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『ネゴシエーション』
桃簾la0911)&神取 アウィンla3388


 桃簾(la0911)と神取 アウィン(la3388)(当時はノルデン)は、物流倉庫に現れたナイトメアの討伐任務に派遣された。同行は地蔵坂 千紘(lz0095)とグスターヴァス(lz0124)。先日の蟻屋敷(命名:千紘)のように、前衛を桃簾とグスターヴァス、後衛をアウィンと千紘で固め、殴りまくって撃ちまくって早急に討伐を済ませた。
「大丈夫ですか? もう安心ですよ……」
 と、グスターヴァスが隅っこにいた従業員らしき人間の元にすっ飛んでいったその時だった。複数ある出入り口のシャッターが一斉に閉まる。
「え?」
 千紘が振り返った。ぞろぞろと出てきたのは一般人らしき集団で、その目には一様に敵意がある。グスターヴァスは首元に刃物を突きつけられて震えていた。
「この者たちは……」
 桃簾が呟いた。アウィンも眉間に皺を寄せて、
「レヴェルのようですね……」


 ライセンサーたちの身柄を確保してSALFとの取引に使おうとしているらしい。全員で目を見交わし、ひとまず相手の良いようにさせて隙を突くことにした。大人しく武装は渡す。見るからに「武器」とわかる物だけ。
「もう一人いたぞ!」
 倉庫の隅から声が上がった。金髪の男がレヴェルに引っ張り出される。上下黒のスーツだ。会社の方から様子を見に来ていたのだろうか。しかし、その男の顔が見えると、ライセンサーたちは全員口をつぐんでしまった。
「あー……」
 千紘が唸る。グスターヴァスはジト目になって光のない視線を投げかけている。
 引っ張り出されたスーツの男。それは、エルゴマンサー・ヴァージル(lz0103)だったのだ。
「お前らか……」
 ヴァージルもうんざりした顔でこちらを見ている。
「知り合いか?」
 レヴェルたちは怪訝そうな視線を投げかけながら、彼を桃簾の隣に並ばせた。
「知り合いって言うか敵……いっ……!?」
 ヴァージルが言いかけて身体を折った。桃簾がその足をヒールの踵で踏んだのだ。ヴァージルは睨むも、黄金の強い視線に見返されてたじたじになる。鴇色……薄紅に似た髪色をして、金の瞳をした桃簾は、姉貴面をしている人魚が激怒した姿に似ているのでそれ以上反論できない。なんとなく同情したアウィンが憐れみの視線を向けた。
「彼はわたくしの知人です」
 こうして、ヴァージルも銃器類を取り上げられたのであった。

 桃簾たちはまとめて別室に閉じ込められた。足音が遠ざかると、ヴァージルは桃簾に詰め寄った。
「何で俺がお前たちのお仲間ってことにしなきゃいけないんだよ」
「ちょっとちょっと!」
「大丈夫です」
 千紘が割って入ろうとするが、桃簾はそれを制する。彼ははらはらしたように二人を見守った。彼女のライセンサーとしての実力は知っているが、年下の女性が、体格の良い男に詰め寄られているのはやはり心配で。ヴァージルは千紘の事は完全に無視して桃簾を睨み、
「理由がないとは言わせねぇぞ」
 先ほど怯んでいたのを忘れたかの様な気迫で迫る。だが、桃簾は背筋をピンと伸ばして余裕の笑みだ。
「今、ここにエルゴマンサーがいると知られると、余計に場が混乱します。彼らに力を貸す気がないなら、こちらに付きなさい」
「は?」
「可能ならその方が良いだろう」
 ヴァージルが反論を整えない間に、アウィンが口を挟んだ。
「よく考えて欲しい。彼らはあなたを知らない。我々はある程度あなたを理解している。後で敵対することになるとしても、今この状況を乗り切るのであれば、あなたの手の内を知っている我々の方が合わせやすい筈だ。レヴェルはあなたたちナイトメアを都合良く解釈している。余計に話が拗れると思うが、違うだろうか」
「……」
 ヴァージルは眉間に皺を寄せてアウィンの目を睨んでいた。千紘は苦り切った顔をしていたし、グスターヴァスは本当の意味で目に光がなくなっていた。
「マジでやんの?」
「一人でも反対者がいて良いのか? 人類の結束は蟻の一穴から瓦解するんじゃないのか」
「千紘、懸念事項は何ですか?」
「懐に入れて離反されるのが怖い。人間だって裏切るじゃん。人類の知恵がついてるから却って危険だと思う」
「グスターヴァスは?」
「そもそも敵です。悪魔と組むようなもの」
 不安と信仰と言った所か。アウィンは二人がその様に懸念を示すことは理解した。ヴァージルもまだ納得していない。ここからどう説得に持っていくか。
「ヴァージル、そちらの目的を教えなさい」
「ねぇよ。いや、ねぇこともない。面白そうだから覗いただけだ。物資があるなら頂いて行こうと思って」
「だそうです。だとすると、わたくしたちに仇なす理由はありませんね? 誰かに危害を加えることが目的ではないでしょう」
「わからないぞ」
 グスターヴァスを冷ややかに見た。
「悪魔みたいなもんなんだろ」
 今度はアウィンがグスターヴァスを制した。
「グスターヴァス殿、ここは堪えてくれ。我々の意見が割れては、レヴェルの思うつぼだ」
「わかった。桃簾が言うなら良いよ」
 先に折れたのは千紘だった。
「千紘さん……」
 桃簾はグスターヴァスを見た。
「グスターヴァスの、ナイトメアを信用できない、したくない気持ちは理解します。ですが、この状況を打破するために共闘が必要なこともわかっているはずです。それがわからぬほど愚かだとわたくしは思いません。常に職務に忠実な姿を、わたくしは知っていますよ」
「わかりました。わかりましたよ。その代わり、下手な真似をしたら彼を殴ります」
 グスターヴァスの言う「殴る」とは、恐らく狂化も乗せたメイスでの殴打だろう。ヴァージルは鼻で笑い、
「やれるもんならやってみろ」
「共闘決めたんなら、これ以上揉めないでよね。せっかく桃簾が間入ってくれてんだからさ」
 千紘が苦言を呈すると、桃簾が笑顔の圧を掛けた。二人はふい、と互いから顔を背けた。彼女は何事もなかったかのように、
「彼ら、ヴァージルがナイトメアであることに気付いていないようですね」
「おかげで武装解除だ。どうすんだよ」
「素手でどうにかなるでしょう。それほどの体格ですから、普通に殴るだけでも相当のダメージだと思います」
「お、おう……」
「わたくしも素手でどうにかします」
「お……おおう……?」
「気にしないでくれ。姫は、その、近接戦闘を得手とされている」
 アウィンが申し添えると、ヴァージルは彼を振り返り、
「脳筋ってことだな。お前はどうすんだよフォーアイズ」
「フォーアイズ?」
 呼ばれたこともない呼称に、アウィンは面食らう。
「『眼鏡野郎』ってことです」
 グスターヴァスがぼそっと囁いた。あまり良い呼び名ではないのだろう。
「挨拶が遅くなった。アウィン・ノルデンだ。よろしく頼む」
「そうかよ。で、アウィン、お前はどうすんだ? 刀も取られただろ」
「安心してくれ」
 アウィンは大真面目に頷いた。
「私も鍛えている。レヴェル相手に遅れを取るつもりはない」
 次に千紘を見る。見られた方は片目をつぶって、
「弓を引くのに腕力がいるってご存知でない?」
「では決まりですね。頼みます」
 桃簾が話をまとめた。
「ここを出るまでだからな」

「……桃簾ってさあ」
 その様子を見ながら、千紘がアウィンに囁いた。
「猛獣使いみたいだね。本人が猛獣みたいになるときあるけ……もごもご」
「地蔵坂殿、それ以上はいけない……」
 両手で千紘の口を押さえたのだった。


 ヴァージルは律儀に桃簾との約束を守った。
「助けてくれ! 彼女が苦しみ出した! 病気かもしれない!」
 打ち合わせ通り、迫真の演技で扉を叩く。保安官代理の記憶にあるのだろう。助けを求める人の声が。
 レヴェルの方も、流石に命まで取るつもりはなかったようで、大慌てでやって来た。ドアを開けるや、その「彼女」が思いっきり自分の横っ面を張り飛ばすとは、夢にも思わなかったに違いない。
「私たちの武器はどこだろうか? 教えてくれれば悪いようにはしないと約束しよう」
 アウィンが丁寧に尋ねる。場所を聞き出してから、ライセンサーたちはひっそりと移動し、見張り番を殴り倒して武装を取り返した。アウィンは千鳥が無事に手を戻るとほっとしたように、
「やはりこの重さがなくてはな……」
 呟いた。桃簾はアイス教の教典杖を大事そうに抱え、
「行きましょう。あの不届き者たちにアイスによる改心の機会を与えなくてはなりません」
「……お前にとってアイスは洗脳の道具か何かか?」
 アイス教のことをイマイチわかっていないヴァージルが首を傾げたが、
「気にしないでくれ。桃簾様はアイスをたいそう好んでいらっしゃるだけだ……」
「崇拝してんだな……」
 ライセンサーたちが武装を手にすれば、一般人を制圧するのはそう難しいことではない。多少撃たれたり殴られたりしても問題ないからだ。アウィンは千鳥を鞘に納めたまま相手の関節を叩き、あるいは抜いて峰打ちにした。グスターヴァスと千紘は近接戦闘用の鈍器で、桃簾は教典杖を軽やかに鳴らしながら、加減した打撃を喰らわせる。
 ヴァージルは支援射撃に留めた。やがて、制圧が済むと、一番よく喋った人物の前に立ち、
「何が『ナイトメア支持』だ。ぶっ殺すぞ。気付いてねぇなら教えてやるよ。俺はお前たちの言う……」
 怒気の滲んだ声で言いながら、銃口を自分のこめかみに当てる。
「『ナイトメア』だよ」
 銃声。相手は悲鳴を上げたが、ヴァージルには傷一つ付いていない。千紘はうんざりした。メキシコでやったやつじゃん。持ちネタかよ。僕もその場にはいなかったけど。
「わたくしのヒールもEXIS。ですから、彼の足を踏んだ際にリジェクションフィールドが効かなかったのです」
 桃簾はゆったりと微笑む。強者の笑み。
「そのために、彼がお前たちの支持する『ナイトメア』であると気づけなかったのでしょう」
「残念だが」
 アウィンが目を細めた。
「あなたたちが信じるように、ナイトメアはあなたたちを救わない。そこの彼は、いくらひざまずいたところで、構わずに撃つだろう」
「わかってんじゃねぇか」
 ヴァージルは殺気立っていて、アウィンの言うとおりこの場で銃を乱射してレヴェルを皆殺しにしかねない勢いだった。千紘は身構える。ヴァージルはそれをしたって良いのだ。彼を裁く法律はない。ライセンサーからの武力行使のみが彼を罰する。
「ヴァージル、ご苦労様。あとはわたくしたちが引き受けます」
 桃簾が告げると、ヴァージルは彼女を見た。
「わたくしは、協力してくれた相手とその場で殺し合うつもりはありません。引いてくれると言うならば、こちらも深追いはしないと約束します」
 彼はグスターヴァスを見た。見られた方はものすごい渋面を作っていたが、
「桃簾さんが仰るなら、私に異論はありません」
 押し殺した声で言う。アウィンと千紘も沈黙と首肯で同意を示した。ヴァージルは何度か首を縦に振ると。
「ご配慮に感謝しますよ、姫」
 嫌みっぽく言って倉庫を出て行った。


「グスターヴァス、わたくしの意思を尊重してくれたことに礼を言います」
 レヴェルが全員連行されると、桃簾はグスターヴァスを見上げて告げた。
「桃簾さんたら……ヴァージルは嫌ですけど、あなたの仰ることなら良いんですよ。この後、皆でアイスを囲んでくださるなら忘れましょう」
「いえ、忘れないように」
 桃簾は首を横に振った。
「相手が何であろうとも、手を組む事が可能であり、わたくしたちは状況打開のためにそれをしなくてはならないことがあることを、忘れるべきではありません」
「ははーっ!」
「うーん、猛獣使い」
 ひれ伏すグスターヴァスを見て千紘が唸る。アウィンは首を傾げ、
「グスターヴァス殿は猛獣だったのか……?」

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
こんにちは三田村です。ご発注ありがとうございました。
カリスマが光る桃簾さん&調整が上手いアウィンさん、という感じで書かせて頂きました。登場人物最年少で仕切りの上手い桃簾さん。グスターヴァスは反省して……。
アウィンさんって確かヴァージルが死んでから結婚されたよな……と思って今回本文中ではノルデンさんとさせて頂きました。久々に千鳥で。フォーアイズは調べた限りだとあんまり良い呼び方じゃないみたいですね。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。
おまかせノベル -
三田村 薫 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2020年12月24日

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