誤字等ありましたら遠慮なく、お問い合わせよりご依頼下さいませ

それでは毎日が素敵に輝きますように
おまかせノベル -
奈華里 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年12月24日

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