『急な休日の過ごし方』

夕凪 沙良（la0116）

　その日、夕凪　沙良(la0116)は自室のソファにもたれかかるようにして座り、少し難しげな表情を浮かべてしばし天井を眺めていた。見るからに何やら思案している様子である。少なくともこの体勢になって、すでに１０分以上は経過していただろうか。
　やがて口を開いた沙良から出てきた言葉はといえば、
「……どうしたものかしら」
　という、未だ結論が出ていないことを示すものであった。

　沙良がどうしてこのようなことになっているのか、まずはそこを説明する必要があるだろう。
　そもそも本来であればこの時間、沙良は自室に居るはずがなかった。予定通りであるならば、とある案件の対処にライセンサーとしてとっくに出発しているはずだったのだ。
　その案件も昨日今日決まったものではない。２週間ほど前から関係者の間で計画を練り上げて、色々と準備をした上で今日を迎え、下手すると数日はこの案件にかかりきりになるかもしれないという予測もあったのだ。
　しかし、である。何事にも予測不能の事態が起こることがある訳で。
「どうしてこのタイミングで……あ、ううん、出発前でまだよかったのかも……？」
　などと、どう判断してよいものやらといった様子でつぶやく沙良。今から１時間ほど前、いざ沙良が出発しようとしたタイミングで連絡がきたのだ。対処すべき案件が解決してしまった、と。
　当然ながら出発前だった沙良や、同じくこの案件に携わるはずだった者たちが何かをした訳ではない。何かをした……いや、してしまったのは全く関係のない別の案件の対処を行なっていた者たちだ。
　簡単に言えば、別の案件が実は今回の案件と繋がっていて、向こうの案件に携わっていた者たちが対処を行なった結果、連鎖的にこちらの案件も解決してしまったという、誰が悪い訳でもない事態が発生してしまったのである。
　しいて言うならば、互いに報告・連絡・相談をきちんとしなさいということになるのかもしれないが、そもそもどちらの側も繋がっているとは知らなかったし思ってもみなかったことなので、そこを指摘するのは酷というものだろう。ともあれ、そういう事態になってしまったことが分かったのが１時間ほど前の話で、沙良たちが出発するのに慌ててストップがかかったということだ。
　そこで解決しました、めでたしめでたし……となって終わればよかったのだが、そうは問屋が卸さない。まず、沙良も含めて本来携わる予定だった者たちのスケジュールが一気に白紙になってしまったことが一つ。そして諸々の後処理・事務処理などがあるため、その連絡の関係で家に居ることを要請されたのがもう一つである。

「どうやって過ごしたものかしらね」
　ふう、と溜息を吐く沙良。いつまでも、ただ座っているだけというのも、何だかもったいないような気もする。しかしながら、どこかへ出かける訳にもいかない。家の中で出来るようなこと、そこを沙良は考える。と、不意に沙良の脳裏に閃くものがあった。
「お菓子」
　ハッとした様子で、沙良は再度つぶやいた。
「そうね、お菓子作ろう」
　お菓子作りは沙良の趣味の一つだ。急に出来てしまった制限を受けつつの休日、お菓子作りに時間を費やすのも悪くない。どうせだったら、レパートリーを増やす方向で進めていくのもいいだろう。出来がよければ、沙良がやっている喫茶店のメニューに加えるのも一つの手だ。
　そうと決まれば、とっとと用意をするだけだ。沙良はソファから立ち上がり、台所の方へと向かっていった……。

　それから数時間が経った。
「とても充実した時間だったわ」
　額にうっすら浮かんだ汗を拭いながら、エプロン姿の沙良は満足げにつぶやいた。ただ無心にお菓子を作るだけの時間は、実に有意義なものであった。幸いに失敗したお菓子はなく、喫茶店のメニューに加えてもよさげなものも出来上がったのは収穫だった。
「それはそれとして」
　そう言って、沙良はゆっくりと後ろのテーブルの方へ振り返る。テーブルの上には、所狭しと並べられた数々のお菓子があった。
「……どうしたものかしら」
　思案顔でつぶやく沙良。さすがにこの量を一人で食べ切るというのは難しい。そこで沙良が出した結論はといえば、
「差し入れましょうか」
　というものであった。どこへ差し入れをするのかといえば、出身の孤児院だ。
「みんな喜んでくれるかしら」
　孤児院の子供たちが笑顔でお菓子を頬張る様子を思い浮かべながら、沙良はそうつぶやいた。


【おしまい】


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
　ライターの高原恵です。発注どうもありがとうございました！
　今回のおまかせノベルは、このような内容となりました。
　今回のお話はいかがだったでしょうか。ではでは。

おまかせノベル

高原恵

グロリアスドライヴ

2020年12月25日